第7話「鷹と炎の翼と掴んだ手」

【数日前・東京都内の住宅街にて】


少女はその日、リビングでテレビを観て休日を過ごしていた。台所では夕食の準備をする母親の姿があり母親は上機嫌に鼻歌を歌っている。


「お母さん今日のご飯はな~に?」


母親はニコニコしながら少女の方に顔を向けた。


「今日はねビーフシチューよ♪」


「やったー!」


匂いで薄々気付いていたが母親が答え合わせをしてくれた。ビーフシチューは家族全員の大好物だ。今日は久しぶりに父親も早く帰ってきてくれるらしく母親もビーフシチューの他にたくさんのご馳走を作っていた。


少女は母親と同じ鼻歌を歌いながらソファでテレビのリモコンを使って昨日録画したドラマを見直そうとしていた。


パリン.....ガラガラ


「?」


何か音がした。お皿が割れたような音が上の階からしてきたのだ。少しだけ嫌な予感がする。足音がする。階段の方からだ。すると階段からこちらに近づいてくる足音がどんどん大きくなってきた。


ガラガラ


黒い服を着た中年の男がナイフを握りしめながらリビングに現れた。誰もいない場所にすーーーっと姿を現した。少女の思考が一瞬止まった。


「だっ......誰ですかあなた!!けっ警察呼びますよ!」


「あっあぁ呼んでもいいぜ。来る前にお前ら殺すから。なんだ......美人じゃねぇか......最初に娘の方から殺してから襲って楽しんでから殺すのもありだな。.....ふっ....ぶふ......」


男はブツブツと呟きながら息を荒げながらニヤニヤと笑っていた。母親は怯えながらズボンのポケットに入れていたスマホを使って警察に通報しようとした。


「おいテメェ何やってんだ。」


興奮している中年の男は母親の方へ目を向けた。すると男の後ろにカメレオンの姿をした化け物が姿を現し、舌を出しながら壁に張りつきながら母親の方ヘ動き始める。


「ひっ!化け物!」


カメレオンのメモリスは大きな尻尾を使って母親を縛りつけ持っていたスマホを落とさせた。その後、カメレオンのメモリスは手を使って母親の口を塞ぐ。男はニヤニヤと母親に近づき腹部にナイフを押しつけた。


「ぐっ...........」


「なんだその目?俺を捨てたカミさんみたいな目をしやがって........そんな目で俺を見るんじゃねぇ....俺を見るんじゃねぇ!!」


グサッ!!


「うぅぅぅうううううぅう!!!!」


母親の服がジワジワと赤く染まっていく。口を塞がれた母親の叫び声がリビングに響く。母親は涙を少しながら痛みを堪えようとするが男はニヤニヤしながらナイフを抜き、もう一回刺す。


グサッ!


グサッ!


グサッ!


カメレオンのメモリスは笑いながら母親を縛りつけるのをやめ、男は腹部から大量の血を流し力なく倒れる母親を見て終始ニヤニヤしていた。少女は恐怖のあまり声を出せないでいた。母親は涙を流しながら怯えた少女を見つめた。


「大.....丈夫....私が....あなたを....守....る。」


「これから私は死にますよーあの世で待ってるねーの間違いだろ?オラッ!」


ドン!ドン!ドン!


男は少女に手を伸ばそうとする母親の顔面に蹴りを何度も入れる。


「あ、そうだ.......思い出した。アイツからやれって言われてたんだった。」


男は何かを思い出すと面倒くさそうにズボンのポケットからカセットを取り出した。


「住所特定してやったんだから少しでも解放しろーって偉そうにしやがって......チッ」


男は顔と腹部から血を流しただ死を待つだけの母親の顔を持ち上げた後、少女の方を向いてナイフをチラつかせながらこう言った。


「次はお前がこうなるからな?」


男は母親のおでこにカセットを押し当てた。すると母親の頭からカセットテープのようなものが何本も飛び出し集まって一体の鳥の化け物に変化した。


「フィィィイイイイアアア!!!」


「当たりか?まぁいい。さてと俺はこの娘を殺すから邪魔するもんじゃねぇぞ。」


男は鷹のメモリスにナイフをチラつかせながらそう言うと少女の方へ近づいてきた。


「いっ嫌........助けて.......」


「もう誰もこねぇよ、アイツが帰ってきた時の表情を早くみてぇぜ。なんせ帰ってきたら自分の妻と娘が死んでお待ちしてるんだからな!おい!カメレオン!ちゃんと俺を透明化させろよ!」


「ぐえ!」


立ち上がる事もできない。ニヤニヤと笑いながら血がついたナイフを向けて近づく男が恐怖でしかなかった。


「助......けて........お母さん....」


その時だ。母親から出てきた鷹のメモリスは大きな翼を羽ばたかせ男に向かって勢いよく羽を飛ばし攻撃をする。


「おい!なんのつもりだ!」


「フィイィあああ!」


鷹のメモリスは口から炎を吐き、男とカメレオンのメモリスに攻撃をする。


「グーえぇく!」


「チッ!暴れ出しやがって!まずいなそろそろアイツが帰ってきやがる!おい!俺を透明にしろ!」


「ぐえグエ!」


男とカメレオンのメモリスは透明になり消えてしまった。鷹のメモリスは辺りを見渡すと男が落とした赤いカセットを咥え、翼を羽ばたかせガラスの窓を割って外へ逃げてしまう。少女はすぐに立ち上がり血を流しながら倒れる母親のそばに駆け寄った。


「お母......さん?」


返事をしない


「お母さん!」


動かない


「お母さん!!!!」


息をしていない。










【東京都内・元火野グループオフィスビル屋上】


屋上には落下防止の手すりがあり窓掃除用のゴンドラが屋上から吊り下げられている。


「約束の時間まであと3分。」


屋上へ続くドアの前には腕時計を見つめるユキタカとその横には数人のレーテの隊員と一億円が入ったアタッシュケースを持った火野社長の姿があった。


「火野社長、俺はあの男があっさりと人質である娘さんを解放するとは思えません。きっと娘さんを殺そうとするでしょう。カメレオンのメモリスを使ってなんらかの行動を起こす可能性があります。」


「そっそんな!」


「だから俺達の作戦を言います。男に一億円と娘さんを交換する際に俺がこの刀の最大出力で斬撃を放ちカメレオンのメモリスを倒します。」


「はい」


「...........」


「............」


「..................」


「..................」


「..................」


「え、それだけですか?」


「はい。」


「隊長!屋上の防犯カメラに男と人質の姿が映ったそうです!」


「よし、いくぞ!」


ユキタカはゆっくりと屋上へ続くドアを開けた。屋上には男と人質の麗奈とカメレオンのメモリスの姿があった。


「麗奈!」


「お父さん!」


「よぉ火野さん。よぉやく会えたな。」


「向くん!なんでこんなことを........」


「そんな事もわかんねぇのかよ!!?テメェが俺の人生を終わらせたからだろぉがよぉ!?!!」


「落ち着いてください社長.......向!お前が望んだ物ならここにある!」


ユキタカは社長を落ち着かせるとアタッシュケースの中身を見せた。その中にはケースいっぱいの1万円札の束が入っていた。


「一億持ってきたようだな。さぁ交換だ。」


向はニヤニヤしながら少女にナイフを突き立てこちらに近づいてきた。アタッシュケースを持った社長も向の方へ歩き始める。


「これで娘を返してくれ。」


社長は一億円が入ったアタッシュケースを向に手渡そうとすると共にユキタカが刀が入った鞘に手をかけ抜刀しようとした、その時だ。


「今だ!」


向がそう叫ぶと空に黒い穴が現れそこから十数体の黒いフードを被った怪人が落下してきた。落ちてきた黒い怪人達は社長を囲みアタッシュケースを奪うと社長をユキタカ達の方へと投げ飛ばした。


「うわぁぁぁ!!」


「社長!」


「お父さん!」


レーテの隊員達が投げ飛ばされた社長のそばに駆け寄った。


「あの時の奴らか!」


「ふぅ~アイツに頭下げてこいつら借りて正解だったぜ。これで一億円も手に入れたし娘も殺すことができる!」


「いっ嫌...!!」


「麗奈!」


レーテの隊員達の元に十数体の黒い怪人達が武器を構えながら近寄ってくる。数十秒後には完全に囲まれてしまった。向はその様子を見ながらケラケラと笑う。


「さてとそろそろお前を殺すか。」


「ひっ.......!!」


「やめろ向!」


向は胸のポケットから一本のナイフを取り出した。母親を殺したあの時のナイフだ。少女は恐怖で震えと涙が止まらない。その表情を見つめながら笑う向の姿は酷く悍ましかった。


「たっ助けて.......」


「はぁ?もう誰もお前を助けねぇよ!!」



向が麗奈にナイフを刺すために腕を上げた瞬間にユキタカは叫んだ。



「今だ日代!!!!!」


ユキタカが叫ぶとほぼ同じタイミングにビルの下からすごい勢いでユーアに変身したユイアが飛んできた。着地すると同時に走り出し麗奈にナイフを刺そうとする向の顔面を殴った。


ドガッ!!


「ぐはぁ!!」


向はそのまま勢いよく手すりにぶつかった。


「よくやった日代!」


「いえーい!成功だぜ♪」


「テメェ!どこから来やがった!」


向が変身解除したユイアに向かって鼻血を出しながら叫ぶとユイアは窓掃除用のゴンドラを吊るしている機械を指差した。


「ゴンドラの中にいたの気づかなかった?3時間くらい前からいたんだけどな~あとで掃除のおじさん達にお礼言わなきゃ♪」


「クソ.........おいカメレオン!やれ!」


「グエグエ!!!」


カメレオンのメモリスは麗奈ちゃんを長い舌で掴むとビルの下へと投げ飛ばした。


「きゃーーー!!」


「麗奈!」


「麗奈ちゃん!」


「これでアイツも死んだな!!!ハッハハハハハハハハハハハ!!!!」


「貴様.......!」


ユイアは麗奈が落ちた方向へ走り出すと手すりを乗り越え落下する。ユキタカは刀を使って自分の目の前にいるメモリスに攻撃し道を開くと手すりの方へ向かい下を覗いた。


「日代!」


「安心しろ。アイツにはアレがある。」


ユキタカにそう説明するとルナは同じように下を覗いた。ユイアは勢いよくビルを落下しながら麗奈に向かって手を伸ばす。


「麗奈ちゃん!手を!」


「お姉.....ちゃん?」


麗奈もその声に気付き落下しながら上空にいるユイアに向かって手を伸ばす。


「あと......もう.....ちょっと!」


バッ!


ユイアは麗奈の手を掴みぎゅっと引き寄せ強く抱きしめた。ユイアは麗奈を抱きしめながら麗奈の母親から出た鷹のメモリスの赤いカセットを取り出しドライバーに装填した。


上を見上げると画面が現れ、そこに映った赤い鷹のヒーローが飛び出し背中から生えた赤い羽を使ってユイアの元へ手を伸ばしながら落下する。


ユイアはドライバーのホイールを3回回し赤い鷹のヒーローに手を伸ばした。


3!

2!

1!




「変身!」


バッ!!


赤い鷹のヒーローの手を掴んだ瞬間に赤い鷹のヒーローはバラバラになり各部位のアーマーに変化してユイアに身体に装着されていく。




ヒーローアップ!


赤き熱風!掴む明日!ホーク!!You are HERO!!






複眼が緑色に変化し、ユーアは背中から生えた炎を纏った赤い翼を使って麗奈を抱き抱えたまま上昇し屋上へ戻ってきた。


「クソ!なっなんで戻って来れてんだよ!!」


ユーアはレーテの隊員達の元に麗奈を下ろすと父親が泣きながら麗奈を抱きしめた。


「麗奈!」


「お父さん!」


「ありがとうルナ、鷹のメモリカセットを変身できるように調整してくれて。」


ユーアがルナにお礼を言うと鼻を擦りながら照れ臭そうにする。


「ふん!さっさとコイツら倒しちまうぞ!」


「うん!」


「日代!この黒い奴らは俺達に任せろ!お前はカメレオンを!!」


「分かった!よぉーーしテンションあげていくよ!!」


ユーアは頷くと共に折り畳まれていた赤い翼を展開し羽ばたかせ、空を飛ぶと辺りを見渡しカメレオンのメモリスを探した。しかしどこを見渡してもカメレオンのメモリスの姿が見つからない。


「どこだ.........」


「ユーア!目を凝らして探せ!」


ユーアは目を凝らして屋上を見渡す。すると隅っこの方の影が少し動いたのを見逃さなかった。


「そこだ!」


ユーアがドライバーのホイールを何回も回転させると脚のアーマーが鷹の鋭い鉤爪のような形状に変形した。ユーアは影が動いた場所へと急降下すると足の爪を使って透明な何かを強く掴んだ。


「グエェぇえ!!」


「鷹の視力舐めんなー!」


カメレオンのメモリスを足で掴むと上昇し上へ投げ飛ばす。ユーアは羽を使いさらに上昇し、足に炎を纏うと落下していくカメレオンのメモリスに向かって両脚を伸ばし勢いよく落下する。


「いくぜ!はぁあ!!せいやぁぁぁあ!!!!」


落下する過程でユーアは出現した赤い3つの輪をくぐる。そのたびに加速していき炎がどんどん強くなっていった。そして落下するカメレオンのメモリスに追いつき炎を纏ったユーアはカメレオンのメモリスの身体を貫通した。


「グェえぇええええええええ!!!!」




ホーク!エヴォークスマッシュ!




ドガァァァァアァァァァアァァァアァァァァァァァァアアァアァァアアァァァァアン!!!!!!!!






貫通したと同時にカメレオンのメモリスは空中で激しく爆発してしまった。その様子を下から見上げていた人々がスマホを使い写真や撮影をしている。ユーアは空から下を見下ろすと屋上にいた十数体の黒いメモリスは綺麗さっぱりいなくなっていた。


「隊長!向が持っていたメモリカセットを押収しました!」


「よし、もうすぐ警察がくる。」


「チッ」


向の手には手錠がかけられておりレーテの隊員達と共に屋上から階段で降りていった。そのタイミングでユーアは屋上に着地するとドライバーからメモリカセットを取り出し変身を解除する。


「お姉ちゃん!」


「麗奈ちゃん!」


麗奈がユイアに駆け寄りユイアは強く抱きしめた。麗奈の顔には笑顔が戻っておりそれを見てユイアも笑顔になる。父親はユイアとユキタカに深くお辞儀した。


「みなさん本当にありがとうございます!」


「いえ、これが俺達の仕事ですから。」


「ごめんね、怖い思いさせちゃって........」


「うんうんお姉ちゃん!助けてくれてありがとう!」


「どういたしまして!うんうん!やっぱり笑顔が一番だよ!」







【数時間後】


火野親子を見送った3人はレーテの本部へ向かう車に乗車した。ユイアは席に座ると同時に向かい側に座るユキタカに話しかける。


「ユキタカさん!これで私をヒーローだって少しは認めてくれた?」


「まぁ少しはな。」


「やったなユイア。」


「やったー!!」


喜んでいる2人の様子を見て少し微笑むユキタカはバッグから1つの青いノートを取り出しユイアに手渡す。ルナはノートを見た瞬間に瞬時にこのノートがなんなのかを理解し嫌そうな顔をした。ユイアは手渡されたノートをペラペラとめくる。


「なにこれ........フロントランジ、プッシュアップ、クランチ....え?」


他にもたくさん筋トレや体力づくりについて書かれている。表紙には書道のお手本のような綺麗な字で「日代唯愛トレーニングノート1」と書かれていた。


「初心者はまずはそれからだ。それを毎日やれ。あとトレーニングルームも自由に使っていいぞ。」


「え?」


「お前の戦う姿を見て理解した、お前に足りないもの......それはトレーニングだ。激しい運動に身体がついていけていない。だからお前を鍛える。」


「え?」


「出たぜ~ユイア~頑張れよ。これが東京支部隊長ユキタカだ。」


「そうだ、ここから本部までランニングしないか?」


「あっ明日からで........お願いします。」

































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る