第22話 うちのクラスメイトの料理人はキレると怖すぎる




 クラス全員で二つの方針を定めた。


 一つは元の世界への帰還を可能とするスキルを持った異世界人、あるいは古代魔導具の捜索。

 もう一つは拠点となるアトラレムダンジョンの強化である。


 しかし、前者に関しては危険が伴う。


 故に強力な戦闘系スキルを持っていたり、素で人間をやめてる者を中心に抜擢した。


 後者は【迷宮創造】を持つ迷井さんを中心に、防衛に長けたスキルや非戦闘系スキルを持つクラスメイトが残って行うことに。



「で、なんで!? なんで俺は捜索班なんだ!?」



 俺は何故か、前者の帰還スキル持ちの異世界人、または古代魔導具の捜索班に抜擢されてしまった。


 別に異世界観光がしたいわけでもないし、拠点整備班に残ったからといって何かの役に立つとは思えないが……。


 俺は普通オブ普通の人間。


 人外クラスメイトに付いていくことは不可能だし、絶対に足手まといになる。


 そう主張していると、池照が困り顔で言った。



「だって良介、たまに凄い人と知り合うじゃん?」


「え?」



 その指摘に対し、俺は間の抜けた表情を見せる。



「ほら。中学の時とか道に迷ってる石油王のおじさんを助けて仲良くなってたし、日本に旅行に来てたどこかの国の偉い人の拉致現場を目撃して事件の早期解決に協力してたじゃん」


「ま、まあ、そんなこともあったけど……。それに何の関係が?」


「良介がいたら、意外と帰還スキルを持った異世界人くらいあっさり見つからないかなって」


「んなわけないだろ……。戦闘能力の低い俺がいても確実に足手まといだぞ」


「その点は大丈夫。良介の班は最高戦力で構成するから」



 それならまあ、大丈夫かな?



「ちなみに言っておくと、お兄ちゃんを守るために私も同行するからね!!」


「……ははは。頼もしすぎるね、こりゃ」



 俺と同じ班になった連中を紹介するぜ!!


 一人目は刀神さん、二人目は池照、三人目は筋山くん、最後に真央である。

 あとはここに甲伊兄の分身が付いてきてくれる予定だ。


 本体はダンジョンに残り、分身たちに指示を出す役割に徹するらしい。


 甲伊弟は異世界観光がしたいらしく、俺たちとは別の班に入り、そちらで行動する計画を立てている。



「お兄ちゃんは私が守るんだから!! 池照は余計なことしないでよ!!」


「あはは、分かってる分かってる」


「うおおおお!! 筋肉!! 筋肉!! まだ見ぬ未知の筋肉との出会いがオレを待っている!!」


「皆で浮わつくのは構わないけど、本来の目的を忘れないようにね」


「ま、まあ、この面子なら余計な心配はしなくて大丈夫だよな……?」



 刀神さんは強いし、筋山くんの筋肉は並大抵の刃物を弾き返す。


 池照の強さはイマイチ分からないけど、狩猟班での活躍を聞く限りでは刀神さんに勝らずとも劣らない。


 真央に至っては魔王である。


 まあ、大丈夫。大丈夫だと信じたいが、はてさてどうなることやら。



「あ、お兄ちゃん。実は私、ちょっと寄りたいところがあるから後で合流するかも」


「寄りたいところ?」


「うん、お礼参――コホン。(お兄ちゃんが)お世話になったお礼を言いにね」



 真央がこの世界でお世話になった人、か。


 それは是非、兄として感謝の言葉を言いに行きたいな。



「うわー。御愁傷様だね、ヴェスター王国」



 何故かヴェスター王国の名前を口にする池照。


 よく分からないが、あの国にとって良くないことが何か起こるのだろうか。


 だとしたら万々歳である。



「おや、これはまた何の騒ぎですか?」


「我輩たち抜きで随分と賑わってますな!!」



 そう言いながら食堂に入ってきたのは、やたらとお肌がツヤツヤしている佐渡さんと鑑石だった。



「おはよう、鑑石。佐渡さん。いや、おはようっていうかもうお昼だけど」


「申し訳ありません。何やら皆様で重要な話し合いをしていたにも関わらず、参加できなくて……」


「しかし、我輩から朗報ですぞ!! 実は――」



 鑑石が何かを話そうとして、佐渡さんがその頬をバシッ強く叩いた。


 そして、鑑石が鼻息を荒くする。



「まったくこの豚は。ご主人様の成果をさも自分の手柄のように話すとは……。どれだけ躾けても学習しませんねぇ?」


「ぶ、ぶひっ、も、申し訳ありませぬぞ!! 何卒、何卒お許しを!! ハァハァ」


「うふふ。良いですよぉ、今の私は機嫌が良いので。今日はいつもの三倍で許してあげます」


「ぶひぃ!!」



 俺は無言で真央の目を塞ぎ、それに合わせるように池照が真央の耳を塞いだ。


 ナイスだ、親友。


 うちの可愛い妹にこんなハードなやり取りを聞かせられるか。



「えーと、それで朗報とは何かしら? 恵梨香」


「はい、刀神さん。新しい豚さんの調教が終わりましたので、そのご報告と成果を披露したいと思いまして」


「そ、そう……。え、披露?」


「はい!! ほら、入ってらっしゃい」



 実に清々しい笑顔で言ってのける佐渡さん。


 すると、全身を拘束具で繋がれ、四つん這いで歩くことしかできないカテアと数名の騎士が連なって入ってきた。



「ほら、カテア。早く皆様にご挨拶と、迷惑をかけたことをお詫びしなさい」


「は、はひっ、承知いたしました、恵梨香様ぁ。私、カテアは栄光あるヴェスター王国とレミリア姫への忠誠を捨て、晴れて恵梨香様の奴隷となりましたぁ」


「「「「うわあ……」」」」


「み、皆様、この度は私、卑しい豚であるカテアが皆様に大変なご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでしたぁ」


「と、ご覧のようにこのマゾ豚は私の命令に絶対服従しています。この豚をヴェスター王国へ潜入させて、内部から情報を流させるのはいかがでしょう?」


「そ、そうね。悪くない案だとは思うわ。後で皆で検討しましょう」



 流石の刀神さん反応に困っているらしい。誰だってそうなるよな。



「――ぁ、あ、恵梨香様、恵梨香様ぁ。言われた通りに致しましたっ、どうか、どうか恵梨香様のお情けをぉ」


「まったく。卑しい豚はすぐにご褒美を欲しがりますね。――というわけですので、私はまたしばらく調教部屋にいますので。ご用件がありましたら、すぐお呼びください」



 ついに調教部屋って言い切ったな。


 完全に調教されたカテアや騎士たちを連れて食堂を出ていく佐渡さん。


 クラスメイトは軽くドン引いていたが、他人の趣味嗜好にとやかく言うような野暮な者はうちのクラスにはいない。


 ただ一人を除いて。



「クックックッ。食堂は、ご飯を食べるところだ。友達や家族と談笑し、絆を育むための場所だ。SMプレイをするための場所じゃねぇ。次来たらミンチにしてやる……」


「「「「「ご、ごもっとも!!」」」」」



 この食堂の責任者、というかトップの味見くんが厨房から半ギレ状態で包丁を片手にこちらを覗いていた。


 こ、怖い!!


 普段は見た目より穏やかな分、味見くんが怒ると迫力があって超怖い!!



「コホン。えーと、色々あったけど、明日から行動を開始しましょう。定期連絡は欠かさないこと。何か危険に遭遇したら、迷わず逃げて、他の仲間に助けを求めること。約束よ!!」


「「「「はーい」」」」



 やっぱり刀神さんって引率の先生みたいになるんだよなぁ。


 その翌日。


 俺たちは元の世界に帰るための手段を探し、ついでに異世界を観光するための旅と冒険に出るのであった。





―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント中層で野原さんと一緒に働く元騎士たち

部隊は違えど元同僚が奴隷になったと聞いて少し心配している。アチリヴァは気にしていない。メリッサは密かに憧れていたカテアの惨状を聞いてショックを受けた。


「魔王と勇者のいるパーティーは草」「カテアはそっちに行くのかあ」「あとがきで笑った」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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