第4話 第五王女ピアーチェス・キーブレス
-数ヶ月後-
僕は自室で本を読んでいた。数ヶ月前に与えられていた自室の1/10くらいの部屋の勉強机でキーブレス王国の歴史書を開いている。
スキル鑑定式のあと、僕がスキル無しだという噂は、あっという間に王国内に広がった。それはもう大騒ぎで、キーブレス王家からスキル無しが生まれたというのは前代未聞だということを嫌でも理解させられた。そして、この結果が悪い方向で僕の人生に影響することもすぐにわかった。
まず、僕がスキル無しだと聞いた母親は卒倒して僕の前から姿を消した。かわいそうに、あの人は今どこにいるのだろう。それから、僕と母に与えられていた大きな屋敷は取り上げられることになり、王城敷地内にある小さな家があてがわれた。
まぁ、小さいと言っても普通の一軒家くらいはあるし、僕の部屋も一般的な子ども部屋くらいの大きさはある。ベッドも机も前世で見慣れたサイズのものが備わっていた。だから、別に不便さは感じていない。以前の部屋はキングベッドだったので、広すぎて落ち着かなかったし、なんなら今のベッドの方がちょうどいいくらいだった。
あと、前の屋敷にいたメイドたちは1人もいなくなった。メイドたちが出ていくときに、精一杯かわいい顔を作って、「行っちゃうの?寂しい……」とウルウルしてみたのだが、誰も僕のことを見ようとせず、「きっと代わりのメイドが見つかりますよ。ははは……」なんて気まずそうに言いながら、そそくさと逃げていった。
うーむ、こうなるくらいなら、最後にスカートめくりくらいかましておくんだったな。勿体ない。
「ふぅ……なるほどなぁ……」
僕は本を閉じて、それを脇に抱えて立ち上がった。キーブレス王国の歴史書を読めば読むほど気が滅入ってくるので、外に出て散歩でもしようと思ったからだ。誰もいない一軒家の階段を降り、玄関を開ける。
王城の広い庭を歩いていくと、兵士たちや使用人たちとすれ違うが、みんな僕を見ると目を逸らす。やっぱ、スキル無しは厄介者扱いなんだなぁ、と改めて実感した。
この1ヶ月、キーブレス王国について勉強したのだが、この国はスキル史上主義で、高ランクのスキル持ちは地位が高く、その逆もしかりだということがわかった。つまり、鑑定式でAランクと判定された第四王子はチヤホヤされて立派な屋敷に住み、Eランクと判定された第五王女は、僕ほどじゃないが質素な生活を強いられる。とは言っても、本来Eランクなんて奴隷落ちもあり得るらしいのだが、王家の血を引く王女だから、まだマシな処遇なのだという。
そして僕だ。スキル無し、つまりゴミだ。
こんなスキル至上主義の国なので、スキル無しというだけで処刑でもされるのではとヒヤヒヤしていたのだが、僕も一応王族ということで保留処分にされている状態だった。
同じ日にEランクとスキル無しの王族が誕生してしまい、偉い人たちもどうすればいいのか頭を悩ませているのかもしれない。そのうち、やっぱおまえ死刑、とか言われやしないか不安しかない。
「はぁ、これからの身の振り方、どうするかなぁ〜。のんびり、安全に暮らせるだけでいいんだけど……」
僕は人通りが少ない木陰のベンチに座り、また本を開いた。
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【キーブレス王家の歴史】
キーブレス王家には、唯一無二のスキル《ギフトキー》が伝わっている。王族にはランクの大小はあれ、そのギフトキーが発現し、ギフトキーの力を使うと、他人にスキルを授けることができる。
《ギフトキー》を使わないと、王族以外の人間はスキルを得ることはできない。つまり、自然にスキルが発現するのは、王家の血を引くものだけなのだ。そのため、民たちは、キーブレス王家にひれ伏した。「我々にスキルを与えてください」、そう懇願したのだ。
こうして、キーブレス王国は、スキル史上主義国家となり、必然的にスキルを与えられる者は厳選されてきた。今となっては、貴族以上の地位を持つものにしかスキルは与えない、キーブレス王家がそう決めてしまった。
国民たちは王家に逆らうことができなくなっていった。しかし私が考えるに――
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これが今のキーブレス王国の内情らしい。
僕は一旦顔をあげ、本から目を離して考えを整理する。
この本のおかげで、客観的にこの国を見ることができた。王族に対して無礼だとか言われて発売禁止になったこの本を手に入れたおかげで、だいぶ自分の状況が理解できたと思う。
で、勉強した結論を言うと、このままだと僕はヤバい、いつ殺されてもおかしくない危うい状況だ、ということだ。
歴史書の中には、スキル無しの王族が生まれたなんて話は一切出てこない。つまり、歴史的に見ても、僕はイレギュラーな存在なのだろう。
だから、なんとかして有用な存在だと思われる必要がある。どうにか、どうにかしなければならない。
「でも、何も思いつかないんだよなぁ……」
僕は、溜息をつきながら背中をそらした。空を見上げる。
「あなた、スキル無しの十七王子ですわね?」
「はい?」
空を見ていたら、青空をふさぐように女の子の顔が目の前にあらわれ、声をかけられた。スキル無しの僕なんかに話しかけてくる人なんてあれからいなくって、ビックリする。
「わたくしの質問に答えなさい。このスキル無し」
姿勢を戻し振り返ると、そこには金髪縦ロールの意地悪そうな美少女が立っていた。スキル鑑定式のときのは違い、豪華さが数ランク落ちたドレスを身に纏っている。でも、それでも十分可愛かった。
「あー……えっとEランクの、ピャーなんとか王女……」
「なっ!?わたしくはピアーチェス・キーブレス!誇り高きキーブレス王国の第五王女ですわ!無礼ですわよ!このスキル無し!」
美少女にキッと睨まれる。
「あー、なんかすみません、Eランクさん」
ペコリ、怒っているので適当に頭を下げておいた。
「キー!なんなんですの!あなた!わたくしをバカにして!死罪に致しますわよ!」
「いや、あなたにそんな力ないですよね。Eランクですし」
「腹が立つ子どもですわ!」
「キミも子どもじゃん」
「クソガキですわ!」
「こっちのセリフです。はぁ……あの、本読んでるのでどっか行ってくれませんか?集中したいので」
僕はキーキー言っている縦ロールを無視して読書を再開した。こんな縦ロールに構ってる時間はない。僕はこれからどうやって生きていくか考えなければいけないのだ。
「……何を読んでるんですの?」
ムスッとした顔で、ピャーなんとかさんが隣に腰掛けてくる。
「なんなんですか……歴史書ですけど?」
僕は嫌そうにしながらも、一応答えてあげることにした。子どもの相手くらいしてあげるか、という心持ちだ。
「スキル無しが歴史のお勉強なんてして、どうする気ですの?無駄ですわ……どうせ奴隷落ちか……悪くすれば……」
さっきまで威勢が良かったのに、だんだんと落ち込んでいく縦ロール。
「悪くすれば、処刑ですか?」
「……ええ」
「でしょうね。だから勉強して、処刑されない方法を考えているんです」
「そんなことしても……無駄ですわ……」
「無駄かどうかは僕が決めます。それに、ダメそうなら国外逃亡でもして生き延びますから。他人に殺されるなんて、命を奪われるなんて、まっぴらごめんだ」
「そう……ですか……あなたはスキル無しのくせに勇気がありますのね……それに比べて、わたくしは……」
「なんですか?さっきから。ピャーなんとかさんはスキルがあるんだから恵まれてると思って下さいよ。僕なんてスキル無しなんですから」
「わたくしが、恵まれてるですって?」
「だってそうでしょ?僕はスキル無しなんだから」
「……ふふ。そう……そうかもしれませんわね……あなた、面白いですわ」
「そうですかね」
「……わたくし!ピアーチェスと申しますの!」
「はぁ、そうですか」
「ピアーチェスお姉様と呼ぶことをお許しいたしますわ!スキル無し!」
「え?呼びませんけど?どっか行ってください」
「なっ!?こ、この!生意気ですわー!腹違いとはいえ実の姉に向かって!」
「はいはい」
その日から、僕はこのピアーチェスとかいう金髪縦ロール美少女につきまとわれることになる。
♢
バン!
「スキル無し!わたくしが来てあげましたわよ!」
「呼んでません、帰ってください」
「キー!」
♢
「スキル無し!わたくしにも歴史を教えてくださってもよろしくってよ!」
「いやですよ。めんどくさい。本は貸してあげるので勝手に読んでください」
「なんですって!このわたくしに自分で読めなんて!無礼者!」
♢
「ジュナ!あなた!そろそろわたくしをお姉様とお呼びなさいな!」
「いやですよ、ピャーなんとかさん」
「キー!今日という今日は許しませんわ!あ!お待ちなさい!わたくしにかけっこで勝とうなんて100年早いですわー!」
♢
「ピャーねぇ、重い」
「レディにそんなこと言ったらモテませんわよ。ほら、早く続きを読んでくださいまし」
「だから、自分で読んでくださいよ。あと、縦ロールが顔に当たってウザいです」
「ウザい!?ウザいですって!?この!ジュナのくせに!」
♢♦♢
ピアーチェス第五王女に付きまとわれるようになって、1年以上が過ぎた。僕たちはまだ王城の敷地内で生かされている。
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