第31話 奪えるのはスキルだけなのか?

 ヘキサシスの屋敷を調査した翌日、もう1日だけあいつの様子を観察し、ギフトキーを奪うのはかなり難しそうだ、と結論づけた。


「どうしたものか……」


 僕は自宅のリビングで頭を悩ませる。


「お茶です。ジュナ様」


「ありがと。ディセ」


 僕はディセが淹れてくれた紅茶を飲みながら、あと2ヶ月後に迫ったギフト授与式について考える。ギフト授与式までにヘキサシスをどうにかできないとなると、やはりマーダスのやつを2ヵ月のうちにどうにかするしかない。悩ましいことだ。

 あごに片手を当てながら、ふと正面のディセを見ると、セッテの口元についたクッキーのカスをふきふきしていた。今日も愛らしい双子である。


「ご主人様、よろしいでしょうか?」


「んー?なにー?」


 隣のカリンが僕の方を向いて真面目な顔をする。


「ギフトキーの奪取が難しいのであれば、スキルを授与される方をなんとかすればいいのではないでしょうか?」


「んー?マーダスを?それは今考えてたけど、やっぱり、あいつと戦うのは危険すぎると思うんだよね」


「いえ、マーダスのスキルを奪うんです。戦う必要はありません」


「ん?どういうこと?あいつはまだスキル発現前だよ?」


 カリンが言っていることがよくわからなかった。僕の能力ではスキルを奪うことはできるが、無いものは奪えないのだ。


「あ、スキルが発現してから奪えってこと?でも、それだとあいつが権力を手に入れた後になっちゃうよ?」


「いえ、違います。スキルという言い方が悪かったですね。奪うのはマーダスの才能です」


「才能?」


「はい。ご主人様、ギフトキーを使ったとき、どんなスキルが発現するのかは、ギフトキーを使う王族のスキルランクと授与される人物の才能が影響するんですよね?」


「うん。そうだね」


「つまり、Bランクのギフトキーでも、大きな才能があればSランクを発現しますし、Sランクのギフトキーでも、相手の才能がカスならばEランクが発現することもある、ということですよね?」


「理屈としてはそうだね。そんなに才能がない人ってのは貴族では前例が無いと思うけど。で、何の話だっけ?」


 僕はカリンの言ってることを整理しながら、もう一度聞き直す。


「マーダスの才能を奪うんです。ご主人様の能力で」


「才能を、奪う?」


「はい」


「それは……」


 僕は腕を組んで片手で顎を触りながら考える。

 僕の能力は、スキルを永久に奪う能力、技能を一時的に奪う能力、この2つだと思っていた。でも、カリンの言うように、スキル発現前の才能自体を奪うことができるなら……


「もしそれができたら、ヘキサシスにギフトキーを使われても、マーダスはスキルを発現することなく、没落させることができる……」


「その通りです」


「なるほど……」


 カリンが言うように、ギフトキーの効果は、使う本人と授与される対象の才能に大きく影響されると言うのが通説だ。


 だから、マーダスの才能を奪えれば、たとえヘキサシスのギフトキーがAランクでも何もスキルが発現できないようにできるかもしれない。


「たしかに……戦うよりは現実的か……でも、才能を奪えるのかどうかをどうやって検証するか……」


「私で実験してください」


「カリンで?」


「はい。スキルを発現していない私の才能をご主人様が奪おうとして、何が起きるのか検証しましょう」


「でも、危なくない?」


「そうでしょうか?スキルを奪って戻すことができるご主人様なら、才能を奪ったとしても元に戻せるのではないでしょうか?」


「……たしかに」


「それに、私の才能がどんなものなのか確認したいのです。もし微妙な才能でしたら、よさげな才能に入れ替えて欲しいので」


「はは、カリンは合理的で、それに素直だよね」


「そうですか?お褒めの言葉として受け取っておきます。では、さっそくどうぞ」


 カリンが言いながら、胸元のリボンを外し、ぷちぷちとボタンを外して谷間を見せつけてきた。黒いブラがチラリと見え隠れする。目のやり場に非常に困る。


「……何してるの?」


「どうぞ、ここに触れて才能を奪ってください」


 谷間をむにゅむにゅと強調しながら、僕に催促するカリン。


「わぁー……カリンちゃん、えっち……」

「せ、セッテにはまだ早いです!」


「えー?おねえちゃん、見えないよー。セッテ見てたい」

「ダメ!」


 ディセが赤くなりながら、セッテのことを目隠ししていた。僕も目をそらしたい気分だ。


「……背中でお願いします」


「いやです」


「じゃあ、別の人で実験します」


「……む、頑固なご主人様ですね。はぁ……今日は言うことを聞いてあげましょう」


 なぜかため息をついて、やれやれ、という顔で背中を向けて座り直すカリン。

 いやいや、こっちがやれやれ、なんだが?


「じゃあ、背中をめくってください」

 なぞの敬語になる僕。


「ご主人様がめくってください」


「なんで?」


「いいからはやくぅ〜」


 クネクネしだすカリン。


「キャラ崩壊がすごいよ。カリンさん」


「そうでしょうか?こんなものですよ。早くしてください」


「は、はい……」


 僕は観念してカリンのメイド服をめくることにした。スカートの間から上着を引っ張りだし、するすると上に上げていく。


「あぁん♡」


「やめなさい」


「はぁい」


「ドキドキ……」

「ごくり……」


 ディセとセッテが赤い顔で僕たちのことを見ていた。

 マセガキどもめ……


 僕は2人を無視して、カリンの背中に手を当てる。


「ご主人様の手が♡あったかい♡」


 カリンが何か言ってるが、無視して詠唱を開始した。


「――寄越せ、貴殿の全てを。簒奪の錠前。《キーラオベン》」


 詠唱を終えると、カリンの背中が光り、小さな鍵が現れる。


「鍵だ……」


 ガチン。僕はつぶやきながら、その鍵を抜ききった。


「おぉ……」


「それが私の才能なのでしょうか?」


 僕の方に向き直ったカリンとそれに双子メイドも一緒に僕が持っている鍵を覗き込む。


「そう、なのかな?」


「綺麗な金色だねー」

「でも、スキルを奪ったときより、鍵が小さいですよね?」


「うん。そうだね」


 ディセが言う通り、クワトゥルやピャーねぇから抜き取った鍵と比べると、だいぶ小さい鍵だった。いつもの鍵が部屋のドアの鍵くらいだとすると、カリンから抜き取った鍵は南京錠の鍵くらいの大きさなのだ。


「開花前の才能だから、小さいのでしょうか?」


「その可能性はあるね」


「あとは、色ですが、今までの実績からすると、虹色の鍵がSランク、金がA、銀がB、銅がC、鉄がD、石がEランクでしたよね?」


「うん」


「つまり、私の才能はAランク相当、ということでしょうか?」


 カリンの鍵はたしかに金色だ。だから、その予想は当たっているように思える。


「その可能性が高いと思う」


「すごーい!カリンちゃんAランクなんだ!」


「ディセたちはBだったので、羨ましいです」


「まだスキル発現前なので何とも言えませんけどね。ありがとうございます、2人とも」


「ふむふむ。とにかく、スキル発現前でも才能らしき何かは奪えることがわかったね。ありがとうカリン」


「いえ、これくらいなんでもありません」


「とりあえずこの才能はカリンに返すよ。すごい才能だと思うし」


「わかりました。よろしくお願いします」


 そして、また背中を向けてもらい、カリンの背中に鍵を差し込んだ。鍵穴が光り輝き、鍵はすぅとカリンの身体の中に消えていく。


「よかった。ちゃんと戻るみたいだ」


「実験成功ですね」


「うん」


「これで次の目標が決まりましたね」


「そう、だね。結構危険な気もするけど、次の目標は、マーダス・ボルケルノの才能を奪って、ギフト授与式で失敗させること」


 そんな物騒な目標が、僕たち裏組織の中で決まったのであった。

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