第18話 双子メイドのスキルを試してみよう
リキュールチョコの酔いがさめて、ピャーねぇが目を覚ましたら、僕たちは、ピャーねぇのことをめいいっぱい接待した。酔わせてスキルを授与させた罪悪感を少しでも紛らわすためだ、というのは、正直自覚していた。
最初ピャーねぇは不思議そうにしていたが、途中から「お誕生日の予行練習かしらー!」と都合の良い勘違いを始めて上機嫌になってくれた。
可愛かったので頭を撫でたい気分だったが自重して、つい先ほど、自宅まで送り届けたところだ。
そして、すっかり空も暗くなった時間、自宅にて作戦会議がはじまる。会議の参加者は、僕と僕の従者3人だ。ダイニングテーブルを囲んで、僕の隣にカリン、正面に双子メイドが座っている。
「じゃあ、ディセとセッテのスキルについて、どんな力があるか確認しようか」
「はい!」
「うん!」
「スキルが発現したあとは、鑑定してもらわなくても、なんとなく何ができるか感じとれると思うんだけど、2人はどうかな?」
僕は自分の経験をもとに2人に確認する。
「ディセは!物を浮かせれると思います!」
「えっとえっと!セッテは!みんなを元気にできると思うよ!」
「ふむふむ、なるほど?じゃあ、ディセからスキルを見せてくれるかな?まずは、このカップとか浮かせれそう?」
僕は、空のティーカップをディセの前に差し出す。
「はい!やってみます!」
ディセが緊張した面持ちで両手を前に出す。
「むむむ……グラビティ」
そして、集中した顔をしながら、呪文を唱えると、ゆっくりとティーカップが上昇し、ディセの顔の高さくらいまで上がり、ふわふわと浮き続けた。
「わぁー!」
「おねえちゃんすごい!」
「ホントだね!すごいぞ!ディセ!」
「ありがとうございます!」
僕が褒めると笑顔で頭を下げるディセ。すると、ティーカップが机に向かって降下する。僕は、机に落ちるギリギリのところでそれをキャッチした。
「あっ!ごめんなさい、ジュナ様……」
「ううん、大丈夫。ディセの重力魔法は、目を離すと効果が切れるのかな?」
「それか、集中が切れると、効果も切れるのかもしれませんね」
とカリン
「たしかに、そのあたりは、後でもうちょっと実験してみようか」
「はい!わかりました!」
「じゃあ、次はセッテ、お願いできるかな?」
「うん!えっとえっと」
セッテはみんなを元気にできる、と言っていた。つまり、治癒魔法が使えるのだろうか?
「あ、僕が軽く、」怪我でもしてみようか?と言い出す前にタタタっと台所に走っていくセッテ。どうしたんだろう?
「これ!この子を元気にします!」
セッテが持ってきたのは、プチトマトを育てている小さな鉢だった。緑色の実がなってはいるが、ところどころ葉っぱに元気がない。
「ほほう?」
セッテは鉢植えを机に置くと、「うーん!元気になぁれ!元気になぁれ!」とメイド喫茶ばりの呪文を唱える。すぐにセッテの両手から緑の光が発せられ、その光はプチトマトに吸収されていった。すると、元気がなかったプチトマトの葉っぱが綺麗な緑色になり、緑色だったプチトマトの実が薄い赤色になる。
「おぉ〜、これはすごいね」
「セッテすごい!」
「えへへ!そうかな!」
「うん、スゴいね!ディセもセッテもすごい才能の持ち主だ!」
「なるほど、セッテは治癒魔法でしょうか?だとすると、人間の傷が治せるかも実験しないとですね」
テンションが上がっている僕らに対して、カリンは冷静だ。顎に手を当ててセッテのスキルを分析しはじめた。
「だね、じゃあ僕が適当にナイフで傷を」
「それはダメ!」
「ダメです!」
「ご自愛ください、ご主人様」
僕が腰の短剣を取り出すと、みんなに反対される。
「でも、それじゃあ実験できないよ?」
「私がやります。短剣を渡してください」
僕の方に手のひらを差し出すカリン。
「ダメだ。カリンは女の子だろ」
「女の子……ふふ。……いえ、その前に私はご主人様の従者です」
「逆だよ、カリンは僕の従者の前に女の子だ。怪我はさせられない」
「ご主人様……カリンは、幸せです……」
「……」
なんだか、カリンの目がハートになりかけてる気がするが見なかったことにする。
「あー……Bランクの治癒魔法って、どれくらいの怪我まで治せるんだろうね?」
「ディセたちが調べてきます!」
「うん、お願い。その結果を聞いてから、僕の身体を使って実験してみよう。これは決定事項だ」
また3人が顔を歪めるので、強引に話を終わらせる。
「じゃ、ディセの重力魔法の実験をしようか。どれくらいの重さまで浮かせられるか、何個まで同時に動かせるか、色々試すことはあるぞ」
「はい!ディセがんばります!」
そして、夜遅くまでディセの重力魔法の実験は続いた。
♢
実験によって判明したディセの重力魔法の効果だが、まず、大人2人くらいなら同時に浮かせられることがわかった。
小さいものなら、5つまでは同時に動かせるようだが、重い物になると、4つ、3つと動かせる数が減っていく。つまり、数の上限値と重さの上限値が決まっているようだ。あと、一度浮かせてしまえば、目を離しても継続して動かせるようだが、自分が離れすぎると効果が切れてしまう。
それに、最初から何も見ずにイメージだけで物を浮かせることはできない。あくまで一度浮かせてから、集中を切らさずに目を離すのはいける、という能力らしい。
ディセの能力はだいたいわかったので、セッテの治癒魔法の実験は、治癒魔法について詳しく調べてから行おうという話になった。
♢♦♢
-数日後-
「じゃあ、まずはかすり傷から治してもらおうかな」
「うん!セッテがんばる!」
僕は、たわしを台所から持ってきて、リビングの椅子に腰かけてからズボンをめくり、膝小僧をガリッと削ってみせた。じんわりと赤くなっている。
「痛そう……セッテがすぐ治してあげるね!」
「うん、お願い」
ふんす!と気合を入れたディセが僕の前に膝をついて両手をかざしてくれる。
「うー!元気になーれ!元気になーれ!」
そして、両手から発せられた緑の光が僕の膝に吸い込まれていった。それと同時に傷も治っていく。
「おぉ!すごい!すっかり元通りだ!」
「治ったね!良かったね!」
「うん!ありがとね!セッテ!」
「えへへ!セッテがんばった!」
「よしよし、えらいぞ」
僕はセッテの頭を撫でてやる。すると、セッテは気持ち良さそうにしながら、すごく嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
「えーっと、Bランクの治癒魔法の性能についておさらいしようか」
「では、ディセが説明します!えと、Bランクの治癒魔法は、他人の致命傷ではない傷までを癒すことができるらしいです」
「あくまで軽症から重症の間くらいって話だったよね?」
「はい、ですので、手首などが切断されても繋げることはできないようです。あと、自分自身は治せません」
「ふむふむ」
「Aランクになると切れた手足をくっつけることができて、Sランクだと欠損してしまった部位も、何もないところから再生することができます」
「こう聞くとSランクは規格外だなぁ」
「ごめんなさい……」
高ランクの治癒魔法の効果を聞いて、シュンとしてしまうセッテ。
「ううん、セッテの能力も十分すごいよ。自信をもって?」
「う、うん……がんばる!」
「よし!じゃあ気を取り直して切り傷の治癒もためしてみようか!」
「うん!」
そして、僕は包丁を持って自分の人差し指の先端に切り込みを入れた。血がじんわりと出てきて、ぷっくりと膨らみができる。
「セッテがすぐ治してあげる!うー!元気なーれ!元気になーれ!」
血を見たセッテは一瞬怯えた顔をしたが、すぐにキッと強い顔になって、一生懸命治癒魔法をかけてくれた。
それにしても、セーレンさんのように「ヒーリング」とは唱えずに、「元気になーれ」と唱えてる姿はすごく愛らしい。
「治ったよ!」
「ありがとう」
僕がセッテの可愛い仕草を観察していると、その間に治癒が終わったようだ。傷口を見る。
「あれ?」
傷口には僕の血が残っていて、乾燥しはじめていた。それを親指で擦って傷口を見る。血の下の傷口はすっかり塞がっていた。
そこで疑問が浮かんでくる。
「治癒魔法って、近くに本人の血があれば、浄化されて体に戻るんじゃなかったっけ?」
「そのはずですが、戻ってませんね」
ディセとカリンが僕の手を覗き込み。不思議な顔をする。
「ご、ごごご、ごめんなさい……」
僕の指摘を聞いて、ふるふると震えながら悲しそうにするセッテ。
「え?ごめん!!そんな責めるつもりはなくって!おいで?」
「うん……」
呼び寄せると、ちょこんと膝の上に座ってくれる。
「セッテの能力はすごい力だよ。それに、みんなを元気にできる素敵な、優しいスキルだ」
「うん……」
「ランクなんて関係ない」
僕はセッテの頭を撫でながら自分の気持ちを言い聞かす。
「うん……」
「それにね。スキルなんかなくったって、僕はセッテのことが大好きだよ?」
「ほんとに?」
「うん!もちろん!あたりまえだろ!」
「……そっか!なら!セッテもっとがんばるね!ジュナ様!」
「ありがとう。でも、無理しないようにね?」
「うん!」
やっと笑顔に戻ってくれたセッテの頭を引き続き撫で続ける。
それにしても、事前に調べてもらっていた治癒魔法の能力とは若干違うのはなんなのだろうか。
スキルが発現したばかりでまだ慣れていない?いや、スキルの強さは成長しないって言われてるし……不思議だ……
そのあともセッテの自信がつくように褒めながら実験を続けたが、僕の疑問が解消されることはなかった。
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