第13話 うちのクラスメイトのやり方があくどすぎる
追手が想定よりも早く来た。
クラスメイトが追手に気付かれないよう、迂回して拠点まで戻ってくる。
この場にいないのは鋼創さんを連れて湖の中心に向かって行った迷井さんと、分身と共に追手の動向を監視している甲伊兄弟だけだった。
「……私たちは今、選択を迫られているわ」
刀神さんが真剣な面持ちで言う。
うちのクラスにしては珍しく、この場でふざけている者はいなかった。
「殺すか、否か。敵は刻一刻と迫っている。本当は一番最初に決めるべきことだったのかも知れないけれど……。皆の意見を手短に教えて?」
いつもは各々の思うことを口にするクラスメイトだが、今日はだんまりだった。
当たり前だ。
平和な日本で育ってきた俺たちには、そもそも殺し合う敵がいなかった。
殺す覚悟も殺される覚悟もない。
ヴェスター王国の城から脱出した時だって、壁や扉は破壊したが、人は殺さないで気絶させただけだった。
仮に殺すとしても、それをしなければならないのは戦闘系のスキルを持つ者に限られてしまう。
それは、なんというか、正しくない。
誰かに手を汚させることを、このクラスの人間はきっと許容しないだろう。
普段から馬鹿騒ぎしているが、うちのクラスはそういうクラスだ。
「気は進まないが、身を守るためだ。オレの筋肉もそう言っている」
「だねー。ボクが捕まったらファンの皆も悲しむだろうし」
「クックックッ。仕方ないこと、だと思うしかねーなあ」
殺すのに賛成意見もあれば、反対意見もある。
「敵を殺せば、向こうも止まれなくなりマース。捕虜にするべきデース。ワターシの【催眠】であれば何とかなるはずデース」
「江口さんと同じ意見というのは癪ですが、私もそう思います。貴方もそう思いますね、豚さん?」
「ぶひいっ!! わ、我輩もそう思いますぞ、ご主人様!! ……ただ、江口氏のスキルは対人特化と言っても複数人を相手に使うのに適しておりませぬぞ。別のやり方を考えるべきですぞ」
知らないうちに飼い慣らされている鑑石のことはさておき。
賛否が綺麗に分かれた。
「只野くんは、どう思う?」
「俺は……迷ってる」
「忌憚の無い意見を聞かせて」
俺は一呼吸置いて、考えを口にした。
「倫理観はこの際考えないものとして、殺すのは良くない。敵は国だ。一人を殺せば百人が襲ってくる。等身大のゴキブリと思った方が良い」
「ず、随分と嫌な例えね」
「かと言って殺さずに捕縛するのも難しい。スキルという力があっても、殺す気で敵が来たならこちらも殺す気じゃないと対処できない。仮に対処できたとしても、捕虜は飲み食いする上、隙を見て逃げ出したり、反撃してくるかも知れない。危険だ」
「……そうね。一理あるわ」
正直な話、俺では判断がつかない。池照や刀神さんも俺と同じだろう。
だからここは、そういう判断ができそうな奴を頼るしかない。
俺は今までのクラス会議で一言も発していない男子生徒の前に立った。
「
「……」
俺が声をかけたのは、
彼は学校でも色々と有名な男子だった。付いたあだ名は『借金取りの諭吉』。
常に眉間にしわを寄せ、銀縁のメガネがより威圧感を増しており、その顔は味見くんに並ぶほど凶悪だ。
しかし、その性格は味見くんとは真逆。
学校内外で金貸しのような真似をしており、法律ギリギリのことをやっているらしい。
金を借りる時は快く貸してくれるが、返すべき時に返さないと骨の髄まで搾り取られるとして有名だった。
かと言って性根が腐った悪人かと聞かれると、そうでもないのが困る。
金鳥くんには幼い妹がおり、妹を養うためにバイトを掛け持ち、バイトで得た金を元手に金貸しまがいのことをしてお金を増やしているのだ。
恐ろしいのは本人が法律に詳しく、本当にギリギリを攻めていること。
詳しくは分からないが……。
同じように妹がいた身としては、強引な手段も辞さない点には思うところがあるものの、俺と同じ匂いがする。
要は結構な兄馬鹿ということ。
……話が逸れたな。
とにかく妹のためなら犯罪ギリギリのこともできる彼なら、良い折衷案を出してくれるかも知れない。
俺の問いかけに対し、金鳥くんは「やれやれ」と言いながら答えた。
「お前らはよぉ、難しく考えすぎなんだよぉ」
「「「「?」」」」
「殺すか殺さないかで頭がいっぱいになっちまって、それ以外の選択肢を除外してんだよぉ。無意識になぁ。俺様たちのスキルは組み合わせ次第じゃ世界すら獲れる。勇者とその仲間のスキルってのはそういうもんだぁ」
「具体的な作戦は?」
「それはなぁ――」
それから金鳥くんが口にした作戦はなんというか、一言で言うと……。
「「「「「や、やり方があくどい!!」」」」」
「聞いてきたのはお前らだろうがぁ。酷くねぇかぁ?」
しかし、刀神さんが面食らった様子で頷く。
「でもたしかに、現状取れる選択の中では最善と言って良いわね」
「問題は金鳥くんと義屋さんのスキルが想定通りに噛み合うか、だよな」
「噛み合わなかった場合は――」
こうしてクラスの考えはまとまった。
これからの異世界生活では、敵は容赦なく殺すスタイルで行くことに。
この世界では禁足区域と呼ばれている森に立ち入った集団がいた。
『轟弓』のアチリヴァ率いる、ヴェスター王国騎士団の一部隊だった。
「あの、アチリヴァ様。ここは禁足区域ですよ?」
「そうだな」
「そうだなって、き、聞いてないですよ!! こんな場所に来るなんて!!」
「言ってないからな」
「こ、このクソ上司、いつか絶対後ろから脳天ぶち抜いてやる」
アチリヴァの部下たちが割とガチめの殺意を滾らせる。
しかし、アチリヴァは特に気にしない。
その気になれば、部下全員が反抗してきたとしてもアチリヴァ一人で制圧できるから。
部下たちもそれが分かっているため、アチリヴァに反抗的な態度を取りつつも、従順に従っているのだ。
「しかし、勝手に王都を出て良かったのですか? 城から逃げ出した勇者たちは、まだ王都内に潜伏しているとのことですが」
「あんな情報を真に受けているのか?」
「……どういう意味です? 一応、諜報部隊が集めた情報ですよ?」
アチリヴァの悪意無き馬鹿にしたような物言いに対し、情報通の副官がムッとする。
「情報は俺も把握している。やれ壁を登っただの、やれ闇ギルドに所属しただの、なさそうでありそうなものばかりだ」
「そうですね。だからこそ、情報の精査を急ぐべきで――」
「それが相手の狙いだ。もしかしたら、ひょっとすると、そういう情報に引っかけようとしているのがひしひしと伝わってくる」
それは鋭い意見だった。
「だからそういう情報は無視する。大切なのは、連中が取るべき最善策が何かだ」
「それは、ええと、他国に行くとか?」
「そうだな。しかし、主要な街道は全て王国が封鎖した。選択肢は限られてくる。連中はどこかに潜伏し、ほとぼりが冷めるのを待つしかない」
「で、では、なぜ禁足区域に?」
「ここは危険な魔物が多いが、王城での大立ち回りを見るに、彼らなら問題なく過ごせるだろう。それにここは動植物が豊富で、サバイバルに向いているしな」
部下たちが感嘆の息を漏らす。
普段は弓の修行しか頭に無いアチリヴァが、ここまで理性的な思考ができることに驚いていたのだ。
「驚きました。アチリヴァ様は己の弓の腕前を磨くことにしか興味がないのかと」
「その通りだが?」
「え?」
「俺の放った矢を弾いた、あの結界。あれを破った時、俺の技量はまた一段階上のステージに進む。もっともっと、強くなれる気がするのだ」
「「「「「……はあ」」」」」
部下たちがやっぱりかあ、みたいな反応をする。
「む」
「どうしました、アチリヴァ様?」
「しくじったな」
「え?」
その瞬間、部下の首から血が吹き出した。
一人や二人ではなく、ほぼ同時に十数人が致命傷を負ったのだ。
「アチリヴァ様、指示を!! というかアンタも戦ってくださいよ!!」
「……すまぬ。何故か身体が動かぬ」
「はあ!? こんな時に何をふざけ――」
悪態を吐こうとした部下が絶命する。
そして、それは『轟弓』のアチリヴァもまた例外ではなかった。
「ぬぅ。強い者を優先して始末しているのか」
「……ご名答」
「まったく。子供だからと侮ってしまったな。王国はこの世界に劇薬を持ち込んだらしい」
「苦しめるつもりはない」
影が容赦なくアチリヴァの首を跳ねる。
弓馬鹿であっても、愛する祖国を救った英雄を尊敬していた部下たちはその光景を見て戦意を喪失してしまう。
「ま、待て!! 我々は投降する!! 命だけは――」
「降伏は認めない」
「っ、な、何故……」
襲撃者が疑問に答えることはなく、アチリヴァ率いる部隊は全滅するのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント問題
作者「デデン!! 問題です。義屋さんのスキルは何でしょうか!? ヒントは無し!!」
「このクラスはまじで何なんだ」「ぐう蓄問題で草」「本当に容赦なくて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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