第10話 うちのクラスメイトの剣神が鋭すぎる
「やっぱり、今後の課題はヴェスター王国だろうね。連中の出方次第では、こっちも強気な姿勢で行くしかない」
「池照、口の周りにソース付いてるぞ」
「え? あ、ホントだ。ありがと、良介」
眠っている刀神さんを除き、クラスメイト全員で今後のことを話し合う。
皆お腹いっぱいになるまで食べられたからか、少し眠たそうではあったが、真面目に話を聞いていた。
「池照、それは戦うということか?」
「そうなるね、筋山くん。僕としては、迷井さんの【迷宮創造】を利用して簡単な砦のようなものを用意できたら良いなって思ってる」
「生活拠点をそのまま拡大する感じで良いなら、すぐにできるとは思います」
池照の提案に対し、迷井さんが挙手して自らの所見を述べる。
「ただ、問題が一つ」
「なんだい?」
「――デザイン、です」
「「「「?」」」」
真剣な面持ちで言う迷井さんに、クラスメイトは首を傾げた。
ええと、デザイン? どゆこと?
「私はそういうの、すっごい凝るタイプなんです」
「あー、えっと、別に迷井さんに任せるよ? ただ今後の拠点にもなるから、利便性のある実用的なものが良いかな」
「言いましたね!? 言質は取りましたよ!? 私の好きに作りますからね!? あと希望の施設があったら事前に言ってくださいよ!!」
迷井さんがそう言うと、皆が好き好きに欲しいものを挙げ始めた。
「トレーニングルーム!! オレの筋肉をより鍛えるためのトレーニングルームが欲しい!!」
「では拙者も修行ができる部屋を」
「クックックッ。……厨房が欲しいな」
「はいはーい!! ダンスの練習ができる部屋が欲しいでーす!! ボクは努力家なアイドルだから、そういうの欠かさないんだよねー!!」
「ワターシはベッドルームが欲しいデース!! いつかハーレム作った時のためにキングサイズでお願いしマース!!」
「それなら私は調教部屋……。コホン、豚さんを飼い慣らすための部屋を希望します」
俺はふと思った。
「こいつら本当に自由だよな」
「只野さんは何かありますか?」
「あ、防音の部屋が欲しいかな。皆が騒いでても眠れるように」
「合点承知!!」
ふんす!! と鼻息を荒くしながら、地面に何かを書き始める迷井さん。
設計図でも書いているのかな。
「それじゃあ、話し合いを続けるよ」
それから俺たちは話し合いを重ね、今後の動きを決定した。
基本的には森で拠点を整備し、いつヴェスター王国がやって来ても応戦できる程度には訓練しておこうということになった。
話し合いが終わり、皆が雑談を始める。
「クックックッ。
味見くんが食器の片付けをしていると、手の付けられていない皿を見て、ある男子生徒に声をかけた。
その男子の名前は
一見すると女の子だが、生物学的にはしっかり男である。
男でありながら某女性アイドルグループに所属しており、その人気具合は同グループのアイドルたちから頭一つ図抜けている程だ。
良い奴なのだが、自分の可愛さを絶対的なものと信じており、超ナルシスト。
そして、言いたいことはハッキリ言うタイプだ。
「えー? だってボク、魚って嫌いなんだもん。骨とか上手く取れないし、喉に刺さって痛いし」
「クックックッ。そうか、嫌いだったか。……頑張って作ったんだが、そうか。俺の配慮が足りなかったな」
「「「「「あー、姫川が味見くんを凹ませたー」」」」」
「!? は、はあ!? ちょ、ボクが悪者みたいに言わないでよ!! 別に味見の料理がまずいって言ったわけでもないし!!」
味見くんは裏社会を生きていそうな外見だが、料理に関しては物凄く気を遣っている。
どうやら彼のスキルである【料理人】は、調理器具や食器を出す他に、食材の栄養価なども細かく分かるそうだ。
それを十全に活用し、彼は栄養バランスの良い食事を作っている。
故に作ったものをそもそも食べてもらえない、という事実が彼の心を深く傷つけた。
味見くんが皿の上の魚に話しかける。
「クックックッ。すまないな、せっかくの命を無駄にさせちまって」
「ちょ、あーもう!! 分かったってば!! 分かったから魚に謝るのはやめて!! 本格的にボクが悪者になっちゃうでしょ!!」
姫川さんが皿を奪い取り、その上に乗った魚を悪戦苦闘しながら少しずつ食べ始める。
味見くんは嬉しそうに笑った。
……相変わらず人を海に沈めてそうな邪悪な笑みではあったが。
「クックックッ。どうだ?」
「……骨が嫌いから次から取っておいてよ」
「クックックッ。分かった、骨の欠片も残さねーよ」
「じゃあ次も食べてあげる。……おかわり」
「クックックッ。ダメだ。しっかりお野菜も食べなさい」
味見くんが骨の欠片も残さないとか言うと怖いのって俺だけかな?
「さて。そろそろ夜も遅いし、明日に備えて今日はもう眠ろう」
「なら決めなきゃなんないことあるっしょー」
「そうだね、義屋さん。今日は食料の確保を優先したから拠点の整備はほとんど進んでいない。寝床がないから、馬車を仮の宿にしよう。でも男女が同じ屋根の下で寝泊まりするのはダメだ」
あ、そっか。その問題があったか。
「なら男子が野宿で良いんじゃないか? 身を寄せ合えば寒くないだろうし」
「ダメだよ、良介」
「え? なんで?」
「男子だって硬い地面で寝たくない。まだマシな馬車の中で眠りたい。女子だからといって馬車を使わせてあげるなんて、僕は許容しない。僕は男女平等主義者だからね。女子を贔屓しないし、男子を特別扱いもしない」
「あ、そう」
こいつ、まじか。
池照の男女平等思想は前々から知っていたが、ここまでとは。
「僕が男子代表だ。女子の代表は義屋さんで良いかな?」
「ばっちこい、かずやん」
「行くよ、義屋さん」
「ちょ、二人とも何する気だ!?」
義屋さんと池照が互いに拳を握る。
え? なに? まさか殴り合いの喧嘩でもする気か!?
「「――じゃんけん、ポン!!」」
「おおぅ、思ってた百倍くらい平和な決め方だった!!」
「「あいこでしょ!! あいこでしょ!!」」
しばらく二人のじゃんけんが長引いたので、結果だけ発表しよう。
「WINNER、女子代表義屋さーん!!」
「うぇーい。うち昔からじゃんけん強いんよねー」
「くっ、負けた!! すまない、皆!!」
というわけで男子が野宿、女子は馬車を寝床として使うことになった。
姫川が「ボクは可愛いから馬車ね!!」と言い始めた時は男子が総出で止めた。
夜。
俺は誰かが馬車から降りてくる物音が聞こえて、目を覚ました。
「んぅ? 誰だ、こんな時間に……」
雲で月明かりが遮られてしまい、顔は見えなかったが、たしかに誰かが森の更に奥の方に入っていったらしい。
それにしても無用心だ。
この辺りには魔物も出るし、仮にお花を摘みに行くとしても数人で行くべきだろう。
「心配だけど、女子の跡を付けるのはなあ」
あらぬ誤解を招きかねない行動は控えるべきだ。
俺は申し訳ないと思いつつ、女子の馬車を覗いて入り口の手前にいた人を起こす。
起こす……起こしたい……。
「全ッ然起きないな、おい!!」
誰を揺すっても起きない。皆ぐっすりと眠ってしまっている。
まあ、俺のせいで王国を出奔して、疲れが溜まりに溜まっているのだろう。
かと言って男子を連れて行ったのでは意味がないだろうし……。
「……これは仕方ないことだ。あくまでもクラスメイトの安全のため。いざという時は直視しないようにしよう」
罪悪感を感じながらも、俺は馬車を降りて行ったクラスメイトを追う。
たしかこっちの方に向かったはず。
「ん? あれは……」
湖に誰かが身体を沈めていた。
どうやらお花を摘みに森へ入ったのではなく、水浴びのために人目の無い場所へ移動しただけだったらしい。
湖で水浴びをしていたのは、一糸まとわぬ姿の刀神さんだった。
ポニーテールの黒髪を下ろしており、何か身動きする度にぷるるんと揺れる、たわわに実った大きな果実。
けれど、不思議とそういう気持ちにはならなかった。
不覚にも目を奪われてしまったのだ。
雲の隙間から漏れる月光に照らされた刀神さんの姿に神々しさすら感じる。
俺は刀神さんをまじまじと見つめて……。
「って、いかんいかん」
ハッとする。
しっかり剣は持ってきてるみたいだし、無用な心配だったようだ。
というより……。
この状況では俺が覗き魔と勘違いされて斬り殺されても文句は言えない。
俺はさっさと退散しようと、刀神さんから視線を逸らそうとして――
「……お父さん……お母さん……」
「っ」
寂しそうに呟く刀神さんの声が、聞こえて足を止めてしまった。
声をかけたいが、この状況では本当に俺が覗き魔である。
「ここはバレないように退散して、明日相談に乗ろう。うん、それが最善策のはず――」
「っ、そこにいるのは誰? 気配でいるのは分かっているわ。出て来ないと斬るわよ?」
「秒でバレた!?」
俺は刀神さんの前に飛び出し、反射的に土下座するのであった。
結構距離があったのに気配でこちらに気付くとか、鋭いにも程がある。うちのクラスの剣神は何者なのだろうか。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント小話
姫川は味見の魚料理だけは食べるようになった。
「味見くんただのオカンやんけ」「このクラス仲良くて好き」「刀神さんとフラグ立ったか?」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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