第22話 守りたい人が増えたとき

さらに翌朝


Cの体調がある程度良くなり、立てるようになってから、僕は一旦家に戻ることにした


「いかないで!」


僕が小屋から出ようとすると、Cに腕を掴まれる


「C!ダメでしょ!ごめんなさい!」


お姉さんのDが、Cをなだめようとする


「大丈夫、すぐ戻ってくるから」


「ほんとに?」


「うん、ほんとだよ、待っててくれる?」


僕はCの頭を撫でて、諭すように言う


「うん、、待ってる、、帰ってきてね?」


「ありがとう、Dもここにいてね」


「はい、、わかり、ました、、」



僕は一旦自宅に戻り、食料と2人の服を持って家を出た


1時間もしないうちにスラム街のDとCの家に戻ってくる


「おまたせ」


「あ!おかえり!」

「おかえりなさいでしょ!」


「あ!おかえりなさい!」


「ただいま

お腹すいたよね、これどうぞ」


僕は、昨日渡したフランスパンじゃなく、

ハムや野菜を挟んだサンドイッチが詰まったバスケットを渡してあげる


「すごい!いいの!?」

「こんな、、高そう、、」


目をキラキラさせるCと

申し訳なさそうなD


「2人に食べて欲しいな、2人のために僕が作ったんだ」


「いただきます!」

「じゃ、じゃあ、、ありがとう、ございます、、」


「おいしー!」

「すごく、、美味しいです、、ぐすっ、、」


僕は2人がお腹いっぱいになるまで、しばらく待つことにした



「お腹いっぱいになったかな?」


「うん!ごちそーさま!」

「ごちそうさまでした、美味しかったです」


「そっか良かった

ところで、2人にお願いしたいことがあるんだけどいいかな?」


「なぁに?Cができることならなんでもするよ!」

「が、がんばります、、」


無邪気なCと少し警戒しているD

一体なにをお願いされるのか、怖いようだ


「2人には、僕の家でメイドとして働いて欲しいんだ」


「めいど?」

「それは、、なにをすれば、、」


「たとえばお掃除とか、お料理とかかな」


「お料理、、できません、、」

「Cもできない、、おねえちゃんが、怒られるのはやだな、、」


僕の提案を聞いて、自分たちには能力がないとしょんぼりとする2人

でも、そんなこと、僕にとってはどうでもよかった


「大丈夫、僕が教えるから

今はできなくっても問題ないよ

もちろん、上手くできなくっても絶対に怒ったりしない」


怯えた表情を見せる2人に怒らないことを約束する


もしかすると、奴隷商に怒鳴られた経験があるのかも、と察したからだ


「ほんとに?」


「うん、怒ったりしないよ」


「ならがんばる!」

「Dも、、がんばります!」


「良かった、ありがとう、助かるよ

今、うちにはメイドさんが1人もいなくてね

探してたところなんだ」


本当の目的は国取りのための人材集めだったが、

まぁメイドが欲しかったというのもホントだし、女の子2人を雇うならメイドという仕事はちょうどいいと思う


「じゃあ、さっそくうちに引っ越してもらってもいいかな?」


「引っ越し?ですか?」


「うん、2人にはうちの家に住み込みで働いてもらいたい

ちゃんと2人にも部屋を用意する

どうかな?」


「Cはいいよ!」

「Dは、、」


なんだか、Dの表情が硬かった

なにか懸念がありそうだ


「このお家が好きだったかな?」


「ううん、、ぜんぜん、、Cと同じ場所、、ですか?」


同じ場所で働けるのか、という意味だろう

そうか、離れ離れにされることを懸念してるんだな


「もちろん、2人とも同じ家の中で働けるよ

部屋も同じ部屋にしてもいい」


「なら、、はい、お、お願いします!」

「あ!お願いします!」


Dがぺこりと頭を下げたら、

Cもそれを真似して頭を下げた


「よし、決まりだね

なにか、この家にあるもので、持ってくものはあるかな?」


「えっと、、これ、、」


Dが僕の上着を持ち上げる


「それだけでいいの?」


「はい、、」


「Cもなにもないよ!」


「わかった、じゃあ2人ともこの服に着替えてくれるかな?

僕は外で待ってるから」


そう言って、2人に用意していた服を渡し、僕は小屋の外に出た


しばらくしたら、着替え終わった2人が小屋から出てくる


「おまたせ!あ、しました!」

「着替えました、、」


「お、いい感じだね」


小さい女の子用ではないのでぶかぶかではあるが、

ロングスカートのメイド服を着た2人がそこにいた


「2人ともかわいいよ」


「かわいい?ほんとに?」

「かわいい、、Dが、、」


「うん、さっそく僕の家に行こうか

その格好だと目立つしね」


僕たちは、空が明るいうちに移動を開始した


後ろから

「かわいいって!おねえちゃん!」

「そ、そうね、、」

なんて会話が聞こえてくる


スラム街を歩いて行くと、

なんでここにメイドが?

と稀有な目を向けられるが、早足で通り過ぎて無事に門の前まで来ることが出来た


そこまで来たら、僕もいつもの服に着替えて城下町に入る


そして、そのまま王城の中に入った


門番は僕を見ると腫れ物を扱うように無視し、

後ろのメイド2人のこともスキル無し王子の付き人だと勘違いしてスルーされる


「ふぅ、、」


僕はひっそりと息を吐いた

もしかしたら、メイド2人の身分確認とかしてくるかもと懸念があったからだ


杞憂だったようで、自宅まで無事に到着することができた


玄関を開けて2人を迎え入れる


「ようこそ我が家へ」


「すごーい!おっきなお家!ここに住んでいいの!?」


「うん、今日からここで一緒に暮らそう」


「わぁーい!おねえちゃん!すごいね!」


「、、あの」


「なぁに?」


「あなたは、、ジュナさんは一体?」


「あ、そっか言ってなかったっけ

改めて自己紹介するね

僕はジュナリュシア・キーブレス

キーブレス王国の第十七王子だよ

今日から2人には僕付けの専属メイドになってもらう

よろしくね」


「王子様だったの!?すごーい!!」

「王子、、様、、」


「あのさ、2人のDとCって名前って、ご両親から付けてもらったものじゃないよね?」


僕はずっと気になっていたことを質問する


「はい、、奴隷商に、、」


「うん、わかった

じゃあさ、よかったら、僕が2人の名前を付けたいんだけど、いいかな?」


「なまえ、、くれるんですか?」

「Cもなまえ欲しい!」


「うん、それじゃあ、、

僕は第十七王子だから、十七のディセットからとって、

ディセとセッテ、っていうのはどうかな?」


♢♦♢


-時は現代に戻る-


これが2人との出会いだった


スラム街のこの小屋を見たら、つい思い出してしまった

あのときは入り口に布が被せられていたが、今はそれはなくて、小屋の中は誰も使っていないようだった


「ディセは、ジュナ様に拾われて幸せです、、」


隣のディセが感慨深そうにつぶやく


「セッテも!セッテもジュナ様だいすき!」


「ありがと、2人とも

僕もあのとき2人に会えたことが本当に嬉しいよ

僕のメイドになってくれて、ありがとう」


僕の言葉に2人が笑顔を見せてくれて、そのままスラム街の探索を続けた


あのとき、

DとCなんていう記号で呼ばれている2人に名前をつけることになって、

こんなに慕ってくれるようになるなんてぜんぜん思わなかった


今では2人とも大切な家族だ


この2人のこともずっと守っていきたい

そう思いながら、2人の後をついていった



「やっぱり、いい人はなかなか見つかりませんね」


「そうだね」


僕たちはスラム街の入り口付近まで戻ってきて、今日の成果について話し合う


「今日は一旦戻ろうか」


「帰ったらセッテがご飯作るね!」


「ありがとう、頼むよ」


僕たちが帰路につこうとすると、

ざわざわと人だかりができていることに気づく


「なんだろう?」


「行ってみますか?ジュナ様」


「そうだね、一応確認しようか」


2人に目配せしてから人だかりに近づいて行く


「またやられたか、、」

「今月で何人目だ、、」

「知らねーよ、3人だか、4人だか、、」


数十人が集まって、そんな会話が聞こえてくる

その人だかりの中心には


「っ!?」

「これは、、」

「ひどい、、」


血溜まりが広がっていた


みすぼらしい服を着たガリガリの中年男が背中を斬られて、絶命していたのだ


恐怖に歪んだ顔で大きく口を開けている

相当な痛みと、、恐怖だったんだろう、、


「くそ、俺たちがスラムの人間だからって、、」

「ゴミみたいに扱いやがって、、」

「はぁ、、死ぬときくらい自分で選びたいもんだ、、」


諦めにも似たセリフが聞こえてくる


僕たちは、目立たないように、その場から退散した

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