第3話 転生と死刑宣告
はぁ、ひどい人生だったな……
薄れゆく意識の中そう思っていると、頭上から大きな声が聞こえてきた。
「奥様!奥様!男の子ですよ!おめでとうございます!」
「あぁ……そうですか……男の子……顔を見せてもらえますか?」
「はい!どうか優しく抱いてあげてください!まだ首がすわってませんので!」
んん?なんだなんだ?
目を開けると、僕の目の前には、メイド服を着た若い女の人たちが数人、慌ただしく動き回っていた。その中の1人が僕を抱えて、金髪の女性に受け渡す。
おいおい、ずいぶん怪力だな。僕は高校生だぞ?50キロ以上あるんだけど……
「あぁ……私の可愛い赤ちゃん……」
金髪の優しい顔をした女性が僕の頭を撫でてくる。
赤ちゃん?誰のことだ?というか、この人あきらかに日本人じゃないけど誰なんだ?髪は金髪だし、目は緑だし。
今は汗だくでグッタリしているが、なんだか上品な所作をしている気がする。それに、メイドさんを雇っているということは、どこかの国のお金持ちだろうか?てか、今どきメイドなんてホントにいるんだな。
「奥様!王子のお名前は!なんてお名前にするんですか?」
王子?
「そうですね……この子は……ジュナ……ジュナリュシア・キーブレス」
「ジュナリュシア王子!素敵なお名前です!」
「ありがとう……」
この日、僕はキーブレス王国の王子として転生した。
♢♦♢
-7年後-
「んー……」
僕は母上の化粧台の椅子に座って自分の顔を眺めていた。端正な可愛らしい顔をしている。いわゆるイケメンだろう。いや、どっちかというと中性的な顔なので、美少女か?いやいや、性別はちゃんと男なんだし、イケメンだと胸を張ろう。
前世とは似ても似つかない顔をキリっとさせた後、そっと髪の毛を触る。
「銀色だ、何回見ても……」
僕の頭は銀色に染まっていた。アニメキャラみたいな色だが、着色料で染めているわけじゃない。地毛だ。前世の僕はなんの変哲もない黒髪だったので、7才になった今でも新鮮さを感じていた。そんなアニメキャラみたいなやつが鏡の中でこっちを見ているのだ。そいつのエメラルドグリーンの瞳と目が合う。
「僕、転生したんだよなぁ……」
「王子ー!ジュナリュシア王子ー!どこですかー?」
「おお?」
自分と睨めっこしていたら、メイドが呼ぶ声が聞こえてくる。
「はぁーい!」
ガチャ。
「こちらにおられましたか!もうすぐ鑑定式のお時間ですよ!さぁ!急いで!」
「はぁい」
幼い僕は、メイドさんに手を引かれ、屋敷の外に連れて行かれる。
僕の隣では、黒と白のメイドスカートがふわふわと揺れていた。うーむ、僕が当主になったらスカートはもっと短くしてもいいな。そんな、しょーもないことを考えていると、玄関の前に停めてあった馬車に放り込まれた。
♢♦♢
-キーブレス王国 王城 スキル鑑定の間-
僕が馬車で連れてこられた場所には、10歳にも満たない男女が10名ほど集められていた。
みな、高そうなタキシードやドレスを着させられている。かくいう僕もそうだ。みんなと同じように中世ヨーロッパの貴族が着てそうな豪華なタキシードを着ていた。
しかし、そこに集められた子どもたちと僕には、大きく異なる特徴がひとつ。髪の色だ。僕以外は、全員が金髪なのに、僕だけが銀髪だった。周りの何人かに稀有な目を向けられる。この国では銀髪は珍しいのだろうか?それとも王族では?まわりからの視線に少し居心地が悪いと感じていると、
「それでは!これより王家の皆様のスキル鑑定を行わせていただきます!スキル鑑定とは言いましても、皆さまはギフトキーのスキルをお持ちとなっておりますので、ギフトキーのランクを鑑定することになります!」
神官服の老人が祭壇の前にやってきて、大きな声を出したので、みんな前を向いて静かになった。もちろん僕も同じように前を見る。今日は、キーブレス王国の王子、王女たちのスキルを鑑定する儀式の日ということで、僕はそれに参加させられていたのだ。
「国王陛下は、ギフトキーのランクはもちろんSランク!第一王子様から第三王子様も同様にSランクとなっております!皆様にも高ランクの祝福がありますように!それでは!最初に第四王子クワトゥル様!」
名前を呼ばれた男児が前に出る。目が細くガリガリで不健康そうな子どもだった
姿勢が悪いせいか自信が無さそうに見える。
「それでは!鑑定致します!水晶にお手を触れてください!」
不健康そうな細目が水晶に手を触れる。そして、老人が水晶を覗き込んだ。
「クワトゥル第四王子様のランクは!Aランクになります!素晴らしい!おめでとうございます!」
「A?私が?Aランク……や、やった……」
ランクを告げられた細目は、小さくガッツポーズをしながら後ろに下がった。下がってからもワナワナと喜びに震えている。
「続きまして!第五王女ピアーチェス様!」
次に、ピアーチェスと呼ばれた女の子が前に出る。おぉ、金髪縦ロールだ、と心の中で呟く。美しい金髪を上品にくるくると巻いた女の子は、これまた上品な所作で前に歩み出た。
端正な顔立ちで、お人形さんのように可愛い。でも、吊り上がった目頭から、少し意地悪そうにも見えた。自信に満ちたその瞳は、僕と同じエメラルドグリーンに輝いており、同じ血筋なんだということを意識させる。
「水晶にお手を!」
そして、金髪縦ロールが水晶に両手を触れる。
「ピアーチェス第五王女のランクは!ランクは……これは……」
ん?どうしたのだろうか。鑑定士の老人が驚いた顔をして、言い淀んでいた。
「なんですの?はやく教えていただけます?高貴なワタクシのランクを、Sランクかしら?」
ふふん!そんな擬音が聞こえてきそうな高慢な態度であった。よっぽど自分の才能に自信があったんだろう。しかし、鑑定士から伝えられたランクは――
「ピアーチェス様のスキルランクは……Eランクになります……」
「……え?」
ざわざわ。周囲がざわつきだす。
「E?Eだって?Aじゃなくて?」
「キーブレス王家でEランクなんて今までいた?」
「いるわけないじゃん、いたら奴隷落ちだよ」
「……そんな!そんな馬鹿なことありえませんわ!もう一度測定なさい!」
「は!申し訳ございません!」
王女からの命令に恐縮し、もう一度計測を行う鑑定士。しかし、何度測定しても、彼女のランクが変わることはなかった。いつしか、金髪縦ロールの吊り上がっていた眉はどんどんとへの字になり、青い顔になっていった。
「ピアーチェス様……お下がりください……」
鑑定士が不憫なものを見るような目でうながすと、下を向いてドレスの裾を握りしめ、元の位置まで戻る王女。
そんなピアーチェス王女のことをさっきAランクと測定されたクワトゥル王子がニヤついた顔で眺めていた。気持ちが悪いヤツだ。本能的にそう思ってしまう。人が凹んでいるときに、なんであいつは笑っているんだ?
てか、ランクが低いとなんかマズいんだっけ?僕がボーッとしていると、どんどんと子どもたちのスキル鑑定が進んでいく。何人か欠席者はいたようだが、ほとんどの子は、BかCランク、Aは数人、SとCより下は1人もいなかった。
なるほど、王族だと高ランクが多いようだ。だとすると、あのピャーなんとかいう王女は気の毒だな。Eランクということで、いじめられるかもしれない。このときの僕は、それくらいの軽い認識だった。低ランクを言い渡された人間の行く末について、理解していなかったのだ。
「最後に!第十七王子!ジュナリュシア様!前へ!」
王女のことを憐れんでいると、僕の番になった。前に出て、さっと水晶を触る。きっと平凡な僕はCランクとかだろう。そう思いながら、水晶を眺める。しかし、さっきまでみんなが手を触れると光っていた水晶がうんともすんとも言わない。
「これは……」
ん?
「これは……スキル無し……です……」
んん??
ざわざわ。ピアーチェス王女のときと同じように、いや、それ以上のざわつきが起こる。
「王家でスキル無しとは……これは……やはり、銀髪には呪いがかかってるのか……」
目の前の老人が僕の髪を見て、恐ろしいものを見てるような目を向けてくる。
「スキル無しだって?」
「そんなやつが王家であるはずが……」
「貧民街の出なんじゃない?銀髪だし」
「あいつ、終わったな」
「……」
どうやら、僕の第二の人生は、齢7歳で終わってしまったらしい。
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