第16話 それぞれが信じる道へ

 自室に戻ってきて、石の鍵をポケットから取り出す。さっき第四王子から取り返したピャーねぇのギフトキーが入っている鍵だ。


 これをピャーねぇに返すこともできる。でも、そんなことをしたら、またピャーねぇはひどい差別を受けるだろう。Eランクと罵られ、次のギフト授与式で失敗なんてしたら、奴隷に落とされるかもしれない。


 そんなの、絶対ダメだ。苦しい思いをするのは、もう僕だけでいい。そう考えて、僕は石の鍵に細いチェーンを通した。それを首からかけて服の中に仕舞う。ピャーねぇを苦しめてきたEランクのギフトキー。でも、ピャーねぇ本人は、その境遇を全然恨もうとせず、必死に自分のできることを考えてきた。だから、このギフトキーはピャーねぇの誇りで、宝物だ。


「僕がこの国を手に入れるまで、少しの間だけ、預かります……」


 服の上から鍵を握りしめ、ぽそりと呟いてから、僕はベッドに向かうことにした。



-キーブレス王国 王城 第二王子 居室-


「デュオ様」


「なんだ?」


「第四王子クワトゥル様の処分、どうされますか?」


「そのまま投獄しておけ。あとのことは、父上にお任せする」


「かしこまりました。……少し、よろしいでしょうか?」


「なんだ」


「本日のギフト授与式でのブラウ・ヴァンドゥーオの振る舞い、いささか不自然ではなかったでしょうか?」


「なにがだ」


「ブラウ・ヴァンドゥーオも、デュオ様には守護結界スキル持ちの私がついていることは知っていたはず。あのような場所で、正面からデュオ様を狙うでしょうか?」


「では、なんだと言うのだ」


「それは……確かなことは言えませんが、例えば……」


「確信がないことならば、口を開くな」


「はっ、申し訳ありませんでした」


 スッと、従者は姿を消す。

 自分の執務机に退屈そうに座った第二王子は、眠たそうな目をゆらゆらと揺れるランタンの火に向けて、「めんどうなことになりそうだ……」とだけ呟いた。



「セーレンさん、本当に王城には勤めませんの?」


「はい、大変光栄なことでしたが、私は領民のためにここに来ましたので、みんなのところへ帰ろうと思います」


「そうですか!それはとても立派なことですわ!わたくし!あなたのこと応援しますの!」


「僕もセーレンさんの選択は素晴らしいと思います」


「お二人にそう言っていただけると、私も誇らしく思います」


 僕たちは、城下町の馬車乗り場で話しているところだった。

 ギフト授与式から数日後、セーレンさんが自分の一族が治めるクリオ南部に戻ると聞いたので、見送りにきたのだ。


「無事に公爵位は授かれたんですか?」


「はい、おかげさまでこの通りです」


「セーレンさんは公爵の身分を証明する勲章を見せてくれた」


「それは良かったですわ。でも、王城に残らないこと、なにか言われませんでしたか?」


「何度も引き止められましたが、そんな意見も跳ね除けれるのが公爵という位ですし、ここぞとばかりに利用させてもらいました」


「そうですか……」


「あ、しかし!この位を盾にして高慢にならないよう努めて参りますので!」


 僕が下を向いて笑ったのを、不快なものだと受け取ったのか、言い訳をしてくるセーレンさん。


「え?ああ、それはもちろん。セーレンさんなら大丈夫だと思ってますが、単純に、嫌な国だな、と思ってしまって」


「それは一体?」


「公爵も平民もなにが違うんですかね。公爵だからってなんでも許されるのは、違う気がして」


「ジュナリュシア様……やはり、あなたは素晴らしいお方だ」


 僕の前にバッと膝をつくセーレン。


「およ?」


「このセーレン・ブーケ!ジュナリュシア様のご命令でしたら!すぐにでも馳せ参じます!いつでもご用命ください!」


「いいんですか?」


「もちろんでございます!」


「いや、でも、姉さんに感謝するならまだしも……」


「ピアーチェス様のご命令も!もちろん遵守致します!いつでもお呼びください!」


「あらあら、とても嬉しいですわ。ジュナ、ここはお言葉に応えるのも王族の役目ですわよ」


「そうですか、なるほど。じゃあ、セーレン・ブーケ殿、貴殿の申し出感謝します。そのときは力を貸してください」


「はっ!心得ました!」


 こうして、別れ際に、僕とピャーねぇに忠誠を誓ってくれたセーレンさんは、馬車に乗って帰って行った。


「立派な方ですわ」


「ですね」


 2人で馬車を見送りながら会話する。


「ピャーねぇ」


「なんですの?」


「あれから、ピャーねぇの待遇って変わった?」


「いえ?特に変化はありませんわ」


「そうなんだ……Sランクを授与したのに……」


「そうですわね。でも、わたくし、立派な屋敷に住みたいとか、毎日贅沢したいなんて思ってませんの。ジュナと、ディセとセッテと、お母様と幸せに過ごして、そして、この国を守っていければ、それでいいですの」


「姉さん……姉さんは、ホントに綺麗な人だ……」


「あら?あらあら!可愛いですわー!昔はあんなに憎たらしかったのに!最近のジュナは最高ですわー!」


 頭を掴まれ、ピャーパイに抱きしめられる。


「ふがっ!?だから!はしたないってば!」


「おませさんですわ!」


 僕たちは、わいわいと騒がしくしながら、セーレンさんの馬車が見えなくなるまで笑い合っていた。

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