第16話 うちのクラスメイトの作ったダンジョンが無法すぎる
皆でウォーターバイクゴーレムに乗ってダンジョンのある湖の中心まで移動し(一人だけ泳いでいたが)、中に入った。
見た目はピラミッドっぽいが、灰色の材質で作られており、どこか不気味さが漂っている。
これを僅か数日で作ってしまう迷井さんの【迷宮創造】の壊れっぷりには、羨ましいという感情すら沸いてこないな。
皆で迷井さんの後ろに付いて歩き、その構造や施設について詳しい説明を聞く。
地球ではまず見られないであろうファンタジー感満載のダンジョンに、男女問わずクラスの皆が盛り上がっていた。
かくいう俺も内心ではワクワクしている。
迷井さんが完成させたダンジョンに色々言いはしたが、こういうものはテンションが上がるのだ。
「ダンジョンは主に三層に分けて作りました」
睡眠を取り、貞◯モードではなくなった迷井さんが先頭に立ってダンジョンの内部について説明する。
どうやって用意したのか、ご丁寧に資料まで用意されていた。
「まずは下層。敵の迎撃のために私の【迷宮創造】で作った罠や鋼創さんの作った迎撃用ゴーレムがふんだんに配置されてます。あ、只野君。そこの床を踏んでみて」
「え? あ、うん。――!?」
「とまあ、このように刺付き天井が落ちてきます。実際にはこれを逃れても大量のゴーレムに囲まれるので、結構死ぬかと。似たようなトラップが沢山ありますから、皆さん下層を移動する時は注意してください」
「ねぇ、実践させる必要あった!? まじで死にかけたんだけど!? てかなんで俺にやらせたの!? 死んだらどうすんの!?」
「へーきへーき。死んでもうちの【蘇生】で生き返らせたげるからー」
義屋さんが良い笑顔で言う。
あ、そっか。
義屋さんがいるなら多少は死ぬことがあっても平気だよね。
ってなるとでも思ったか!! 普通にアウトだよ!!
「質問ですぞ、迷井氏!!」
「なんですか? 鑑石君」
鑑石が手を上げて質問する。
「この下層、魔物はいないのですかな? ダンジョンと言えば定番ですぞ」
「あー、用意しようと思えばできます。ただ一つ訂正するなら、ダンジョンに出るのは魔物ではなく、モンスターです」
迷井さんの話によると。
魔物とモンスターは、厳密に言うと全くの別物らしい。
魔物というのは肉体と精神、魂を持ち、己の意志で行動する。
対するモンスターは精神と魂を持っておらず、ダンジョンマスターの命令に忠実に動くとか。
しかし、防衛力を上げるという意味でもモンスターを配置する方が良いと思うが……。
何か理由があるのだろうか。
「実はダンジョンそのものにリソースを費やしてしまいまして。モンスターは弱いのしか用意できないんです。そこで鋼創さんにゴーレムを用意してもらいました」
「あ、えっと、は、はい、用意しました」
もじもじしながら、鋼創さんが言う。
正直、昔飼ってたハムスターと仕草が似ていてめっちゃ可愛い。
などと思っていると、迷井さんがボソッと一言。
「それにダンジョン内を魔物が徘徊するのは設定に反しますし」
「「「「「設定?」」」」」
「よぉくぞ聞いてくれましたぁ!! そう!! このダンジョンには私が練りに練った設定があるのです!!」
「「「「「うお、ビックリした」」」」」
急に大きな声を出した迷井さんに、皆が驚いてビクッとした。
そんな俺たちを無視して、迷井さんがどこからか取り出した黒縁のメガネをかける。
「このダンジョンは遥か昔、地球から大陸ごと転移してきたアトランティス文明の末裔が遺した遺跡なのです!!」
「え、これ長くなる感じ?」
「シャラアアアアアアップ!!!! 私の説明を遮らないでもらいましょう!!」
中指を立てる迷井さん。口悪っ。
「故郷に帰るため、アトランティス人は研究を続けましたが、長い長い時を経て断念。この世界を第二の故郷としたのです。しかし、アトランティス人にとって、この世界の空気は猛毒でした。大気中の成分を弄る装置を開発したものの、猛毒が消える前にアトランティス人は全滅。ダンジョン内を徘徊するゴーレムたちは今は亡きアトランティス人たちを守るため、今日も侵入者を撃退するのです」
「「「「ほぇー」」」」
「それらの一連の出来事を石碑や壁画として下層の至るところに設置しました。お宝と一緒に!! まあ、お陰でモンスターに割けるリソースが減っちゃいましたが……。ロマンの前では仕方ないですから!!」
「「「「ロマンなら仕方ない」」」」
「仕方なくないよ!? なんで皆して納得してんだ!?」
つまり、迷井さんはロマンのために防衛力を落としたってことだ。
安全を考えるなら絶対ダメだと思う。
しかし、俺の主張も虚しく、一行は中層へ続く階段を登って行った。
「さっき三層に分けてあると言いましたが、侵入者が立ち入れるのはここだけですね。中層と上層に続く階段は、皆さんの前にしか出現しませんから。セキュリティはバッチリですよ」
「!? そ、それは、凄いな」
その気になれば籠城も可能ということか。
いや、一度籠城すると食料の確保ができなくて詰むだろうから、小まめに食べ物を備蓄しておく必要はあるかも知れないが。
それでも籠城できるというのは、それだけでも十分な強みになる。
と、思っていたら。
中層に入ると、ダンジョン内にも関わらず、上を見れば大空が広がっていた。
太陽のようなものも宙に浮いている。
「中層には主に牧場、農場、漁場を作りました」
「「「「なんで!?」」」」
よく見たら、海や川っぽいものもあった。
「食料確保は必須でしたから。モンスターはダンジョンが存在する限り、無尽蔵に湧くもの。動物系や植物系、魚系のモンスターの中から食べるのに適したものを各場所に配置しています」
「うわー、すっげ」
「まあ、リソースをダンジョンそのものに使っちゃったので、最低限の数だけ用意して、あとは自分たちで繁殖させる必要はありますが……。そこは野原さんにお願いします」
「ん、んだ!! 動物のお世話ならあだじの得意分野だ!! ……で、でも、あだじ一人はしんどいがも……」
ふんす!! と意気込むが、あまりの中層の広さに自信無さそうな野原さん。
あ、そうだ。
「捕虜にした騎士の人たちから希望者を募るのはどうだ? 二人か三人くらいならやってくれそうな人いそうじゃない?」
「……ふむ。良い案ですね、只野君。捕虜は労働力としてリサイクル、中々ゲスいです」
「え? ちょっと待って。違うからな!? 結構騎士の人たちと仲良くなったからお願いしたらやってくれるかなって思っただけだからね!?」
たしかに無個性なことを気にしてはいるが、ゲス属性は嫌だ。
この提案はあくまでも、捕虜の騎士たちをどうすべきかを解決するための提案であって、ゲス案ではない。
俺が必死に弁明していたその時、不意に筋山くんが驚いたように声を上げる。
「む!?」
「ん? どうしたんだ、筋山くん?」
「ま、迷井!! あの牛のようなモンスターはなんだ!?」
筋山くんが牧場エリアをうろうろしている頭が牛で首から下が筋山くんに負けず劣らずのムキムキなモンスターを指差して叫ぶ。
あれは……。
「あれはミノタウロスです。メスは乳も出ますし、雄は畑を耕すのに役立つかと」
「ミノタウロス……。オレの筋肉にも見劣りしない、素晴らしい筋肉だ!! そこの君!! 是非、オレと筋肉勝負をしようじゃないか!!」
「あ、ちょっと!! ……もう。モンスターには自我が無いから話しかけても意味無いのに。まあ、筋山君は置いておくとして、次は上層に行きましょう。皆さんのお部屋や希望の施設はそこですから」
「「「「待ってましたー!!」」」」
クラスメイトがぞろぞろと上層へ移動する。
一応、ミノタウロスと筋肉勝負? とやらをしている筋山くんに一言断っておく。
「おーい、筋山くーん!! 先に上層に行ってるからなー!!」
「うむ!! もう少しミノリと筋肉勝負したらオレも行こう!!」
「ミノリって、ミノタウロスの名前か……?」
皆が上層へと続く階段を登り始めて、俺がミノタウロスと筋山くんの方に視線をちらっと向けてみると。
「ブモォオ!!」
「な、なんという背筋!! くっ、だが、腹筋と上腕二頭筋はオレの方が輝いているな!!」
「ブモ、ブモォオ!!」
まるで筋山くんと筋肉について語り合っているかのようなミノタウロスのミノリ。
あれ? 自我あるくない?
……いや、俺の気のせいだよな。
迷井さんもモンスターに自我は無いって言ってたし、気のせいなはず。
俺は首を傾げながらも、上層へと向かい、希望通りの防音の自室でゆっくり休むのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント作者の一言
作者「話が、進まねぇ!! ごめんなさい!!」
「ロマンなら仕方ない」「ミノタウロス自我あって草」「ええんやで」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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