第23話 うちのクラスメイトの面倒見が良すぎる





「くっ、殺せ!!」


「なんかメリッサさん、登場する度に似たようなこと言ってるなあ」



 カタカタと揺れる馬車。


 その御者台に座り、二頭の馬を見事に操作するメリッサさん。


 俺たちはそれなりに快適な旅路を満喫していた。



「なぜ!! 栄光あるヴェスター王国の騎士たる私が、御者のような真似をせねばならないか!! 若者ならば歩け!!」


「若者って、メリッサさんもまだ若いじゃないですか」



 まあ、たしかにメリッサさんの指摘はもっともかも知れない。



「でも敢えて言おう。現代人の俺たちにとって、特にこの中で平均的な運動能力しかない俺にとって長距離を徒歩で移動するのはしんどい」


「開き直るな貴様!!」



 でも実際、筋肉モンスターな筋山くんやあらゆるスポーツで大活躍していた池照と比べると、俺は遥かに見劣りする。


 活動範囲を広げる手前、徒歩での移動は色々と厳しいところもあるしな。


 だからこそ、馬車を使う。


 しかし、まだ御者扱いに納得できないのか、メリッサさんが必死に抗議してきた。



「そもそもこの馬、ゴーレムなのだろう!?」


「いやー、鋼創さんの話だと、本物の馬を精密に模倣しすぎて馬に乗れる人じゃないと操作できないらしくて」



 俺たちの乗る馬車とそれを牽く馬は、鋼創さんが捜索班のために用意した特別なゴーレムだ。


 今は大人が数人乗っても十分な広さだが、場所を取らないよう、変形して手の平に収まる大きさまで小さくなる。


 ただ本物の馬を精密に再現しすぎてしまった結果、操縦がとんでもなく難しいのだ。


 乗馬の経験が無い者ではまともに扱えないため、こうしてメリッサさんに御者の代わりをしてもらっているってわけ。



「くっ。あの動植物と話せる少女では駄目だったのか!?」


「だって野原さんは中層の管理で忙しいし。そもそもゴーレムは生き物じゃないから野原さんだと操縦できないんだ。他に馬を操れる人はうちのクラスには……いたっちゃいたけど、別の班だし」



 異世界捜索班は、俺たちの他にも三つのグループがある。


 各班4~5人で構成されており、いずれも戦闘やそのサポートに特化した技能やスキルを持っている。


 馬を操れる者はそちらの班にいるため、こちらにはメリッサさんを加えるしかなかった。


 彼女は金鳥くんのスキルの支配下にあり、義屋さんから与えられた命令に従わざるを得ない状況にあるからな。


 かと言って、何もメリッサさんをタダ働きさせようというつもりはさらさら無い。



「まあまあ、そう言わずに。味見くんの好みの女性を教えてあげるから」


「!? な、何を言っておるのだ、貴様は!?」



 俺の言葉に対し、顔を真っ赤にしてそっぽ向くメリッサさん。


 もうバレバレである。


 基本的に他人の恋愛には干渉しないが、俺は恋バナが大好きなので、実際メリッサさんが味見くんをどう思っているのか気になるのだ。



「見てりゃ分かるよ? 中層に味見くんがご飯を持ってきた時なんか、露骨に見てるし。大丈夫、俺そういうのは見守るタイプだから!! で、実際どうなの?」


「だ、誰が言うものか!!」



 恥ずかしさからか、顔を真っ赤にしたまま怒鳴るメリッサさん。


 すると、俺の横に座る真央が反応した。



「は? 何こいつ、お兄ちゃんが気を遣ってやってんのに何様のつも――むぐっ」



 用事を済ませてきたらしく、ついさっき合流した真央がムッとした様子でメリッサさんに絡もうとした、その時。


 更に真央の隣に座っていた刀神さんが、真央の口を塞いだ。



「こら、真央ちゃん。そうやってすぐに敵意を向ける癖はやめなさい。隠していると言っても、貴女の気配は独特だから、手練れに見られたら魔王って気付かれちゃうわよ」


「……だって、この世界の奴ら嫌いなんだもん。しかもこいつ、お兄ちゃんをいじめた国の人間だし」


「ふふっ。本当に只野くん、お兄さんのことが大好きなのね。でもだったら、尚更お兄さんに迷惑はかけたくないでしょう?」


「……うん」


「じゃあ、嫌いでも歩み寄らなきゃ。無理にとは言わないけど、喧嘩腰は駄目。お姉ちゃんとの約束よ。分かった?」


「……はーい」



 刀神さんが真央を宥める。


 真央はこの世界をかなり嫌っており、中層で生活する騎士たちを見た時は殺気を放って敵意を向けたらしい。


 慌てて刀神さんや池照が止めに入らなければ大惨事になっていたとか。

 そんな真央を宥められるとは、流石うちのクラスのリーダーだな。



「嫌なことは筋肉を鍛えて忘れよう!! オレと一緒にトレーニングだ!!」


「あ、遠慮しておきます」



 真央は刀神さんには大分懐いたようだが、筋山くんのことは警戒しているらしい。


 刀神さんと同じように面倒見が良くても、見た目や言動が筋肉だからなあ。


 俺が真央の人見知りをどう直そうか心配していると、メリッサさんが小声で話しかけてきた。



「……で、味見殿の好みとは、どんな女性なのだ?」


「やっぱり気になるんだ?」


「う、うるさい!! ……教えてくれたら、一度騎士であることは忘れて御者に徹しよう。ほら、早く教えろ!!」


「味見くんの好みの女性は、作った料理を美味しいって言いながら食べてくれる人だよ。あと沢山食べる子も好きって言ってた。あと沢山食べさせてあげたくなるから細身の女性が好み」


「そ、そうなのか!!」



 目に見えて機嫌が良くなるメリッサさん。


 ここまで分かりやすいと純粋に応援したくなっちゃうよなあ。


 などと考えていると、メリッサさんが俺の視線にハッとし、露骨に話を逸らした。



「コホン。そ、それにしても、その装備は便利だな。目の前にいても顔を認識することができず、そして言われなければ認識できていないことも認識できないとは」


「うちのクラスの超人が総出で作ったからね。スキルとか忍法とかで」



 俺たちは今、制服ではなくこちらの世界でも違和感の無い服装をしている。

 甲伊兄が集めた情報を元に、うちのクラスの裁縫マスターが作った。


 裁縫マスターの名前は針縫はりぬい未芯みしん。女子。


 もう裁縫のためだけに生まれてきたような名前をしているが、実際にそうだ。


 去年の学校祭では彼女の所属するクラスが着ぐるみ喫茶を開き、見事に売り上げ全校ナンバーワンを獲得した程である。


 そして、針縫さんは捜索班全員分の衣服をたった一晩で作ってしまった。

 しかもミシンのような便利道具無しの、手縫いである。


 そこに他のクラスメイト、主に忍者兄弟や物品に特殊効果を付与する【付与】を持ったクラスメイトが活躍した。


 認識阻害効果を持つ装備が完成したのだ。


 甲伊兄の話によると、ヴェスター王国は国際社会で落ちぶれかけているらしいが、長年魔王から世界を守ってきた国。


 その影響力はまだまだ強く、王国に従う国は決して少なくない。


 俺たちはこちらの世界の至るところで指名手配されているそうだし、この装備は本当にありがたいものだった。



「っ、おい。前方に人だ。荷台から顔を出すなよ」


「いえ、良い機会だし、認識阻害のテストがてら話しかけてみましょう」



 前方に一団を発見し、俺たちは声をかけようとして、やめた。


 だって見た目がどう見ても盗賊だったから。


 いや、盗賊というか、モヒカン肩パッドという世紀末スタイルの人たちだったのだ。

 俺たちは世紀末盗賊たちの横を通り抜けようとして――



「ヒャッヒャッヒャッ!! お前ら良い馬車に乗ってんなあ!?」



 と思ったら世紀末スタイルの盗賊たちから声をかけてきた!!


 ど、どうしよう?


 いや、大丈夫だ。

 こちらにはうちのクラスでも選りすぐりの強い連中が揃っている。


 必要以上に怯える必要は、無い!!



「ヒャッヒャッヒャッ!! 気を付けろよぉ? この先の町は馬車で入ろうとすると銀貨五枚を払わなくちゃいけねぇからなぁ!?」


「え、あっ、すみません!? ただの親切な人だった!!」



 味見くんのような例もあるし、人を見た目で判断しちゃいけない。


 いや、頭で分かっているけどね?


 モヒカン肩パッドの世紀末スタイルな人を見て警戒しない方が無理だから!!



「ご親切にどうもー。じゃ、俺たちはこれで……」


「ヒャッヒャッヒャッ!! おいおい、どこに行こうってんだあ?」



 と思ったら呼び止められた!!


 これはもしかして、情報料を払えとかそういうのだろうか!?


 ま、まずいぞ。俺たちは手持ちが少ない。


 捕虜の騎士たちから奪った武器や防具を売り払おうとは思っていたからな。


 ど、どうしよう?



「ヒャッヒャッヒャッ!! そっちの道は旧街道だぜぇ? 魔物が多く出るから、新しい街道がおすすめだぁ!!」


「え? あ、ど、どうも」


「ヒャッヒャッヒャッ!! オレたちゃ泣く子も黙って笑う冒険者パーティー『魔物討伐隊』だからなあ!! 礼は要らねぇさ!!」



 マジでただの親切な奴らじゃん!!


 泣く子も笑わせるとか!! 色々と疑って本当にごめんなさい!!


 俺は『魔物討伐隊』のモヒカン肩パッドさんたちに心の中で謝罪しながら、新しい街道とやらを進む。


 すると、池照がニヤッと笑って言った。



「……ね? やっぱり良介がいるとああいう人と遭遇しやすいんだよ」


「やめろやめろ。俺のせいにするな」



 このままでは池照の「良介は凄い人と知り合う体質」というのが信憑性を帯びてしまう。



「ところで、冒険者ってあの冒険者かな? メリッサさん」


「どの冒険者かは分からないが……。冒険者というのは、いわゆる何でも屋だ。金を払えば溝さらいから魔物退治まで、手広く引き受けている」


「なるほど。今後の活動資金を考えるなら、俺たちもなっておいた方が良いかな?」


「……顔になりたいって書いてあるわよ、只野くん」



 刀神さんに指摘されてしまった。


 だってほら、異世界に来たら冒険者になるのが定番でしょ。


 俺が冒険者になってみたいと言うと、池照が賛同した。



「良いんじゃない? 姫川のグループは異世界コンサートするとか言ってたし、こっちもある程度好きにやっちゃおうよ」


「まあ、そうね。これから色々な場所を巡るなら、お金はあって困ることもないだろうし」



 よっしゃ!!


 メリッサさんの話だと、冒険者になるためには冒険者協会なるところで登録しなければならないそうだ。


 冒険者協会はどこの町にもあるらしいし、町に着いたら登録しよう。










 目的の町に着いた俺たちは、何事もなく冒険者登録をした。


 いや、訂正する。何事も無くはない。



「俺だけ冒険者登録試験で平凡な結果を出したら他の冒険者に馬鹿にされて、親友と妹が絡んできた冒険者を血祭りに上げちゃった件。ははは!!」


「笑ってる場合じゃないでしょう!? 早く二人を止めるわよ!!」


「ンゥ筋肉!! 筋肉の波動を感じるゥ!!」



 経験則から分かる。


 冒険者というのは思っていたより大変な仕事かも知れない。





―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント魔物討伐隊

魔物討伐専門の冒険者パーティー。報酬で得た金のほとんどを困窮している孤児院や教会に寄付しているガチの善人集団。


「刀神さんがお姉ちゃん属性でかわいい」「メリッサさんほぼ寝返ってて草」「あとがきで笑った」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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