第22話「限・界・突・破」

如月は右手の指を銃の形にしてゴーストに指を刺す。


「バァン」


「!!」


ダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!!!


波流が用意したダガーナイフが一斉にゴーストに向かって発射されていった。ゴーストはその全て透過によってダメージを防ぐ。


「それで防ぐよな!!」


如月はゴーストに向かって走り出す。その際に発射されたダガーナイフが次々と如月の左脚に纏うように集まっていき高速で左脚を軸に回転を始めた。


「即興ダガードリルキック!!」


左脚に纏ったダガーナイフで作られたドリルによる回し蹴りで攻撃を始める。しかしゴーストは透過で再び全てを無効化する。左脚を地面に下ろすたびにダガードリルで地面が抉れていった。


「テメェが透過ができなくなるまで攻撃を続けてやるぜ!!」


ゴーストが透過を継続できる時間は約1分30秒、その間如月はずっとドリルによる蹴り攻撃、空を飛び回るダガーナイフによる攻撃を繰り返した。


「如月くん!」


「波流!お前は新宿駅の方に行け!矢場がヤバイそうだ!」


「矢場がヤバい?......分かった、行ってくるよ!」


関係ないことを少し考えたあと、すぐに真剣な表情に戻った波流は如月に背を向けて新宿駅の方角に向かって走り出す。その背中を如月は見届けるとゴーストに攻撃を続けた。透過継続時間の1分30秒が経過し如月のダガードリルキックがゴーストの肩の装甲を抉る。


ドガァァァン!!


「グッ!!」


「来た!!」


パチン!


ズバズバズバズバズバ!!!


「グハァァァァ!!!」


如月が指を鳴らすと同時に空に浮かんでいた残りのダガーナイフが一斉にゴーストの身体に突き刺さる。ゴーストは全身を刺された痛みでその場に倒れ蹲った。


「私は攻撃を続けるぞ!」


「ハァ....ハァ....なぜ彼女を行かせたのですか?」


「......お前まだ何か隠してるだろ?私の攻撃を受けてもお前から余裕が感じられた......この状況からでも私に勝つ何かがあっ......」




バン!!




「......は?」


発砲したような音が新宿の街に鳴り響く。ゴーストは銃を隠し持っていたのか?どこか撃たれたのか?如月は自身の異変に気づいた。右腕の感覚がない。


「......」


上半身の右側がくり抜かれたようになくなっていた。少し離れたところに自分の右腕が道路の上に落ちている。血がどんどん溢れ出して如月の足元に血の水溜まりを作っていく。それが分かった途端に心臓の音がドクドクと激しく高鳴っていくのを感じた。心臓が生きるために血液を送り出すが全て身体の外に流れてしまう。




「フフフ.....アハハアッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!」




途端にゴーストが立ち上がり、コメディーショーを観ているかのような大きな声で如月の事を指を差し笑い始めた。


「いいですね!その顔ッ!今の一瞬で何が起こったのか分からないですよねー!だって自分の右上半身なくなってるですものォッ!右腕が落ちてますものォッ!」


「......」


「教えます教えます!はい!私のゴースト!「幽霊」の記憶は言うなれば「死」の記憶!その記憶の力を限界まで集め撃ち放ったエネルギーは触れた生物の細胞の命を奪い、灰にするのです!私は貴方が彼女の方を向いている隙にエネルギーを集め、貴方が話し始めた瞬間に撃ちました!」


「......」


「いやーーかなり短縮して作ったのであまり効果はないと思いましたがまさか右腕がなくなるとは......ふふっ......良かったです。」


「そうか、」


「は?」


ドガァァァン!!!


如月は目の前に立つゴーストの顔面を残った左腕を鉄のように硬化させ、勢いよく殴る。骸骨のような顔にヒビが入り、殴られたゴーストは数メートル先まで吹き飛ばされた。


「グハァぁ!?馬鹿な!!」


「油断してくれてありがとうな、一発殴れてスッキリしたわ。それじゃ二発目、いこうか......」


「なぜだ!?自分の腕がなくなったんだぞ?なぜ冷静でいられるッ!」


「冷静じゃねぇさ。めちゃくちゃ焦ってる......あぁ、これ死ぬなって。」


「だったら.....」


「だからこそテメェをぶん殴って死んでやる。」


「ハァ......ハァ.....」


「さぁ、最期の一発だ!!!」


如月の叫びに共鳴するかのように辺りに散らばっていた鉄の塊が如月の右腕を補うようにくっついていく。数秒後にはダガーナイフや信号機、車などの鉄でできた巨大な右腕が完成した。その大きさは25メートルにも及び、ゴーストはその巨大な右腕の影の中にいた。





「ギガント・アーム.......」 





ガガガ......ギギギ......グググ......ゴゴゴゴゴゴゴゴォォオ!!!


鉄でできた巨大な腕がゆっくりと後ろに下がる。





「レイジオブ......リミットブレイクゥウゥゥウウッ!!!」





如月の掛け声と共に巨大な鉄の拳が勢いよくゴーストに向かって動き始めた。絶対に避けられない巨大な拳、ゴーストには山が動いているように、隕石が自分に向かって落ちているように見えた。先程の技で力を使い果たし、透過はできない事は分かっていた。あの瞬間で勝利を確信していた。それなのにただ死を待つだけの彼女は残りわずかな命を燃やしている。


「ウォォオォォォォォオォォォォォオォォォォォオォ!!!!!!!」


「フフフ......ハハハ......アッハハハハハハハ!!!!」





ドガァァァァァァァァアァァァァァァァァァァァアァァァァァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアァァァアアァァァァアァァァァァァアアアァァァァァァァァアアァァァアアァァァァァァァアアァァァァァァァァアァァァァァァアアアァァァァアアァァアァァァァァァアアン!!!!!





鉄の拳はゴーストの身体を飲み込み、激しい爆風を巻き起こした。道路が崩壊していく。新宿駅に向かっていた波流もその衝撃音に気づき、振り返る。


「如月......くん。」



数分後、煙が消えたあの場所には変身を解除し気を失っているゴーストの姿と身体中から血を流し立ち尽くす如月の姿があった。


「ハァ.......ハァ......おえっ」


ベチョ


口から血の塊が溢れその場に吐き出す。彼女の目は既に焦点があっておらず景色が歪んで見えた。少しずつ暗くなっていく。身体が冷えていくのを感じた。


「無様だね、僧侶ゴースト。」


「誰.....だ。」


聞いたことがない声だ。白い髪の少女がボロボロになったゴーストのそばに近寄った。そのそばで立ち尽くす如月に少女は目をやる。


「君は死ぬことが怖くないのか?」


「怖いさ......まだやりたいことがいっぱいあったさ....グハッ!!ハァ......はぁ......でも死ぬのにビビってたら弟子に格好がつかねぇ。アカネにも.......ユキタカや進助にも......先に待っているアイツらにもあわセる顔がねぇ.......」


「死んだら全部終わりだよ。」


「終わりじゃねぇ......私は「次」に繋いだ......私の意志はアイツが受け継ぐさ......楽しみだぜお前らが倒される瞬間がッ!!」


白い髪の少女は如月に近づき、彼女が腕につけていたオレンジ色のメモリカセットを外す。少女はゴーストのメモリカセットを手に取り、起動させる。黒い穴が出現し人間の姿に戻ったゴーストを穴に突き飛ばした。


「これ貰っていくから、......負けないよデフィニス様は......貴方達なんかに。」


シュン


そう言い残すと少女は黒い穴の中へ消えていってしまった。






「まだやりたいことあったな.......うまいもんもっと食って、たくさん戦って.....」


アカネの顔が浮かび少し微笑む。


「アイツにも......もっと教えたいことがあったのにな.......ハァ...ゲホッ!....誰が世界を救うヒーローになるんだろうな......世界を救う瞬間......私も...見たかった......な。」


バタン!!!


如月は立つ力を失い、背中から倒れてしまう。薄れゆく視界に綺麗な青空が写った気がした。


「あぁ、綺麗だな....」


如月の瞳から涙がこぼれ落ちる。東京の街を厚い灰色の雲が多い始めるなか、彼女は息を引き取った。










【新宿・歌舞伎町付近】


「行クゾ!」


「うん!」


路地裏でユーア達はキラーと交戦していた。ハンターは右腕に取り付けた爪形状の武器で緑色の斬撃を放つがキラーが放つ血飛沫のような斬撃で相殺されてしまう。


「チッ!」


「さぁ私をもっと楽しませて!」


キラーは背中から生えた2本の腕を動かす。少しずつ腕は形状を変え、歪んだチェンソーの形に変化した。


ブゥゥウゥゥゥウン!!!


ギザギザと尖った錆びついた刃が血飛沫を上げながら回転を始める。背中から生えたチェンソーがユーアとハンターを襲う。


「うわ!!危ない!!」


「クッ!オイ、ユーア!メモリカセットヲ貸セ!」


「え!?いいけど.......返してよ?約束!」


「.......あぁ」


ユーアはレーテガンから黄緑色のメモリカセットを取り出し、ハンターに投げ渡した。ハンターは受け取った黄緑色のメモリカセットを右腕に装着した爪形状の武器に元々装填されていたメモリカセットと入れ替える。



ハッキングスタート!



「ハッキング?」



ハッキングコンプリート!



音楽が流れ始め、右腕に装着した爪形状の武器のレバーを引く。引くと同時に爪が引っ込み、再びレバーを押すと引っ込んだ爪が飛び出した。



ハッキングタイム!!Hunter system activation!「シノビ」!!



ハンターの狼のようなアーマーがデータのようになって消え、新しく忍者のような黄緑色のアーマーが装着された。顔も狼から忍者の手裏剣のような複眼に変わっている。


「おぉー!かっこいい!!」


「関心してる場合か!」


「......コレデ2人共、速ク動ケルナ。」


「そうだね!よしや.....後ろ!避けて!!」


ユーアは何かが接近しているのに瞬時に気づきハンターに危機を伝えた。2人で後ろから来る何かを瞬時に避ける。


ガン!!


「何あれ......標識?」


背後から投げ飛ばされたのは標識だった。振り返るとそこには先程の白い髪の少女が立っている。彼女の上で鉄の塊がぷかぷかと浮かんでいた。


「操作が難しいわねこの能力....」


「ソフィア!」


「助けてあげるわ!キラー。」


ソフィアという少女は手を前に突き出し、指をパチンと鳴らす。鳴らすと同時に鉄の塊達が次々とユーア達に投げ飛ばされていった。ユーアはレーサーフォームのタイヤによる高速移動を使いハンターはシノビフォームの忍術で変わり身の術などを使い、全て避ける。


「待って......その能力って、」


「ピンポーン正解だよ。」


ソフィアは怪しく微笑み、オレンジ色のメモリカセットをユーアに見せた。間違えない、あれは如月のメモリカセットだ。


「なんで貴方がそれを持ってるの!!」


「死体を漁るのは趣味じゃないんだけど使えるものは手に入れておかないとね。」


「死体?」


「そうだよ、彼女はもう死んだんだよ。」


「.......」





心臓が締め付けられるような感覚、少女の発言に嘘は感じられなかった。ユーアは拳を強く握りしめる。ユーアは無言で少女に近づいていった。少女はつまらなそうな表情を浮かべると再び指を鳴らし、鉄の塊を投げ飛ばす。


「........」


ユーアは鉄の塊を全て避けず腕を振って弾き飛ばしていく。最後の一発をガッと掴んで投げ捨てた。


「は?」


「おいユイア落ち着け!」


「うん....大丈夫だよ。でも......でも!絶対に許さない!!」






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