第41話 逆転
「お待ちください!」
「黙っておれ!ボルケルノ家の五女よ!」
シューネの発言に対し、名門貴族とはいえ五女という立場のシューネでは司会の怒りをおさめることはできなかった。
そこに「お待ちになってください」ピャーねぇがゆっくりと立ち上がって、階段を降りてくる。
それを見て、司会の爺さんは一旦口を紡ぐ。王家への忠誠は確かなようだ。しかし、マーダスの所業に納得がいかない爺さんは、ピャーねぇが祭壇に到着すると同時に口を開いた。
「ピアーチェス様……しかし……」
「シューネ・ボルケルノはわたくしの義理の妹、此度の無礼、お許しください。そして、妹の発言をお許しいただけないかしら?」
「は、はっ!」
王族からの丁寧な物言いに、恐縮したように一歩下がる爺さん。
「シューネ、壇上に」
「はい!」
シューネが祭壇の上にのぼってきた。
マーダスは取り押さえられ、ヘキサシスはおろおろしている。
「ヘキサシスお兄様はお戻りになってください」
「へ?あ、ああ!あとは任せた!」
ピャーねぇに促されたヘキサシスは逃げるように階段をのぼっていった。もはや、あいつは部外者といってもいい。
問題となっているのは、マーダスの処分。しいては、ボルケルノ家の処分だ。
ピャーねぇが話を再開する。
「シューネ、なにか意見があるようですね?」
「はい!兄マーダスの処分!わたしのスキル授与の結果を見てからにしてはいただけないでしょうか!」
「おまえは黙っていろ!愚妹の分際で!」
「マーダス殿、あなたはこれ以上しゃべらない方がよろしいですわ。それに、わたくし、あなたには色々思うことがありますの。これ以上、ご自身の立場を悪くしないでくださいまし」
「くっ……」
「シューネ、それは、高ランクのスキルを授かったら、その権力によって、兄を許せという意図でしょうか?」
「いえ!お兄様には然るべき罰を!しかし!命だけは助けてください!」
「いいでしょう。もし、あなたがSランクを授かったら、考える余地があります。その力を持って、王家に貢献なさい」
「はい!」
ピャーねぇの提案に、会場がざわつく。
「Sランクだって?」
「この前たまたまSランクを授与したことで調子にのってるのか?」
「シューネ・ボルケルノとは誰だ?先ほどの無能の妹ならSランクなど夢のまた夢だろう」
そんな声が聞こえてくる。僕は、そいつらの声をシャットアウトして、祭壇の上を見た。
シューネは大丈夫だ。ピャーねぇだって。
僕は手すりを握りしめて、2人のことを心の中で応援した。
2人ならできるはずだ。
「それでは、スキルの授与を始めます、シューネ、こちらへ」
「はい!お願い致します!お姉様!」
シューネとピャーねぇが祭壇の中心に歩いていき、シューネが跪いた。ピャーねぇが両手を掲げる。
「我、ピアーチェス・キーブレスは、キーブレス王国の名の下に、汝に祝福を授けよう。汝の培ってきた才、育ててきた才、それを超えるものを与えよう。この新たな才が、汝とそして汝の大切な者たちに祝福あらんことを切に願う。目覚めよ。何にも代え難い才覚よ。《ギフト・キー》」
詠唱を終えたピャーねぇの両手から光が溢れ出す。目を覆いたくなるような、まばゆい光だった。その大きな光はやがて収束し、鍵の形を形成する。ピャーねぇの両手の間には、虹色の鍵が浮いていた。
「なっ!?バカな!!」
マーダスは驚愕している。もちろん、会場の貴族たちも。
それらを無視して、ピャーねぇは、鍵をそっと握り、シューネにつきさした。
カチリ。
ゴォォォ!
鍵が開く音がしたかと思うと、シューネの身体から、白い炎が立ち上った。メラメラと、天井付近まで燃え広がり、炎は霧散する。
「……」
見たこともない、美しい白い炎を目の当たりにして、会場内に静寂が訪れた。
「鑑定を」
「……はっ!」
司 会の爺さんが水晶を持って、シューネに近づき鑑定をはじめる。そして、
「シューネ・ボルケルノ殿の!スキルは!Sランクの!炎魔法である!!」
「おぉぉぉ……」
会場から驚きの声、そして、
「そんな……そんなバカなことが……」
マーダスのブツブツ言う声が聞こえてくる。
「シューネ」
「はい!」
「あなたの望みをもう一度聞かせていただけますか?」
「兄の命をお助けください!」
「あなたを虐待し続けた男でもですか?」
「それでも!この人は!わたしの兄です!」
「っ……シューネ……おまえ……」
マーダスはシューネのことを見る。そして、諦めたように顔を伏せた。
「衛兵の皆さん、マーダス・ボルケルノを牢へ。牢の鍵はボルケルノ家の当主へ渡してください。本件の処分は、当主とシューネ公爵に一任いたします」
「ありがとうございます!お姉様!」
シューネはもう一度頭を下げて、祭壇を降りた。
マーダスが連れていかれ、ギフト授与式は一応の平静を取り戻す。しかし、小声で話す貴族たちは大勢いた。2回連続でSランクを授与したピャーねぇは何者なんだって声が多いように思う。とにかく、上手くいって良かった。
シューネには、マーダスを倒した後、抜き取った虹の鍵を差し込んであった。だから、シューネがSランクのスキルを授かれたことは不思議なことじゃない。
でも、絶対に成功するかどうかはやってみないとわからない。なので、心底安心した。
どちらかというと、シューネにマーダスの才能の鍵を差し込むことを提案したときに、抵抗を示すシューネを説得する方が大変だったかもしれない。最初、「自分の兄の才能を奪うなんて、やってはいけないことだ」、とシューネは言っていた。
そんなシューネに、「でも、このままだとボルケルノ家が没落する。キミなら家を守れるかも」と伝えたら、「自分が家を守る」と言って、長い説得のうえ受け入れてくれたのだ。
シューネの優しさに付け込んだやり方で良心が傷んだが、ピャーねぇとシューネ自身を守るためだ、仕方ない。とにかくこれで、シューネもピャーねぇも国に認められることとなる。シューネは複雑な気持ちだろうけど、僕としては万々歳だ。
ふぅ……今晩はお祝いかな……
僕がまったりとした気持ちでギフト授与式の閉式を待っていると、最後の1人の授与が始まった。あ、そういえばナナリア王女の授与がまだ残っていたな、と思い出し彼女の方を見る。
ナナリア王女からは、王城の庭ですれ違ってから、何度かお茶会の誘いがあったのだが、最近忙しすぎて断り続けていた。怒っているだろうか?少し心配になりながら、祭壇を見ると、授与相手はすでに跪いていた。
ナナリア王女の方をもう一度見る。ナナリア王女はまだ座っていた。そういえば、あの人って足が不自由だよな?どうやって階段を降りるんだろう?
「キーブレス王国第七王女!ナナリア・キーブレス様!スキルの授与をお願い致します!」
司会の爺さんが声を上げると、足が悪いはずの少女がすっと立ち上がった。
あれ?歩けたんだ。
そして、ナナリア王女は、階段を降りながら、歌うように詠唱をはじめた。
「私、ナナリア・キーブレスの名の下に、あなたに才を授けましょう」
形式通りなら、祭壇におりてから詠唱をはじめるはずだった。だから、式の形式とか無視かよ。そうツッコミたくなったが、美しい声にそんな邪推も無くなっていく。
「あなたの才を見出しましょう。誰にも見つけれなかった才かもしれません。しかし、私はあなたを見ていました。良き行いの者には、祝福があることでしょう。私に見せてください。あなたの本当の姿を。《ギフト・キー》」
詠唱が終わると同時に、授与相手の前に到着し、両手をかざすナナリア王女。すると、かなりの光量の光が両手から溢れ出した。それは、さっきのピャーねぇの出した光とほぼ同等に見える。
「まさか……」
そして光は収束する。そこに現れたのは、虹の鍵だった。
「あらあら、本当にすごい才能でしたね。おめでとうございます」
「はっ!ありがたき幸せ!」
カチリ。ニッコリと笑いながら、鍵を差し込むナナリア王女。授与された相手のスキルは、Sランクの風魔法であった。
皆が呆然とナナリア王女を見つめる。
彼女のギフトキーはBランクのはずだ。Sランクのスキルなんて、授けられるはずもない。
ナナリア王女は席に戻ろうと、くるりと踵を返す。みんな、その優雅な姿から目が離せなかった。もちろん僕も。
「っ!?」
そのとき彼女は、たしかに、僕のことを見て、ニヤリと微笑んだのだ。
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