第33話 うちのクラスメイトに味方がいなさすぎる





「いやあ、皆さんようこそいらっしゃいましたのう!! 歓迎するのじゃ!!」


「うっわー、分かりやすいゴマすりだ」



 丘の上の魔女の家。


 その扉を軽くノックすると、中から幼い少女が媚びるような胡散臭い笑みを浮かべて出てきた。


 この子が魔女、なのか?



「声で何となく分かってたけど、やっぱり子供だったのね」


「……儂はこれでも齢が千を越えておる故、子供扱いはやめて欲しいのじゃ」


「あら、ごめんなさい」


「まあよい。それより、儂に聞きたいことがあると言っておったな。取り敢えず、中に入れ。ここまで来た褒美に茶くらいは出してやるのじゃ」



 あまりゴマすりの効果が無いと分かってか、どこかぶっきらぼうに言う魔女。


 いや、ただのやけっぱちか?


 魔女さんは俺たちを家に招き入れ、奥の部屋まで案内される。


 途中で大窯を見つけたり、変な発光してる植物がプランターに植えてあったりして、いかにも魔女って感じの家に思わず興奮する。


 それから魔女さんが紅茶を淹れてくれた。



「っ、お、美味しい……」



 俺たちは魔女さんの淹れた紅茶を飲み、思わず感嘆してしまう。


 いつだったか、味見くんが紅茶にハマっていた時期、学校に持ってきて淹れてもらった紅茶と同じくらい美味しい。



「さて、名を名乗ってやろう。儂はグレイス。草原の魔女じゃ」


「私たちは――」


「あぁ、言わんでいい。儂は他人の名を覚えるのが苦手でな。どうせ聞いてもすぐ忘れる」



 名乗ろうとする俺たちを手で制し、グレイスさんはどこか溜め息混じりに言う。



「して、儂に聞きたいこととは?」


「……嫌がっていたのに、随分と積極的なのね」


「ふん、お主らのようなやべー連中からは逃げられる気がせん。ならばとっとと用事を済ませてもらって帰らせるのが一番じゃからな」


「なるほど」



 やたらと積極的にこちらの話を聞いてくれるようになったのは、どうやら刀神さんたちの超人っぷりを恐れてのことらしい。


 刀神さんも面倒な世間話は嫌いらしく、単刀直入に聞く。



「世界を渡る古代魔導具、あるいはそういうスキルを持った異世界人を知らないかしら?」


「……お主ら、異世界人か?」


「ええ、そうよ」



 一瞬、グレイスさんの目が鋭くなったような気がした。



「……そうか。生憎と、心当たりはないな」


「あ、言い忘れていたけど、僕は嘘が分かるから下手なことは言わない方がいいよ?」



 池照がさらっと言う。


 それはつまり、言外にグレイスさんが嘘を吐いたという指摘だった。


 刀神さんが刀モドキの柄に手を添える。



「……ちっ。分かった分かった、分かったのじゃ。正直に言ってやる。儂の父親がそうじゃった」


「父親? いえ、それよりも、だった?」


「うむ。とっくのとうに元の世界に帰りおったわ。まだ幼かった儂と母を捨ててな!!」


「そ、それは……」



 どうやらあまり触れてはならなかった話題らしい。

 元からご機嫌斜めだったグレイスさんが更に不機嫌になってしまった。



「じゃが、具体的な方法は知らん。奴は書き置きを一つ残して行ってしまったからな。それも何百年も昔の話なのじゃ。まったく、忌々しい」


「えー、すっごい分かる。俺の母親も俺を捨てて出て行ったからめっちゃその気持ち分かる」


「む」



 俺も母親を思い出すと腹が立ってくる。


 今でこそ母さんという頼れる人がいるけれど、その前は本当に荒れていたからな。



「……なんじゃ、お主も似たような経験があるのか?」


「似たようなっていうか、俺の場合は母親がホストにハマって家の貯金を全部散財して蒸発したんだよ」


「お、おお、そうじゃったか。すまんな、深入りしすぎたのじゃ」


「結構昔のことだし、別に気にしてないよ。会ったら一発ぶん殴ってやろうとは思ってるけど」


「……儂も同じじゃな。一発、いや、数十発は魔法を叩き込んでやりたいのじゃ」



 そこから始まったのは、俺とグレイスさんの親に対する愚痴大会だった。



「男を追いかけて家族を捨てた女が母親で、仕事ばかりで家庭を顧みない父親、か。お主の産みの親、ロクでもないのう」


「でしょ? 母さんがいなかったら絶対に性格歪んでたと思うね」


「ふっ。……儂も、今は亡き母がいなかったらもっと擦れておったかも知れんのぅ。気持ちは分かるぞ、小僧」



 などと会話していると。


 すぐ隣で刀神さんたちがヒソヒソと小声で何かを話し始めた。



「只野くんって本当に凄いわね。もうあの気難しそうなグレイスさんと談笑しているわ」


「お兄ちゃんは人見知りしないし、聞き上手で話し上手だから」


「オレが筋肉と話している時と同じくらい盛り上がってるな……。筋肉!!」


「あれ? 良介はお話中だから、もしかして僕がツッコミ?」


「私は何も言わんぞ。……しかし、只野殿の対話能力は恐ろしいな。外交官でもやらせたら国の一つ二つはまとめてしまうのではないか?」



 外野が騒がしい。



「少し、長話が過ぎたな。とにかく、儂は元の世界に帰って行った者を知っているが、帰り方そのものは知らん。役には立てん」


「いやいや、大丈夫ですよ。少なくとも、帰った人がいるって分かっただけでも十分な収穫ですから」


「……すまんな」



 視線を逸らしながら、心底申し訳なさそうに言うグレイスさん。


 なんだかこちらが申し訳なくなるな。



「あ、それともう一つ。これは俺の個人的なお願いなんですけど」


「なんじゃ? 余程のことでもなければ聞いてやってもいいぞ」


「実は俺の周りって、超人ばかりなんですよね。一人だけ浮いているというか、無力感が半端ないというか」


「あー、たしかに草原ではお主は何もしておらんかったな」



 草原での一件を思い出したのか、グレイスさんはどこか乾いた笑みを浮かべる。



「そこでなんですけど、俺に魔法を教えてください!!」


「む。……まあ、教えてやらんこともないが、魔法は才能の世界じゃ。努力ではどうにもならんぞ?」


「……も、もしかしたら俺に魔法の才能があるかも知れないですし」



 俺は視線を逸らしながら、強がりを言う。


 すると、池照がニヤニヤ笑いながら横から口を出してきた。



「良介のことだから、才能はほどほどに五千円かける」


「池照、お前は黙ってろ」


「でも只野くんだから、そのパターンだと思うわ」


「刀神さんまで!?」


「大丈夫だよ、お兄ちゃん!! 努力は報われるって言うし!! あ、でもお兄ちゃんは頑張り屋さんだから、無理だけはしちゃ駄目だよ?」


「真央……なんて良い子!!」


「そうだぞ!! 筋肉は努力を裏切らない!!」


「今は魔法の話してんの、筋山くん!!」



 あ、いや、でも筋肉は努力を裏切らないか?


 ……魔法の才能もイマイチだったら、俺も筋山くんみたいに筋肉鍛えようかな……。

 でも俺のことだし、筋肉を鍛えても程々にしかならないような気もする。


 なんて考えていると、グレイスさんは溜め息をつきながら頷いた。



「……まあよい。少し待っておれ。魔法の適性を調べる魔導具がたしかこの辺に……」



 ごそごそと周囲のものを漁り、スキルを鑑定する魔導具と似たような水晶を取り出した。


 それをゴトンと俺の前に転がす。



「お主、これに触れてみるのじゃ」


「え、あ、はい」


「ふーむ?」



 俺が触れると、水晶の中が仄かに光った。



「……才能はほどほどじゃのぅ。努力しても中級魔法を習得するのが限界じゃろう。上級魔法や超級は使えん」


「くっ!! 分かってたよ!! 想像してた通りだよ!!」



 池照が「知ってた」みたいな顔してる。


 刀神さんまで苦笑いしており、真央が必死に慰めてきて可愛い。


 と、皆でどんちゃん騒ぎしていたら。



「待て。待て待てちょっと待つのじゃ!!」


「え? な、なんです?」


「火、水、氷、風、土、雷、光に闇まで!! あ、有り得ん!! こんなことがあるのか!?」


「……この水晶は光が強ければ強いほど、才能があるということなのじゃ。そして、光の色によってどの属性に適性があるのかが分かる」


「は、はあ……?」



 グレイスさんが目を血走らせながら言う。



「普通、魔法の適性には偏りが出る!! 火属性が得意な者は水属性が苦手、という具合でな!! しかし、お主はなんじゃ!? すべての属性にほどほどの才能があるとか気持ち悪いのじゃ!!」


「えーと、よく分かんないけど、凄いってことですか?」


「気持ち悪い!! 凄いけど気持ち悪いのじゃ!!」



 なんだろう、女の子から気持ち悪いと連呼されると少し傷付いちゃう……。



「は? お兄ちゃんが気持ち悪い? 殺す」


「はいはい、真央ちゃんは落ち着いて。良介、取り敢えず色んな魔法が使えるみたいで良かったじゃん」


「喜んで良いのかな?」



 と、少し困惑していると。


 取り乱していたグレイスさんがハッとして、俺の胸倉を掴んできた。



「お主!! 儂の弟子になれ!!」


「え? あ、えーと、それは願ったり叶ったりですけど……」


「ふ、ふふふ。それほどの属性を扱えるなら、できること、つまりは手数という意味で横に並ぶ者のいない魔法使いになれるぞ!! 対応力の高さは魔法使いに必須なもの!! お主は才能があるぞ!!」


「!?」



 才能が、ある?


 今まで何をしても程々で、才能なんて言葉とは程遠かった俺が?


 何それ超嬉しい!!



「是非、俺に魔法を教えてください!! 師匠!!」


「む、師匠か。……ふっ、良い響きじゃな」



 こうして俺に魔法の先生ができるのであった。






―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイントグレイス設定

元々教えるのは好きな性格。


お知らせ

書き留めしている分が無くなったので、更新頻度が下がります。すみません。



「意外な才能あって良かったじゃん」「でもほどほどなんだなぁ」「怒る真央ちゃん可愛い」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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うちのクラスメイトが良い奴らすぎる異世界召喚 ナガワ ヒイロ @igana0510

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