第14話 うちのクラスメイトのスキルコンボが強すぎる
「持ってきたぞ。では、拙者らは本体と合流して哨戒任務に戻る」
「あ、うん、お疲れ様。甲伊兄の分身さんたち」
煙が生じ、ドロンと分身が消えてしまう。
甲伊兄の分身が持ってきたのは、彼らが始末したヴェスター王国の追手――その亡骸だ。
皆が覚悟を決めて敵を迎え討とうとしていたのに、まさか甲伊兄が敵全員の息の根を止めて連れて来るとは予想外だった。
皆、人を殺すことを覚悟して身構えていた分、肩透かしを食らったような気分だろう。
そして、それが甲伊兄なりの気遣いであるのだと誰もが察していた。
皆で手分けして遺体袋から死体を出す。
「うわー、マジモンの死体じゃーん。初めて見たわー」
「初めてじゃなかったら嫌だよ。てか義屋さん、全然ビビってないな」
「まあ、うち名探偵コ◯ンとか見てるし」
「えぇ……」
名探偵◯ナン見てるから死体が平気理論はちょっと理解できない。
俺は死体にビビらない義屋さんにビビった。
「おい。くだらねぇこと喋ってないで、さっさと作業に移るぞぉ」
「うぇーい。じゃあ適当に蘇生するねー」
「タイミングを間違えるなよぉ」
義屋さんと金鳥くんが追手の死体に触れて、同時にスキルを使う。
義屋さんのスキルは【蘇生】。
死にたてほやほや、かつ欠損が無い状態ならノーリスクで生き返らせることができるスキルだ。
死後しばらく時間が経っていると、元通りに動けるようになるまで時を要するらしいが、どのみち障害は残らない。
「成功したー」
「俺様の処置も終わったぜぇ」
傷口が塞がり、追手の騎士たちが目を覚ます。
「うっ、ここは……。っ、き、貴様らは、何者だ!!」
「よせ、副官。この者らの機嫌は損ねない方が良さそうだ」
「え、アチリヴァ様?」
目覚めた追手は誰も彼も困惑していたが、その中で唯一、アチリヴァと呼ばれる大男だけは努めて冷静な様子だった。
たしかこのアチリヴァ、王城で刀神さんでも斬り落とせない矢を放ってきた騎士だ。
「身体に違和感がある。貴殿ら、何をした?」
「簡単な話だぁ。こっちにいる義屋がお前らを蘇生したぁ。これは大きな貸しだぁ」
「……ふむ」
金鳥くんのスキル、それは【取り立て】。
何らかの行為で他者に貢献した時、相手に同等以上の貢献を義務付けさせ、命令することができるというスキルだ。
まあ、今回の場合を簡単にまとめるなら。
生き返らせてやったんだから、死ぬまで働けってことになる。
一つ注意するなら、これは貢献した本人に命令権が生じることか。
つまり、追手の騎士たちの命は金鳥くんではなく、蘇生させた義屋さんの手に握られているってわけだな。
これこそが、敵を殺さずに捕虜を抱えることで生じる多数の問題を解決する方法、である。
スキルコンボだな。超強い。
「んー、とりまうちらに逆らわないこと。逃げないこと。あと仲良くすること。以上」
「ふざけるな!! 誰が貴様らの命令なぞ――ぐっ」
「ほう!! これが話に聞くスキルの力か!! 凄まじい力だな!!」
命令に反抗しようとして苦しむ部下を見て、アチリヴァが楽しそうに言った。
すると、アチリヴァは途端に真剣な面持ちになる。
「して、我らをどうするつもりか。言っておくが、これでも王国の騎士。情報は話さんぞ」
「それは結構よ。私たちには優秀な目と耳が味方にいるもの」
「そうか。しかし、早急に我らを解放せねば、異変に気付いた増援が――」
「貴方の部隊は貴方の独断専行でこの森まで来たのでしょう?」
「……どうやら本当に優秀な目と耳があるようだな。先ほど我らを壊滅させた暗殺者たちか?」
暗殺者じゃなくて忍者だよ。
俺が心の中でツッコミを入れると、刀神さんが追手の騎士たちに告げた。
「貴方たちは捕虜よ。ただし、食料の確保は自分たちでやってもらうわ」
彼らは逃げられず、逆らえない。
言い方は悪くなるかも知れないが、要は森で放し飼いにするのだ。
これなら彼らは自分で食料を得られるし、俺たちが面倒を見る必要はない。
……まあ、食事に関しては味見くんが「クックックッ。客が増えたか。腕が鳴るぜ」と言ってたので、味見くんが作るものと思われる。
「金鳥くん、ありがとう」
「……何がだぁ?」
「金鳥くんのお陰で解決できたから、お礼は言うべきかなって」
「くひっ、気にするなぁ。ダチの頼みを断ったら妹に嫌われちまうからなぁ。また困ったことがあれば言えよぉ。手伝ってやるからなぁ、倍にして返してもらうがぁ」
「……金鳥くんは、良いお兄ちゃんなんだな」
俺とは大違いである。
それから更に三日という時間が流れ、朝起きた俺たちは目撃した。
「「「「「湖の上になんかできてる!?」」」」」
クラスメイトも、捕虜となった騎士たちも仲良くびっくり仰天。
湖の上に、ピラミッドのような巨大建築物が一夜にして現れたのだ。
やりきった顔をしながらも某ホラー映画の貞◯みたいな青白い顔の迷井さんと、疲労困憊と言った様子の鋼創さんが湖の向こう側から戻ってきたのは、それから数分後の出来事だった。
只野良介ら勇者たちがこの世界にやってくる、十数分前。
大陸の果ての更に果て。
海を越えた向こう側に広がる小さな島国に、巨大な城が聳え立っている。
ここは魔王城。
一年前に突如として現れ、魔物たちをまとめて人類への攻撃を開始した魔王の居城である。
しかし、ここが魔物にとっての楽園かと聞かれれば、答えは否だろう。
「魔王様。何やらヴェスター王国に動きがございます。魔力の流れから察するに、勇者召喚をしているのかと」
「ふーん?」
魔王城の最上層。その大広間にある禍々しい意匠の椅子に、一人の女が腰かけていた。
まだ幼い少女である。
人間の年齢で言うなら十三、四歳程度の外見だろうか。
雪のような純白の長い髪と血を彷彿とさせる真紅色の瞳、肌は色白で儚さがある美少女だった。
華奢で小柄な体躯をしており、少し強く抱き締めれば簡単に壊れてしまいそうな繊細さえ感じられる。
加えて言うなら、身にまとう衣装の露出度がやたらと高い。
肩やへそ、胸元や太ももなどが露出し、色白な肌と反する黒を基調色としているため、かなり映える格好だった。
しかし、その身体は人間とは程遠い。
頭部からは悪魔の角が、腰の辺りからは漆黒の翼が、臀部の上からは竜の尻尾が生えている。
この少女こそが魔物を統べる王、魔王だった。
今、人類の勇者召喚を察知した配下の魔物が魔王に進言し、今後の方針をどうすべきか、魔王に意見を求めている。
対する魔王は、その配下を見下ろしながら表情をピクリとも変えずに言った。
「で?」
恐ろしく冷たい、背筋の凍るような回答だった。
配下は額に脂汗を流しながら、魔王の機嫌を損ねないよう、自らの意見を述べる。
「っ、そ、早急な対応を、取るべきかと意見具申致します」
「……あっそ。どうでもいいよ」
「……え?」
「私にとっては勇者が召喚されて、私や魔物が死のうが、私が勇者を殺そうがどうでもいい」
魔王はひたすら無気力だった。
「大体さ、私言ったよね? さっさと世界を滅ぼせって。人類の盾だか何だか知らないけど、いつまで一つの国に侵攻を妨げられてるの?」
「ヴェスター王国は、我々魔物を古くから退けて人類を守る国です。その防衛力は周辺国から頭一つ抜きん出ており――」
「御託は要らない。私は滅ぼせと言った。ならお前たちは死んでもそれを実行しろ」
魔王が配下を威圧する。
配下はその理不尽な魔王の物言いに、何も言い返さない。否、言い返せない。
怖いからだ。
一年前、彼女は魔王の座を狙っていた強大な魔物たちを次々と惨殺し、こう言った。
『私に従うなら死ぬまで使ってやる。私に従わないなら死ね』
そして、それを有言実行した。
彼女に逆らった者は例外なく皆殺し。生まれたばかりの子も容赦なく殺した。
まさしく、恐怖そのもの。
「承知、致しました」
「そうそう。そうやって従えば良いんだよ。じゃあほら、さっさと死にに行けよ」
配下は分からない。
魔王が何を考えているのか。
ただ一つ分かるのは、彼女は魔王の座に就いてから何もかもが投げやりということだ。
全てがどうでもいいかのような、この世界を生きる自分にすら価値を感じていないかのような。
そう、いわば何かがズレている。
配下は死にたくない一心で目の前の理解不能な存在に従い、部屋を出て行こうとして――
ガタッと魔王が王座から立ち上がった。
「ま、魔王様? 如何なさいました?」
「……嘘……嘘、召喚時の微かな魔力の波動、の中に、いたのって……。私の勘違い? ううん、私が間違えるわけない!!」
魔王の目から涙がぽろぽろと零れる。
配下がいることなど忘れて、見た目相応の少女のように嗚咽を漏らす。
配下はただただ困惑した。
「やっぱり、そうだ。今の気配、間違いない。信じられないけど、間違いない!!」
魔王が城を飛び出す。
配下の呼び止める声など全てを無視して、全力で翼をはためかせ、空を駆ける。
正確な位置までは分からない。
しかし、魔王のずっと会いたかった人物が、この世界のどこかに現れた。
「この世界に、お兄ちゃんが来たんだ!!」
そして、少女は数日後に再会を果たす。
前世で何よりも大好きで大好きで、他のことがどうでも良いとすら思える大切な人と。
再会できたら、二度と放さず、自分のものにすると決めていた兄と。
魔王の兄は知らなかった。
まさか死んだはずの妹が転生し、魔王になっていることなど。
知るはずもなかった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイントどうでもいい話
アチリヴァは実は妻子持ち。
「コ◯ンで死体平気理論は草」「妹が魔王か!!」「あとがき本当にどうでも良くて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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