第1話「覚醒」

西暦1971年、中南米の遺跡にて発掘隊員達が全ての言語とも一致しない謎の言語が使われた壁画と石板を発見する。多くの学者達が膨大な時間を費やし西暦2000年にその言語の解読に成功した。


「その言語を解読した結果、我々人間の脳には「記憶の怪物」が封印されているということ......そしてその記憶の怪物を解放する方法が刻まれていた。」


「で、それを学者達がやってみた結果が今の社会の現状ってわけ?」


「あぁ、そうだ。記憶の怪物。通称「メモリス」はその解放の技術を使い、徐々に数を増やし続けている。メモリスによる犯罪は年々増加傾向にあると言える。今後、メモリス達の本格的な人類に対する攻撃が始まるだろう。」


そう言うと黒い長髪の女性は1つのアタッシュケースを長いテーブルの上に置いた。アタッシュケースを開けるとその中にはピンクと黒色の謎の機械と1つのカセットテープが収納されている。


「これは私達の希望だ。このドライバーとメモリカセットの適合者を絶対に見つけてこい、頼んだぞ。」


「可愛い猫ちゃんにこんな重そうなアタッシュケースを持てって言うの?まぁいいよ、これも仕事だし。」


向かい合って座っていた白猫のマスコットのような妖精はめんどくさそうしながらアタッシュケースを重そうに持ち上げた。背中に生えた天使のような羽をぱたぱたと羽ばたかせて部屋を出ていった。


「頼んだぞ。この世界には必要なんだ......「ヒーロー」が。」







【とある舞踏会場】


おとぎ話に出てくるような舞台会場でスーツやドレスを着た男女がクラシックの音楽に合わせて優雅に踊っている。そこにいる男女は全員、仮面を被ってこの時間を楽しんでいた。すると、奥の方から1人の長い白髪の少女がお辞儀をしてやってきた。キラキラと輝く紫色のドレスがシャンデリラの光に照らされる。


「みんな今日は来てくれてありがとう。こんなに集まってくれて私はすっごく嬉しい♪」


少女はパンパン!と手を叩く。少女の背後に照明が当たり、1つの人間を各部位を無理やり縫い合わせたようなおぞましい造形をした「像」が現れた。会場の人々は踊るのをやめ、その像を見つめ始める。


「この像の中には私達のリーダーである「デフィニス」様が眠っているの。でも9年前の戦いで深い眠りについちゃった......私達の目的はこのデフィニス様の復活!!」


すると両脇の階段から2人降りてきた。どちらも人間の姿をしていない。そのうちの人間の頭蓋骨と骨を鎧のように纏った怪人がボロボロのマントをたなびかせながら話し始める。


「そのためには煩わしい「レーテ」達が厳重に保管しているデフィニス様の「メモリカセット」を回収する必要があります。」


「だから!!仲間を増やすの!!そしてレーテのやつらをぶっ殺して!!私達が世界を!!!」


身体中から刃物が突き刺さった血のような赤い女性体型の怪人が笑いながら少女の隣に立つ。


「さぁみんな!どんどん仲間を増やしましょう!!!そして仲間になったメモリスにこう言うの!!!」


少女の呼びかけで舞踏会場にいるたくさんの人間達が喜び叫び始め、人間の姿から怪人の姿へと変身を始める。


「「「「「Welcome to the party!!!!!!!!!!」」」」」








【東京のとある街の住宅街】


「君、可愛いね~俺達と遊ばない?ね?ちょっと遊ぶだけだから」


「やっやめてください!離して!」


いかにも不良そうな男子生徒3人組が怯えた女子高生の手を掴んでいる。女子高生は必死に抵抗するが相手は離してくれない。


バチン!


怯えた女子高生が1人の男子生徒の頬をビンタする。男子生徒はチッと舌打ちをすると怒りの形相を浮かべた。


「テメェ、こっちがせっかく誘ってやってんのによぉ?その態度はないんじゃない?オラッ!!!!」


そう言って男子生徒が女子生徒を殴ろうとしたその時だ。後ろから殴ろうとした右腕を誰かが掴んで止めた。


「やめなよそう言うの。男の子が女の子に暴力を振っちゃダメなんだよ?」


男子生徒達が振り返ると金髪の長いサイドテール、ピンクの瞳のギャルっぽい女子高生が右腕を掴んでいた。


「あ?なんだテメェ?じゃあ、お前が代わりに俺らと遊んでくれんの?」


「いいよ♪」


そう言うとギャルっぽい女子高生は男子生徒を掴むのをやめ、指を動かし「かかってこいよ」と挑発する。


「は?なにそれ、俺らに喧嘩売ってんの?」


「男の子って喧嘩好きでしょ?今ならタダで売ってあげる。」


男子生徒達はニヤニヤと笑いながら指をポキポキと鳴らしてその女子高生に近づいていった。


「女が男に勝てるわけねぇだろ!!!」


男子生徒のうちの1人が叫びながら女子高生に殴りかかろうとするが女子高生はその腕を避け、頭を下げた状態で両腕を使い男子生徒の顔を思いっきり押した。少し怯んだ隙を見て相手の顎にアッパーを叩き込む。そしてそのまま男子生徒は背中から倒れてしまった。


「やっやっちゃん!テメェ.....よくもやっちゃんを!」


男子生徒が2人同時に女子高生に向かって走り出してきた。2人の殴りを簡単に避けると1人の鳩尾にパンチを2発、キックを1発叩き込むともう1人に向かって飛び上がって蹴りつけた。そのまま2人とも倒れ込んでしまう。


「よし!今のうちに逃げるよ!」


怯えていた女子高生を手を掴むと2人で走り出す。先ほどまで怯えていた女子高生は何が何だかという表情をしている。数分が経って息切れをしながら立ち止まった。


「ここまでくれば安全だよ。」


「ハァ....ハァ....」


「あの男子生徒達はたぶん隣町の男子校の生徒だね~。あの道の近くにあるゲームセンターとかによく集まってるからあの道は通学路にしない方がいいよ。」


ギャルっぽい女子高生はスマートフォンを取り出す。時間を確認すると走って立ち去ろうとした。


「それじゃ!私そろそろバイトがあるから!気をつけて帰るんだよー!」


「あっあの.....!たっ助けてくれてありがとうございます!!」


息を整えた女子高生は彼女に向かって深くお辞儀をする。


「困ってる人を助けるのは当たり前でしょ?私、ヒーローだから♪」


彼女はニカっと笑うと女子高生に手を振って再び走り出した。そのまま住宅街の十字路を右に曲がって行ってしまう。


「ヒーロー......か。すごい人だったな......」







「うおりゃー!!!急げー!遅刻しちゃう!」


金髪のサイドテールを揺らしながら女子高生は無我夢中で走っていたその時だ。前方にある路地裏から飛び出してきた何かに止まることができず勢いよくぶつかってしまう。


「ほへ!?」


ゴツンッ!!!


ぶつかった衝撃で女子高生は倒れてしまう。少し涙を流しながらおでこを抑えた。


「だっ大丈夫ですか?」


周りを見渡すと人らしい影はどこにもない。あるのは大きく黒いアタッシュケースだけだった。ぶつかった衝撃でアタッシュケースの中身が開きかかっている。


「うわ!どうしよう...中に入ってる物、壊れたりとかしてないよね?」


決して中身に興味があるわけではない。好奇心ではなく確認のためだと理由をつけて彼女はそのアタッシュケースの中身を開けてみる。するとその中にはピンクと黒色の謎の機械と1つのカセットテープが入っていた。それを見つけた瞬間、女子高生の瞳がキラキラと輝き始める。このピンクと黒色の謎の機械がなにかは女子高生にはすぐに理解した。


「うおーー!!こっこれって!もしかしてヒーローが腰に巻いているドライバー!?ってことはこっちのカセットは......変身アイテムだ!ピンク色でかわいい!」


彼女はアタッシュケースの中に入っていたその2つの物を持ち上げるとまるで遺跡から出土した遺物を調査する専門家のような眼差しで見つめ始める。するとアタッシュケースの下で何かがモゾモゾと動き始めた。


「何か....いる?」


アタッシュケースを持ち上げてみると白猫のぬいぐるみが下敷きになっていた。日曜日の朝にやっている女の子向けの変身ヒロインのアニメに出てくるマスコットキャラクターのような見た目をしている。


「ぬいぐるみ...かな?目がぐるぐるしてる......可愛い!あれ、もしかして時間...やばい?」


女子高生は恐る恐るスマートフォンを取り出して時間を確認する。時間を見た瞬間に一瞬で恐怖に囚われた表情に変化した。「ヤバイヤバイヤバイヤバイ!」と言いながらアタッシュケースにドライバーと変身アイテムのようなものを収納すると白猫のぬいぐるみと一緒に持ち上げて走り出した。


「間に合えぇぇえぇぇぇぇぇ!!!」







【数分後】


住宅街に佇むレトロな喫茶店のおしゃれなドアをドンッ!と開ける。ドアにつけられたベルがカランコロン!!と音を立てた。


「いらっしゃ...ってユイア」


長い茶髪のおっとりとしたお姉さんがカウンターでコーヒーカップを拭いている。息切れをしながら女子高生が勢いよく入ってきた。


「店長!」


「10分遅刻なので今日のおやつのシュークリームはなしで~す♪」


「そんなぁぁぁぁぁー!!!」


女子高生は膝から崩れ落ちてガクンッとうずくまってしまう。


「それよりユイア、その大荷物はなに?」


店長は女子高生が持ってきたアタッシュケースを指差した。女子高生はそれをテーブルの上にドンッと置く。その音が客が誰もいない店内に響いた。


「拾いました!バイトが終わったら交番に届けようと思って!あっ....あとこのぬいぐるみも!」


そう言って女子高生はテーブルにぬいぐるみも置いた。


「あら~可愛いわね♪」


「でしょでしょ!なにかのアニメのキャラかな?」


女子高生はそのぬいぐるみをツンツンと触ってみる。するとピコンピコンと電子音が鳴り始め、ぬいぐるみの目が光り始めた。



システムの異常の改善を確認

活動を再開します


ピーー


白猫のぬいぐるみの瞳が開き、羽を使って飛び始めた。それを見た女子高生はすごく驚いた表情になるが対照的に店長は「あら~」と不思議な顔でそれを見つめている。


「くそ...酷い目に遭ったぜ。イテテ...システムの復旧に時間かかっちまった。ってあれ?ここどこだ?お前ら誰だ!?!」


「ぬいぐるみが喋ったぁぁぁあぁぁあ!?!」


女子高生は驚いた瞬間に目を輝かせ始め、飛んでいるぬいぐるみ?の目の前に立った。


「すごいすごい!本物の妖精なの!?」


「は?妖精?んなわけな...」


「分かった!伝説の魔法少女になれる可愛い女の子を探しに妖精界から人間界にやってきたとかでしょ!アニメでよく見るやつだ!」


「いや違うって...」


「えーーどうしよう!私が魔法少女に選ばれたら...でもなー私はやっぱり魔法少女よりもかっこいいアーマーを着て変身する方が......」


「だー!話を聞けって!バカ!!!!!」


白猫の妖精はテンションが上がって自分の話を聞いていない女子高生の耳元で大声で叫んだ。女子高生はすぐに耳を塞ぐ。


「いいか!私は魔法少女を探しに人間界にやってきた妖精でも!どっかの会社の新しいマスコットキャラクターでもない!その証拠にほら!」


そう言って妖精は背中を2人に見せつけた。そこにはかっこいいロゴで「RETHE」と刺繍されている。


「確か「レーテ」って読むんだよね?レーテといえば......」


「あぁ、今この日本を騒がしている「怪物」が起こした犯罪を扱う内閣直属の組織の名前だ!そして私はその組織によって作られたリモートコントロールロボットだ!」


「で!そのロボットさんがなんで変身ヒーローみたいなベルトを持ってるの!?」


「それは......秘密だ...機密情報ってやつだな。」


「えーー教えてよー!」









【目黒駅付近・中小企業ビル】


屋上で1人のやつれた男性会社員がタバコを吸っていた。ため息とともに白い煙を吐く。空は夕焼け、もうすぐ夜が訪れようとしていた。格子越しに街を見下ろすと帰路に着く自分と同じスーツを着た会社員達の姿が目に入った。


「また残業か...俺のミスじゃねぇのによー」


愚痴をこぼしながら再び見下ろす。ここから飛べば楽になれるのだろうか?そんな考えが一瞬、彼の脳によぎったがすぐにかき消された。死んだって意味はないんだ。逃げただけに過ぎないんだ。本当にかっこいいやつはきっとここから逆転して成り上がるのだろう。男は若い頃、プロのミュージシャンになるという夢を持って東京に上京してきた。だが、今の彼を見れば分かる通り夢に負けてしまった。


「なんで俺ここにいるんだろう?」


「ねぇ?そこのあなた。」


振り返ると長い白髪少女が日傘をさしながら笑顔で近づいてきた。男は急いでタバコを吸うのをやめ、タバコをポイっと捨てるとそれを靴の裏でグリグリと踏んだ。


「お嬢ちゃん、こんなところにいたら危ないよ。てかどうやって来たの?」


少女は男のそばまで近づくとポケットから白い題名のないカセットテープを取り出した。それを見るために男は中腰になる。


「懐かしいね~カセットテープだ。あれ?このカセットテープってもしかし......」


「えい♪」


少女はその白いカセットテープを男の額に押し当てた。すると、男の額から大量のフィルムが飛び出してきた。飛び出したフィルムは少し離れたところでグチャグチャに集まり少しずつ人の形を形成していく。


「グァァァァアアアア!!!」


2メートルほどあるコウモリのような姿をした怪物が奇声をあげた。身体からはギターの弦のようなものとマイクとスピーカーが飛び出している。


「うっうわぁ!?!」


男は怯えながらすぐに慌てた様子で逃げてしまった。


「あら?逃げちゃった。でも後で捕まえればいっか♪ねぇ貴方は何がしたいの?」


コウモリの怪物に少女は語りかける。するとコウモリの怪物は頭を抱えながらこう言った。


「俺ノ音楽を他のヤつラノ鼓膜ニッ!!」


「そう、素敵な夢ね♪とりあえず駅前にいる人達に貴方の音楽を聴かせてあげましょう♪これは貴方が持っておくのよ。」


少女は持っていたカセットテープをコウモリの怪物に手渡す。先ほどまで白かったカセットテープは暗い紫色に変色していた。少女が手をパンパン!と鳴らすとどこからか糸を垂らしながら蜘蛛の怪物がやってきた。


「ナにか?用?」


「この子のサポートをしてあげなさい。貴方も音楽好きでしょ?」


蜘蛛の怪物は頭を掻きながらため息をついた。


「はァ~しョうがナいな~いいゼ暇だカラな。」


蜘蛛の怪物は糸を使ってコウモリの怪物は羽を使って駅前へ向かい始めた。その後ろ姿を格子越しに少女は見送った。


「Welcome to the party♪」

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