第43話 エピローグ

-2年後-


 15歳になった僕は、キーブレス王国の首都にある学園の正門の前に立っていた。


 ここは、シュリーセル王都学園。王族と貴族、選ばれた者しか通うことを許されていない学園だ。学園には、大学から中等部までの幅広い年齢の学生が在籍し、将来、キーブレス王国の国事を担う人材を育成している。今日から僕はここの生徒になる。もちろん、この人も。


「今日からこの学園の生徒ですのねー!お友達はたくさんできるかしら!」


 制服に身を包み、両手を合わせてワクワクした顔を見せる少女。17歳になった僕の姉、ピアーチェス第五王女だ。ピャーねぇの制服は、白ベースのブラウスと短めのプリーツスカートで、ところどころに装飾されている帯の色は金色だった。

 いつもはドレス姿なので、こういった服は新鮮である。うん、制服を着てても可愛いな、僕の姉さんは。何を着ても可愛いけど。


「お姉様なら、きっとたくさんお友達ができますよ」


「あら!シューネはいつだって、わたくしが喜ぶことを言ってくれますわね!」


 似たデザインの制服を着たシューネ・ボルケルノがピャーねぇに話しかけていた。シューネは、この2年間、ボルケルノ家の正式な跡取りとして切磋琢磨してきた。Sランクのスキルを授かったことで、父親から認めてもらったそうだ。そんなシューネが着てる制服は、ピャーねぇと同じデザインに見えて少しだけ違う。白ベースのブレザーとプリーツスカートは同じなのだが、制服のデザインとして入っている帯の色が違うのだ。

 ピャーねぇの制服の帯が金色なのに対して、シューネの帯はいくつもの色がグラデーションのように重なっている。いわゆる虹色と解釈できる色だ。そう、この学園は、スキルのランクによって制服のデザインが違うのだ。当たり前のように差別、区別が存在している、この国の縮図のようなデザインで、正直、気分が悪い。でも、高ランクである虹帯と金帯の制服を僕の家族が着れていること自体は、嬉しく思えた。2人ともが国に認められたという証でもあるからだ。


「それにしても、入学前にちゃんとスキル鑑定してもらえて良かったね」


「ホントですわ!一体どれだけ待たされたと思ってますの!わたくし!2人もSランクを授与したのでしてよ!Aランクで当然ですわー!おーっほっほっほっ!」


 つい先月、正式にスキルの再鑑定を行い、Aランクと判定されたピャーねぇは、完全に天狗になっていた。長年Eランクとして虐げられてきた反動もあってか、最近のピャーねぇはテンションが高い。あまり調子にのるようなら、早めにその鼻をへし折らないといけないな、とも思うが、僕はニコやかにピャーねぇの高笑いを聞いていた。

 やっと国に認められて嬉しそうにするピャーねぇのことを見ていると、すごく嬉しくて、誇らしくて、怒る気になんてなれなかった。それに、これまで苦しかったことを思い出し、泣きそうになる。


「あら?ジュナ?どうしたんですの!」


 僕が目をこすっていると、心配そうな顔を向けてくるピャーねぇ。


「ううん、なんでもない。目にゴミがね……」


 僕は、泣いてることを悟られないように、ゴシゴシと目をこする。そんな僕のことを新入生たちが遠巻きに注目していた。


「おい、あいつの帯の色……」

「まさか本当にあんなやつが入学するのか……」


 周りからひそひそと噂する声が聞こえてくる。


「お兄様、お気になさらず。わたしのそばにいれば大丈夫ですので」


「うん、ありがと、シューネ」


 僕は自分の制服を見る。ピャーねぇたちの制服と似たデザインの長ズボンバージョンの制服なのだが、問題はそこじゃない。帯の色が黒なのだ。つまり、


「なんだあいつの帯の色、黒帯?もしかして、あいつがスキル無しの第十七王子か……」


 そう、僕の立場は、未だスキル無しのままだ。だから、周りの新入生たちは僕を遠巻きに見て、避けるように歩いていく。


「スキル無しがなんだって言うんですの!ジュナはとっても優しくて凄い子なんですのよ!キー!」


 ピャーねぇに威嚇された生徒たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


「ちょ、ちょっとピャーねぇ、恥ずかしいよ……」


「うふふ♪大丈夫ですのよ、ジュナはわたくしとシューネが守ってあげますわ」


「あ、ありがとう……」


 なんとも情けないことだ。こんなに可愛い女の子たちに守ってもらうことになるとはね。


「ふふ、でしたら、わたくしも、ジュナくんのこと守ってあげますね」


「はい?……またあなたですのね……ナナリア第七王女」


 ピャーねぇがジト目を向ける先に、車椅子の少女がいた。銀色の帯の制服を着こなしたナナリア王女だった。

 いつもの取り巻きの2人も同じ制服を着ている。帯は白、スキル未発現者ということになる。


「……ご機嫌よう、ナナリア王女」


「あらあら、ジュナくんは相変わらず冷たいですね。いつになったら、ナナおねえちゃんと呼んでくださるのでしょう?」


「だから、呼びませんってば……」


 このナナリア王女とは、たびたびお茶を飲む関係になっていた。僕としては、良識のある王族とは仲良くしておきたいし、あわよくば仲間になってもらいたい。そう思って、月に一度は会うようにしていたのだが、なんだかこの人は底が知れなくて、深くは踏み込めずにいた。


「うふふ♪」


 今日もナナリア王女の赤い目は怪しく光っている。


「それでは、同じクラスになるといいですね。またのちほど、失礼いたします」


 そう言い残し、ナナリア王女は離れていった。


「僕たちもそろそろ行こっか、入学式までそんな時間ないよね」


「そうですわね!行きましょう!ジュナはわたくしたちから離れないように!」


「お兄様はわたしが守ります!」


「あー、うん……お願いします……」


 僕は両手にAランクとSランクを従えて、学園の門をくぐる。この学園でなにが起こるのかはまだわからない。でも、生徒会室の窓辺から、僕たちのことをデュオソーンが見ているのを、僕はハッキリと認識していた。


 おまえが見ているのが僕だけなら構わない。でも、おまえが僕の大切なものを奪おうというなら、容赦はしない。


 絶対に奪わせない。


 逆に、おまえの全てを奪ってやる。


 僕とキーブレス王家との戦いは、まだこれからも続いていくのだ。決着がいつになるかもわからないほど、長い戦いがこの先には続いている。だけど、僕は諦めるつもりはない。

 絶対にこの国を取って、ピャーねぇをシューネを、大切な人たちを守るんだ。そう強く思いながら、桜が舞う学園の庭を歩いていった。




~Fin~

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