第41話「変わらない信念」
「うぁぁあぁぁぁあああ!!!!」
ハンターは狼の遠吠えのように頭を突き上げて叫ぶと右腕に装着したクローを引き摺りながらピラニアの怪人に向かって走り出した。石畳と触れたクローがバチバチと火花を散らし、周囲を照らす。
「くっクるナぁ!もうヤメるからよぉ...頼むヨ!」
ヒナタが変身したハンターの剣幕に怯んだのか、それとも撃たれ続けたせいなのか先ほどとは打って変わって怯えた表情でピラニアの怪人は命乞いをしながらも必死に逃げようとバタバタとしている。
「うるせぇ!!」
ズバァァアァアンン!!!
だが、そんな命乞いもヒナタの耳には一切届かなかった。引き摺ったクローを下から上に向かって放つアッパーのようにピラニアの怪人の身体を深く切り裂く。激しい火花と共に血のような黒い液体が勢いよく噴き出し、その液体が近くでただ見ることしかできなかったユイアの頬にベチョッと付着した。
「......」
「いてェ...イてぇヨぉ!」
ピラニアの怪人は切り裂かれた胸を押さえながらどうにかして立ち上がろうと震えた足を動かしたが次の瞬間、それに気づいたハンターがレーテガンを構えて両足を狙って撃ち始めた。
バァン!!バァン!!バァン!!
「ぐぇエエぇエェ!!!」
「ヒナタ!もうや...」
「なんだ?止める気かユイア。だけどな、お前もやってることは対して変わらないんだぜ。」
ヒナタのその言葉にユイアは続けて言おうとした言葉が止まった。否定することができなかった。
「これで終わらせる!」
そう言って右腕に装着したクローのレバーをハンターは引いた。引くと同時に爪が引っ込み、再びレバーを押すと引っ込んだ爪が緑色のオーラを纏った状態で飛び出した。
ハンティングエッジ!!
空を切り裂いて緑色の3本のマルノコの刃のような形状をした斬撃がピラニアの怪人に向かって放たれた。
「ぐアぁあアあァあ!!!」
ドガアァアアアァアアアァアアアァアアアァアアン!!!!
ピラニアの怪人を倒したと確信したハンターはユイアの方へ向かってゆっくりと歩き出した、その背後で斬撃によってピラニアの怪人の身体は3つに切り裂かれると同時に激しい爆発と共に爆散した。背中に少しの熱を感じながら右腕に装着したクローからメモリカセットを取り出すと全身を覆っていた黒いアーマーがドロドロと液体状に溶けて蒸発するかのように消えてしまった。
「はぁ...はぁ...うっ!」
「ヒナタ!」
ユイアはヒナタの様子がおかしいと思った瞬間にヒナタのそばに駆け寄り、その場で倒れる前に肩を貸した。彼女の顔はここに来た時よりも真っ青になっており額から冷や汗をかいている。
「大丈夫?確か、カバンにお茶が入ってたはず...」
「平気だ...久しぶりに生身で変身したから身体に急な負荷をかけちまっただけだ。ははっ...普段から運動してねぇのがバレバレだよな。」
そう言って笑い話のように言うとヒナタはユイアの手をバッと払い除ける。平気だと言うがユイアにはどうしてもそのようには見えなかった。
「はぁ...はぁ......」
よろめきながらどこかに向かおうとするヒナタは数歩歩いて再びガクッと倒れそうになってしまう。それを先ほどと同じようにユイアが肩を貸した。
「やっぱり大丈夫じゃないじゃん。」
「なんで...」
「相棒がボロボロなのに黙って見てるだけなんてできないもん。」
ユイアはそう言うと少し笑った。その顔を見てヒナタは安心したのか安堵のため息をつく。
「ほんとお節介なやつだな...」
「だって余計なお節介は...」
「ヒーローの本質、だろ?分かったよ...ベンチまで連れてってくれ。」
午後10時47分、そこから30分もしないうちに警察とレーテが大田区日本文化ホールの公園にやってきた。ピラニアの怪人だった男は衣服が焦げ、気絶した状態で発見されたが数週間は警察病院で入院することになるだろう。この事件は役者のストーカーをしていた男がメモリカセットを使用して怪人となって襲いかかっていたところをメモリスの隊員である2人が倒したということになった。そう、あらゆる資料から海賊のメモリス「サーベル」の存在を抹消した状態で。
【レーテ本部・地下 09:17 a.m.】
次の日、ユイアはヒナタの部屋に訪れていた。ヒナタは何事もなかったかのようにゲーミングチェアに座ってパソコンを使って作業を行なっている。
「ねぇ、ヒナタ。」
「なんだ?外にはいかねぇぞ、筋肉痛で生まれたての子鹿ちゃんになってるからな。」
そう言ってゲーミングチェアを回転させて向きを変えたヒナタの足や腕には数枚の湿布が貼られていた。デスクに置いたエナジードリンクの缶にストローを刺してゆっくりと吸い上げる。
「私、言わなきゃいけないことがあるの。」
ユイアはこの数日間の出来事を全てヒナタに話した。サーベルという宿主と同じ夢を目指した海賊のメモリスのことを自分が知っている限り全て。その間、ヒナタは黙ってそれを聞くだけだった。
ヒーローの定義〜女子高生が最高のヒーローになる物語〜 風鈴リョウカ @Natudayo831
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