第4話「親友とレーテと謎の鷹」
【とある舞踏会場・休息の間にて】
「あのコウモリさんすぐやられちゃったねー」
白髪の少女がケーキを食べながらソファに寝っ転がる。
「仕方ありません、解放されたばかりのメモリスは知能が低いですから。」
骸骨の姿をしたメモリスはそう言いながら紅茶をティーカップへと注いでテーブルの上へと置いた。
「ありがとう、ゴースト。そういえば今日はキラーは来ないの?昨日はパーティーにいたのに。」
「私はこの能力でいつでもここにテレポートできますが彼女も仕事が忙しいですからね。ここに頻繁に顔は出せませんよ。」
白髪の少女はケーキを食べ終え、注いでもらった紅茶を飲みながらテレビをつける。するとニュースではユーアとコウモリのメモリスの戦闘が流れていた。
「アイツなんなの?本当に腹が立つわ。せっかく私が解放したメモリスを倒しちゃってさ....レーテの奴らが何か関係しているの?」
「どうやらレーテが開発したものらしいですよ。」
2人がテレビを観ていると後ろからどすどすと大きな足音がしてきた。
「幹部が1人到着ね。」
「遅いですよターボ」
「ハハッ!遅くなっちまったぜ!」
屈強な肉体をしたチーターのようなメモリスが笑いながらやってきた。ターボという名のメモリスはソファにドン!と座り、座った瞬間の反動でで横に座っていた白髪の少女が少し浮いた。
「コイツつえーのか?お、足速そうだな!いつか勝負しようぜ勝負!ハハハハ!!!」
「まったく貴方は足の速さしか興味ないの?」
テレビの中で戦うユーアを観てターボは腕を振りながらスポーツを観戦する観客のように楽しそうにしている。それを呆れた表情で見つめる少女とゴースト。
「まるでテレビの中のヒーローが飛び出して来たみたいね......早いうちに手を打たないと。残りの幹部3人にも伝えといて。」
「分かりました。」
ゴーストはそう言うと少女のそばを離れ立ち止まり左腕を前へ出す。すると黒と緑色の人魂が集合、凝縮し禍々しく黒い大きな穴が出現した。その中にゴーストが入った瞬間にシュンとその穴は消えてしまう。
【東京都内にある高校とある教室】
「ねぇねぇ昨日のニュース観た?ほら、あそこの駅で起こったやつ!」
「知ってる知ってる!あれのせいで電車遅延してバイト遅れちゃってさー」
「怪物となんかピンクのヒーロー?が戦ったんだってー!かっこよくない?」
「あれって偽物の動画とかじゃないの?あんな動き人間にできるとは思えないよ。」
「それよりさ背中から翼が生えたUMAが新宿で目撃されたニュースの話しようぜ!」
ユイアがいるクラスでは朝からこの話題で持ちきりだ。ユイアはその噂をする生徒達の声を聞きながら少しニヤニヤと笑いながらネットニュースを見ていた。
(すごい....みんな私の話をしてる!ほらもっと!もっと!かっこいいとか言って!本当に昨日!私変身しちゃった!かっこいいヒーローに!やったやったやったー!)
「おーいユイアー」
(これから私のヒーローとして物語が始まるんだー!いろんなメモリスを倒していっていろんな人助けて!もしかして強化フォームとか貰えたりするのかな?うおー!テンション上がってきたー!)
「ユイアー!はーしょうがない」
(放課後はルナと一緒にレーテの本部に行って.......あれ?もしかして私ってもうレーテの隊員なのかな?給料貰えたり......)
「ユイア....愛してる。」
「ひゃーーーーーーー!?!!!?!?!!」
ユイアは後ろから耳元で囁かれ顔を真っ赤にした。セクシーでイケメンな年上女上司のようなイケボが耳の中で響き身体中がゾワゾワする。
「やっとこっち向いた!どう?昨日観た月9の告白シーンのマネ、いい感じでしょ?」
「さっすがヒビキ!いい声してる!」
振り返ると紫色の瞳をした銀色の長髪の女子高生と黄色のショートで緑色の瞳の女子高生が顔を真っ赤にしたユイアを笑っていた。
「ヒビキ驚かせないでよー!アサヒも笑わないでよー!」
「ハハハ!ごめんって!だってユイア、私達が来たのにずーっとなんかニヤニヤしてるんだもん!」
「フフ....で、ユイア。話って?」
「あ、そうそう!2人に見せたいものがあるから屋上行こう!」
2人が顔を見合って首を傾げる。ユイアは屋上に誰もいない事を確認すると2人と屋上に入った。2人はベンチに座りユイアと会う前に自販機で買ってきた紙パックのリンゴジュースとオレンジジュースを飲み始める。ユイアはバッグからユーアドライバーを取り出すと腰に巻きつけた。
「......どうしたのそれ?」
「あ、分かった。新しい特撮ヒーローのベルトでしょ」
ユイアはメモリカセットのユーアドライバーにセットしホイールを3回回し変身ポーズを取る。
3!2!1!
「変身!」
ヒーローアップ!
後ろのテレビのような画面から飛び出してきたヒーローのアーマーがユイアの身体に装着されていく。その時点で2人は飲んでいたリンゴジュースとオレンジジュースを吹き出していた。
You are HERO!!!!
「どう?かっこいいでしょ!」
変身してユーアになったユイアが2人のそばへと近づいてきた。2人は今起こった事が脳で処理できておらずポカーンとしていた。特にアサヒの方は頭から煙が上がってきておりパンク寸前だ。
「あれ?2人とも?おーい!」
「おいこらユイアー!」
ドンっ!
「痛っ!」
何かが勢いよく顔面にぶつかってきてユーアはその場に倒れてしまう。見上げると怒った表情のルナがぷかぷかと浮きながらユーアを睨んでいる。
「あれ!?ルナ!?なんでここにいるの!?!」
「ユーアドライバーを貸してくれって言うから何するかと思って見に来たら!何早速正体バラしてんだー!!?!」
ユーアは立ち上がるとルナに説明をし始めた。
「大丈夫!2人は親友だし!内緒にしてくれるって!それに特撮ヒーローの番組でも最初の方で正体隠しても中盤くらいで正体バレ.....」
ドン!
「痛い!」
ドンドン!
「痛いって!」
10分後
「すみません。二度としませんごめんなさいごめんなさいごめんなさい.....」
ユーアはボロボロになりながらルナに向かって何度も土下座する。首からは「正体バラしません」とピンクの文字で書かれた紙が貼ってあるダンボールの板が紐で下げられていた。
「問題はこの2人だな。」
ルナはベンチに座っている2人を見つめる。
「処理完了!」
「お!やっと処理が完了したか!」
「え、猫?ぎゃぁぁぁ!!魔法少女の横にいるマスコットみたいなやつがいるー!!!」
ヒビキが脳の処理を完了し正気に戻ったが腕を組んで空をぷかぷかと浮かぶ白い猫の妖精?のルナを見た瞬間に再び処理中になってしまった。
30分後
「脳の処理完了したか?」
「「はっはい....」」
2人は飲みかけのリンゴジュースとオレンジジュースを飲み直す。その奥で変身解除したユイアが正座しながら2人を見つめる。2人は首から下げられたダンボールの板が気になって仕方ない。
「まさか昨日のニュースでやってたヒーローがユイアだったなんて....」
「メモリス倒しちゃうなんてユイアすごく強いんだな!」
「でしょー!」
「黙ってろユイア!」
「はっはい..........」
ルナが後ろで正座するユイアを睨みつける。
「アサヒも空気読む!」
「はっはい....」
ヒビキが横に座るアサヒを注意する。
「で、お前らはこの事をSNSにでも拡散するのか?」
「「そんな事するわけない!!!!!!」」
「ユイアは私達の親友、親友を売ったりなんてしない!」
「そうだ!そうだ!ユイアにはたくさんの恩があるし絶対しない!」
2人が一斉にルナに向かって大声で反発する。ルナは2人の真っ直ぐな瞳をじっと見つめた。その後、はーっとため息をついてユイアの方を向く。
「しょうがない今回は勘弁してやる。ユイアー!今度他のやつにバラしたらタダじゃおかないからなー!......先に下で待ってるからな。」
そう言ってルナは屋上のドアを開け、ぷかぷかと校内へ戻ってしまった。ユイアはルナが立ち去ったのを見ると立ち上がり走って少し泣きながら2人に抱きついた。
「2人ともありがとう!!」
「まだユイアがヒーローに変身した事信じられないけどさ....良かったじゃんユイア!夢叶って!」
「ヒビキ....うんうんまだ叶ってないよ、私の最終目標は最高のヒーローになる事だから!」
「そうだったね!応援してる!」
「ユイアならなれるって!」
3人の会話を屋上のドアの裏側で立ち去ったと思われていたルナが聞いていた。
「親友....か....」
瞳を閉じて何かを思い出すがすぐに瞳を開け階段を降りていった。
「嫌な事思い出しちまった....過去はあまり振り返るもんじゃねぇな。」
【放課後・校門前】
ユイアが2人と校門を出ると少し離れた路地の方に黒い大きな車が停められていた。車のサイドの扉にはレーテのロゴが大きく描かれている。車の扉が開き中にレーテの女性隊員とルナがいた。
「おせーぞ早く入れ。」
「はーい♪」
ユイアは車の後部座席に座るとシートベルトをつけた。それを確認した運転手は車を発進させる。ユイアは車の中で揺られながらスマホの画面を見つめていた。
「いいかユイア。これからレーテの本部に向かう。覚悟はいいか?結構面倒くさいぞあそこの連中は。」
「大丈夫!すぐレーテのみんなと仲良くなってみせるから!」
「そういう問題じゃねぇんだけどな......」
雑談をしながら着くの待っていると十数分で到着した。車を降りるとテレビで見た事がある大きな白い建物がたくさんあった。ユイアが通う高校のグラウンドの数倍ある庭では隊員達がトレーニングのようなものをしている。上を眺めると旗が数本立っておりレーテのロゴと日本の国旗、政府のマークが描かれていた。ユイアは誰かからの視線を感じ、視線を感じた方を見上げるとビルの5階の窓から誰かがこちらを見つめていた。顔は遠くて見ることができない。
「中に入るぞ。」
「うっうん!」
レーテの隊員とルナの後ろについて自動ドアを通りレーテの本部の施設に入った。廊下には多くの隊員達がおり警察の人もいた。食堂、トレーニングルーム、寮、研究所、様々な施設を通ってエレベーターを使って10階に向かう。このエレベーターに乗るまでに多くの隊員に睨まれ小声で何か言われた事にユイアは気づいていた。
「すっごーい!」
エレベーターを降りそのまま奥へ進んでいくと大きな扉があった。
「ここだ。」
「ここ?」
レーテの隊員が扉をコンコンと叩く。
「入りなさい。」
レーテの隊員が扉を開けるとルナと一緒に部屋に入った。部屋を見渡してみる。社長の部屋みたい、それが一番最初の感想だった。花びんや絵画が飾られておりホコリ1つないような部屋だ。とても広いし白くて清潔感を感じる。
「君が日代唯愛?」
「え、あっはい!」
社長が座っていそうな高そうな椅子に黒髪で長髪、黒い瞳の女性が座っている。
(この人たぶん偉いんだろうな。)
見ただけで分かった。よくよく思えば時々テレビのニュースで見る人だ。真っ黒い瞳がユイアの顔をじっと見つめている。
「あぁすまない、昨日の戦闘でメモリスを倒したのがまさかこんな可愛い女子高生だとは思わなくてな。内心少し驚いてしまった。」
そう言うと彼女は椅子から立ち上がりユイアの前にやってきた。ユイアより身長が高い。170センチはあるだろう。
「私は内閣官房直属の対メモリス特務機関「レーテ」の司令官の佐久間誉(サクマ ホマレ)だ。」
手を差し伸べてきたのでユイアはホマレの手を握り握手をする。
(この人握力つよ.....)
ホマレは隊員から紙の束を受け取りソファに座ると隊員から渡された紙の束を読み始める。
「この資料によると君は昨晩彼女....ルナが渡した契約書にサインしてレーテの一員になった。合っているかい?」
「はい!契約書にサインしました!」
「自分の意思で?」
「はい!」
「よしじゃあ早速仕事だ。」
「え?」
コンコン
扉の向こう側でノックする音がした。
「やっぱり君は時間通り来るね。入ってくれ。」
扉を開けると黒いスーツの身長180センチはある黒髪で青い瞳の男性が入ってきた。腰のベルトからは刀が納刀された鞘が下げられている。ルナがその男性と目が合った瞬間に嫌そうな表情をした。
「失礼します。」
「ユイア、彼の名前は高嶺幸隆(タカミネ ユキタカ)。レーテの東京支部隊長だ。君の教育係だ。」
「日代唯愛です!よっよろしくお願いします!」
「高嶺だ。よろしく....早速で悪いが最初の仕事だ。急ぐぞ。」
ユキタカは部屋にかけられた大きな時計を見ると後ろを向き扉を開けた。その後をユイアはルナと共に追いかける。3人でエレベーターに乗り一階まで降りる。誰も喋らない無言が続くと思っていたが幸隆は時間を腕時計で確認しながらユイアに話しかけた。
「この建物に入る前にお前の事を5階の窓から見ていた....あの距離でよく気づいたな。」
「え、あれ隊長さんだったんですか!?」
「あぁ適合者がどんな人間か会う前に見ておこうと思ってな。まさか気づかれるとは思わなかった。」
「いやーそれほどでもー!」
ユイアは褒められたと思い少し照れた表情を浮かべニコニコしながらユキタカの方を向いた。ユキタカはユイアに目を合わせずただエレベーターの正面を見つめていた。エレベーターの画面は5階を示している。
「勘違いするな、俺はお前の事を完全に認めたわけじゃない。他の隊員達もそうだ。まだ誰もお前をヒーローだとは認めていない。」
その言葉がユイアの胸に鋭く刺さった。隊員達は何年も訓練を積み重ねてここにいる。昨日までただの一般人だったユイアが隊員になる事をよく思っていない人間がいて当然だ。少し下を向くとすぐにユキタカの方へ顔を上げこう言った。
「だったら認めさせてみせます!私がヒーローだってこと!隊員の人達にも!隊長さんにも!」
それを聞いてユキタカは少しだけ微笑むとユイアの方を向いた。
「少しだけ期待しておくとしよう.....」
エレベーターのドアが開き3人は廊下を歩き始めた。
「これから仕事内容を言う。お前には火野麗奈(ヒノ レイナ)という少女の護衛をしてもらう。」
「護衛?」
そう言うとユキタカはユイアに写真を手渡した。高そうな赤い服を着た6才くらいの小さな黒髪の女の子が笑顔で両親と写っている。
「あぁ、この子はある企業の社長の一人娘なんだが....鷹のメモリスに狙われている。昨晩も新宿で狙われた。」
(そういえばクラスの男子がそんな話をしていたな....)
するとユキタカのスマホが突然鳴り始めた。ユキタカはすぐにスマホを取り出すと着信に出た。
「この近くで数名の隊員が鷹のメモリスと交戦しているそうだ。廊下は歩くべきだが....緊急事態だ!急いで向かうぞ!」
「はい!!!」
「おっおいちょ待てよ!」
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