2章 呪われた炎

第17話 双子メイドにギフトキーを

「それでは、キーブレス王国簒奪大作戦の話し合いを始めたいと思います」


「そうやって聞くと物騒だね」


 僕は、自宅のリビングにて、カリン、ディセ、セッテと紅茶を飲みながら、これからの計画について話し合おうとしていた。


「まず、ピアーチェス様のギフト授与式のご成功、おめでとうございます」


「ありがとう。これも、カリンが潜入を手伝ってくれたおかげだね。もちろん、ディセとセッテの事前準備もすごく助かった」


「いえ、家臣として当然の務めをしたまでです」

「ディセもです!」

「セッテ頑張ったよ!」


「うん、みんな、改めてありがとう。それで、現状を整理すると、ピャーねぇには、今もAランクのギフトキーが入ってる。だから、またギフト授与式にかりだされても、たぶん大丈夫だと思う」


「ですね、授与相手がよっぽどポンコツでない限りは大丈夫でしょう。ただ、それよりも手っ取り早い話、もう一度スキルランクの判定をしてもらい、Aランクだと知らしめるのが早いのではないでしょうか?」


「うーん、それなんだけど、キーブレス王国ではスキル鑑定は一人一回が基本みたいなんだよね。再鑑定をすることは基本的にはないらしい」


「でも……それだと、ピアーチェス様はこれからもEランクとバカにされるのではないでしょうか?」

 とディセが心配してくれた。


「それは大丈夫。EランクがSランクのスキルを授与できるわけがない、スキル鑑定が間違ってたのでは?って、みんな言ってるから、たぶん、近いうちに異例ではあるけれど、再鑑定の儀式の場が設けられると思う。ただ、正式な場でしかスキル鑑定はやらないって決まりがあるらしくて、すぐにってわけにはいかないけど」


「よかったぁ、これでピャー様は安全だね」

 セッテの言葉で、ディセも笑顔になり、2人して笑い合っていた。


「うん、そうだね。で、問題は僕の方だ」


「ご主人様は、依然としてスキル無しと思われてますよね」


「そう、僕の力のことは明かせないから、スキル無しでも有用だと認識させる必要がある。もしくは、立場が危うくなる前にこの国を盗るか」


 力のことを明かせない。それは、僕の能力があまりにも不吉で望まれないものだからだ。スキルを与える王族にスキルを奪う王子が生まれた。そんなことが判明したら、国民に知られる前に暗殺される未来しか見えない。だから、僕は依然としてスキル無しとして生きていくしかない。


「国盗りについては、まだ準備が必要かと」


「だね、僕も同じ意見。さすがに4人だけじゃ戦力が足らない。だから、当面の目標は2つ、1つは、僕が安全に生きていけるだけの地位を手に入れること、もう1つは、組織をもっと大きくすること、この2つだ」


「なるほどです。それで、ディセたちはなにをすればいいでしょう?」


「うーん、そうだなぁ、今すぐに何かってのは……あっ……」


「なになに?」


「いや……」


 僕は、前から計画してたことを考えていた。カリン、ディセ、セッテへのスキルの授与についてだ。

 ピャーねぇがAランクのギフトキーを手に入れたことだし、みんなのスキルを発現させたら、僕たちの戦力はかなり増強されるだろう。


「ディセたちにジュナ様の考えを教えてほしいです」


「えっと……ピャーねぇからみんなにスキルを授与してもらえないかなって。それができたら、僕たちの戦力は一気に増すよね?」


「たしかにその通りです。しかし、ご主人様。ピアーチェス様に私たちの組織のことは話してないんですよね?」


「うん……」


「ピアーチェス様に話さないんですか?」


「悩んでる……」


「ピャー様だけ仲間はずれなのは……セッテ悲しい……」


「うーん……」


 僕としては、僕の大事な人たちが安全に暮らせるならそれでいい。その過程で国を盗ることになっても。でも、ピャーねぇにキーブレス王国を盗る、なんて計画を話したら、反対されるような気がしていた。

 それに、なるべく彼女には危険な目にあってほしくないという思いもある。だから、なかなか話す決心がつかずにいたのだ。


「では、黙ったまま、私たちにギフトキーを使ってもらうのはかなり難しいのではないでしょうか?」


「ピャー様、真面目だから、スキルちょうだいって言っても、だめですわって言うと思う」


「だよねぇ……僕もそう思う」


「では、ご主人様が催眠スキルを誰かから奪って、」


「……カリン?何を言っている?」


 僕は暗い顔でカリンのことを見る。


「申し訳ありません……ひとつの手段として提案したのですが、ご主人様のお気持ちを考えておりませんでした」


「うん、わかってくれたならいいよ。ピャーねぇの意志を曲げることは……なるべくしたくないんだ」


 ピャーねぇのギフトキーをすり替えた僕が何を言っている。その矛盾に気づいたが、最後まで言い切ってしまう。


「ごめん、カリン、怒ったりして」


「いえ、大丈夫です。ご主人様に睨まれるのもゾクゾクしますので。わからせがいがあります」


 ……ん?なんかこの従者、今おかしなことを言わなかったか?


「えーっと……で、みんなにピャーねぇからギフトキーを使ってもらう方法だけど、やっぱ、あれかな」


 僕は、ニンマリした目をしているカリンから目をそらして、前から考えていた作戦をみんなに伝えることにした。


 それを聞いて「うん!セッテ頑張って作るね!」とお菓子作りが得意なセッテが協力を申し出てくれた。これが上手くいけば、みんなにスキルが発現するだろう。



「ごきげんようですわー!」


 お昼を過ぎたころ、ピャーねぇが上機嫌でうちを訪ねてきた。飛んで火に入るなんとやらだ。


「いらっしゃい、ピャーねぇ」


「いらっしゃいませ、ピアーチェス様」


「ごきげんよう、ジュナ、ディセ!あら?セッテはどこかしら?」


「セッテは姉さんのためにお菓子を作ってくれてるよ」


「そうなんですの!楽しみですわー!」


「できあがるまで、紅茶などいかがでしょう?」


「お願いしますわ!」


 ポフッ。僕が座っているソファに勢いよく腰掛けてくるピャーねぇ。僕に寄り添うようにくっつくので、ぴったりと肩が当たっていた。


「ディセとセッテはホントにいい子ですわ!どこにこんないいメイドが埋もれていたのでしょう。わたくしが先に見つけていれば、うちで雇っていましたのに!」


「はは、それは困るな。2人は僕の大切なメイドだから」


「とったりしませんわよ!あ、紅茶ありがとうですわ」


「いえいえ」


 コポコポと音を鳴らしながら、ディセがピャーねぇのカップに紅茶を入れてくれる。


「でも、ディセがわたくしのところに来たいって言ったら大歓迎ですわよ!」


「ふふ、嬉しいお言葉ですが、ディセはジュナ様のものですので」


「忠誠心もあって素晴らしいですわ!」


「ピャ!ピャー様!お菓子が!でで!出来上がりました!」


 僕たちを談笑を続けていると、セッテが目をぐるぐるさせながらお菓子を運んでくる。しかし、明らかにいつもと様子が違う。これは……こんな調子だと、さすがのピャーねぇにも警戒されるんじゃ?


「チョコですのね!美味しそうですわー!」


 ……大丈夫のようだ。


 セッテがあわあわと持ってきた銀のお盆の上には、一口サイズの可愛らしいチョコが並んでおり、それぞれ飾り付けが違っていた。どこぞの高級チョコレートのようだ。

 それを見たピャーねぇは、目を輝かせながら手を合わせて、早く食べたそうにウズウズしている。


「どれがオススメかしら?」


「えっと!えっと!」


「セッテが選んでくれたのを食べますわ!食べさせてくださいまし!」


「わわ!わかりました!」


「あーん、ですわー」


「あーん」


 セッテがチョコを一つずつ手に取って、ピャーねぇの口に運ぶ。


「もぐもぐ……とっても甘くて!とっても美味しいですわー!」


 ピャーねぇは、ほっぺに片手を当ててご機嫌だ。


「ディセの紅茶にもよくあいますわー!」


 こうして、ピャーねぇは、セッテのチョコを食べ続け……


「ひっく!あら?どうしたのかひら?ひゃっ!くりが……」


 チョコを5つほど食べたあたりから、ピャーねぇの様子がおかしくなる。


「あら?ありゃ?じゅながたくさんいましゅわー?ぴゃらだいす、でしゅわね?」


 呂律も、言ってることも、よくわからなくなってきた。よし、セッテ特製のリキュール入りチョコレートが効いてきたようだ。ピャーねぇが酔っているうちに目的のことを済ませてしまおう。


「ピャーねぇ、ピャーねぇ」


「なんでしゅのー?」


「チョコおいしかった?」


「あい、おいしかったぁーですのー」


「紅茶も美味しかったよね?」


「あうー、しょーですわねー」


「じゃあさ、ディセとセッテにご褒美をくれないかな?」


「ごほーびー?もちろんいいでしゅわー」


「じゃあ、ディセから」


「ぴ、ピアーチェス様、ディセにピアーチェス様のギフトキーの力を、スキルをお授けください!」


「んにゃ?それはー??だ、だめですわー……ギフト授与式じゃないにょに……」


 む、まだ理性があるようだ、もう一押し。


「ピャーねぇピャーねぇ、ピャーねぇはディセとセッテが大好きだよね?」


「もちろんですわー」


「ディセが泣いちゃうよ?」


「え、えーん、えーん?」


 めちゃくちゃ下手な泣きまねをするディセ。


「……それは!だめですわー、ひっく!」


「じゃあ、練習のつもりで、ちょいちょいとギフトキーを、ね?これはあれだよ、おままごとだよ。だから、大丈夫、大丈夫」


「そうですのー?ならー、うぃっ!ディセ、あなたにスキルを授けます……わー……」


 よしっ!僕は密かにガッツポーズをとる。

 ピャーねぇは眠たそうな目をしながら、身体を左右に揺らして詠唱を行い、ディセに対してギフトキーを使ってくれる。


 ディセの前にキラキラと光が集まって、銀色の鍵が現れた。それをカチリとディセの胸に差し込んでくれる。よし、この調子だ。


「ほら、次はセッテだよ」


「ピャー様、お願いします」


「おまかせになってー、ふふ……セッテのお菓子は最高ですわー」


「あう……」


 あきらかに申し訳なさそうにするセッテ。自分のお菓子を食べて酔っぱらっているピャーねぇを見て、罪悪感を覚えているようだ。


 なんかごめん……僕の提案のせいで……と思う。セッテには、あとで謝っておこう。

 ただ、このリキュールチョコ作戦のおかげで、ディセとセッテ、2人にスキルを授けてもらうことができた。

 セッテにも銀の鍵が顕現したので、2人はBランク相当のスキルを手に入れたことになる。


「くぅ〜、すやすや……」


 ギフトキーを使い終えたピャーねぇは眠ってしまっていた。

 それを僕たち3人はなんとも言えない顔で見つめ、影からあらわれたカリンは冷ややかな目で見つめていた。


「ご主人様」


「なに……かな?」


「ご主人様は、私に、催眠スキルを奪ってきては?と提案されて怒りましたよね?」


「……はい」


「泥酔させて、騙すようにギフトキーを使わせるのと何が違うのでしょうか?」


「うぐっ!?」


 ガクッ。僕は膝から崩れ落ちる。罪悪感に押し潰されたのだ。


「ジュナ様!?」

「ジュナ様!?」


 ディセとセッテが僕の肩を両側から支えてくれる。


「カリン、催眠とは少し違うよ……姉さんの意志をむりやり変えてるわけじゃないし……違う……違うと、思いたい」


「そうですか?ふむ、そう言われてみればそうかもしれませんね?それにしても、ご主人様をわからせるのは本当に最高ですね。ゾクゾクします」


 カリンが自分の身体を抱いて、僕のことをニンマリと見ていた。

 なんて従者なんだ……


 でも、たしかにカリンの言う通り、詐欺まがいの方法でピャーねぇにギフトキーを使わせるのは罪悪感がすごい。この方法は最終手段ということにして、これからは別の方法を考えなくてはな、と思う僕であった。

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