第12話 うちのクラスメイトの料理人が早起きすぎる




 翌日。


 朝日が昇り、俺も含めたクラスメイトたちはちらほらと目を覚ました。



「ふぁーあ、おはよー」


「クックックッ。おはよう、只野。もうすぐ朝ご飯ができるから待ってろ」


「あ、うん。……味見くん、めっちゃ早起きだね?」


「クックックッ。皆が目覚めたらすぐ美味いモン食わせてやりたいからなぁ?」



 見た目は怖いのに、本当に善良で脳がバグりそうになる。

 まだ眠っているクラスメイトを起こし、皆で朝食を食べ始めた。


 今朝は復活した刀神さんの姿もある。


 昨日一日安静にしていたことで、すっかり体力も回復したようだ。


 少し気になるのは、刀神さんがこちらをちらっと見てはポッと頬を赤く染めて視線を逸らすことだろうか。


 俺も昨日のことがあった手前、気恥ずかしい。



「匂う!! 匂いますぞ!!」


「な、何がだよ、鑑石?」


「ラブコメの匂いがしますぞ!! 異世界ファンタジーでイチャイチャの匂いがしますぞ!!」



 こいつ、変なところで鋭いな。いや、ラブコメとは違うかも知れないが。

 などと感心していると、会話に江口さんが割って入ってきた。



「ワーオ!! 鑑石サンもそう思いマス!? 昨日の夜、たしかに何か、いえ、ナニかあった気がするのデース!! でも思い出せないのデース!!」


「……気のせいじゃない?」


「ワターシ、エロの波動には敏感なのデース!! 絶対にナニかありまシタ!!」



 ちっ。こいつも鋭いな。


 刀神さんの方を見ると下を向いて耳まで真っ赤にしていた。



「どしたん、きりるん? やっぱ具合悪いー?」


「い、いえ、だ、だだ大丈夫よ!! ありがとう、義屋さん!!」


「しんどかったら言ってよー? いざとなったらうちのスキルがあるから」


「貴方のスキルはたしか……。それは最悪のパターンの時ね。可能ならお世話になる事態には陥りたくないわ」


「ねー、うちもそう思うー」



 味見くんの馬鹿みたいに美味しい朝食を食べ終え、各々が行動を開始する。

 池照が手をパンパンと叩き、改めて皆に指示を出した。



「じゃあ昨日と同じように狩猟班は食べられそうな動物や危険そうな魔物を狩る。今日は刀神さんもいるから、少し積極的に行こう」


「皆、スマホの充電はバッチリね?」



 刀神さんがスマホを取り出し、皆に見えるように掲げる。


 昨日の夜、寝る時に【スマホ使用権】でスマホを充電できる雷電くんに皆が預けていたため、充電は100%だった。


 バッテリーも劣化しないらしいし、インターネットにも繋がるから本当に神がかったスキルだ。



「何があっても良いように、定期的に安全を報告し合いましょう。敵に見つかるリスクも抑えるために、音は出さないようマナーモードにしておくことも忘れないでね」


「「「「はーい」」」」



 刀神さんがいつものようにクラスメイトたちに言って聞かせる。


 まるで引率の先生だな。


 そこから狩猟班が細かい打ち合わせを始めたので、池照が他の班に指示をする。



「採取班は拠点からあまり離れないようにしてね。昨日で周辺の危なそうな魔物を狩ったとは言え、まだ安全とは言えないから」


「「「りょーかい!!」」」



 各班が行動を開始した。


 俺は相変わらず戦力外なので、拠点に待機し、ある作業を手伝う。


 隣から邪悪な笑い声が聞こえてきた。



「クックックッ。てめぇをズタズタのミンチにしてやるぜ」


「……味見くん。誤解されるから、その言い回しはやめた方が良いと思うよ?」



 味見くんは皆の食事の仕込みのため、医療班や拠点整備班と共に拠点に残っていた。


 その両手には鈍く光る包丁が握られており、目にも留まらぬ速さでまな板の上に肉を乗せて黙々とトントンしている。


 今日の晩ご飯はハンバーグだそうだ。


 なお、お昼ご飯の仕込みは昨晩のうちに済ませてあるらしい。

 磨り潰した木の実の粉を使って作ったパン生地のようなものを焼き、サンドイッチを作るとのこと。


 朝食を食べたばかりだが、今から楽しみである。



「クックックッ。只野、あとは俺一人でできる。お前は休んでおけ」


「あ、うん。分かった」



 俺は味見くんから借りていた包丁を返す。


 しかし、皆が各々の役割を全うしている中で何もしないというのは精神的にくるものがあるので、拠点整備班の様子を見に行く。


 たしか昨日から馬車の近くの地面に設計図を書いているはず……。

 拠点作りのアイデアくらいなら、俺でも役に立てる。と、信じたい


 そう思って来てみたら、誰もいなかった。



「あれ? 迷井さんたち、どこに行ったんだ?」


「んー? りょうちんじゃん。どしたーん?」


「あ、義屋さん」



 馬車の中から義屋さんが出てきた。


 彼女のスキルは現状、俺たちにとっての生命線なので、何があっても対処できるよう安全な拠点で常に待機している。


 え? 戦闘系スキル持ちがいる狩猟班に付いて行った方が安全じゃないかって?


 それがそうでもない。


 何故なら、拠点周辺には分身した忍者兄弟の甲伊兄が潜んでおり、常に敵の接近を警戒しているからだ。


 魔物と戦う狩猟班よりも、拠点にいる方が安全という結論に至った。


 本人は「皆が頑張ってる中で一人馬車で待機とか嫌なんですけどー」と不満なようだが、そこは我慢してもらうしかない。



「迷井さん知らない? 拠点作りのアイデア出しは手伝えるかなって」


「みつりんならつくるん連れて湖の真ん中まで行っちゃったよー」


「ええ?」



 みつりんは迷井さんのことだろう。


 つくるんってのは、おそらくうちのクラスの癒しキャラこと鋼創はがねつくり月夜つくよさんのことかな。


 強キャラっぽい名前をしているが、背が低く、小動物のような印象があり、同じく背の低い【結界師】の結崎さんとは非常に仲が良い。


 普段は前髪が長いショートヘアーで、目もとを隠しているが……。


 その髪の下には美少女がいる。


 俺は見たことないが、見たことのある生徒の話によると「女神が人の身に宿ってる」らしい。


 例えが凄いよね。



「えーと、鋼創さんのスキルって……」


「【ゴーレムマスター】だよー。てか、ゴーレムって何なんだろー?」


「ゴーレムはほら、あれだよ。勝手に動く人形、みたいな」



 たしか【ゴーレムマスター】はあらゆる素材から人形を作り出すスキルだと鑑石が言ってた。


 その迷井さんの【迷宮創造】とは相性が良さそうではあるが……。



「湖の真ん中ってどゆこと?」


「んー、分かんない。なんかつくるんの【ゴーレムマスター】で船みたいなの作って、狩猟班が狩りに出るのと同じくらいに出港してたよー」


「まじか。……沈没してたりしないよね?」


「十五分おきにメッセ来てるから大丈夫そ。つくるんから『タスケテ』って」


「なら良かった。……いや、良くないか!? それ助けに行かないとヤバイ奴じゃないか!?」



 俺が慌てて湖を泳いで進もうとしたら、義屋さんに首根っこを掴まれた。



「話は最後まで聞こー? なんか『水の上、コワイ』って続いてんだよねー」


「あぁ、そう言えば鋼創さんって……」


「そ。超カナヅチ」



 そりゃあ助けを求めるか。



「どのみち待つしかできないってことか。うーん、困ったなー。やることがない」


「うちとゲームでもして遊ぶ?」


「……しちゃう? なんかほら、ちょっと申し訳ない気がしない?」


「大丈夫大丈夫。うちの役目は非常事態の時だし、りょうちんはそもそも戦力外だし」


「おうふ。他人から言われるとすっごく心に刺さるな」



 でも現実問題、戦闘力の無い俺は狩猟班に参加はできない。

 採取班なら大丈夫そうだし、昨日は魔物と遭遇して逃げ帰ってきたらしいからな……。


 正直、どちらに参加するとしても危険はある。


 それなら医療班が常にいる拠点付近で誰かの作業を手伝う方が役に立つだろう。



「ん? グループチャットにメッセ来たな」


「ホントだ。なになにー?」


「ちょ、自分のスマホ見なよ……」


「細かいことはいいじゃーん」



 俺の背中に抱き着いてきて、スマホの中を覗いてくる義屋さん。


 おうふ、柔らかいものが背中に……。


 昨日の刀神さんと言い、義屋さんと言い、ついにモテ期とやらが俺にも来たのだろうか。

 などと考えながら、送られてきたメッセージの内容を見る。


 送信者は甲伊兄。


 森の中に分身を配置して、周囲の監視している彼からの緊急連絡だった。


 その内容は――



『敵影発見。所属はヴェスター王国。轟弓のアチリヴァ率いる数十人規模の部隊。騎兵十、歩兵四十程度。意見求む。襲撃しかけるべきか』



 どうやら追手がすぐ近くまで迫っていたらしい。


 俺はそのメッセージを見て、喉の奥がきゅっと締まる感じがした。





―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント作者の好み


作者「距離感の近いギャルは至高!! 異論は認める!!」



「鑑石が鋭くて草」「味見のハンバーグは食べてみたい」「轟弓追いつくの早くて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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