第38話 戦いの準備
僕たちは、闇夜の中、キーブレス王国首都を囲う外壁の上に立ち、これからの行動について、最終確認を行なっていた。
外壁の上から見るスラム街には、ふんわりと明かりが灯っていて、そこにたしかに人々が暮らしていることが見て取れる。
あいつは、あそこに住む罪のない人たちを戯れに惨殺した。決して、許してよい行いではない。
僕は、スラム街を眺めながら、従者たちに声をかける。
「カリン、計画通りいけるな?」
「はい、大丈夫です」
「セーレン、もしなにかあったら、みんなの治癒を頼む」
「はっ!」
「ディセ、セッテ、スラム街の住居は確保できたか?」
「指定の場所は全て押さえてあります!」
「あとは騎士団の人たちを運んでくるだけだよー!」
「わかった、ありがとう。シューネ」
「はい!お兄様!」
「キミは、騎士団の運搬が終わったあとは待機だ」
「いえ!わたしも戦います!」
「大丈夫、あいつに手紙を渡してくれただけで十分だ。あとは僕に任せろ」
「でも……はい……お願いします……マーダスお兄様を、止めてください、お兄様」
「ああ」
そして、僕たちはそれぞれの仕事に取り掛かった。
もう一度、スラム街を見渡す。決戦の地だ。今夜、あそこで、マーダス・ボルケルノを打ち倒す。
♢
-城下町 居酒屋街-
「がはは!おまえら!もっと飲むぞ!付き合えー!」
「副団長、飲み過ぎですって……」
「そんなことはない!俺はまだまだ飲めるぞー!がはは!」
夜の城下町を、鎧を着た人物が5人、連れだって歩いていた。みな、立派な鎧に身を包み、それぞれの愛剣を所持している。キーブレス王国が誇る、獅子王騎士団の団員たちだ。
獅子王というのは、初代キーブレス王国の王様の呼称で、その人物が立ち上げた騎士団だから獅子王騎士団という名前となった。その名称は、今でも親しみを込めて使われ続けている。彼らは、その中でも実力派揃いの凄腕たちだ。
そこに、酒場の看板娘に扮したカリンが近づく。
「騎士様たち!もしよろしかったら!うちで飲んでいってくださいよ☆」
きゃぴっ☆そんな効果音が出そうなほど、明るい声を出すカリン。誰?
「おお!美人さんではないか!お嬢さん!こいつの嫁にならんか!こいつは女にモテなくてなー!腕なら俺が保証する!強い男はいいだろう!がはは!」
「副団長、やめてくださいってば……」
「ははは!」
「くすくす……」
カリンに話しかけられた5人の騎士たちは笑い合い、とても楽しそうにしていた。この人たちが、週末は一次会で飲んだ後、二次会の場所を探して彷徨い歩く、というのは下調べ通りだった。だから、こうして接触をはかれている。
僕たちは、カリンが上手いこと誘導できるよう祈りながら、成り行きを眺めていた。
「今なら1人一杯!サービスしちゃいますよ!あ!あと私、彼氏いるのでお兄さんはパスで!」
「がはは!また振られちまったようだな!しょーがない!今日は振られた記念で俺が奢ってやろう!」
「ムカつきますね……なら、遠慮なく飲ませてもらいますか……」
「がはは!お嬢さん!案内を頼む!」
「はーい!こちらにどうぞー!獅子王騎士団の騎士様たち!ご入店でーす!」
上手くいった。カリンが陽気な声で店まで案内し、路地裏を入ったところにある建物に騎士たちを引き入れる。僕たちも店内に入り、台所で配置についた。
居酒屋の中はガヤガヤと賑わっていて、騎士たち以外にも5、6組のグループが酒を飲んでいる。
「こんなところに店があったのか!知らなんだ!」
「うちはできたばっかですからねー!」
「そうなのか!とりあえず生5つ!」
「あいよ!」
カリンが注文をとって台所に入ってくる。僕はすぐにビールを手渡した。催眠薬入りの、強力なやつを。
「頼んだ」
こく。カリンが真顔になってお盆を受け取る。そして、またニコニコと笑顔になってビールを運んでいった。
-10分後-
「ぐぅー……」
「がぁー!がぁー!」
「ふがっ!?むにゃむにゃ……」
5人の騎士たちは、それはもうぐっすりと眠りについていた。
「みなさん、ありがとうございました。謝礼を受け取って、今晩のことは忘れてください」
カリンの声を聞いて、他の机に座っていた人たちが立ち上がる。その人たちは、出口に向かうとき、ディセから金貨を受け取って、そそくさと出て行った。彼らはスラム街で声をかけた人たちだ。謝礼を約束したら、すぐに協力してくれた。
「よし、運ぼう」
「はい!」
そして、ディセの重力魔法を駆使して騎士たちを順番に運び出し、路地裏から素早く移動する。まずは全員を外壁の上に持ち上げて、僕たちもそれに続いた。そして、騎士たちをスラム街の別々の位置に配置してから、僕たちは一旦合流する。
「準備は整ったね。あとは、あいつがくるのを待つだけだ」
「ジュナ様、これ」
セッテが着替えを渡してくれる。戦いやすいように、ディセとセッテがあつらえてくれた服だ。僕がその服に着替え終わったころ。
「……ご主人様、来たようです」
カリンが外壁の下を指す。
赤い髪のポニーテールの男が、いつもの袴を着て、いつもの刀を携えて、不気味な笑顔を浮かべながら歩いていた。
「よし、じゃあ、行ってくる」
「ご武運を」
「ディセは信じております!」
「がんばって!」
「治癒はお任せください!」
「マーダスお兄様を!止めてください!」
僕は、仲間たちの顔を見てから、あいつとの決戦の場所へと向かうことにした。
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