第2話「変身」

【再び喫茶店にて】


店長と女子高生は閉店の準備を始めていた。その様子を白い猫の妖精?はテーブルの上に寝っ転がりながら暇そうに眺めている。あくびをし、モップを使って床を掃除している女子高生に話しかけた。


「そういえばお前、名前はなんていうんだ?」


「私はユイア!日代 唯愛(ニチダイ ユイア)!この喫茶「Holiday」でバイトをしている高校2年生!ちなみに店長の名前は千秋さん!」


「ふーーーん。じゃあユイア、これでお別れだ。」


そう言うと白い猫の妖精?はアタッシュケースを重そうに持ち上げると宙にぷかぷか浮きながら出口の方へと動き始めた。


「えー!なんでー!」


「私には大事な仕事があるんだ。人探しはまた明日にして本部に戻って溜まった仕事を明日の夜明けまで終わらせなきゃ。」


「うわーすっごいよくわかんないけどブラックで現実的って感じだね。」


「ということでじゃあな。もう会うことはたぶんねぇよ。」


「ちょっと待ったー!私もバイト終わったし一緒に帰ろうよ!駅まで一緒に!」


「え~(駅使わないんだけどな)」


ユイアはモップを片付けるとバッグを持って店長の千秋さんに手を振って白い猫の妖精?と共に喫茶店を後にした。一緒に駅まで向かいながら話をする。


「なんで変身ヒーローのベルトみたいなのが入ってるの?」


「だから秘密だ。....なんでそんなにこれが気になるんだよ?」


「だってもし本当に変身してヒーローになれるならなりたいもん!」


「ふ~ん、女の子は普通、変身ヒロインの方に憧れるんじゃないのか?」


「女の子でもヒーローに憧れてもいいの!好きに男も女も関係ない!自分の好きを貫けユイア!これうちのおばあちゃんの言葉ね。」


「へーー」


駅の近くまでやってくるとビルや飲食店の多くの灯りが2人と行き交う人々を照らし始める。ビルの大画面には臨時ニュースや選挙、レーテの特集などが映っていた。ユイアはビルの上に広がる夜空を見上げる。ビルや自動車の光が夜空を照らしている影響で星が見えない。


「星....見えないね。」


「都会だからな....仕方ねぇよ。」


「私ね東京大震災でお父さんとお母さん死んじゃったんだ......」


「確か、9年くらい前の震災だな。」


今でもあの時のことを鮮明に思い出すことができてしまう。ユイアは先ほどまでの明るい表情から徐々に切なそうな表情に変わっていった。


「瓦礫の中にいるのを目の前で見てたのに助けられなかったの。だから、ずーーっと考えちゃうんだ。もし私にテレビの中のヒーローみたいな特別な力とかがあったらお父さんとお母さん助けられたんじゃないのかって.......だから私ヒーローになりたいの。」


「.....」


「だから......」


その時だった。



ドガァァァァアァァァアアアアアアァァァァアァアアァァアァァアァアアン!!!!!



駅周辺のビルから爆発したような大きな音が響き渡る。その音が聞こえてきた方向から大勢の人達が叫びながら走って逃げていた。周囲に黒い煙が立ち昇っていく。ユイアは逃げている会社員に話しかける。


「どうしたんですか!?」


「ばっ化け物だ!!化け物が建物を壊しているんだよ!」


そう言って会社員はどこかへ逃げてしまった。ユイアはそれを聞いて爆発があった方へ走り出した。


「おい!何やってんだよバカ!」


白い猫の妖精?はアタッシュケースを持ちながらユイアを追った。爆発があった場所へ急いで行くと2体の怪物が暴れ回っている。コウモリのような怪物は勢いよく息を吸うとそれを一気に超音波と共に吐き出すことで建物を破壊し、蜘蛛の怪物はコウモリが破壊した建物の瓦礫を糸で集め振り回し人や建物に向かって投げ飛ばしていた。路上に停められた車から漏れ出たガソリンによって炎が出ている。


「俺ノ音楽ヲ聞けえェぇエ!!」


「いいネその調子ダ!」


「なに....これ....」


「あれが「メモリス」......記憶の怪物!死にたくなかったらお前も早く逃げろ!!」


ユイアは周り見渡し何かを見つけるとそこに向かって走り出した。


「何やってんだよ!バカ!死にてぇのか!?」


ユイアが走った先には足に怪我をして動けなくなっている妊婦の姿があった。ユイアは妊婦のそばに駆け寄ると持っていたハンカチで出血している部分に包帯をするように巻いた。


「急いでここを離れましょう!」


「はっはい!」


ユイアは妊婦に肩を貸して歩き始める。途中、爆風によって飛んできた小さな瓦礫から妊婦を守るために盾になり頭にゴツッと小さな瓦礫が当たり額から血を流したがそのまま歩き続け、無事に妊婦を安全なところまで連れていくことに成功した。


「ありがとうございます!!!」


「ハァ....ハァ....よかった、大丈夫そうで....この先だったら安全なはずです。お腹の赤ちゃんのためにも頑張って逃げてください!」


「はい!」


妊婦さんは泣きながらユイアに何度も頭を下げた。その様子を見た白い猫の妖精?がユイアのそばに近づいてきた。


「なんで......」


「うん?」


「なんでそんなことできるんだよ?!死んでたかもしれねぇんだぞ?実際、頭から血が出てるし!自分の命が惜しくないのかよ!?」


「死にたくないよ.......でも死んでも欲しくない!そう思ったら身体が勝手に動いてた、余計なお節介はヒーローの本質だからね....ごめん、ちょっと借りるよ。」


ユイアは妖精?が持っていたアタッシュケースを手に取ると中に入っていた変身ベルトらしきものとピンク色のカセットを取り出した。


「おい!何勝手に取ってんだよ!それはおもちゃじゃ.....!」


「知ってる!あなた、レーテの人なんでしょ?ネットニュースでやってたよ、レーテの新しい武装......変身ヒーローみたいでかっこいいなって思ってたから。」


「じゃあ、なおさらだ!それを返せ!お前みたいなただの女子高生が使えるものじゃない!いいか!それに適合しなかったら最悪の場合、メモリカセットをドライバーに装填した瞬間に身体が拒絶反応を起こして命を落とすかもしれないんだぞ!?レーテの隊員全員試しても誰も適合しなかったし病院に入院したやつもいる!!」


2人の声に気づいたのか2体のメモリスが2人の方へ近づき始めた。


「まズはアイつを殺ろウゼ?」


「イいネェエえ!」


ユイアは自分の腰にベルトを押し当てる。するとベルトから銀色の帯が飛び出し自動でユイアの腰に巻かれた。


ガチャ!


「戦うよ!私は!これ以上、誰かが私みたいに大切な人を奪われて、泣いている姿なんて見たくない!!ただ....みんなに笑顔でいてほしいの!」


「やめろ!!」


ユイアは左手で持ったピンク色のメモリカセットを見つめた。先ほど白い猫の妖精が言っていたことが本当であればこれを装填した瞬間に最悪の場合、死んでしまうかもしれない。ユイアの覚悟は決まっていた。ピンク色のメモリカセットをベルトの左側に装填する。装填すると同時に心臓が潰されたような痛みが走り心臓が一瞬止まった。




「うっ!!」




心臓が再び一定のリズムで鼓動する。そのリズムに合わせるかのようにドライバーから音楽が流れ始め、その様子を愕然とした表情で妖精?はただ見つめていた。


「嘘だろおい....なんで装填できてんだよ?まさか......コイツが適合者だって言うのかよ?」


ユイアの後ろにテレビの画面のようなものが現れ、そこに映っているピンク色のバッタの姿をしたヒーローが画面をキックで割って飛び出してきた。飛び出してきたヒーローはマフラーを風になびかせながら走り出し2体の怪物に攻撃を始める。


「なっナンだコイつ!?グハッ!!」


ドガ!ドン!ドンッ!!


「.........ユイア!ドライバーの右側にあるホイールを3回回せ!」


ユイアはこくりとうなずくと左腕を勢いよく右斜め上に掲げ、右側にあるホイールを3回回転させる。


3!


2!


1!


(だから見ていて......私の....)



「変身!!」



ヒーローアップ!!



ユイアがそう叫ぶと共に音楽が鳴り始め、怪物と戦っていたピンクのバッタのヒーローがユイアの元へ火花を散らし地面を勢いよく蹴って走り出す。走り出したヒーローは各部位のアーマーへと変化してユイアに装着されていく。最後に頭部が装着され黒色だった複眼がピンク色に点灯した。



You are HERO!!!!



「なンだおマエは!?何者だァ!?」


辺りが炎に包まれていくなか、鮮やかなピンク色の複眼が2体の怪物を見つめていた。首元に巻いた白いマフラーが夜の風になびく。ユイアは自分の腕や脚を見つめた。テレビの中のヒーローが着ているようなスーツを自分が身に纏っている。


「You are HEROって言った?You are......ユーア......そう、ユーア!それが私の名前!!!今から貴方たちを倒すヒーローの名前だ!!!」














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