第6話 最初の敵
翌朝、ピャーねぇが起きるのを待ってから、軽く朝食を作って一緒に食べることにした。目玉焼きとトーストをお皿に盛り付けて渡してあげると、
「ジュナがわたくしのために作ってくれたと思うと何倍も美味しいですわ」
なんて言って嬉しそうに食べてくれる。昨日、あんなことがあったのに……
姉さんに、第四王子たちのことは伝えていない。でも、きっと薄々は気付いているだろう。突然ボードが転覆するなんてあきらかに不自然なことだ。だから、その無邪気な笑顔に胸が痛くなる。
「ピャーねぇ」
このままじゃダメだ。
彼女の笑顔を見て、改めてそう思って、僕の決心を伝えることにした。
「なんですの?」
「ピャーねぇは明日から、毎日僕の家に来てください」
「なんでですの?」
「ピャーねぇは僕が守ります」
「……それは……どういう?」
ピャーねぇは、驚いた顔をしてからフォークを置き、またこっちを見た。僕の真剣な顔を見て、徐々に頬を染めていく。
「わかりましたね?」
「ジュナのくせに……生意気ですわ……」
ピャーねぇは真っ赤になってもじもじしていたと思う。
「わかりましたね?」
「はい……わかりましたわ……」
♢♦♢
-5年後-
僕とピャーねぇは、王族からお互いを守るようため、寄り添うように過ごしてきた。2人とも、今はまだ、無事に生きている。
湖での事件の後、僕とピャーねぇはボートを転覆させた犯人たちを遠巻きに睨みつけた。〈おまえたちがやったって、わかってるぞ〉そう示すためだ。
そうしたところ、クワトゥル第四王子は、生来の気弱な性格が出たのか、冷や汗をかきながら撤退し、それから絡んでくることは無くなった。
だから、この5年間、僕たちは平穏に過ごせてこれたのかもしれない。
もちろん、僕は裏で動いていた。僕とピャーねぇがこの国で生きていくための工作をずっと行ってきた。
でも、今はそんな話よりも重大な問題が目の前で起きている。
「やぁやぁ、ピアーチェス、久しぶりだねぇ」
「あら、クワトゥル兄様、ご機嫌よう。なんの御用でしょう?わたくし、この通り可愛い弟とお茶の最中ですの。お引き取り願えますか?」
「おいおい、ずいぶんな物言いじゃないか、Eランクの分際で。なあ?ブラウ、アズー」
「はっ、その通りです」
「Eランクの癖に無礼だぞ!」
「……」
僕は黙って紅茶のカップを持って、バカ王子と取り巻きを見上げていた。せっかくのピクニックを邪魔されて、非常に不快だ。それにしても、5年も経ったのに、こいつらは以前と同じようなことを言っている。成長はしないのだろうか?
「はぁ……わたくしたちを殺そうとしたお方が、どの面下げてわたくしたちの前に?お引き取りください」
「なんのことだい?ピアーチェス、愛するキミのことを殺そうだなんて、そんなことするはずがないだろう?ふふ」
クワトゥルは、見覚えがある気持ち悪い笑みを浮かべて、ピャーねぇのことを見る。さらには、いやらしい目でピャーねぇの胸元を眺めていることが僕にはわかった。
ここ数年でバインバインになったとはいえ許せない。ピャーパイは僕のものだ。いや、ちがうちがう。それよりも目の前のバカをどうにかしないと。
「……証拠がないとでも思っているのですか?兄上?それと、シートにのるならせめて靴を脱いでください」
「おまえは黙っていろ!スキル無し!」
僕が口を挟んだ途端、ブチ切れだすバカ王子。なんだこいつ?情緒不安定なのか?
「ふぅ……すまなかったね、ピアーチェス。ところで、私の手紙は見てくれただろうか?」
「ええ、以前と同じようにお断り致しましたわよね?」
「そうだねぇ。もちろん知ってるよ、キミの回答は。でもねぇ、そんなことを言ってられるのも、2ヶ月後のギフト授与式までさ」
「……」
ピャーねぇは黙って、第四王子の言葉を聞く。
「今度のギフト授与式で、もし!もしキミが!Eランクのクズスキルなんかを授与した日にはどうなるだろうねぇ!なぁ?ブラウ?」
「はっ、おそらく奴隷落ちか、悪くすれば処刑かと」
「だよなぁ?アズー、どう思う?」
「今まで見逃されてきたことをありがたく思え!」
こいつらが言っているギフト授与式というのは、年に数回行われるキーブレス王国の一大行儀のことだ。このギフト授与式では、ギフトキー持ちの王族が、選ばれた何名かの貴族にスキルを授ける儀式を行う。
2ヶ月後のギフト授与式では、ここにいる第四王子と隣にいるピャーねぇ、第五王女のお披露目も兼ねて盛大に行われることになっていた。
「わたくしは……そんな失敗は致しませんわ……」
「ははは!Eランクのキミが失敗しないだって!そうかそうか!もしかして授与相手が才能豊かな家柄のものになるかもと期待しているのかな!そうなればいいねー!はははは!」
「……」
王族のスキル、ギフトキーの効果は、授与する王族のスキルランクと、授与される者の才能が大きく影響する。つまり、Aランクのクワトゥルが授与する相手は、よっぽど才能がないやつでない限り、Cランクほどのスキルが顕現するはずだ。
逆に、Eランクのピャーねぇが授与した場合、相手にかなりの才能があったとしても、よくてC、悪いと最低ランクのEランクのスキルが付与されることになる。
これは今までの歴史から見た前評判だった。
「ふふふ、そんな淡い期待をしても、無駄だと思うけどねぇ」
「それはどういう意味でしょうか?」
「すぐにわかるよ、ピアーチェス。じゃあ、また会いにくるよ。気が変わったらいつでも僕のフィアンセにしてあげるからね?ご機嫌よう」
最後まで気持ちの悪い笑顔を浮かべたまま、そいつらは踵を返して姿を消した。
「ピャーねぇ、大丈夫?」
「……え?……ええ、大丈夫ですわ!せっかくのお茶が冷めてしまいましたね!
淹れなおしてさしあげますわ」
「うん、ありがとう。僕はピャーねぇの紅茶が1番好きだよ」
「まぁ!たまに素直になるジュナはとっても可愛いですわー!」
凹んでいたピャーねぇを少しでも元気づけようと恥ずかしいセリフを言ってみたのだが、効果は抜群のようだ。
「……」
僕はピャーねぇが淹れてくれた温かい紅茶を飲みながら、2ヶ月後のギフト授与式までに何を行うか、考えていた計画を反芻し始めた。
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