第19話 アサシンメイドの夜のマッサージ

「よし、ディセとセッテのスキルの効果はだいたい把握したことだし、次は組織の戦力増強について話し合おうか」


「はい!」

「うん!」

「かしこまりました、ところでご主人様」


「ん?なに?」


 僕たちはいつも通り、自宅のリビングにて物騒な作戦会議をはじめようとしていた。題して、キーブレス王国簒奪大会議、である。


「私たちの組織には、なにか組織名のようなものはないのでしょうか?」


「組織名?」


「はい。国を取るとしたら、レジスタンス、のような名前があった方が、人を勧誘する上で便利かと思いまして」


 たしかに、こういう裏組織には組織名があるのがお決まりか、と考える。


「なるほどね。うーん……すぐには思いつかないから考えておくよ」


「よろしくお願いします」


「じゃ、話を戻すけど、戦力増強についてだね。ちなみに、みんなは協力してくれそうな人に心当たりってないかな?」


「うーん……」

「うーん……」


 ディセとセッテが斜め上を向いて首を傾げる。双子らしく動きがシンクロしていて可愛かった。


「私には、暗部の顔見知りしかおりませんし、信用できる人物はいませんね。暗部の人間は、だいたいが、どこかの王子か王女に通じているかと思います」


「なるほどね。カリンみたいな子が特殊だったんだ」


「はい。カリンはご主人様に拾ってもらえて幸せです」


「いえいえ、そんなそんな、こちらこそだよ。ディセとセッテも心当たりはなさそうかな?」


 ないだろうな、と思ってはいたが、一応確認しておく。


「うん……セッテたちはスラム街の出身だし……」


「はい……ディセも特には……スラム街には、悪い人と、無気力な人ばかりで……」


「わかった。みんな、考えてくれてありがとう」


「ちなみに、ご主人様にはお心当たりはあるのでしょうか?」


「そうだね。一応1人だけ」


「お名前を伺っても?」


「セーレン・ブーケさん」


「なるほど、この前の授与式の」


「うん。彼なら人格的にも大歓迎だし、ピャーねぇに感謝もしてる。なぜだか僕のことも評価してくれてたし、勧誘するにはいいかもって思ってる。でも、懸念点もあるんだよね」


「それはなんでしょうか?」


「優しすぎるっていうのと、戦闘に向いたスキルではないってところかな」


「確かにそうですね。Sランクの治癒魔法スキルは怪我を負ったときに心強いですが、前線に立てる力とは言えませんし」


「だよね。現状だと、戦えるとのは僕とカリンだけだし、武器の扱いに長けた人か、攻撃魔法が使える人が理想かなぁ」


「ディセたちが戦えれば……」

「セッテ!がんばって戦うよ!」


「うん、2人は危ないから後方待機でお願いします。気持ちだけ受け取っておくね」


「はい……」

「えー?はぁい……」


「じゃあ、しばらくは、前線に立てる人材を探す、という方針でよろしく。まずは、貴族とか騎士団の人間に良さそうな人がいないか探ってくるよ。みんなも良さそうな人がいたら教えてね。くれぐれも独断で声をかけないように。突然、国盗りしませんか?なんて声をかけたら逮捕されて処刑されるだろうから、気をつけて」


「はい!」

「はぁい!」

「かしこまりました」


 ということで、この日の作戦会議は幕を閉じた。しばらく僕たちは人材探しに奔走することになりそうだ。



 次の日から僕は、王城内や城下町に出て、首都に住む貴族や騎士団の人物の調査を始めた。

 遠目から見るだけでは深いところまではわからないが、ピャーねぇがギフト授与候補者を選ぶときの観点を真似して観察してみる。国民に対して横柄な態度をとっていないか、無駄に煌びやかな装飾をして税金を食い物にしていないか、などの観点だ。


 すると、予想はしていたが、何人見てもロクな奴はいない日々が続くことになる。


「クズしかいないのか……この国の貴族には……」


「ご心労お察しします。少しお休みになられてはどうでしょうか?」


「あぁうん。ありがと」


 就寝する前、自室の机で頭を抱えていたら、カリンが暖かいお茶を淹れてくれた。


「もしよろしければ、カリンがご主人様を癒やして差し上げます」


「んー?どういう意味?」


「マッサージを少々……」


「なるほど〜。じゃあ、お願いしようかな」


 僕は疲れ切った頭を働かせず、安易に了承してしまう。後ろに立つ僕の従者がニンマリしているのに気づかないほどには、ボーッとしていた。


「……ボー……」


「ご主人様、準備が出来ましたので、ベッドの方にどうぞ」


「ああ、うん……」


 僕は言われるがままベッドに向かい、うつ伏せになった。


「ご主人様、仰向けでお願いします」


「ああ、うん……ん?仰向け?」


 僕の頭が働いたのは、マッサージなのに仰向けと指示され、ゴロンと寝返りをうったあとだった。


「それでは失礼します」


「はい?」


 僕の上に、ニンマリとしたカリンがまたがってきた僕がカリンのために特注したミニスカメイド服を着た姿でだ。絶対領域から覗くおみ足がまぶしい。


「……なにしてるの?」


「マッサージです」


 すりすり。言いながら、妖艶に腰を揺らすカリン。


「やめなさい!はしたない!」


 僕はバッと立ち上がろうと身体を動かす。


「ああ!そんなに動かれては!ああ!ご主人様ー!」


「ぐっ!」


 僕が抵抗を見せると、これ見よがしに艶やかな声を出してくるカリン。


「ふふ……」


 その瞳は肉食獣のそれであった。


「マッサージ……なんだよね?」


「はい、マッサージです」


「……それ以上のことしたら、ほんとに怒るからね?」


「はい、心得ております……たぶん」


「たぶん?」


「それでは失礼します」


 最後に不穏なことを口走ったカリンは、わきわきと両手を動かしながら僕の肩を揉み出した。


「お、意外と気持ちいい」


「ありがとうございます、ふふふ……」


 舌なめずりしながら笑っているカリンが気になるが、マッサージ自体の腕前はすごく上手だった。だから、なんだか眠くなってきてしまう。


「……ねむい」


「ふふ……」


 僕が呟くとカリンが身体を倒して耳元で話しかけてくる。


「ご主人様……ねんね、しましょうね……いいこいいこ」


「……子どもじゃ、ない……うぅ……」


「ふふ、かわい♡」


 僕が目を開けて最後に見たカリンの目は、ハートマークになっていたような気がしたが、それを確かめるすべは僕にはなかった。


「ぐぅ……」


「ふふ……ほんとに眠っていただけるなんて……よっぽどお疲れだったんですね。普段はしっかりしてるのに、私たちには本当に無防備なご主人様。……いつも、頑張ってくれて、ありがとうございます。……ちゅ♡」


 カリンが何か言ってるような気がしたが、意識が薄れきった僕には、何を言ってるか認識することはできなかった。

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