第20話 人材探しとスラム街

 結局、僕たちが見て回った限りでは、組織に入ってくれそうな良さそうな人材は見つからなかった。


 スキル持ちの貴族は、ほとんどが威張り散らした嫌なやつで、騎士団の方にはあまり近づくことができず、人材の吟味ができなかった。


「やっぱり、すでにスキル持ちの人はダメな気がするね」


「ですね。やはり、仲間に引き入れてから、ディセやセッテのようにスキルを発現させてもらうのがいいかと」


「だよねぇ……この前みたいなことはあんましたくないけど、、それがいいかなぁ……」


「セッテ……ピャー様に嘘をつくのはやだな……」


「うん……僕も……」


 僕とセッテは、この前、アルコール入りチョコレートをピャーねぇに食べさせたことを思い出し、しゅんとする。


「まぁまぁ、その問題については人材が見つかってから考えましょう。まずは戦力の増強です」


「そう、だね……ありがと、カリン」


「いえいえ」


 カリンが空気を変えてくれたので、改めて前向きな話をする。


「じゃあ、スキルのことは一旦置いといて、人格的に良さそうな人を探してみよう

まずは、そうだな……スラム街に行ってみようか。あんまり期待はできないかもだけど、貴族たちをもう一度見て回るよりかはイイ気がするんだよね」


「では!ディセがご案内します!」

「セッテも!」


「わかった、2人ともありがとう。カリンは僕たちが見える範囲で護衛してくれるかな?」


「かしこまりました」


 ということで、ディセとセッテに案内してもらい、2人の故郷でもあるスラム街に繰り出すこととなった。


♢♦♢


-キーブレス王国 首都 外周部 スラム街-


「相変わらず……ここの治安は悪そうだね……」


「はい、なのでディセたちから離れないでください」

「セッテが守ってあげる!」


「ありがとう2人とも」


 僕たち3人はスラム街にいても目立たないようにボロボロの服に着替えて、スラム街の入口に立っていた。スラム街は、キーブレス王国 首都の城壁の外、外壁沿いに作られていて、小さな村ほどの大きさだ。そこに住む人の人口は誰も把握しておらず、数千とも数万とも言われている。

 首都の中が美しい町並みなだけに、ココとの格差が際立って見て取れた。道路は舗装なんてされておらず土煙が待っていて、建物は素人が適当に廃材で作ったようなものばかりだ。そのボロい建物のほとんどは、大人の背より少し高いくらいの大きさのもので、いつ崩れてもおかしくないように見える。


「じゃあ、人材探しといこうか。目標は、ディセやセッテみたいな優しい子たち、かな」


「ふふ、私たちみたいな子はなかなかいませんよ、ジュナ様」

「そうだよー!セッテたちはすごいんだから!」


「だね。じゃあ、あんまり期待せずにブラブラしてみようか」


 そう声をかけてから、僕たちは、荒廃したスラム街に足を踏み入れた。スラム街は、首都の中に住めない人たちが勝手に作った町なので、管理者などはおらず、建物の並びに規則性なんてものはない。だから、町中はかなり入り組んでいて、慣れた人物じゃないとすぐに迷いそうな場所だった。そんな場所をディセとセッテが先陣をきってゆっくりと歩いていく。

 たびたびすれ違う人たちは生気のない目をしている者が多く、座り込んでいたり、夢遊病のようにフラフラ歩いている人もいる。それに、年配の人が多めで、子どもは少ないように感じた。みんな、どこか人生を諦めたような雰囲気を発している。


「こうやって見て回ると、2人はこんなところで諦めずに生き延びていて、ほんとにすごいよ……」


「ディセは……セッテを守ることに必死だっただけです……」


「セッテは、おねえちゃんのおかげ!」


「そっか、ディセは偉いな、あとでご褒美をあげよう」


「えー!セッテは!」


「セッテもがんばったろうから、ご褒美をあげよう」


「わーい!」


「あ、ココって……」


 僕が足を止めた場所には、子ども2人が入ればいっぱいになりそうな小屋があった。いや、小屋なんて立派なものじゃない。入口には壁なんかなくて、屋根だけが適当な木材で支えられた犬小屋のようなものだった。


「まだ、あったんですね……」


「懐かしいね!セッテたちが住んでたところ!」


「うん、ほんとに懐かしい。あのとき2人と出会えて、僕はラッキーだったね」


「それはディセたちのセリフです!ジュナ様!」


「そうかな?」


「はい!」


「なら、お互いにラッキーだった、ということで」


「そうだね!セッテたちはジュナ様に助けてもらってラッキー!」


 僕は、セッテとディセの笑顔を眺めながら、5年ほど前に2人と出会ったことを思い出していた。


♢♦︎♢


-約5年前、ピアーチェスとジュナが湖に落とされ、ジュナが国取りを誓った数ヶ月後-


「ひどいところだな……」


 僕は城壁の外に出てスラム街まで足を運んでいた。ピャーねぇを守るために、仲間になってくれる人を探しにきたのだ。

 僕には他人のスキルを奪うという特殊能力があることはわかったが、1人で国を取るのは難しい。信頼できる仲間が必要だと考えて、この数ヶ月 行動してきた。


 まずは、身内だったらもしかして仲間になってくれるかも、と考えて、母親の行方を探したのだが見つけることはできず、以前うちにつかえていたメイド数人にも声をかけたが、玄関先で追い返されてしまったところだ。


 だから、苦渋の決断でここに来た。スラム街に住んでる人なら、王族や王国に恨みがある人もいるかもしれない。この国のせいでこんな生活を強いられていることに不満があり、僕の考えに賛同してくれる人がいるかもしれない、というふうに考えたんだ。


「よし……ダメで元々だ、行こう!」


 僕は、気合を入れてから、前世では見たこともない荒れた町並みの中を歩き出した。僕がスラム街を歩いていくと、道ゆく先で生気のない目をした人からジッと見られていることに気づく。

 なんだ?なんで見られている?僕は何もしてないのはずなのに、なんで目立っているんだ?疑問に思い自分のことを見直す。


「そうか……服装か……」


 自分が着ているものが、ここでは上等なものだと気づき、すぐに上着を脱いだ。シャツのボタンを開けて足首をまくり、上着をその辺に捨てる。


「よし、これで目立たないはずだ、行こう」


「……あっ……あの……」


 僕は、目立っていたことに焦りを覚えていたようで、後ろから話しかけてきた小さい声に気づかなかった。そのまま急ぎ足で奥へと進んでいく。


「……あっ!……」



 スラム街の中には、たくさんの人が住んでいて、僕の見立てでは、お金さえ渡せば簡単な仕事をしてくれる人は見つかるだろうな、という所感だった。でも、僕と一緒に命懸けで国に反旗を翻すような人間はどこにもいない、そう感じはじめていた。


 たまに、ごろつきのような目つきの悪い奴らもいた。戦闘力はそれなりにありそうだが、人格的に明らかに問題がありそうだった。目を合わせたら身包みを剥がされそうだったので、その辺の泥で服を汚してやり過ごす。さすがにこの格好なら、王族だとバレないだろう。


 このときばかりは銀髪であることを喜んだ。もし僕が金髪だったら、すぐに誘拐されて身代金の要求に使われただろう。そんなことを考えながら、スラム街のだいぶ奥まで進んできた。


「ふぅ……やっぱダメかなぁ……」


そうつぶやいてから、「そろそろ諦めるか……」と自宅に戻ろうと振り返ったところ、


「あっ……」


 僕のすぐ後ろに小さい女の子が立っていることに気がついた。


「おおっと?ごめん、ぶつかりそうだったね」


「いえ……」


 その子は、薄い紫色の長い髪を揺らしながら、ボロボロのワンピースを着て、立っていた。

 その子の顔を見る。金色の瞳には、このスラム街で見たどの目とも違う、なにか力強いものを感じ取れた。そして、その子は両手で大事そうに僕の上着を持っていたのだ。スラム街に入ってすぐのところで捨ててきた、あの上着だ。


「あれ?それって……」


「あの……こ、これ……」


「拾ってくれたのかな?」


 僕は少ししゃがんでその子に話しかける。8歳の僕から見ても、さらに幼い子だ。2つか3つは年下だと思う。


「ち、ちがくて……これ……いらないなら、もらってもいいですか?」


「その上着を?」


「……はい。く、ください」


 その子は不安そうにしながらも、はっきりと自分の意思を伝えた。僕はその姿に少し感動する。


 この子は、僕がこの服を捨てたってことわかってたと思う。いや、わかってなかったとしても、わざわざ1時間近くも後ろについてきて、「ください」と頼んできたのだ。


 スラム街の人間なら、欲しいものを拾ったら勝手に持っていくだろう、と思っていた。その先入観が恥ずかしくなる。いや、この子が特別なのかもしれない。


「だめ……ですか?」


「あ、ううん、もちろんあげるよ。もともと捨てたものだしね」


 僕が黙っているのを否定の意だと思ったらしく、泣きそうになっているので、服をあげることを了承する。すると、パァッと明るい笑顔を見せてくれた。


「あ!ありがとう!ございます!」


 礼儀正しい子だ、と思う。こんな幼くて、こんな場所にいるのに、すごくしっかりしている子に見えた。


「いえいえ。その上着だけど、なにに使うのか教えてくれるかな?」


 売るのだろうか?と想像しながら質問する。


「い、妹に……あげます……」


「妹?」


「はい……風邪……引いてて……」


「そっか。わかった。お大事にね」


「はい!ありがとうございました!」


 その子は、ペコペコと頭を下げて路地裏に消えていった。


「ふーむ……悪い人ばかりじゃないってことかな?」


 僕はそう呟いてから家に帰ることにした。

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