第25話 うちのクラスメイトと妹が暴力を躊躇わなさすぎる




 刀神さんが秒でガイアスさんを倒した。


 続いて試験を受けた池照や筋山くんを見て、様子を見に来ていた他の冒険者たちも驚かされることになる。


 池照は刀神さんほど速くないが、巧みな剣技を披露し、ガイアスさんを翻弄。


 お前どこでそんなの習得したんだ。


 筋山くんに至ってはガイアスさんの戦槌を身体に何十発受けても筋肉で弾き返し、無傷のまま試験を終えたし。


 メリッサさんは騎士ということもあり、模擬戦に慣れているのか、試験をそつなくこなした。



「おいおい、すげーな。特にあのキリルって剣士は速すぎるだろ」


「いや、カズヤとかってイケメンもやるぞ。とにかく戦うのが上手い」


「それよりあのタケオとか言う奴だ!! なんだあの筋肉は!? ガイアスさんの一撃を喰らってもピンピンしてるとか怖いわ!!」



 冒険者たちが衝撃を受ける中、続いては俺の自慢の妹の番だった。


 真央がガイアスさんの前に立つ。



「ん? 嬢ちゃん、武器はどうした?」


「私は魔法使いだから要らない」


「魔法使い、か。おい、誰かアレを持ってこい!!」



 ガイアスさんが魔法使いと聞いて、野次を飛ばしていた冒険者たちにあるものを持って来させる。


 それは、淡く光る銀色の鎧だった。



「こいつは魔法使いの試験に使う的でな。ミスリル製だからまず壊れん。好きな魔法を撃って、こいつを攻撃してみろ」


「……ねぇ、一つ聞いても良い?」


「なんだ?」


「壊したら弁償とかしないとダメ?」


「ふっ、はっはっはっ!! 良い度胸だ!! 存分にやっちまえ!! ぶっ壊しても俺が弁償してやる!!」



 ガイアスさんがそう言うと、真央はミスリル製の鎧を指差した。


 そして、魔法を発動する。



「『煉獄の炎で焼き尽くせインフェルヴォル』」



 真央の指先から出た小さな火が、ゆっくりとミスリルの鎧に向かって行く。


 それを見た冒険者たちは、微笑ましいものを見る顔だった。



「は、ははは。あの嬢ちゃんもとんでもない実力者かと思ったら、肩透かしだぜ」


「ま、まあ、あの歳で魔法が使えるだけでもすげぇだろ」


「だな。将来は中級魔法くらい使えるんじゃねーか?」



 などと冒険者たちは笑い合っていた。


 しかし、ミスリルの鎧に真央の魔法が着弾した途端に真っ青に染まる。


 ミスリルの鎧がどろどろに溶けて腐り落ちた。


 どうやらミスリルには本来、強力な魔法耐性があるらしく、それをあっさりと壊してしまった真央の魔法に戦慄しているようだ。


 流石は真央だな。



「お、驚いたな。まさか本当にぶっ壊しちまうとは。……弁償代、いくらになるんだ……?」



 ガイアスさんが財布の中を見ながら冷や汗を掻いている。


 なんか、すみません!!



「よ、よし。気を取り直して、お前さんが最後だな」



 そして、いよいよ俺の番が来た。


 俺は短めの木剣を構えて、ガイアスさんに立ち向かった。







 俺の試験が終わり、冒険者たちの間で微妙な空気が流れ始める。



「なんというか……」


「あ、ああ。普通、だな」


「動きは悪くねーし、決して弱いってわけじゃないがなあ」


「他の連中が強すぎて、ショボく見えちまう」


「あんたら全部聞こえてますからね!? 顔は覚えてました!! どーせ俺は何をやっても平均&平凡な男ですよ!!」



 分かっているのだ。


 俺は基本的に何をやっても平均・平凡の域を出ない男。

 身長や体重、体力測定の結果まで全国男子高校生の平均だしな!!



「ま、まあ、お前さんはそれだけ汎用性に長けているということだ。パーティーの欠点を補うという意味では、お前さんは才能があるぞ」


「やめてガイアスさん!! その温かい目を向けないで!! 自分が惨めになりますから!!」


「「「「「ま、まあ、頑張れ!!」」」」」


「皆して優しくしないで!!」



 他の冒険者たちまで俺に優しくしてきた。


 きっと誰も彼も良い人たちなんだろうけど、ここまで優しくされると辛いのよ。


 ちくしょうめ。


 ここまで普通だと何かに呪われているような気さえしてきたぞ。


 どうか俺の気のせいでありますように。


 俺が自分の普通っぷりを心から嘆いていると、刀神さんたちが何やら小声で話し始めた。



「……只野くんの凄いところは、誰とでも仲良くなれることよね」


「だね。良介って普通すぎて警戒されないから」


「お兄ちゃんの人当たりが良いのもあると思うな。自分からは敵を作らないし、色んな人に可愛がられるタイプだから」



 そうこうあったものの、俺たちは無事に冒険者となることができた。


 しかし、まさか冒険者となったその日に早速トラブルに見舞われるとは想像もしていなかった。



「ねぇ、君たち。もし良かったら俺のクランに入らないかい?」



 冒険者協会の建物に戻り、冒険者の証となる冒険者プレートを受け取ったタイミングで声をかけてくる青年がいた。


 しかも池照と同等レベルのイケメンだ。


 後ろには美少女美女をぞろぞろと連れており、妙な存在感を放っている。



「……貴方たちは?」


「ちょっと!! カイト様に対して失礼ですわよ!!」



 と、刀神さんが青年に応対しようとしたら、青年の背後に控えていた美少女美女のうちの一人が声を荒らげる。


 ヒステリックだなあ。


 どう見ても厄介事の予感がするし、足早に去りたいところだが……。


 残念なことに冒険者協会の出入口を青年の取り巻きの少女たちが塞いでいた。

 他に出入口は無いし、ここは上手いことやり過ごすしかない。



「まあまあ、ティファニー。落ち着いて」


「ですが、カイト様っ!!」


「俺は大丈夫だよ。すまないね、俺の仲間が」



 青年が朗らかな笑みで謝罪するが、なんか、ぞわぞわして気持ち悪い。


 青年は改めて名を名乗った。



「俺はカイト。これでもSランク冒険者なんだ」


「……そうですか」


「さっき君たちの試験を見ていたんだけど……。もし良かったら、俺のクランに入ってもらえないかい?」


「遠慮しておきます。では」



 足早にその場を立ち去ろうとする刀神さんの手首をカイトが掴んだ。



「まあまあ、話だけでも聞いてよ」


「結構です。仲間には困っていないので」


「仲間って、もしかして彼らのことかい?」



 カイトが俺たちを見る。


 というか、明らかに俺の方をちらっと見て鼻で笑った。



「悪いことは言わない。やめておいた方がいいよ」


「……それはどういう意味かしら?」


「そっちの彼らは、特にその特徴の無い少年は君の実力に釣り合わない。仲間に一人でも足手まといがいたら、割を食うのは君だよ? 無能は仲間にしちゃいけないよ」



 おいコラ。


 特徴の無い少年って俺のことか? おおん? 喧嘩なら買うぞ!!



「君と君も俺のクランに入るかい? うちのクランは男子禁制だから、そっちの男三人は駄目だけどね」



 カイトが声をかけたのは、メリッサさんと真央だった。


 あ、分かったぞ。こいつ完全に女目当てだな。


 まあ、真央は兄の贔屓目を抜きにしてもめちゃくちゃ可愛いし、ナンパしたくなる気持ちも分かるがな。


 カイトの勧誘に対し、二人はどう反応するのか。



「この男は何を言ってるんだ? 笑顔が胡散臭いぞ」


「お兄ちゃんお兄ちゃん!! さっきあっちの通りに美味しそうな串焼き売ってる露店があったから行ってみようよ!!」



 メリッサさんは不快そうに眉を寄せ、真央に至っては視界にすら入っていない。

 それが逆鱗に触れたのか、カイトの取り巻きガールズがヒステリックを起こした。



「不愉快ですわ!! カイト様を無視するなんて!!」


「一度、痛い目に遭わせるべき」


「賛成ですぅー!!」


「男を見る目が無いのですね。カイト様のお心遣いを無碍にするだなんて」


「カイト様!! この愚かな者らに貴方様のお力を見せてやってください!!」



 いや、取り巻きのお前らがやるんじゃないのかよ!?


 完全に取り巻きが戦う流れじゃなかった!?



「やれやれ。仕方ないな」



 それでお前も戦おうとするんかい!!


 いや、ツッコミを入れてる場合ではない。

 冒険者になったその日に問題を起こすとか冗談じゃないぞ!!



「そうだね。ここはSランク冒険者として、戦いのコツというものを教えてあげよう。――まずは、弱い相手から潰すのさ!!」



 そう言うと、カイトは腰の剣を抜いて俺に向かってきた。


 おま!? いきなりか!?


 それと弱い奴から狙うって割と当たり前のことだからな!? そして、弱い奴って俺かよ!? そこは納得するわ!!


 あまりに突然の事態に俺は反応できず、カイトの振るった剣が目前に迫り――



「へぶぁ!?」


「「「「「……え?」」」」」



 取り巻きの女たちが間の抜けた声を漏らす。


 何故なら地面を無様に転がったのは俺ではなく、カイトの方だったから。


 俺はカイトを殴った人物に声をかける。



「ま、真央? おーい?」


「……」



 名前を呼ぶが、反応が無い。怖い。



「きゃー!? カイト様!?」


「き、貴様、よくもカイトを!!」


「どんな手を使ったのだ、卑怯者!!」


「覚悟しろ!! カイトに怪我を負わせたこと、後悔させてやる!!」


「許さない。血祭りに――」



 そして、真央の次に動いたのは池照だった。


 カイトの取り巻きは、うちのクラスの女子たちには数段劣るが、十分な美少女美女だ。


 それを。



「おらあーっ!!」



 その美少女美女たちの顔面に、池照は容赦なく拳を叩き込んだ。


 カイトと同様に吹っ飛ぶ美少女美女。



「ちょ、池照!? お前まで!?」


「いやー、限界まで我慢したんだよ? でも無理。良介を無能呼ばわりした時点でぶっ殺したくなったのに、襲ってきたら殺意しかないよ」


「い、いや、まあ、助かったのは事実だし、そこはお礼を言うけどね!? もうこれ以上は良くないかなーって」



 と、二人を止めようとしたのだが……。


 池照と真央は一瞬だけ視線を交差させて、短い単語で会話をした。



「池照、右半分をやって」


「りょーかい。左半分は任せるね」


「……お兄ちゃんに怪我をさせようとした連中に手加減したら許さないから」


「僕は男女平等主義者だからね。親友をコケにした奴らは男も女も二度と人前に出られないようにボコボコにする」


「ん。池照のそういうところは嫌いじゃない」



 暴力に躊躇いのない池照と真央が、同時に駆け出した。


 ちょ!! お前ら、何でも良いから一回止まって!!






―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント作者の一言


作者「人の悪口を言っちゃいけません。ごく稀に池照くんや真央ちゃんのようなやべーのがいますから」


池照&真央「「てへっ」」


只野「てへっ、じゃなーい!!」



「ざまあ!!」「こういう時だけ池照と真央の仲が良くなるの草」「あとがきでもツッコミしてる只野で草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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