第10話「Wに乗せて/犯人の正体」

【次の日・東京都内にあるユイアが通う高校】


放課後、ユイア達3人は聞き込みを始めるためグラウンドの前に集合した。ユイアとヒビキがグラウンドの前に立っていると陸上部の練習の休憩時間の間を使ってアサヒが少し遅れてやってきた。


「遅れてごめん!」


「大丈夫だよ!よしまずはテニス部の人達に聴いてみよう!」


ユイアを先頭に3人はテニス部のコートに顔を出す。そこには練習をするテニス部員と赤いジャージを着た角刈りの堅いのいいテニス部顧問の照岡の姿があった。


「照岡せんせー!」


ユイアが大きな声で照岡を呼ぶとコチラに気づいたのか手を振ってくれた。ユイアはすぐに手を振りかえす。3人は照岡の所まで走って向かった。


「日代じゃないか!この間は提出物のノートを職員室まで運んでくれてありがとな!」


「いえいえ!少しお聴きしたい事があるんですがいいですか?」


「ん、どうしたんだ?」


「この間の園崎先輩のラケットが折られた事件なんですけど犯人に心当たりありますか?」


ユイアがそう質問すると頭を掻きながら照岡はこう言った。


「あれなー祐星のやつは翔太の事を犯人だと思ってるらしいが違うと思うんだよなー確かに防犯カメラにはアイツの映像映ってたし......でも肝心のどうやって入ったのか分からないんだよなー」


「あそこの窓から入ったとかですかね?」


ユイアがそう言うと照岡は一瞬驚いた顔をしてすぐに笑った。


「ハハハ!残念ながらあの日は窓の鍵は閉まってたよ!一年坊達が掃除した時はだいたい開いているんだがな!」


(この反応......本当に窓が開いていた事を知らないのか。じゃあ照岡先生が来た時には窓は閉まっていた。つまり窓を閉めたのは犯人の可能性がある......なんで犯人が窓を閉める必要があるんだろ?うーん分かんなくなってきた。)


「じゃあ佐々木先輩と園崎先輩に恨みがある人とかいますかー?」


ユイアが考えているとアサヒが照岡に質問する。照岡は少し考えたあとにこう言った。


「いないんじゃないのか?アイツらは一年の時に入部した時からずーーっとダブルスでペアを変えた事ないしアイツらは誰もが認めるテニス部のエースだからな。いたとしてもアイツらに試合で負けた他校の連中とかだろ?」


「他校の連中.......」


「照岡先生!!」


ユイア達が照岡と話していると黒髪ポニーテールの1人の女性教師が走ってやってきた。


「あ、アキちゃん先生だ!」


成海 アキラ先生、通称アキちゃん先生。今年からこの学校に赴任してきた新しい体育教師で少し天然だが真面目で優しい性格がすぐに生徒からの人気を獲得した若くて可愛い先生だ。


「どうしたんですか成海先生?」


「レーテの隊員さん達がお話があるそうで.......って照岡先生また靴紐解けてますよ!」


「あーほんとだ!教えてくれてありがとう。」


照岡はそう言うとすぐに靴紐を結び始めた。結んでいると隊服を着たレーテの隊員達がやってくる。その中にはユイアが知っている人物もいた。


「さすがアキちゃん先生細かい所に目が行くねー」


「あれ?ユキタカさん!」


「日代か、こんな所で会うなんて奇遇だな。」


ユイアとユキタカが話しているとその後ろの2人がコソコソと話し始めた。


「あの人がユキタカさん?」


「うんうん!レーテの一番隊の隊長さん。思ったよりも身長が高くて驚いた。」


「どうしてこの学校に?」


「実は4日前、隣町の高校の生徒が数人亡くなったんだ......噛まれたような跡があり遺体からは猛毒が検出されている。」


「毒?」


「あぁ、メモリスによる犯行の可能性が高い。だからここら一帯をレーテが調査、不審な人物に気をつけるよう生徒指導のこの照岡先生に呼びかけてもらう予定だ。」


「あー生徒指導の照岡先生ねー」


「俺じゃないですね。」


「え」


「ユキタカさん、この学校照岡先生2人いるんです。しかも2人とも体育教師!生徒指導の照岡先生は陸上部の顧問なのであそこにいますよ。」


ユイアはグラウンドの方を指差すとそこには肌が黒く焼けメガネをかけた男の先生が立っている。ユキタカ達はとことこと生徒指導の照岡先生の元に歩き始めた。


「ごめんなさい先生!私間違えちゃいました!」


「いえいえ大丈夫ですよ。照岡先生と間違えられる事はよくあるので!」


成海先生は落ち込みながら自分が顧問をしている女子バレー部の方に戻っていってしまった。その後もユイア達はテニス部の生徒達を中心に聴き込みをするが有力な情報を得ることができず日が沈み、始め下校時刻となってしまった。


「何も情報掴めなかったねー」


「そうだねー」


3人で下校しようと正門の前まで歩いているといつもの購買のおばちゃんが正門の前でキョロキョロと誰かを探している。ユイア達を見つめた瞬間に全速力で駆け寄ってきた。


「待ってたわよ3人とも!」


「どうしたんですかおばちゃん!?」


「いやー貴方達がテニス部の事件を解決するために頑張ってるって聞いてねー私も何か協力できないかって思ったよ。それで考えてたら思い出したのよ!私あの日の夜、学校に行ってたのよ!」


「え!?あの日の夜って園崎先輩のラケットが壊されたあの夜ですか!?」


「そうよ!11時くらいだったかしら?私駅前の居酒屋で開かれてた同窓会の帰りにね学校に忘れ物した事を思い出したの!それで学校に行ってみたんだけどやっぱり校舎に入れなくて諦めて帰ろうと思ったの。」


「11時.....さすがに誰もいないよね。」


「そう思ってたんだけどね駐車場に車が一台残っていたの。」


「どんな車ですか?」


「確か赤い軽自動車よ。」


「「「え、」」」


3人の表情が一気に暗くなる。赤い軽自動車の人物に心当たりがあった。だが信じられなかった。おばちゃんにお礼を言うと3人は学校を出て夜の住宅街の道を歩く。


「さすがに違う.....よね?」


「私は違うと思う。たまたま残ってただけだよ!そう思うでしょユイア?」


「..........」


「ユイア?」


「...........ごめんちょっと調べたいことがあるから先帰ってて!」


ユイアは2人に謝ると誰かに電話をかけながら走り出した。置いてかれてしまった2人は走るユイアの背中を見つめることしかできなかった。2人だけの帰り道ユイアがいなくなってから無言が続いている。


「ねぇアサヒ。」


「どうしたの。」


「なんだかユイアが遠くにいるみたいで少し寂しい。」


「うん、私も......今からでも追いつけるかな。」












次の日の放課後、ユイアはグラウンドに教師全員と佐々木と園崎を呼び出した。みんなの前にユイアが紙の束を持って現れる。その後ろにはヒビキ達とユキタカとレーテの隊員達が数人待機していた。


「集まっていただきありがとうございます!3日前にテニス部で園崎先輩のラケットが折られるという事件についてです。」


教師が一斉にざわつき始める。


「明日する予定の全校集会の話じゃないのか?」


「えぇ、私も不審者についてばかりかと....」


「なんで生徒が参加しているんだ?それにレーテの人達もいるし....」


「ごほん!その犯人は貴方です!」


ユイアは先生達の方を指差す。指差す先には成海先生がおり、成海先生は焦りながら首を横に振る。


「え!私ですか!?」


「そうです!」


「日代!流石に違うんじゃないのか?」


「成海先生なわけがない!」


他の先生が成海先生が犯人だと言う事を次々と否定する。「生徒の戯言だ。」「そんなことよりも教師を呼び出すとは何事だ。」「学業に集中しろ。」「犯人は生徒に決まっている。」など現場はどんどんと混乱し始める。


「静かにしてください!」


園崎が大きな声でそう言うと全員が一斉に静かになった。


「祐星......」


「日代さん、君がそう思う根拠を教えてくれないか。ラケット折られた被害者の僕としては早くその真犯人というやつを見つけてほしい。」


「分かりました。まずは犯人の成海先生がどうやって犯行を行ったのか。答えはシンプルに鍵で入ったんだ思います。体育教師の職員室にある各部活の部室の鍵を使えば入ることができます。」


「でもそれだと他の教師も当てはまるんじゃないのかい?」


「確かにそうですね。ですがあの夜に最後まで残っていたのは成海先生です。その証言は忘れ物をその夜取りに来た購買のおばちゃんがしてくれました。」


ユイアがそう説明すると園崎はすぐに新たな質問をする。現場はこの2人の質疑応答を周りの教師達がただ黙って聴いているだけだった。


「僕は防犯カメラの映像に翔太の姿が映っていたと聴いて翔太を疑った。でも君が言うことが正しいなら成海先生も防犯カメラに映っていないとおかしいんじゃないのかい?」


「防犯カメラは2台あります。しかしそのうちの1台は先月から故障していてもう1台しか動いていません。そうですよね生徒指導の照岡先生!」


ユイアが大きな声で尋ねると奥にいた生徒指導の照岡先生は大きくうなづいた。


「遠回りになりますが故障した方の防犯カメラがある階段を通れば防犯カメラに記録されずに部室に行く事ができます!」


「なるほど......でもテニス部の顧問でもない成海先生が僕のラケットを壊す動機ってなんだい?」


園崎がそう聞くと便乗するように成海先生も声を上げた。


「そっそうです!私には園崎くんのラケットを壊す理由がありませ.....」


「楓都宮高校」


「!」


その言葉がユイアの口から出た瞬間、成海先生の顔が一瞬だが変わった。


「隣町の高校がどうしたんだい?」


「園崎先輩、その高校と対戦したことがありますか?」


「あぁ確かにダブルスで対戦して勝ったよ。そのおかげで僕達は関東大会に出場する事ができたんだ。」


「じゃあその時対戦したダブルスの1人が自殺したことは知ってますか?」


「あぁ知っているよ。対戦した子が亡くなってショックを受けたよ確か名前は.........」


「成海奏斗......私の弟です。」


成海先生は俯きながらそう答えた。彼女の瞳からポタポタと涙がこぼれ落ちていく。


「私の弟はテニスが大好きな子で......でも県大会で負けたのはお前のせいだと先輩達に責められ続けて言い返せず、いつしかそれはイジメに発展していました。」


「成海先生....」


「そのイジメの内容は徐々にエスカレートしていき弟が自殺するまで教師達はこの事態を知らないでいました。家族だった私も弟が残した遺書を見るまで弟をイジメを受けていることを知らなかった......ごめん......ごめんね。うっうぅ.......」


他の教師達が泣き続ける成海先生に駆け寄り始め「大丈夫?」などと声をかけ始めた。


「成海先生を泣かせるな!」


「生徒が勝手に何をしているんだ!あとで職員室だ!!」


教師達が一斉にユイアに声を上げ始めるがユイアは気にせず園咲の方へ目線を向けた。


「日代さん去年の大会で対戦相手だった成海先生の弟さんが自殺したこととこの事件になんの関係が?」


「その弟さんをいじめていた楓都宮高校の生徒達は5日前に殺害され全員亡くなったそうです。」


「............」


「そして昨日その高校の卒業生も数人亡くなったそうです。共通点は全員テニス部で弟さんのイジメに関係していた生徒達、遺体には噛まれた跡と猛毒が検出されています。」


「..............あはは」


先程まで泣いていた成海先生が笑い始めた瞬間に周りにいた教師達が少しずつ離れ始めた。


「弟を殺した生徒達、アイツら本当に能天気に生きてた。少しは罪悪感を抱えてるかと思えば停学程度では懲りないものね。こういう悪人っていうのは。だから殺したいと思ったの。そんな事を考えながら生きてたら急に私の目の前にね死神さんがやってきて「貴方の願いを叶えてあげます」って言ってきて1つのカセットをくれたの。これが世間では危険だと噂されているカセットだって事はもちろん知っていたわ。でも大切な弟を奪ったアイツらに復讐してやりたかった。これは神様が私にくれたチャンスだと思って使ったの。その死神さん優しくてね、復讐したい相手がどこに行けば会えるのか、どうすれば見つからず殺せるのか優しく教えてくれたの。だから殺すのはすーーーーーーっごく簡単にできたよ?でも簡単すぎてすぐ復讐終わっちゃったの。でも復讐したりなくて「そうだ」って閃いたの。私が今年から赴任になったこの高校には弟がいじめられる原因を作った人物が2人いるって!でも2人はすごく仲良しだったからまずは殺す前に仲を引き裂いてやろう!って思ったの。それで職員室の鍵を使って部室に入ってラケットを壊した。園崎くんがラケットを置いて帰っちゃう悪い癖があるって照岡先生が教えてくれたからね。それに全く関係ない他の部活動の先生が犯人だなんて誰も思わないし疑われないと思ったんだけどね。まさかちゃーーーんと調べられちゃうとはねーあーあーバレちゃったーーーーーあーーーーーああーーーーーー」


「成海先生........」


「壊されたラケットには先生の指紋もたくさんついてました。ただの生徒同士の喧嘩に指紋採取なんてしないって思いましたか?」


「うん、思ってたよ。」


「残念でしたね、私に指紋採取とか事件の捜査が得意な仲間がいて。」


ユイアはユキタカの方に顔を向け目があった瞬間にお互いニヤリと微笑んだ。


「チッ、たかがラケットに本気にならないでよ。」


その場にいた全員が成海先生の豹変ぶりに戸惑い怯えた表情をしている。レーテの隊員達が彼女のみがらを取り押さえようと近づいていく。その瞬間に成海先生はポケットの中に入れていたカセットを取り出した。


「メモリカセット!持っていたのか!」


「もうバレちゃったから全部もうどうでもいいや!全部壊しちゃえ!」


彼女は叫びながら自分の頭にカセットを強くドン!と押し付けた。頭からテープが飛び出しヘビのような形になって現れ、教師達は一斉に校舎の方へと逃げ始めた。


「他の生徒達の避難を完了している!この場に残った生徒や教師達の避難をさせろ!」


「「「「「はい!!!!!」」」」」


隊員達はすぐに避難の誘導を始めた。ユイアはバッグからドライバーを取り出すと腰に巻きつけポケットからピンク色のカセットを取り出しドライバーに装填する。


「いくぞ日代。」


「はいユキタカさん!」


ユイアは腕を突き出し、変身ポーズを取りドライバーのホイールを3回回転させる。



3!


2!


1!


「変身!」


ヒーローアップ!!


You are HERO!!!!



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