第32話 うちのクラスメイトが人間やめすぎてる
『なんなんじゃお主らは!! どこから食べ物を出したのじゃ!?』
「うわ、このカツ丼うっま」
「こっちのサラダ巻きもイケるわね」
「え、ラーメンも作れるの?」
『クックックッ。豚骨と醤油と塩、あと味噌がある』
「あ、私もラーメンでお願いします。味は醤油で」
「む!? このプロテイン、良い筋肉の素が入っているな!!」
『儂を無視するなああああああああっ!!!!』
頭の中に直接魔女さんの声が響いてくるが、俺たちは構わず食事を続けた。
だって美味しいものは温かいうちに食べなきゃだからな。
味見くんの作った料理なら冷めても絶対に美味しいと思うけど。
俺がカツ丼、刀神さんがサラダ巻き、池照が豚骨ラーメン、真央が醤油ラーメン、筋山くんは特製プロテインである。
……筋肉の素ってなんだ?
「む、この腸詰めは……」
メリッサさんは完全に味見くんのお任せで、ソーセージがデリバリーされていた。
ちょっと黒いというか、何か変な色をしている。
『クックックッ。そいつはブラッドソーセージ。肉に新鮮な血を混ぜ込んである』
「血? それは、美味しいのか?」
『クックックッ。俺は美味しいと感じたが、独特の癖があるからな。苦手な奴は多いかも知れん。だから感想を聞かせて欲しい』
「むぅ、分かった」
メリッサさんが電話越しに味見くんからブラッドソーセージとやらの説明を聞き、それを頬張って咀嚼する。
「……ふむ、美味いな。たしかに癖はあるが、私は好きかも知れん。でも酒が欲しくなるぞ、これは」
『クックックッ。もうすぐ酒も提供できるようになる。それまでは待ってくれ』
え? 酒を提供できるって……。
「それ密造にならない? 大丈夫?」
『クックックッ。只野、ここは日本じゃなくて異世界だぞ』
「あ、たしかに」
日本じゃないから大丈夫だよな。
……こっちの世界に酒の密造を禁止する法律があったらアウトじゃない?
「……まあ、あれだ。味見殿は王国の人間ではないから問題なかろう」
メリッサさんが視線を逸らしながら言う。
その反応から察するに、少なくともヴェスタ―王国には酒の密造を禁止する法律があるようだ。
……それにしてもメリッサさん、騎士が密造を自白してる者を拡大解釈で見逃してるけど、良いのだろうか。
まあ、恋心とはそういうものだよな。うむ。
『お、お主ら!! 儂を無視するな!!』
「あ、すみません。魔女さん。あ、味見くんご馳走さまでした。またお腹空いたらお願いするかも」
『クックックッ。お粗末様でした。お腹が減ったらいつでも言うと良い』
と、そこで魔女さんが激怒する。
『ぐぬぬぬ、お主ら絶対に許さんぞ!! この儂をぞんざいに扱いおって!!』
「俺たち聞きたいこと聞けたら満足なんですが……。教えてくれません?」
『ふん!! どうしても儂と話したいなら草原を越えることじゃな!! ふん!!』
魔女さんがプンプンと怒り、声が再び聞こえなくなってしまう。
交渉は無理なようだ。
「でも実際、どうやって草原から出よう?」
「あ、それだけど。私から少し提案があるわ」
「刀神さん?」
サラダ巻きを食べ終わった刀神さんが、腰に下げた剣を抜いて筋山くんに手渡す。
「筋山くん。この剣を良い感じにこう、刀っぽく形を変えられない?」
「む、やってみよう。ぬん!!」
筋山くんが刀神さんから受け取った剣を腕力でぐにゃりと歪める。
いや、やってみよう、じゃないわ!!
何さらっと鉄製の剣を素手で曲げてんだ!! この筋肉モンスターめ!!
「……その剣でどうするんだ?」
「うちのお祖父ちゃんの必殺技を思い出したの」
「必殺技? 何それ、そんなのあるの?」
「ふふ、あるのよ」
そう言って微笑むと、刀神さんは刀っぽく変形させた剣を構えた。
それを見た筋山くんが目を見開く。
「これは……凄まじいな」
「え、何が?」
「刀神の全身の筋肉の動きが変わった。あれは、恐ろしく速いぞ」
瞬きをした、その刹那の間。
「刀神流抜刀術奥義・なるかみ」
刀神さんは刀モドキを振り抜き、一閃。
まるで雷のような轟音が響いたかと思えば、同時に空間がズレた。
目の錯覚かと思ったが、どうも違うらしい。
「え? 何これ?」
「光の速度で刀を振り抜くことで、空間そのものを歪ませて斬る技よ。……まあ、これはその劣化版。【剣神】のスキルがあってようやく成立するわ。あとはこれを――」
刀神さんがズレた空間に手を突っ込み、無理矢理抉じ開ける。
ズレた空間の向こう側には、閉じ込められていた草原とは違う景色の草原が広がっていた。
「す、凄まじいな。幻惑魔法を斬撃で無効化したのか?」
「ど、どゆことなのぉ?」
これは流石に理解が追いつかない。
「凄いね、流石は刀神さんだ」
「お兄ちゃんほどじゃないけど、カッコイイ!!」
「ふむ。素晴らしい筋肉だったな」
「ちょ、お前ら? なんで普通に受け入れちゃってんの!? もっと困惑しろよ!?」
ナチュラルにアニメの必殺技みたいなものを繰り出した刀神さんも刀神さんだが、それを受け入れる奴らも奴らだ。
と、そこで魔女さんの絶叫が聞こえてくる。
『何じゃ今のは!?』
俺も同じ気持ちだよ、うん。
ツッコミを入れる側の人が俺だけじゃなくて良かった。
「ふむ。一つ目の草原はクリアだな」
『ふ、ふん!! 何をしたのかは知らんが、第二の草原は猛毒の風で満ちている!! 並みの人間では立ち入ることも――』
「ふぅー、はぁー」
猛毒の風とやらが満ちている空間と聞いて俺たちは警戒したが、そこで深呼吸しながら前に出たのは真央だった。
『な、何をする気じゃ? おい!!』
「猛毒の風があるなら、私が全部吸っちゃえば問題無いよね」
と、ここで真央が人智を越えた肺活量を見せる。
ブラックホールでも生じているのではと思えるほどの勢いで、大量の空気が真央の肺に吸い込まれて行く。
すっげー。カー◯ィかよ。
「んごくっ、ごちそうさま。やっぱ毒は美味しくないね」
「真央、大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。お兄ちゃん、私がんばったから褒めて褒めて?」
「あ、ああ。偉いぞ、真央」
「えへへ~」
『ば、馬鹿な、有り得ん、何者なのじゃ、お主ら!?』
魔女さんの声が泣きそうになっている。分かる、怖いよな。
しかし、魔女さんも諦めない。
『ふ、ふん。まあよい。第三の草原まで来る予想外じゃったが、お主らの命運もここまでじゃ!!』
「次は何があるのかしら?」
『ふっふっふっ、特別に教えてやろう。儂があらゆる魔法を用いて作り出した、最強の生物――』
その時だった。
俺たちの乗っていた馬車が、巨大な何かの足によって踏み潰される。
うわ!?
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
『人造竜ドラウクラウ!! 儂の最高傑作でお主らをもてなしてやろう!! まあ、今の踏みつけで終わったかも知れんがな!!』
俺は突然の出来事に目を瞑ったが、意識はハッキリしている。
ゆっくり目を開くと、そこには驚きの光景が広がっていた。
「ふっ。この程度の筋肉で、味見特製のプロテインを飲んだオレを潰せると思ったか!!」
「プロテイン関係ないだろ!! そんなすぐ効果出ないだろ!! 筋山くん、あんたもう人間じゃないだろ!!」
『ば、馬鹿な、ドラウクラウがどれだけの重さか分かっておるのか!? そ、それを、片手で受け止めるなど、有り得んじゃろ!?』
あろうことか、ドラゴンの踏みつけを筋山くんが片手で防いでいた。
全身の血管が浮き出ていることから、筋山くんも全力だとは思うが……。
「あはは、本格的に人間やめてるなあ」
「笑ってる場合か!! 池照!! こ、これ、ドラゴンの足だろ!? ……あれ? 真央と刀神さんは?」
「ああ、二人なら――」
と、その時。
筋山くんを踏みつけにしていた巨大な竜がゆっくりと倒れた。
倒れたドラゴンの上には、真央と刀神さんが。
もしかして筋山くんが踏みつけを抑えてる間に飛び出して倒した、のか?
『ば、馬鹿な、儂の最高傑作が、こんなにあっさり……?』
「お、あれが魔女の家じゃない?」
『ひっ、わー!! た、頼む、命だけは!! 命だけは助けて欲しいのじゃあー!!』
「切り替え早っ」
「ここまで命乞いまでの時間が短いといっそ清々ししいわね」
こうして俺たちは、魔女の住む丘に辿り着くのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント味見くん
作ったことのない料理は一度スマホでレシピを調べてから作る。一度作ったら完全にマスターするため、それからアレンジしたりする。
「刀神さんしゅごい」「真央ちゃんしゅごい」「プロテイン飲んだ筋山くんしゅごい」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます