第9話 うちのクラスメイトの自称ママが過保護すぎる
「ごめんなさい。少し休んだら、大丈夫だから」
「無理はしないでくれよな、刀神さん」
初めての魔物との戦闘を終えた俺たちは、更に森の奥地まで進み、大きな湖を発見したところで馬車を停めた。
対岸が辛うじてしか見えないことから、湖はかなりの大きさだと分かる。
晴れて水場を確保した俺たちは、クラス会議でこの湖周辺をしばらくの拠点として使おうという意見でまとまった。
俺は皆が降りた馬車の中で刀神さんの看病をしている。
刀神さんはやはり長時間の集中で疲労が溜まっていたのか、微熱があったのだ。
と言っても、ここには薬も何も無い。
そのため湖の水で濡らした布を頭に乗せるくらいしかできなかった。
「皆は、何をしているの?」
「今は相性の良いスキルを持っている人同士で班分けをして、それぞれ役割分担して行動してるよ」
俺を除いたクラスメイトは、主に三つのグループに分かれていた。
まず狩猟班。
食べられそうな動物を獲ってくる班で、戦闘系のスキルを持っている者が多い。
次に拠点整備班。
もの作りや土地の整備に使えそうなスキルを持っている人が多く、人数は三つのグループの中で一番少ない。
最後に採取班。
周辺で食べられそうな植物を集めており、人数的には狩猟班より多かった。
うちのクラスは非戦闘スキルを持っている奴の方が多いらしく、多くがこの班である。
「で、俺と義屋さん、
「そ、そう。笑っていいところなのかしら?」
「いいところだよ」
刀神さんが俺の自虐に対し、反応に困った様子を見せる。
おっと。病人を困らせるのは良くなかったな。
「りょうちーん。きりるんを困らせちゃ駄目っしょー」
「あ、義屋さん。ちょうど俺も心の中で反省してた」
「ウケるー」
煮沸した湖の水を持ってきた義屋さんと、その後ろにもう一人。
軽いウェーブのかかった焦げ茶色の髪の大人びた雰囲気と、常に微笑んでいるかのような糸目が特徴的な美少女である。
何より目を引くのは、その大きな胸。
女子の中では少し高い程度の身長だが、その胸に関しては最強クラス。否、最胸クラスと表現するべきか。
その大きさはメロンどころか、真夏のスーパーで売ってる大玉スイカ並みのサイズ感があった。
本人のおっとりした性格もあり、男子からは『聖母』の異名で絶大な人気を誇っている。
彼女の名前は
刀神さんとは小学校からの付き合いらしく、親友と呼べる仲だ。
ただまあ、今までのパターンから考えれば分かるように、母谷さんも個性があって中々濃い人物だったりする。
ご覧いただこう。
「
「……響子……うるさい……」
「!? うわーん!! 霧流ちゃんが反抗期になっちゃったぁー!!」
とまあ、このように。
母谷さんは自らママを名乗っては相手を過保護な程に気遣うのだ。
ついでに言っておくと、これは相手が刀神さんだからではない。
「きょうちん、きりるんは疲れてるんだから、あんまり騒いじゃ駄目っしょー」
「うぅ、分かってるけどぉ!!」
「ま、まあ、落ち着いて、母谷さん。刀神さんにも母谷さんが本気で心配してるのも伝わっただろうし、ね? 取り敢えず涙と鼻水を拭こうよ。女の子がしちゃいけない顔してるよ」
「……良介くん……いえ、良ちゃん……」
俺は身構える。いつでも避けられるように。
「ママを慰めてくれるなんて、良ちゃんはなんて良い子なの!! ママがたっくさんヨシヨシしてあげるわね!! あーん、どうして避けるの!? ママのこと嫌いになっちゃったの!?」
「ごめん。嫌いとかそういうのじゃなくて、涙と鼻水が気になって」
ご覧の通り。
母谷さんは相手が男子でもお構い無しにママを自称して抱き着こうとしたり、撫で回そうとしたりするのだ。
普段は刀神さんが注意して抑えてるが、今はその刀神さんがダウンしてしまっている。
つまり、ブレーキが無い暴走列車なのだ。
「はーい、きょうちん。一年の時と同じ問題起こすのはやめようねー」
「あら、留美子ちゃんったら酷いわ。ママ、問題なんて起こしてないわよ?」
高校一年の夏頃。
母谷さんはある問題を起こして停学処分を食らったことがある。
それは、母谷さんを他校の不良まがいの男子が彼女をナンパしたところから始まった。
いつまで経っても自宅に帰らない母谷さんを心配した両親が警察と学校に連絡。
以前も問題を起こしていた他校の不良まがいの男子に警察が目を付け、すぐに母谷さんは保護されたのだが……。
警察が現場に到着すると、そこには幼児退行した不良まがいの男子数人と彼らをあやしている母谷さんの姿があったと言う。
それから不良まがいの生徒は正気を失い、まるで中身が別人になってしまったらしい。
以降は真面目になったそうだ。
警察は母谷さんが被害者だとは分かっていても、何か薬物を使ったのではと疑わざるを得ない状況だった。
結局怪しいものはなく、彼女は持ち前の母性で不良まがいの男子たちを更正したという結論に。
「うちのクラスメイトは謎の能力持ちが多いけど、母谷さんはその中でも超能力の領域だよな」
「分かるー」
「?」
母谷さんにあやされた者は、特に男子は幼児退行してしまう。
忍者兄弟もやってることは超能力染みているが、本人ら曰く忍法は技術らしいし、スキル無しで純粋な謎現象を起こしてるのは母谷さんくらいだろう。
「……みんな……お願いだから、静かにして……頭痛いから……」
「あー、めんごめんご。うちは外できょうちん見てるから、りょうちんはきりるん看ててねー」
「了解」
飲み水を置いて馬車を出ていく義屋さんと母谷さん。
母谷さんは「嫌~!! ママは霧流ちゃんと一緒にいたいの~!!」と駄々をこねていたが、義屋さんが引きずって行った。
義屋さんって緩い感じのするギャルだけど、こういう時は頼りになるなあ。
「……響子が、迷惑をかけてごめんなさい」
「刀神さんが謝ることじゃないよ」
「あの子は何というか、昔からああなのよ……。同い年のくせに私のことを子供みたいに扱ってきて、ホントに心配性なんだから……」
「む、昔からああなんだ?」
「ふふっ。ええ、そうなの。少し前だって――」
母谷さんの話題で饒舌になる刀神さん。
俺は彼女が話すのに疲れて眠るまで、相槌を打ちながら耳を傾ける。
「霧流ちゃーん、採取班の子が採ってきてくれたリンゴっぽい果物があるの。ママが剥いたから食べる? って、あら?」
「母谷さん、しー。今ようやく眠ったところだから」
「……ふふっ。霧流ちゃんったら、安心したように眠ってるわね。良ちゃんは将来良いパパになるわよ、きっと」
「ええ? そうかな?」
俺は眠った刀神さんを起こさないように細心の注意を払いながら、馬車を出た。
すでに日は沈んでおり、辺りはすっかり暗い。
「って、なんじゃこのフルコース料理は!?」
焚き火を囲むように座っていたクラスメイトたちの前には、豪勢な食事が並んでいた。
魚もあれば、何かの丸焼き? みたいな料理もある。
香ばしい匂いが漂ってきて、元々空腹気味だった俺はお腹が鳴った。
「クックックッ。色々と食えるものが見つかったからな、少し頑張った」
「味見さんマジパネェっす」
どうやらこの豪勢な料理を用意したのは味見くんだったらしい。
「ロクな調理器具もないだろうに、どうやって?」
「クックックッ。俺ぁ料理人だぜ? いつでもどこでも道具は持ち歩いてんだよ」
俺の問いに答えるように、どこからか包丁や鍋を取り出して邪悪に笑う。
ちょ、今どこから出した!?
さてはお前も忍者兄弟みたいな超人だった感じなのか!?
「クックックッ。というのは、冗談だ」
「え、冗談?」
「クックックッ。俺のスキルは【料理人】。料理に使う道具を生み出したり、食材の処理方法が分かるようになる」
「お、おお、凄いな」
未知の食材を調理できたのもスキルの力か。
俺は味見くんの絶品料理に舌鼓を打ちながら、クラスメイトと今後のことを話すのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント作者の癖
ママ属性持ちJKが作者の最近のトレンド。ちなみに母谷の幼児退行能力はスキルではない。なんか、そういうフェロモンが出てる。女の子には効きにくい。
「自称ママは草」「母谷ママに甘やかされて幼児退行する刀神さんを見たい」「癖の分かりみがマリアナ海溝」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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