第30話 人斬り侍を倒す方法
「それでは、マーダス・ボルケルノをボコボコにしよう大作戦の作戦会議を始めたいと思います」
「物騒な会議名だね。まぁ、僕もそんな気持ちではあるけど」
「がんばろー!」
「ディセもお役に立てるよう頑張ります!」
僕たちは、いつものように自宅のリビングにて作戦会議をはじめていた。今回の議題はなかなか難易度が高そうだが、みんなで知恵を出し合って乗り越えたいと思う。
「まず、次回のギフト授与式で、シューネ様は授与対象となれるのでしょうか?」
と、さっそく状況整理をはじめてくれるカリン。
「それは今、ピャーねぇが議会に申請書を出したところ。結果待ちだね」
「承知しました」
「じゃあ、ジュナ様とシューネちゃんとイジメた悪いやつの話だね!」
「うん、マーダスのやつがギフト授与式に出席することは確定したみたいだし、あいつが高ランクのスキルを授かるのは阻止したいところだね」
「となると、マーダスがギフト授与式に出れないようにするか。もしくは、ギフト授与式で低ランクのスキルを授与させる。という工作が必要ですね」
「うん、どっちも難しそうだけどね……」
「……私が暗殺を」
「それは許可しない」
カリンが暗い顔をして不穏なワードを口にしたので、僕はすかさずその提案を却下した。
「……」
「カリンには、もう人を殺して欲しくない。それに、あいつを暗殺するにはリスクが高すぎる」
「……ありがとうございます。カリンは幸せです。しかし、その、リスクが高いというのはどういったお考えなのでしょう?」
「たぶんだけど、あいつは結構な手練れだ。この前、相対したとき、冷や汗が止まらなかった。かなり強いと思う」
僕自身は対した戦闘力はないが、小さいころから剣の訓練はしてきたつもりだ。だから、マーダスのやつがものすごく強そうだということくらいはわかる。
「なるほど、とすると、私では返り討ちに合うかもしれませんね」
「うん、だから、それも含めて暗殺は無しということで。カリンの安全優先でね」
「かしこまりました。いつも大切に思っていただき、ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそだよ。で、じゃあマーダスのやつをどうするかだけど、ギフト授与式に出られないような状態にするっていうアイデア、例えば、大怪我させるとか、僻地に飛ばす、だとかってのは難しいと思う。僕たちには、それだけの武力も権力もない」
「てことはぁー?」
「ギフト授与式で失敗させる、ですね。第四王子のときと同じように」
「だね、取れる手段としては、それしかないと思う。だから、第六王子ヘキサシスのギフトキーを奪う方法を考えていこう」
「わかりました」
「はーい!」
「その方針でいきましょう」
ということで、翌日から僕らは第六王子のことを調査することにした。
♢♦♢
-2日後-
王城の敷地内、第六王子ヘキサシスの屋敷の庭を僕とカリンは遠目に眺めていた。
「ご主人様、あちらに」
「うん、全員いるみたいだね」
僕たちは、ヘキサシスの屋敷から少し離れた建物の屋根の上から、望遠鏡を使ってあいつらのことを観察する。今日もあいつは、護衛たちを連れてぞろぞろと歩いていた。
それからヘキサシスは、庭の一角にある屋根付きのベンチに座り、護衛に用意させたお茶を楽しみ出す。ヘキサシスの周りには、5人の護衛がピッタリとはりつき、離れる素振りを見せない。
「あの5人って、四六時中ああなの?」
「はい。ヘキサシスの護衛5人衆はいつもそばにいることで有名らしく、昨日も1日中離れることはありませんでした」
「……うーん、さすがに寝室には入らないよね?」
僕は、ヘキサシスが寝ている間にギフトキーを奪うことを想定して、カリンに確認する。
「いえ、護衛のうち2人が同じ寝室で寝泊まりして、残りの2人は部屋の前、最後の1人だけ交代で別室で寝ているようです」
「どんだけ用心深いんだ……」
だが、その用心深さのせいで僕はギフトキー奪取の計画を立てかねていた。
「うーん……またスリープを奪ってきて、眠らせてからギフトキーを奪うか」
「いえ、あの護衛5人は全員が高名な貴族のスキル持ちです。あの中にはブカイ侯爵家の次男もいます。危機感知スキルで見つかる可能性が高いかと」
「なるほど……じゃあ、その危機探知の人が交代で寝てるときに忍び込めばいいんじゃない?」
「誰がいつ休憩するのか、それがわかりません」
「ぐぬぬ……で、その休憩のスケジュールを調査するために屋敷に忍び込めば」
「危機感知スキルで見つかる可能性があります」
「なるほど……八方塞がりか……」
「はい。大したやつじゃなさそうなわりに、護衛の質は高いようですね」
「それはそうなんだけど、お口が悪いよ。カリンさん」
「失礼しました」
「いえいえ。んー……とりあえず帰ろうか」
僕たちは屋根から降りて、一旦自宅に戻ることにした。
♢
僕は、カリンと離れて、自宅への帰路についていた。この辺りは、王子、王女たちの居住地だ。悪目立ちしないようにさっさと帰ろうと思う。
しかし、そう思っていたら、この前見た王女と出くわしてしまう。従者が2人、車いすをおされて、金髪赤目のロングヘアーの女性が前からやってきた。第七王女ナナリア・キーブレスだ。
「……」
僕は、あまりジロジロ見ないように意識して、すれ違うときに会釈だけしようと決めて、そのまま歩き続けた。速度は変えない、さっと通り過ぎよう。
しかし、距離が近づいてくると、ナナリア第七王女の方が片手を上げて車椅子を停車させた。なんだ?
「ご機嫌よう、ジュナリュシア王子」
「……ご機嫌よう」
相手が止まったのだ。さすがに素通りするのは失礼だと思い、僕も脚を止める。まさか話しかけてくるなんて思わなくて、警戒心を強く持った。
「お散歩ですか?」
「え?あー、はい、そうですね」
なにを聞いてくるのかと身構えていたが、世間話のようで気が抜ける。この前見たときは、あの赤い目になにか不気味なものを感じたが、物腰柔らかくて、穏やかそうな少女に見えた。
「うふふ、わたくしも従者の2人とお散歩でしたのよ。こちらがクオーレ、こちらがゼーレです。お見知りおきを」
コク。
コクリ。
紹介された2人が会釈をする。
「あ、これはどうもご丁寧に、ジュナリュシア・キーブレスです。一応、第十七王子ということになっています」
「うふふ、やはりジュナリュシア王子は他の王子とは違いますね」
「そうでしょうか?」
「はい。従者に頭を下げる方なんて、見たことがありません」
「あー、それは僕がスキル無しだからですかね。権力とか持ってないので」
「うふふ、面白いお方……もしよろしければ、今度お茶などいかがでしょう?」
なにが面白かったのかは不明だが、気に入られてしまった。なんだか怖い。ナナリア王女は笑っているのに、どこか底が知れないものを感じた。
「あー……えっと、また機会があれば……」
僕はなんと答えたものかと悩みながら、適当な返事をしてしまう。
「そうですか。では、また改めてお誘いいたします」
あ、了承したと取られてしまったようだ。うーん……まぁ、害はなさそうだしいいか。
ナナリア王女も他の王子たちとは違って偉そうにはしていないし、今のところ好印象だ。もしかしたら、僕たちの仲間になってくれるかも。そう、楽観的に考えて、会釈をしてから彼女と別れることにした。
振り返るのもおかしいので、まっすぐ自宅に向けて歩いていく。そんな僕の後姿を見て、
「……うふふ、本当に面白い」
クスリと笑う彼女の表情を、僕が気づくことなんてできるわけがなかった。
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