第2話 前世の記憶
「ねぇ、ユート……僕さ、橘さんのことが好きなんだけど……」
「へ?マジ!?マジかよ!ついにおまえも恋愛なんてものに手を染めたのか!」
バンバン!学校帰りの歩道橋で、僕は親友のユートに背中を叩かれていた。
「いたい!いたいよ!ユート!」
僕たちは手すりに腕を置いて、大通りを行き交う車を眺めながら話しを続ける。照れくさい話だからユートの顔は見れなかった。
「で!で!どうすんだよ!告るのか!?」
「そんな……告白なんて僕にはとても……」
「いやいや!おまえの長所は言いたいことをズバッと本音で言うことだろ!そこは男らしくいけよ!」
「で、でも……」
「なんだよ情けないな!よし!じゃあ俺が橘さんに彼氏がいないかって聞いてきてやるよ!ついでにおまえのこともオススメしといてやる!」
「ほ、ほんとに?それは嬉しいな。さすが僕の親友だ。頼りになる」
「ああ!任せとけって!」
僕は最後までユートの顔を見ることはなかった。照れ臭かったから。でも、あのとき、あいつはどんな顔をしていたのか。見ておけば、なにか変わったのかな。
♢♦♢
「じゃあ、学園祭の出し物は巨大迷路でいいかな?」
僕は、高校の教室で、黒板の前に立ってクラスメイトたちに確認した。文化祭実行委員として出し物を決めるためだ。
「えー!あたしは喫茶店がいい!そんで可愛い衣装着るんだー!いいっしょ!」
僕の問いかけに対して、うちのクラスのギャル、中村さんが反論してくる。
まったく……
「いやいや、だから中村さん、それはダメだって言ったよね?喫茶店だと衛生管理が不安だし、もし食中毒でも出したら大変だよ?それに衣装は誰が作るのさ?市販品を買うにしても喫茶店の材料費を考えると絶対予算オーバーするよ」
「えー……なにそれー、だるぅ……」
シーン。僕がいつもの調子でまくしたて、クラスカーストのトップである中村さんが渋い顔をするとクラスの空気が重くなる。あのギャルを怒らせたらマズい。そんな空気だった。
「はは!おまえズバズバ言い過ぎ!ようは皆で楽しく!予算内で最高の出し物作ろうってことだろ!そして安全にな!」
「もちろんだ、ユート」
「だってよ!中村!ここは俺の顔に免じて!なっ!」
「……ユートが言うなら、別にいいけど……」
「あんがとよ!愛してるぜ!」
「なっ!?あんたホントさいてー!女子みんなに言ってるっしょ!」
「はははは」
教室の空気が一気に明るくなる。
「では、これで学園祭の出し物は決定とします。なにか文句があったら実行委員の僕まで」
「おまえ言い方悪すぎ!みんな!アイツも楽しもうとしてるんだ!許してやってくれ!俺も協力すっからさ!」
「はははは」
こうして、明るい雰囲気のまま、学園祭についての話し合いは終わった。
僕の親友、ユートはほんとにすごい。あいつが喋るだけで、みんなが笑顔になるんだ。
僕もあいつみたいになれたらな……
♢♦♢
-数ヶ月後-
「俺、橘さんと付き合うことになったんだ……」
「は?」
「ごめん……」
「何言ってんだ?ユート?」
僕は学園祭で実行委員として働いたあと、後夜祭に向かおうとしていたところだった。
赤い太陽が照らす廊下で、ユートに呼び止められたと思ったら、訳の分からないことを伝えられる。
「橘さんと付き合う?ユートが?」
「ああ……」
「いやいや、だっておまえ、散々僕の相談にのって……あ!冗談だよな!だって!親友の好きな人を奪うなんてそんなこと!」
「……ごめん」
さっきから僕の目を見ようとせず、ずっと下を向いている親友。あれ?こいつの顔ってどんな顔だったっけ?
ふらっ……
ユートの様子からそれが嘘じゃないと理解した。理解したら、目眩がした。そのまま、窓際にもたれかかる。
「大丈夫か!?」
「大丈夫か、だって?大丈夫なわけないだろ?親友に好きな人を奪われたんだぞ?」
僕は顔も思い出せない親友に強い言葉をぶつける。
「それは……ごめん……」
「なんだよ……謝ってばっかで……謝れば許されると思ってんのかよ……」
反論しないユートに怒りが膨れ上がっていった。
「……」
「もう、おまえの顔は見たくない……」
言葉が止まらなかった。
「……ごめん」
親友だと思っていたやつが僕の前から去っていく。とぼとぼと。あいつの背中は凹んでいるように見えた。
なんだよ、辛そうにしやがって……辛いのは僕の方だろ……
そんな、誰にぶつければいいかわからない怒りを抑え込んで、僕は一人で後夜祭へと向かった。
♢
校庭に出ると、文化祭で賑わっていたたくさんの出店が迎えてくれる。
もうすぐ閉会ということもあり、みんな「今日は楽しかったね」なんて言って笑顔で語り合っていた。僕もさっきまでは同じ気持ちだった。さっきまでは……ほんとに、楽しかったんだ……
涙が出そうになるのを堪えて、後夜祭の準備のためにキャンプファイヤーの場所に足を進める。
僕は実行委員だから、自分の仕事をしないと。
「だからさー!ちょっとくらい良いじゃん!お姉さん!」
「ダメだって言ってるでしょ!さっさと帰りなさい!他校の生徒は後夜祭には参加できません!」
「じゃあさ!お姉さんが俺たちと遊んでよ!カラオケとかでさ!へへへ!」
「なんでそんなことしないといけないんですか!」
揉めているような声に前を向くと、うちの女生徒1人と他校のヤンチャそうな男子が3人、言い争っていた。男たちの方は知らない顔だが、たしか治安が悪いって有名な高校の制服だ。
女子の方は風紀委員の……なんて名前だったっけ。黒髪のロングヘアーで、きつそうな目をしている女子だったが、直接話したことはないので名前を思い出せない。
「ほら!いこーぜ!」
「やめ!やめなさい!ちょっと!離して!」
風紀委員の女生徒が手を掴まれ、男たちに連れていかれそうになる。周りのみんなは遠巻きに見てるだけで誰も助けようとしない。なんなんだ、みんな我関せずか。そうだよな、あんなトラブルに関わったら損しかしない。そんなこと、僕にだって分かっていた。でも、
「おい、キミたち、その手を離せ」
「あ?」
僕はヤンキー3人の前に出て話しかけていた。
「なんだおまえ?」
「僕は学園祭の実行委員だ。もう後5分で学園祭は終わる。すみやかに正門から外に出ろ」
「はぁ?引っ込んでろ、俺たちはこのお姉さんと遊びに行くからよ」
「迷惑だと言ってるのが分からないのか?」
「あ?」
「彼女の手を離して、さっさと帰れ。クソヤンキーどもが。警察を呼ばれたくなかったらな」
ユートのことがあって、気が立っていたのかもしれない。
元々言いたいことを考えずに口走る癖はあった。でも、いつもはここまで口は悪くはなかったはずだ。
「ぶっ殺されてーのか?」
ヤンキーの目の色が変わる。
カシャン。今どき隠しナイフかよ。そう思ったときには、すでにそいつが凶器を構えたあとだった。
「キャー!!」
周りの女生徒が悲鳴をあげる。
「これは警察を呼ぶしかないな。もし僕を刺したらキミたちは少年院行きだ。何もしなかったとしても、補導はされるだろうがな」
「あぁ、そうだろうなぁ?じゃあ、おまえを刺しても同じってことだよな?お利口なお坊っちゃん?」
ニンマリとした不気味な顔だった。
ユートの顔は思い出せないのに、。僕は、僕を刺したやつの顔はハッキリと覚えている。
赤い空。空が見える。誰かの声も聞こえる。
そうか、風紀委員の……名前なんだっけ……
てかさ……
親友に好きな人を奪われて、どうでもいいヤンキーに命まで奪われて、僕の人生ってなんだったんだろうな……
こんな……
奪われるだけの人生……
クソくらえだ。
【奪われるくらいなら、奪う側に回ればよかった】
そう考えたところで、僕の意識は無くなった。
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