第24話 うちのクラスメイトの一撃が速すぎる
それから何日かの野営を繰り返し、目的の町までやって来た。
「ようやく町に着いたわね」
「結構遠かったなあ」
タリスの町。
どこの国にも属しておらず、交易の中心地として成り立っている町。
古くから冒険者の支援に力を入れている町で、駆け出しからベテランまで多くの冒険者が集う町である。
と、口コミに書いてあった。
最初から冒険者になるつもりでタリスの町に来たわけではなかったが、ラッキーだったな。
冒険者になるには打ってつけの町だ。
それに、人が多く集まるこの町なら帰還スキルを持った異世界人の情報や古代魔導具の情報を集めやすいだろう。
それにしても……。
「列、長っ。何時間待ちなんだろ、これ?」
「大きな町らしいもの。冒険者は荒くれ者も多いそうだし、町に入るだけでもそれなりの検査がいるのでしょうね」
「その通りだ。まあ、町に入るのに必要な金とは別に、衛兵に金を渡せば優先的に町に入れてもらえるがな。金の無い者は大人しく列に並ぶしかあるまい」
「検査がガバガバすぎる」
刀神さんの予想に、メリッサさんが溜め息混じりで頷いた。
タリスの町は十数メートルはあるであろう高い壁に囲まれている。
この壁の向こう側へ行くためには、不審物を持っていないかの検査が必要らしい。
ここで言う不審物とは武器ではなく、違法薬物などのことを言うそうだ。
魔物が蔓延るこの世界では、基本的に自衛の手段として武器を持ち歩く人が大半であり、それを咎める者はいない。
まあ、俺たちにはその必要も無いけどね。
「? ど、どうしたの、お兄ちゃん? そんなジロジロ見られたら照れるよ」
「いや、真央がいて本当に助かったと思ってさ」
真央は魔王なので、ある程度の強さの魔物を無条件に従えることができる。
魔王とはそういうものらしい。
この辺りには強い魔物がおらず、ここまでの道中も戦闘は無かった。
真央がいなかったらもう少しタリスの町に到着するのが遅れていただろう。
……正直、少し妹を魔物除け扱いしてるような気がして、申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。
後でお菓子でも買ってあげよう。
「こういう時にスマホを触れたら、良い時間潰しになるんだけどな」
「ダメよ、只野くん。雷電くんがいない今、スマホは充電できないんだから。バッテリーの無駄遣いは禁止よ」
「大丈夫。分かってるよ」
スマホはクラスメイトへの定期連絡や緊急時以外は電源を切っておくことになっている。
使う時も常に省エネモード、画面の明るさは最低限だ。
一日に数分使うだけなら、四台もあればそれなりに長持ちするだろうし、スマホが全滅しそうになったらアトラレムダンジョンに戻る感じだな。
そうこうしてるうちに検査待ちの列が進み、俺たちは昼手前にタリスの町に入った。
ちなみに、馬車&馬ゴーレムは検査待ちの列に並ぶ前から持ち運びモードにして懐に入れておいたからな。
馬車で入ろうとすると銀貨五枚のところを、五人で銀貨一枚になった。
モヒカン肩パッドの冒険者パーティー『魔物討伐隊』さまさまである。
「というわけで!! 冒険者登録に行こう!!」
「ツッコミが普段ほど負担にならないから、良介が純粋にワクワクしてる……」
泊まる宿を決めた後、俺たちはその足で冒険者協会に向かう。
冒険者協会は町の大通り沿いにあり、道行く人に訊ねたらすぐ場所は分かった。
建物に入ると、カウンターに座った美人の受付嬢がニッコリ笑顔で応対してくれる。
「冒険者協会へようこそ。ご依頼ですか?」
「いえ、登録です。六人です」
「畏まりました。新人さんは大歓迎ですよ!!」
「ちょっと待て!! 私まで数に入ってないか!?」
メリッサさんが抗議してくるが、俺は騎士団から奪った装備品を売って得たお金を登録料として受付のお姉さんに渡した。
お姉さんはメリッサさんの抗議の声を完全に無視して、諸々の説明を始める。
「――とまあ、説明は以上です。あとは簡単な試験を受けるだけで、貴方たちも今日から冒険者ですよ!!」
「え? 試験?」
「あ、ご存じありませんでしたか? 最近は無茶をして亡くなる新人冒険者の方が多いので、試験結果から向いている依頼を紹介していのです。あくまでも紹介するだけで、受ける義務はないですし、より高難度の依頼を受けることも可能ですが……」
「なるほどね。新人の死亡率を下げるための一応の措置、と」
「そうなります」
刀神さんが納得したように頷く。
対する俺は、試験と聞いてあまり良い顔をできなかった。
受付のお姉さんが俺の心情を察したのか、こちらを安心させるように笑う。
「そう緊張しないでください。試験と言っても、基準に満たないからと冒険者になれないわけではありませんから」
「あ、いえ、そうじゃなくて……結果が見えてるって言うか、俺は自分がどの程度の人間か分かっちゃってるので……」
「?」
予言しよう。俺の結果は、平凡だと。
あらゆる体力測定で全国男子高校生の平均値を叩き出した俺を舐めないで欲しい。
「皆からお先にどうぞ」
「なら私から受けようかしら」
「ではキリル様から試験を始めましょうか。少々お待ちください」
ちなみに冒険者の登録名は下の名前で統一した。
こっちの世界だと名字は貴族や一部の大金持ちしか持っていないらしいからな。
こういう細かいところが大事なのだ。
甲伊兄の情報によると、ヴェスター王国は俺たちの捜索を諦めていないらしいし、タリスの町まで来る可能性もある。
十分に気を付けねば。
「お待たせしました。こちら、現冒険者協会職員であり、元Aランク冒険者のガイアスさんです。今回の試験官を担当してもらいます!!」
「ガイアスだ。よろしく頼む」
カウンターの奥から姿を現したのは、身長2mには及ぶであろう巨漢。
筋山くんにも負けず劣らずのムキムキで、威圧感が半端ない。
「なんという筋肉……。オレのように鍛えたものではなく、日常的に筋肉を酷使し、なるべくしてなった天然モノの筋肉……見事だ」
「ほう? 話の分かる奴がいるようだ。お前も良い筋肉だ」
「ふっ、貴方もな」
あ、なんか知らないけど、筋山くんとガイアスさんが通じ合ってる!!
「付いてこい。どの程度の実力か、見てやる」
「「「「「はーい」」」」」
「なぜ私まで……」
メリッサさんが文句を言いながらも、俺たちは場所を移動。
冒険者協会の建物の裏手には大きな広場があったらしく、そこで試験をするそうだ。
「木製の武器を用意した。好きなものを選べ」
「色々あるわね……。あら?」
「あ、木刀だ」
刀神さんが手に取ったのは、修学旅行で絶対に誰かが買って帰るような木刀だった。
こっちの世界にも木刀とかあるんだなあ。
「じゃあ僕はこっちの長い木剣にしようかな」
「オレは筋肉こそが武器であり、鎧!! 不要だ!!」
「筋や――武雄くんはそう言うと思った。真央はどうする?」
「私は魔法が使えるから、武器は要らないよ。お兄ちゃんはどれにするの?」
「うーん、まあ、この短めの木剣にしようかな。扱いやすそうだし」
各々の武器を決め、試験が始まる。
先方は刀神さん。一歩前に出て、ガイアスさんと向かい合う。
ガイアスさんの獲物は木製の巨大なハンマーだった。
いわゆる戦槌って奴だ。当たったらめちゃくちゃ痛そうだなあ。
「おいおい、ガイアスさんが試験官だって?」
「新人はどこまで戦えるかな?」
「頑張れよー、新人!! ガイアスさんに勝ったら有名クランから声がかかるぞー!!」
「ガイアスさんに勝てる新人がいるか!!」
「そーだそーだ!! あの人はワイバーンの群れを追い払った元Aランク冒険者だぞ!!」
新しい冒険者の試験が気になるのか、いつの間にか冒険者協会にいた冒険者が様子を見に広場まで来ている。
刀神さんは木刀を腰に下げて、姿勢を低くし、前屈みに背中を丸めた。
「それでは、始め!!」
そして、受付のお姉さんの合図で刀神さんの試験が始まった。
勝負は一瞬で決まった。
「な、なん、だと?」
気付いた時にはガイアスさんの戦槌が宙を舞い、地面に落ちる。
反応すら許さない、まさに神速の一撃。
ぶっちゃけて言うなら、刀神さんが速すぎて俺には彼女がガイアスさんの背後に瞬間移動したようにしか見えなかった。
流石の一言である。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント只野
何をしても平凡・平均を叩き出す。
「ガイアスさん、筋山くんと気が合うのか」「刀神さん強すぎて草」「只野、お前の普通はもはや個性だ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます