第40話「月が綺麗な夜でした」

「待てー!」


何も光のない深海のような地面の中に潜ったユーアはシャークフォームの能力を使用してピラニアの怪人の後を追っていた。


「チッ!ここマで追ってきヤがるノか!だっタらこうダ!」


追いかけられていたピラニアの怪人は泳ぐのをやめると後ろに振り返った瞬間に人型の形をしていた身体が徐々にバラバラになっていき数十匹の魚の姿となった。


「ピラニアの群れになった!?」


「「「ゼンたーい...突撃!!」」」


数十匹のピラニアの群れはギザギザとトラバサミのような歯をカチカチと言わせながら次々と突撃していく。ユーアは両腕に装着したヒレ形状の武器を振り回して水の斬撃を飛ばしていくが、小さすぎて数匹しか倒せない。倒せなかったピラニアはユーアのアーマを次々と噛みちぎっていく。


「そんな...ユーアのアーマーが!痛っ!」


突然、右腕に激しい痛くが走った。右腕を見ると数匹のピラニアがアーマーの下にあるスーツに噛みついていた。噛みついた場所から赤い血が水面に向かって漂っていく。


(まずい、ここから早く逃げなきゃ!)


ユーアはすぐに右腕に噛みついて離さないピラニア達を無理やり引き離そうとした。しかし、引き離そうとすることに気がついたピラニア達はさらに強い力で鋭い歯を皮膚の中へと食い込ませていく。


「ぐっ!うぁああぁぁあぁア!!」


このままではさらにピラニア達が攻撃をしてくると思ったユーアは痛みに構わずピラニア達を引き離すことに成功した。10箇所ほどあるスーツを突き破ってできた歯形から先ほど以上の赤い血が溢れだす。かなりの量だ。震える右手を動かしてドライバーのホイールを3回回転させる。



シャーク!エヴォークスマッシュ!!



両腕のヒレにエネルギーを集中させて水面に向かって勢いよく上昇していく。ピラニア達も必死に追いかけようとしたが、その小さい身体では上昇する際に発生した衝撃で吹き飛ばされてしまった。


「ぷはー!はぁ...はぁ...まさかエヴォークスマッシュを逃げる時に使うことになるなんて...」


なんとか地上へと戻ってきたユーアは息を整えてゆっくりと立ち上がった。周りを見渡して少し離れた噴水のそばでサーベルとコイジの姿を見つけた。


「2人とも!」


「逃がスかヨ!」


ユーアが2人のもとへと駆け寄ろうとした瞬間に同じようにピラニアの怪人が歯をカチカチと鳴らしながら地面の中から浮かび上がってきた。


「だったらこれだ!」


ユーアはドライバーに装填したメモリカセットを入れ替えると勢いよくホイールを3回回転させる。シャークフォームのアーマーが外れ、真っ赤な消防車のアーマーが装着されていった。



3!2!1!


ヒーローアップ!


燃やせ魂!響けサイレン!ファイアエンジン!!You are HERO!!


カンカン!とサイレンの音が夜の公園の中で鳴り響く。ピラニアの怪人は耳を塞ぎながらユーアに向かって突進し始めた。


「くソ!耳がキンキンしヤがるぜ!」


「なんでコイジをそこまで狙うの!」


ユーアは突進してくるピラニアの怪人に向かってそう言い放った。腕に装着されたハシゴ形状の長い武器を使用してピラニアの怪人を振り払う。


「昔は舞台ヲ中心に活躍してタカら応援しテたのにヨ!最近はドラまやバラえティーばっか!やっと舞台に戻っテきたかト思えば子供向ケじゃネェか!そんなノ求めてねぇヨ!」


「ファンだったらちゃんと応援してあげなよ!」


「あークソクソ!こンナはずじゃなかったノにヨ!イッソのこと、あイツも殺して俺モ死んデやる!」


ピラニアの怪人はどこからか黒く重いものを取り出した。暗くてよく見えないが、あれは間違いなく拳銃だ。銃口をゆっくりとコイジに向ける。


「なんで銃なんか持ってるの!!」


「ひっ...」


「シねぇエェえ!!」



バン!!



重い発砲音が夜の街に響きわたる。放たれた弾丸はどうなったのか。コイジに当たってしまったのか。それとも外れて暗闇の中へと吸い込まれるように消えたのか、ユーアには分からなかった。


「コイジ!!」


すぐにコイジの方へと走り出した。そこでユーアが見たものはコイジの前で冷たい石畳に上でうつ伏せの状態で倒れたサーベルの姿があった。


「サー...ベル?サーベル!!」


遅れて現状を理解したコイジが倒れたサーベルのそばによって抱き抱えた。サーベルの胸元には小さな穴が1箇所空いている。


「コイジ...無事?ヨかっタ、コイジ怪我ナくて」


目をゆっくりと開けたサーベルはコイジが無事なことを確認すると優しく微笑んだ。安堵のため息とともに足元から徐々にサーベルの身体は白い灰となって崩れていく。


「嫌...嫌!!約束したじゃん一緒に夢を叶えようって!」


「ゴめん...約束守レなくて、でもコイジとサーベルはずっと一緒...ずっと応援してるカラ。」


「待ってサーベル!お願い...まだ離れたくないよ...」


サーベルはコイジの頬をゆっくりと撫でた。「泣かナイで」そう言い残してサーベルの目から光がなくなってしまった。それを合図に一瞬でサーベルの身体は完全に灰となりサラサラとコイジの手をすり抜けて石畳へと落ちていった。コイジはその灰を少しでも集めようとするが冷たい夜風に流されていく。コイジは溢れ出た涙を抑えきれず、その場でうずくまる形で泣き崩れた。


「うっうぅ...うわぁあぁあああああ!!」


「そんな...」


「ケッ!ようやク邪魔なメモリスがいなくナったゼ!」


ピラニアのメモリスは唾を吐き捨て、再びコイジに銃口を向ける。


「やめろぉぉお!!」


もうすでにユーアはピラニアの怪人目がけて走り出していた。脇目も振らずにドライバーのホイールを回転させながら腕に装着された白いホースからコンクリートを貫通してしまうような勢いの水をピラニアの怪人に向けて放水する。


ファイアエンジン!エヴォークスマッシュ!!


「うおぉぉぉぉおぉお!!!!」


「はハ!それを待っテたぜ!!」


ピラニアの怪人は馬鹿にするようにせせら笑いをすると自身の身体を再び数十匹のピラニアの群れへと分裂した。ユーアは困惑しながらも放水を続ける。


「「「水中でしか分裂デきないトでも思ったカ!あっハはははハハは!!!」」」


ピラニア達は声を重ねてユーアを大きな声で嘲笑うとホースから出てくる水をまるで鯉が滝登りをするように流れに逆らって泳いでいく。途中で数匹が流れに耐えられず倒されていくがホースの根本まで到着した1匹がホースの先を鋭い歯を使って噛みちぎった。


「そんな!!」


ホースの先を噛みちぎられたことで水の勢いが弱くなってしまい次々とピラニアがユーアのアーマーを噛みちぎって破壊していく。


「ぐはぁぁああ!!!」


ピラニア達によって50箇所以上のアーマーを噛みちぎられてしまったため、強制的に変身を解除させられてしまったユイアはその場でバタンと倒れてしまう。冷たい石畳の上に右腕から溢れた血が水たまりを作っていく。


「うっうぅ......」


「てめェはソこで見てオクんダな!」


再び人型に集まったピラニアの怪人は分裂した際に落とした拳銃を拾い上げると銃口をコイジに向けた。ゆっくりとていねいに彼女の頭を狙いを定める。


「やっやめろ......コイジ...逃げて!!」


「うっうぅ...サーベル......どうして?」


「コイジ!!」


どんなに声をあげても今のコイジには声が届かない。匍匐前進のように動こうとするが右腕がもう動かない。ユイアの心臓がどんどん早く脈打っていく。


(また見殺しに...なっちゃう...お父さんとお母さんと同じように...また目の前で失っちゃう!嫌だ...嫌だ嫌だ嫌だ!!動け、動けッ!!!)


「じゃアな、」


「やめろぉぉぉおォぉぉオおォお!!!!!」





バン!!!






再び銃声が響き渡る。世界の時間が止まったような感覚、その光景にユイアは唖然とした。ピラニアの怪人が握っていたはずの拳銃が音を立てて石畳の上へ落下していく。


「イっテえぇ...」


ピラニアの怪人は必死に自分の手を押さえつける。何が起こったのかユイアはすぐには理解できなかったがコイジが無事なことを確認すると少し安堵した。


「どうだ、新型のレーテガンの威力は?」


一斉に声がする方へと振り返るとそこには銃を構え、もう片方の手にはアタッシュケースを持った黒いスーツの女性がこちらに向かってコツコツと靴音を立ててやってきた。聞いたことがある声、街頭に照らされて長い緑色の髪が夜風にたなびく。


「ヒナ...タ?」


「相棒様のご登場だ、ヒーローってのは遅れてくるもんだろ?」


「ヒナタ!!」


ユイアの瞳からゆっくりと頬を伝って涙がこぼれ落ちていく。ヒナタはニヤッと笑うと再び銃を構えてピラニアの怪人に向かって弾丸を撃ちだした。



バァン!!



「ぐはっ!!」


「試験段階とはいえ、なかなかの威力だろ?」



バァン!!バァン!!バァン!!



「......ヒナタ?」


「その感じ...ただメモリスじゃねぇな、メモリストか?化け物なんかに成り下がりやがって...」


バァン!!バァン!!バァン!!


何かがおかしい。何も躊躇なく次々と弾丸を撃っていく。倒れたピラニアの怪人が起き上がろうとした瞬間に脚を狙って弾丸を撃つ。嫌悪や憎悪に近い表情で薄汚いウジ虫を靴の底で何度も何度も踏み潰しているようだ。


「ユイア...私はもう覚悟を決めたんだ。」


バァン!!バァン!!


「え、」


「お前のおかげで自分がどうすればいいのか、ようやく決心がついたぜ。私は...メモリスを絶対に許さない...この手で全員ぶっ潰してやる!!」


怒りに満ち溢れた表情でヒナタはアタッシュケースは黒いガジェットを右腕へと装着した。



ハンティングクローズ!!



スーツの胸ポケットから緑色のメモリカセットを取り出して右腕に装着したガジェットに装填する。ビリビリと緑色の電流がヒナタの全身に激しく走っていく。


セット


「ぐっ!!ぐぅぅうぅうぅううう!!!」


唸る声をあげながらヒナタは頭から倒れそうになるが脚を使ってなんとか持ち堪える。ガジェットのレバーを押し込むと同時に3本の長い爪が展開した。


「変身ッ!!」


ズバァァアァ!!!


「うぅ...ぐぁぁぁぁあぁぁあぁああああ!!!!」


震える左手でガジェットの黒いボタンを強く押す。右腕の3本の爪を使って自身の身体を勢いよく引っ掻いた。引っ掻いた3本の線状の跡から黒い液体が溢れ出しヒナタの全身を覆っていく。



ハンティングタイム!!


Mission in Lone Wolf!

Hunting Night!HUNTER!!



全身を覆った黒い液体は狼の姿をしたアーマーの形を形成していき、緑色の複眼がピラニアの怪人を睨みつけた。


「ヒぃ...!ナッなんナンだよ!オ前......」


「嘘...ヒナタが......ハンター?」


「はぁ...はぁ...さぁ、覚悟はいいか?」


ヒナタが変身したハンターは右腕の爪をピラニアの怪人に向けた。



「ハ?」



「...狩りの時間だ。」



月の光がハンターを照らす。






























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