第15話 うちのクラスメイトが魔物側すぎる
「くっ、殺せ!! 栄光あるヴェスター王国騎士団の私が!! このような辱しめを受けるなど!!」
捕虜となった騎士たちのうち、アチリヴァに副官と呼ばれていた女騎士が怒りで身体を震わせる。
それを聞いた鑑石が嬉々としてスマホで写真を撮り始めた。
「くっころ!! 只野氏、これが女騎士の生くっころですぞ!!」
「鑑石、写真は撮らない方が……。許可の無い撮影は盗撮だよ」
「おっと、たしかに紳士にあるまじき行動でしたな。謝罪しますぞ、メリッサ氏」
女騎士の名前はメリッサ。
凛々しい雰囲気をまとった真っ赤な髪と瞳の美女である。
こちらの世界では家名があるのは貴族や一部の大金持ちの商人のみらしく、メリッサさんは平民出身で名字が無いそうだ。
騎士の多くは下位ながらも貴族出身であり、平民ながら騎士にまでなったメリッサの実力は本物なのだろう。
刀神さんもメリッサさんを見て「この人、かなりできるわね」とか強キャラが言いそうなこと言ってたし。
さて、そのメリッサさんが受けている辱しめとは何か。
誓って言うが、エロいことはしていない。
「クックックッ。次はこいつの下処理も頼むぜ」
「くっ。この私が、料理など!! こういうのは下女の仕事だろう!?」
答えは味見くんのお手伝いである。
捕虜となった騎士は五十名を越えており、とても味見くん一人では料理を作る手が追いつかなかったのだ。
そこで捕虜の中から料理の心得がある者がいないか探してみたら……。
「たしかにアチリヴァ隊でまともな料理ができるのは私だけだが!! なぜ、敵と肩を並べて料理など!!」
「クックックッ。美味いモンを作るのに敵も味方もあるか。強いて言うなら、俺の敵はまな板の上の食材共であり、同じ料理人は
味見くんから名言が飛び出す。空かさずメリッサがツッコミを入れる。
「私は!! 騎士なのであって!! 断じて料理人ではない!!」
「ツッコミ役が増えて地味に嬉しい」
「今まで只野氏がツッコミ役を担っておりましたからな。嬉しいのも分かりますぞ」
さて、と。
味見くんとメリッサが料理を作ってる間に、こっちの問題を解決しよう。
「で、問題はダンジョンだな。デカすぎるでしょ。池照、コレどうすんの?」
「僕が想定していたより遥かに大きいからなあ。あの大きさだと森の木で隠せないだろうし、防衛拠点としては満点なんだろうけど……。刀神さんはどう思う?」
「……そうね。どうしたものかしら……」
うちのクラスのトップ二人が揃って悩む。すると、刀神さんが一言。
「いっそのこと、私たちがボスキャラにでもなろうかしら」
「……え、良介。今のって冗談かな? 笑うところだったかな?」
「いや、違うでしょ。刀神さんならラスボスくらい務まりそうだし。俺は門番Bでもやろうかな」
「じゃあ僕は門番Aで」
「えー? やめろよ。イケメンのお前と並んだらマジモンのモブキャラになっちゃうじゃん」
「……コホン!! さっきの冗談よ」
「「あ、ごめん」」
刀神さんが恥ずかしそうに顔を赤くする。
しかし、刀神さんはすぐに切り替えて、今後の行動を決定した。
「せっかく蜜李が作ってくれたことだし、有効活用しましょう。同行していた月夜によると、あのダンジョンは生活に困らないよう色々な施設が中にあるらしいし」
「じゃあ移動の準備を済ませないとね。ご飯を食べ終わったら移動するか。……あ、でも捕虜の人たちはどうしよう?」
「……そうね。金鳥くんのスキルで無力化しているし、そもそも彼らは最初から敵意を抱いていなかった。メリッサさんは一度殺されて感情任せの敵意を抱いてはいたけど……。今は文句を言いながら警戒しているだけ。敵意は無いし、大丈夫そうね」
「敵意とか分かるんだ? 漫画の強キャラかよ。じゃあ一緒にダンジョンに連れてく?」
「うーん。いえ、今はまだやめておきましょう。ダンジョンの中がどうなってるか分からないし、そこは追々考える方が良いと思うわ」
「そっか、了解」
それから俺たちは味見くん&メリッサさんの作った料理を皆で食べた。
騎士たちが戦慄する。
「な、なんだ、この美味い料理は!?」
「あのメリッサが作ったのか!? 料理はできるけど、お世辞にも上手とは言えなかったメリッサが!?」
「い、いや、待て待て、お前ら。冷静に考えろ。あっちの悪人顔の少年がほとんど作ったに決まってる」
「そうだそうだ。不味いと言い切ることもできない中途半端な味のメリッサ副官がこんな美味いもの作れるわけがないだろう」
「き、貴様ら、言わせておけば!! 今すぐ叩き斬って――ぐっ!!」
メリッサが剣を抜こうとして、ピタッと動かなくなった。
騎士たちがニヤニヤ笑う。
「メリッサ~。我らに課せられたルールを忘れたのか?」
「逃げないこと、逆らわないこと、それから?」
「仲良くすることー。メリッサ副官、暴力は禁止ですよぉ?」
「き、貴様ら、このスープは私が作ったのだぞ!! 覚えていろ!! 自由の身になったら八つ裂きにしてやる!!」
騎士って仲良いんだなあ。
「……ところで、アチリヴァ様はどこだ? 朝から姿が見えんが……」
「ああ、あの人なら朝からうちのクラスの狩猟班と野鳥を獲りに行ってるよ。誰が沢山獲れるか競争するんだって」
「!? あ、あの、弓馬鹿隊長!! 敵と楽しそうに狩猟など、何を考えているのか!!」
一応、甲伊兄の分身が常に監視しているため、何かあっても大丈夫だろう。
しかし、敵と楽しそうに狩猟、か。
「めっちゃブーメランだな」
「む、何がだ?」
「「「「「「俺たち騎士もこの子たちと楽しそうに食事してますし……」」」」」」
「ぐっ!!」
楽しそうにしている、という意味ではアチリヴァも他の騎士たちも変わらないと思う。
メリッサは……。
まだ少し敵意があるというか、こちらを警戒しているようだが。
「わ、私は断じて楽しくなど!!」
「クックックッ。俺は楽しかったぜ? メリッサの手際が良くて助かった。お陰でいつもより美味いモンを作れたからな」
「む。……いや、私がしたのは下処理だけだ。美味いのは貴様の技量だろう」
「クックックッ。それは違う。調理は下処理から始まっている。お前の下処理は俺よりも丁寧だった。料理人として尊敬するぜ」
「わ、私は騎士であって、料理人では……。ふ、ふん」
メリッサさんは邪悪に笑う味見くんを見て、何故か急に顔を赤くしたかと思ったらそっぽ向いてしまった。
お、おお? これは……?
「只野氏!! こ、これは!!」
「あ、ああ、味見くんとメリッサさんにフラグが立ったな!!」
「あの乱暴で鬼の副官と恐れられたメリッサが、男に褒められて顔を赤くするとは……」
「しかし、歳が離れすぎじゃないか? あの料理人の少年は十五、六くらいだろう? メリッサは今年で二十五だぞ」
「おっと、騎士の皆様方。我輩らの世界にはある名言がありましてな」
「「「「「?」」」」」
メリッサと味見くんの年の差を心配する騎士たちの前に鑑石が躍り出る。
「愛があれば、年の差など関係ないのですぞ。愛があれば、次元の壁すら越えられる。それが愛の力なのですぞ」
「「「「おおー」」」」
「鑑石、お前二次元の推しの話してない?」
雑談もほどほどに、俺たちは食事を終わらせて迷井さんが作ったダンジョンに向かった。
しかし、ダンジョンは湖の中心にある。
泳いで行けるような距離ではなく、移動には特別な乗り物が必要だった。
その乗り物というのが……。
「あ、えっと、じゃあ、このウォーターバイクゴーレムに乗ってください。数が用意できなかったので、二人一組でお願いします」
うちの【ゴーレムマスター】こと、
前髪で表情は見えず、どこか恥ずかしそうにしているが、彼女はこれが平常運転だ。
それにしても、二人一組か。
「良介、ペア組もうぜ」
「お、そうだな」
こういう時、池照がいて良かったなと思う。と、そこで誰かが悲鳴を上げた。
「た、大変デース!! 筋山サンの筋肉の重みに耐えられず、ゴーレムで沈んでマース!!」
「え!? あ、えと、一応そのゴーレム、200kgまでは大丈夫なはずなんですけど……」
「筋山くんって200kgオーバーなのか」
しかし、困ったな。
筋山くんだけ置いていくわけには行かないし、どうしたものか。
「仕方ない!! ならばオレは泳いで行くとしよう!!」
「ちょ待て待て。落ち着こう。湖の中心まで一体何kmあると思ってんだ!?」
「ふっ。只野、オレの筋肉たちを心配する必要はない。例え数十km泳ごうが、オレの筋肉が弱音を吐くことはない!!」
「お前の筋肉じゃなくてお前の心配してんだよ!! あ、コラ!! パンイチになるな!! 飛び込むなー!!」
結局、筋山くんはバタフライで湖の中心まで泳ぎ切るのであった。
その光景を見た騎士たちがドン引きした。
加えて言うなら、それなりの速度が出るウォーターバイクゴーレムよりも筋山くんが速く泳ぐため、鋼創さんがショックを受けていた。
筋山くんはもう魔物で良いと思う。筋肉の魔物。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント騎士たち
騎士としての業務体系がそれなりにブラックだったため、のびのびと森で狩猟しながら美味い飯を食って寝るだけの生活を楽しんでいる。
「もう仲良しじゃん」「騎士たちノリ良くて草」「さすが筋肉モンスター」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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