第28話「夏季!幽霊少女の恋!」
「なるほど......引っ越してから1年後に火事にあって亡くなっちゃったんだ。」
「はい......あの時死んだはずなのに気づいたらこの街にいて......たぶん神様が彼に会うチャンスをくれたんだと思います!......消えてしまう前に彼に会いたい!」
「じゃあ、ヒカルさん幼馴染のカケルさんを探すの手伝います!」
「本当に?ありがとう!」
「......」
幽霊が見えないヒビキは2人が盛り上がっているなか置いてかれていた。幽霊の女性がいると聞いて最初は冗談かと思っていたがあまりにも必死に言うので半信半疑の状態だ。
「ユイア、アサヒ......本当に幽霊の女の子がそこにいるの?」
「そうかヒビキには見えないのか......アサヒ!」
「はい!」
ユイアの声にアサヒはすぐに反応して幽霊の少女、ヒカルにペットボトルを渡した。ヒカルは渡されたペットボトルを適当に上下に振る。
「うわーー!!ペットボトルが空中に浮かんでる!?!?」
ヒカルが見えないヒビキは驚いて持っていたお茶を落としてしまう。すごい表情で驚くヒビキを見て3人は少し笑うとユイアはヒビキが落としたペットボトルを拾ってヒビキに渡した。
「信じた?」
「うっうん......」
「よぉーし、じゃあ改めてヒカルさんの幼馴染を探そー!」
「「「おー!!!」」」
「おっおー......」
そこから4人はヒカルの幼馴染であるカケルを探し始めることにした。
「10年前で16歳ってことは26歳か......褐色で背が高くて堅いがいい黒髪短髪......」
「10年って結構見た目変わってたりするんじゃない?」
「じゃあ実家に突撃するとか?」
「全く知らない女子高生3人組が「息子さんは今何してますか?」って聞きに来たら怖いでしょ......」
「「「うーーーん」」」
東京とはいえ4人で探すには広い街だ。顔も知らないカケルを見つけるのは非常に困難、もしかしたら全く違う街にいるかもしれない。闇雲に探しても時間を無駄にするだけ、それなら実家にいるカケルの家族に居場所を尋ねる方が簡単だ。カケルの家族と話す口実を考えているとユイアは何かを思いついたのか「あ!」と言って立ち上がった。
「どうしたのユイア?」
「イイこと考えた!ちょっと待ってて!」
そう言ってユイアはバッグを持って公園のトイレに向かった。3人は不思議そうな顔をしてその背中を見送ってから10分ほどでユイアはトイレから出てきた。
「ごめん!ちょっと時間かかっちゃった!」
「遅いよユイア......ってえ!?」
ヒビキ達が振り返るとそこにはサイドテールにしていたユイアが髪を下ろし、レーテの特徴的な真っ白な隊員服を着ている。肩にはレーテのロゴが刺繍された白色のジャケットと金色の長い髪が夏の風にたなびいていた。
「ユイアちゃんとっても綺麗!」
「でしょでしょ!初めて着たんだけどなかなかいい感じじゃない?」
「隊服持ってたの?」
「今日もらったんだ♪」
ユイアはにこーっと笑い誇らしげそうに胸を張ってポーズをとる。それをスマホのカメラ機能でヒビキとアサヒは何枚も写真を撮った。
「で、ユイアはなんで隊員の服着たの?」
「ふふふ......これなら!」
【都内・葛飾区】
数十分後、ユイア達はヒカルの道案内通りに葛飾区にあるカケルの実家のお寺に到着した。長い石階段を上ると目の前に本殿があり右側には青々とした葉をたくさんつけた大樹の枝が風に揺れていた。
「懐かしい......」
ヒカルは1人、その大樹を見つめている。ユイアは誰かいないか周りを見渡し、住職のような30代ほどの男性がホウキを使って掃除をする姿を見つけた。
「あれってもしかしてカケルさん?」
アサヒが大樹を見つめるヒカルに話しかける。しかし、ヒカルは住職のような男性の方へ振り返るとすぐに首を横に振った。
「いいえ、あれはたぶんお兄さんのタツヤさんだと思います。」
レーテの隊服を着たユイアはすぐにカケルの兄のタツヤに話しかけに行く。その様子を壁に隠れてひょっこりと顔を出した3人が見守る。
「大丈夫かな......ユイアの作戦。」
「こんにちは、今お時間ありますか?」
ユイアは普段よりも声を低くし落ち着いた口調でタツヤに近づいた。目の前まで来ると隊服のポケットからレーテの隊員手帳を見せ、自身がレーテの隊員であることをタツヤに理解させた。
「あ、はいなんでしょうか?」
「この地域でメモリスの目撃情報がありまして住人達に聞き込み調査をしているのですが何か見ませんでしたか?」
「いいえ、何も。」
メモリスの目撃情報というのはユイアの嘘、何も知らなくて当然だ。
「そうですか......他にこのお寺にはご家族は?」
「父と母と祖父母と職員が10人ほど」
「なるほど...ご兄弟はいらっしゃらないんですか?」
「弟が1人、でも今は隣の町で一人暮らししています。」
それを聞いた瞬間に壁に隠れていた3人がガッツポーズを取る。ユイアも心の中でガッツポーズをした。
「分かりました。お時間おかけして申し訳ありません。ありがとうございました。」
「あ、ちょっと待って......そういえばカケルのやつ怪物がどうとか言ってたな......」
「え?」
「弟に電話かけてみま......うわぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁあ!!!」
そう言って顔をあげたタツヤはユイアの背後にいる何かと目が合った。怯えたタツヤはその場で尻もちをついてしまう。
「どうしましたか!」
「ばっ化け物!!」
タツヤが指差す先には大樹の枝に蜘蛛の糸を巻きつけて吊り下がる蜘蛛のメモリスの姿があった。
「蜘蛛のメモリス......」
「ヨォ、遊んでクレよ。」
「本当にほんとに化け物が!!!」
「住職さん避難してください!」
ユイアはドライバーを構えて腰に当てポーズをとる。しかし、よく見たらドライバーがない。
「あっあれ!?!あっ!バッグの中だ!!ヒビキー!カバンからドライバー取って!」
「え、あ!うん!」
ヒビキは急いでユイアに預けられたバッグのチャックを開けてユーアドライバーを探し始める。バッグの中にはユイアが脱いだ服が入っており奥の方にユーアドライバーがあった。
「あった!はい!」
ガチャ!
投げ渡されたドライバーを腰に巻き付けて変身ポーズを取る。しかし、ユイアはすぐに違和感に気づいた。
「メモリカセットがない!!ヒビキー!」
「あ、カセット!分かったって......めっちゃある!どれ渡せばいいの!?」
「もーなんでもいいよ!これでいいや!受け取ってユイア!」
そう言ってアサヒはバッグから手探りでメモリカセットを取り出しユイアに投げ渡した。その間、ユイアは蜘蛛のメモリスの攻撃を避け続け、投げ渡されたメモリカセットをキャッチする。
「ありがとう!よぉーしこれで変身できる!」
ユイアはドライバーにメモリカセットを装填しホイールを3回回した。
3!
2!
1!
「変身!」
ヒーローアップ!!
正義を勝ち取る!アクセル!フルスロットル!レーサー!!You are HERO!!
ユイアの身体に青色のアーマーが装着されていき、ヘルメットの黒いバイザー越しに複眼が発光する。ユーアは足に取り付けられたタイヤを勢いよく回転させて蜘蛛のメモリスに一気に近づいて腹に蹴りを入れた。
ドガッ!!
「グハ!」
蹴りを入れたあと、ユーアと蜘蛛のメモリスの取っ組み合いが始まった。お互いの腕を強く掴み合う。
「何をしに来たの!」
「強くナルためにここに来たダケだ!」
「お詣りに来たの?ここはお寺だよ、神社はあっち!」
ユーアは蜘蛛のメモリスの腕を掴んだ状態で右脚のタイヤを勢いよく回転させた状態で再び蹴りを入れる。蜘蛛のメモリスの腹部とタイヤが擦れ合い、火花が散る。蜘蛛のメモリスはユーアの腕を掴むのをやめ、糸を使って後ろに回避した。蜘蛛のメモリスの腹部はタイヤが通った跡のように抉れていた。蜘蛛のメモリスは腹部を抑えながらユーアとヒビキ達を見つめた。
「そうだな......まだ時期が早カッタみたイだ。」
「そうだよ、初詣はまだ先だよ!よぉーしこれでトドメだ!」
「「いっけーユーア!!!!」」
ユーアは勢いよくドライバーのホイールを3回回転させる。ユーアの両脚が青いオーラを纏っていく。蜘蛛のメモリスは逃げようとするが気付けくと突然現れた積まれたタイヤとタイヤの間に挟まれていた。
「なんだコレハ!?」
「決めるぜ!ハァァァアァァァァァ!!!!」
レーサー!エヴォークスマッシュ!!!
足のタイヤを逆回転させ勢いよく後ろにバックする。距離を取るとタイヤの回転方向を戻して勢いよく蜘蛛のメモリスに向かって走り出した。十分スピードがつくと飛び上がりその勢いのままタイヤに挟まれて身動きが取れない蜘蛛のメモリスに向かって蹴りを放った。
ドガァァァァァァァアアン!!!!
爆発が起こりユーアは地面に着地した。
「「やったー!!!」」
「勝ったー!」
ユーアがヒビキ達の元に帰ろうとすると爆発の中から蜘蛛の糸が飛び出しその中から蜘蛛のメモリスが飛び出した。
「え!?」
「ナカなか楽しかッタぜ!じゃあナ!」
蜘蛛のメモリスは攻撃を食らった部分を抑えながら蜘蛛の糸を伸ばしてその場から立ち去ってしまう。ユーアは追いかけようとするがすぐに見失ってしまい、変身を解除してみんながいる方に走って戻った。
「あのメモリス......もしかして強い?」
「ユイアちゃんすごいね!テレビのヒーローみたい!」
ヒカルがそう言ってユイアに近づいた。ユイアは少し照れながら「えへへ」と笑う。
「よし!じゃあ住職のお兄さんのところに行ってカケルさんの話を聞きにいこう!」
【数分後】
4人は住職がいるだろう寺の近くを探し始めた。すると敷地内の寺の近くに建てられた一軒家を見つけてチャイムを鳴らす。鳴らしてからすぐに先ほどのタツヤがゆっくりと玄関の扉を開けた。
「レーテの隊員さん......もう大丈夫ですか?」
「うん!あ、ゴホン!はい、メモリスはここから立ち去りましたよ。」
ユイアは住職の前でしていたキャラを思い出し声を低くし落ち着いた口調で対応した。メモリスがいなくなったと聞き、住職は少し胸を撫で下ろした。
「よかった。寺が無事で......」
「先ほどの話をしてもよろしいでしょうか?弟さんがどうとか...「
「あぁ、その話ですか。実は弟が1週間ほど前に変な女の子にカセットを押し当てられたそうで......自分から出た化け物に襲われそうになったそうなんですよ。」
「ソフィア......」
「?」
「いえ、なんでも。」
「それでレーテの隊員に助けていただいたそうなんですが.......どうやら隊員さんがそのカセットを回収し忘れたらしく手元にあるカセットをどうすればいいかと相談してきたんです。」
「分かりました。ではメモリカセットはこちらで回収します。その弟さんはどこに?」
「隣町の「消防署」に「消防士」として働いています。5年ほど前に急に「俺、消防士になる」と言って家を飛び出しましてね、全く困った弟です。」
ため息をつきながら住職は弟がいる場所を教えてくれた。ユイアは住職に挨拶をすると近くに隠れていたヒビキ達の元へすぐに駆け寄った。
「みんな聞いた?隣町で消防士だって!」
「消防士......」
「よぉーし!行こう!!!」
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