第3話「戦闘」

「ふザケた見タめしやガッて!!ぶッ潰スぞ!」


コウモリのメモリスは羽を動かし空へ舞い上がるとユーアめがけて猛スピードで急降下した。


シュッ!


ドガァア!!!


ユーアは一瞬で避け、コウモリの怪物は道路に叩きつけられた。その際に道路にヒビが入りクレーターのような形に凹んでしまう。コウモリの怪物は痛そうに頭を抱えながら狙ったはずのユーアを探し始めた。


「どコ行っタ!?!」


キョロキョロ辺りを見渡し探すと少し離れたところにある街灯の下にユーアはいた。見つけた瞬間にコウモリの怪物は空気を勢いよく吸い、それを超音波と共にユーアに向かって放つ。しかし、それも避けられてしまう。そのまま後ろにあった乗り捨てられていた車に当たり窓ガラスが全て割れた。


「なんデアタんねェんだ!?!」


「すっご~!脚が速くなってるしどのタイミングで攻撃が来るのかも分かる!これだったら戦える!」


ユーアが自分の装着しているアーマーを触ったりして興奮していると後ろからゆっくりと何かが迫ってきていることに白猫の妖精が気づいた。


「危ない!」


妖精がユーアに向かって叫ぶ。振り返るとそこには蜘蛛のメモリスが背中から生えた4本の足を使って攻撃しようとしていた。それをとっさに避ける。


「チッ」


「危なかった~!ありがとう教えくれて!!」


ユーアは妖精に大きく手を振った。その姿を見て妖精がため息をつく。


「気をつけろ!集中してないと敵の殺意を察知できなくなる!」


「OK!ねぇ!蜘蛛の貴方はコウモリさんよりも強そうだね!」


「ふん、当タりマエだ。俺ハアイつよりも優レテいるからな。アイつはただのバッキングだ。」


「バッキング?」


蜘蛛の怪物はそう言うと4本の足を使ってユーアを刺すように連続攻撃する。それをなんとかユーアは避けるが数回攻撃が当たってしまい、当たった箇所を手で押さえる。


「うっ!」


「まだマダイクゼ!」


バンバン!!


ユーアに向かってさらに連撃を加えようとしたその時だ。背中から生えた4本の足に銃弾のようなものが数発当たる。当たった箇所からはジューと焼ける音と煙が上がっていく。蜘蛛のメモリスとユーアが銃弾が放たれた方へ向いた。


「チッ追加でキヤがった......」


「だっ誰!?」


振り返るとそこには白い隊服を纏った人々が銃を構えている。


「メモリスを狙え!長官からの命令だ!援護をするぞ!」


「チッ...レーテの隊員達がきやがった」


妖精がやってきたレーテの隊員達を見て嫌そうな顔をする。


「仲間じゃないの?」


「あいにく私はレーテ所属だけどアイツらとは仲が悪いんだ。ユーア!アイツらよりも先にメモリスを倒すぞ!」


「え、あっうん!よーしテンション上がってきたー!!」


蜘蛛のメモリスはどんどん大通りからやってくるレーテの隊員達を見るとすぐに腕から白く太い蜘蛛の糸を発射した。信号機に巻き付けるとその場から立ち去ろうとする。その際に近くで暴れていたコウモリの怪物に声をかけた。


「オ前も逃げルゾ!2人でアノ数は不利ダ!」


「うるセェ!!俺はモット暴れルンだ!ストれす発散ダ!!」


「チッ...やっぱリ解放されテすぐのヤツは自制心が低くテ困るゼ......モウいい!好きにしろ!」


そう言って蜘蛛のメモリスは糸を使って移動し夜の街へと消えてしまった。コウモリのメモリスは気にせず思うがままに破壊を続ける。レーテの隊員達が銃などで応戦するが大きな羽などで防がれてしまい、あまり効果がないようだ。


「全然効かないぞ!」


「隊長達は他の街に現れたメモリスと交戦中!今は私達でなんとか食い止めるの!」


「まずいな...意外とあのコウモリ野郎強いじゃねぇか。こりゃー野放しにしてたら厄介なことになりそうだ。おい!ユーア!」


焦った表情を浮かべて妖精は周りを見渡しユーアに向かって叫んだ。


「え!なに?」


「あのコウモリ野郎にトドメを刺すぞ!ドライバーの右側のホイールを回せ!ただし三回以上は回......」


「分かった!うおーりゃー!!」


ユーアは勢いよくドライバーのホイールを回転させた。回転させるたびに火花が舞い散り、全身のアーマーが展開していく。そこからビリビリとピンク色の雷のようなオーラを纏っていった。


「すっごい!身体が一気に軽くなった!よーしいくぞー!」


「おい待て!」


そう言ってユーアはコウモリのメモリスに向かって勢いよく走り出す。地面を蹴るたびにアスファルトが抉れていき、30メートルほど距離があったはずなのに一瞬でコウモリのメモリスの間合いに入った。


「ナニ!?」


「うおぉおぉぉおおおお!!!!」



ライトニングエヴォークスマッシュ!!!



間合いに入ったユーアは右の拳を強く握り締める。上半身を使って勢いよくコウモリの怪物の腹を殴った。その際にユーアの拳はピンク色の稲妻を纏い、コウモリのメモリスの身体に触れた瞬間に激しい閃光のように輝いた。コウモリのメモリスは数メートル先まで勢いよく吹き飛ばされた。


「グアぁあアアァァアァァアァァアあ!!」


ドガァァアァァァアァァァァアァァァアアアン!!!!


「イッタァァァアァァァァア!?!」


ユーアも殴った反動か1メートルほど後ろに飛ばされ倒れてしまう。吹き飛んだ後に殴った方の腕を見るとアーマーが破損しており、腕は痺れるような強い痛みが筋肉に生じた。腕の震えが止まらない。


「人の話は......最後まで聞け!」


飛んでやってきた妖精はユーアの頭をペシペシと叩く。


「お前が今使ったのはホイールを3回以上回すと発動する「ライトニング」っていうものだ!一時的に最大出力を出せるが素人の身体だと負荷がかかり過ぎて身体がダメになっちまう!それなのに話も聞かずにバカみたいに何十回も回すから!!」


再びペシペシと頭を叩き始める。


「ごっごめんって!」


「いいか!今のお前が回していいのは3回までだ!」


「うん、分かった!」


ユーアは右腕を押さえながら立ち上がった。


(右腕はもう使えない。さっきの攻撃をくらって怯んでいる今がチャンス!立ち上がる前にアイツの近くまで行ってトドメを刺すには!!)


ユーアはドライバーのホイールを3回回転させる。ユーアの両足のアーマーが展開し再びピンク色の雷のようなオーラをビリビリと音を立てながら纏っていく。次の瞬間にユーアは走り出した。雷のような速さでコウモリの怪物との距離を詰めていく。


「ウッ!俺ニ近づくな!!」


コウモリのメモリスは威嚇するように叫びながら近くにあった大きな瓦礫を次々と投げつける。ユーアはそれを蹴りでどんどん破壊しながら距離を詰め、そしてコウモリのメモリスとの距離が近くなると数メートルほど飛び上がってヒーローの定番のキックポーズを構えた。足のアーマーからピンク色の電気を放ちながら勢いよくコウモリのメモリスに向かって蹴りを放つ。


「うおおぉおぉぉぉぉおおぉぉおおおお!!!!」


「やめろォォオォオオオ!!!!!」




エヴォークスマッシュ!!!




シュン

ドゥォオォォォオオォォオォォォォオォォオオン!!!!


「ぐぁぁァあアアぁアァァ!!」


ユーアの蹴りがコウモリの怪物の体にぶつかると同時に衝撃で道路に大きなヒビが入る。ユーアが着地した瞬間にコウモリの怪物は当たった箇所を中心に徐々に崩壊し始め、爆散してしまった。爆発が収まるとコウモリが持っていたであろうカセットが道路の上に降ってきた。


「はぁ...はぁ...たっ倒した?倒したーーー!!!」


「ほんとに...倒しやがった。なんの訓練もしてねぇさっきまでただの女子高生だったやつが...メモリスを倒しちまった。」


妖精は唖然としていた。まさか本当に倒してしまうとは思っていなかった。適合者を見つけ次第、レーテの隊員として入隊させ最低でも半年の訓練をして実戦へ投入するのが上層部の考えだった。当たり前だ、普通の一般人が未知の化け物と戦えるわけがないからだ。しかし、彼女は初めての変身でメモリスを撃破した。アスリートでも漫画やアニメのキャラでもない、ただの女子高生がメモリスを撃破したのだ。


「お前...なんなんだよ......」


妖精がドライバーからカセットを取り出し、ホイールを回転させ変身を解除したユイアに話しかける。腕にできた傷や額から少し血を流すユイアはニカッと笑いながらこう言った。


「ヒーロー!」


妖精とユイアの元にレーテの隊員達が近づいてくる。それに気づいた妖精はユイアの制服の袖を強く引っ張った。


「めんどくさい奴らが来た!逃げるぞ!!」


「え!?」


「まっ待ちなさい!!!」


妖精とユイアはレーテから逃げ出した。そして路地裏を通り、逃げ切ることに成功した2人はゆっくりと歩き始める。辺りはもう暗くなっており夜空には大きな月が出ていた。


「なぁ、身体は痛むか?」


「右腕はものすごく痛いけど両足はちょっとだけ痛いかな。」


「そうか、それで済んでよかったな。」


「うん、次からは気をつけるね!」


ユイアは鼻歌を歌いながら夜道を妖精と歩いていた。妖精はユイアをじっと見つめる。


「お前、ほんとにいいのか?」


「え、なにが?」


「このままだとお前はレーテの管理下でメモリスと戦い続けることになる。今日よりも痛い思いをたくさんすることになるし今までの日常には戻れなくなるぞ?それでもいいのか?」


「う〜ん、確かにそうかも。でも、私が戦ってたくさんの人の笑顔を守れるなら私は戦う事を選ぶよ。ずっとなりたかったんだ...子供の頃から観てた強くて優しい最高のヒーロー!だからこれから頑張る!よろしくね!相棒♪」


ユイアはニカッと笑うと隣に立つ妖精の顔をツンツン指で触った。


「え...は!?相棒!?!何言ってんだよ、私はただ適合者を探すのが仕事でその後のことはレーテのユキ......」


「だって主人公を支えるマスコットキャラは必要だもん!そーだなー名前は......」


ユイアはキョロキョロと周りを見渡し夜空を見上げた。夜空には綺麗な満月が2人を照らしている。


「満月...ルナ......ルナ!いい名前!」


「ルナ!?よりにもよってその名前かよ......」


妖精はため息を吐くがユイアはキラキラと瞳を輝かせながら見つめ続けた。そしてすぐにユイアに向かって叫んだ。


「分かったよ、なればいいんだろ!相棒に!!」


「そうこなくっちゃ!」


ユイアはルナの小さな猫のふわふわな手を握る。最初は嫌そうだったルナの顔も少し微笑んでいるように見えた。これがユイアとルナの出会いであり2人の物語の始まり。これは「女子高生」が「最高のヒーロー」になる物語。


「ちみなにそのルナって名前は気に入ってないからな。」


「えーー!可愛いじゃん!」


「私の相棒になるんだからもっとこう...センスのある......」














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