第29話 うちのクラスメイトの【勇者】がチートすぎる





「あ……あ……」


「あーあ、つまんないの。たった百回くらい死んだ程度で終わりとか。前にやり合った吸血鬼の方がまだ骨があったよ」



 真央が心底つまらなさそうに言う。


 死と再生を繰り返し、カイトは半ば廃人のようになっていた。


 我が妹ながら恐ろしい。


 途中で命乞いをし始めても容赦なく首ちょんぱしたり、縦や横に切断したり、一秒に一回の感覚でカイトを絶命させた。


 それでも吸血鬼は本当に死なないらしい。


 ここまで死ねないとなると、もう羨ましいとか思わない。普通に可哀想だった。



「でもこれ、どうやって倒したら良いんだろ?」


「吸血鬼だから、銀の武器とか必要なんじゃないかしら?」


「こういう時は筋肉だ!!」


「ツッコミ待ちなら期待しないでね。何も言わないから」



 筋山くんの意見は無視して、カイトの倒し方を考える。

 流石に魅了魔法とやらを使える奴を放置しておくことはできないからな。


 もしかしたら、というか確実に被害者は出ているだろう。


 カイトの取り巻きをしていた女たちも、もしかしたら被害者なのかも知れない。

 そう考えると申し訳ない気持ちでいっぱいだが、この場に義屋さんがいないことには生き返らせることもできないため、どうしようもない。



「あ、銀の武器なら僕が持ってるよ?」


「え、まじ?」



 池照がそう言うと、どこからか剣を取り出した。



「待て待て待て待て待て。今どこから出した!?」


「忘れたのかい? 僕のスキルは【勇者】だよ?」


「え、あ、うん。そうだな。それが?」


「【勇者】は勇者っぽいことができるようになるスキル。無限にアイテムが入る道具袋は定番でしょ?」



 チートだ。


 池照はこの世界に来る前からパーフェクト人間だったが、スキルのお陰で超人化が進んでいる。



「で、その剣は?」


「タリスの町の中央広場に、台座に刺さった聖剣があるってガイアスさんが言ってたでしょ?」


「うん、言ってたな」


「それ」


「それかあ。あ、ちょっと一呼吸間を置かせてもらっていい?」


「どうぞ」



 俺は息を吸って、吐いて、また大きく吸った。



「いつの間に持ってきた!? てか抜けたのか!? その場面見たかったんだが!?」


「昨日の夜、留置場にいて暇だったから。甲伊兄にお願いして留置場を抜け出して、夜中にこっそり抜きに行ったんだ。そしたら抜けた」


「おいこら!! 俺を巻き込んでおいて自分は勇者っぽいことしてるとか何考えてんだ!! お前いつか絶対にぶん殴ってやるからな!!」


「ははは。良介って怒った時に同じこと言うけど、一回も殴られたことないんだよなあ」



 こいつ、俺が自分からは人を殴らないと思ってやがる。


 俺はやると言ったらやる男だ。


 この吸血鬼野郎をどうにかした後で絶対にぶん殴ってやる。



「でもどうやるんだ? 普通に刺すのか?」


「分かんないけど、やってみよう。真央ちゃーん、ちょっとチェンジ」



 真央が戻ってきて、池照がカイトの心臓に聖剣を突き立てる。



「ごふっ、あぎゃあああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」


「お、倒した!? なんか灰になったぞ!?」


「これで一件落着だね」



 カイトを完全に倒せたが、問題はこれからどうするかだよな……。


 いや、カイト関連ではなくて。



「その聖剣、タリスの町の名物なんだよな。返した方が良いんじゃ……」


「いえ、次の町に行きましょう」


「刀神さん? え、聖剣は?」


「カイトを倒した報酬としてもらって行きましょう。純粋に池照くんの戦力がアップするのは喜ばしいことだもの」


「あ、そ、そう……」



 それから俺たちは一旦タリスの町に戻り、依頼の報告の無償奉仕の完了手続きを済ませた。

 そして、聖剣のことがバレる前に馬車と馬ゴーレムを起動して、タリスの町から全力で逃げ出すことに。


 後で知ったことだが、町の殆どの女がカイトの魅了魔法にやられていたらしく、何やら騒ぎになったそうだ。


 町を救ったと言って良いのか、それとも新たな混乱を招いたと言うべきか……。


 まあ、その後のことは知らん。















 時はわずかに遡る。


 只野らを召喚したヴェスター王国は今、崩壊の危機を迎えていた。



「なぜ……なぜ、このようなことに……?」



 ヴェスター王国第一王女レミリアは、呆然と瓦礫の山の前に立っていた。


 その瓦礫は、少し前まで長い歴史を感じさせるヴェスター王国の王城だった。

 しかし、ヴェスター王国を象徴していたその城は今や完全に崩壊している。


 それは数日前。


 絶望は空の果てから音を上回る速度でヴェスター王国の王都上空に飛来した。


 人類の仇敵。


 圧倒的な存在感を放つその生物を見て、王都の誰もが理解した。させられた。


 この存在こそが、魔王なのだと。



『私は、お前らを滅ぼしたい』



 魔王は語りかけた。誰に対する言葉なのかは分からない。

 もしかしたら、それは魔王自身に向けられた言葉だったのかも知れない。


 魔王は続けた。



『でもお前らを滅ぼしたら、お兄ちゃんにやりすぎって怒られるかも知れない。だから、王都の民は殺さない』



 王都の民は感謝した。


 どこの誰かは知らないが、その魔王のお兄ちゃんに対して。


 それはもう感謝の意を示した。



『でも、それじゃ私の怒りは収まらない。これは私のお兄ちゃんを侮辱した、この国の王女への報復だ』



 刹那、上空に無数の魔法陣が展開する。


 それは見る者が見れば、常軌を逸している代物だと分かるだろう。


 宮廷魔法使いたちは戦慄した。


 あれが魔王なのか、と。

 自分たちの魔法が児戯であると言われても否定できないほどの高みを見た。



『――落陽は大地を暗闇に染めるメテオ



 突如、上空に出現したのは巨岩。


 ヴェスター王国の象徴たる王城を容易く押し潰せてしまいそうな……。


 否、押し潰してしまった。王城を。



『今回は人死にを出すつもりはない。これは警告だ。次にお兄ちゃんに何かしてみろ。お前らの国が地図から消えると思え』



 王城にいた者はレミリアを含め、全員怪我もなく無事だった。


 これを神の奇跡と思えるほど、ヴェスター王国の中枢にいる者たちは楽観的ではない。


 間違いなく魔王の仕業だろう。



「私は、何を間違えたの……?」



 頼りのカテアは勇者たちを捕らえようと禁足区域の森に行ったまま帰らない。


 今、重鎮たちによる緊急会議が開かれているが、何も進まない。


 と、その時だった。



「大変ですにゃあ、お姫様?」


「っ、だ、誰ですか!?」



 知らない声が聞こえて、レミリアは咄嗟に振り向いた。


 しかし、誰もいない。


 あまりのストレスに幻聴でも聞こえたのか、そう思ってレミリアが再び前に視線を向けた時。


 目の前に知らない少女がいた。


 法衣を羽織り、フードを目深に被っていて顔は分からない。



「にゃは!! びっくりしたにゃ?」


「な、だ、誰ですか、貴方は!! って、その格好は、白教会の……?」


「あー、これは仮の姿にゃ」



 少女の格好は異世界からやってきた者たちを支援する団体、白教会の神官がまとう法衣だった。


 しかし、少女はそれを仮の姿と言う。



「な、何用ですか?」


「いやー、思い詰めてる様子のお姫様に、にゃあが最高の助言をくれてやるのにゃ」


「は、はあ?」



 困惑するレミリアに構わず、少女は言った。



「簡単な話にゃ。魔王も勇者も殺せるような存在を異世界から喚べば良いだけにゃ」


「なっ……貴女は、何を言って……」


「やるかやらないかはお姫様の自由にゃ。頑張るにゃ」



 そう言うと、少女は消えてしまった。


 魔法を使ったのか、あるいは別の手段を用いたのか。それは分からない。



「勇者も魔王も殺せる存在を……」



 レミリアは少女の言葉を繰り返す。


 レミリアが書き置きも残さずに消えたのは、その翌日の出来事であった。






―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイントタリスの町のその後の話

聖剣が消えて、クラン諸共姿を消したカイトが指名手配された。


「勇者スキルの効果大雑把やなー」「真央ちゃん強くて草」「また一波乱ありそう」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る