第17話 うちのクラスメイトが警報を鳴らした理由がくだらなさすぎる




 早朝。


 ふかふかのベッドで眠っていた俺は、けたたましい警報で目を覚ました。



「うわ!? な、なに!? 何事!?」



 急な警報に驚いた俺は、不注意でベッドから転げ落ちてしまう。


 頭を打って超痛い。


 でも痛がっている暇は無く、俺は大慌てで有事の際の集合場所である大部屋へ向かった。



「おはよう、只野くん」


「あ、おはよう、刀神さん。何かあったの?」


「ええ、そうみたい。まだ詳しいことは聞いていないの」


「そ、そっか」



 しかし、警報を鳴らすような事態だ。


 ダンジョン全体の警報を鳴らす権限は、迷井さんだけが持っている。


 ダンジョンに何者かが侵入したとしても、迷井さんは鳴らさないだろう。

 侵入者の迎撃を想定して作ったダンジョンらしいからな。


 つまり、事はそれ以上の問題。


 大部屋の中央、椅子に座ってテーブルに肘を突きながら、迷井さんが真剣な面持ちで言う。



「緊急事態です。ダンジョンに住み始めてから三日、重大な事柄を忘れていました」


「「「「「ごくり」」」」」



 俺たちは迷井さんの言葉を待った。そして、彼女は告げる。



「ダンジョンの名前、決めてなかったんです!!」


「警報を鳴らす理由がくだらなっ!!」


「はい、解散して。お腹が減ったわ」


「クックックッ。すぐに支度してやるぜ。あとで中層の連中にも持って行ってやらねぇとな」



 中層には今、捕虜となった騎士たちが住み込みで働いている。


 給料は無いがな!!


 牧場や農場、漁場がある中層の管理は野原さん一人では手が回らないため、騎士たちから有志を募ったのだ。


 そしたら驚きの事態が起こった。


 あろうことか、捕虜の騎士たちが全員ダンジョンライフを希望してきたのだ。


 彼らの意見を一部抜粋すると。



『騎士団をやめたら故郷の領地にこもってスローライフしようと思っていた』


『騎士になる前は田舎の領地で羊飼いをしていたので、懐かしくなった』


『料理人の少年が作った食事が忘れられない。頑張って働くので食べさせてください』


『元々騎士団に入りたくなかった。貴族の義務で入団しただけ。下位貴族で義務入団した騎士のやる気の無さを舐めるな』


『皆やるっぽいのでやる』



 等々。


 騎士になりたくて騎士団に入ったメリッサさんを除いた全員が同じような意見だった。アチリヴァも同様である。


 メリッサさんは最後まで渋っていたが、味見くんをちらっと見て了承した。


 本人は「部下たちが祖国を裏切らないか監視するため」と言っていたが、絶対に味見くんを意識してるね、あれは。



「真面目に聞いてくださいよー!! ダンジョンの名前を決めるのは何よりも急務!! ダンジョンマスター特権です!! 名前が決まるまでこの部屋から出られませんよ!!」


「筋山くん、ゴー」


「我が筋肉に、破れぬ壁は無し!!」


「わー!! やめてやめて!! 私の可愛い子供ダンジョンを壊さないでー!!」


「子供って……はあ」



 仕方ないので、皆でダンジョンの名前を考える。



「仲良しダンジョンはどうかしら?」


「えー、ダサくなーい? アイドルなボクを崇めるダンジョンとかどうどう!?」


「ゴーレム徘徊してるし、ゴーレムダンジョンとか?」


「うーん。お腹減ったから早く朝ご飯食べたいし、適当に良介が決めてよ」


「押し付け方が急カーブすぎるわ」



 俺はそれっぽい名前を適当に考える。


 迷井さんの設定ではアトランティスがどうのって言ってたし、内部は無数のゴーレムが徘徊してるから……。



「アトラレムダンジョンとかどうだ?」


「「「「「おお、普通……」」」」」


「お前らまじではっ倒すぞ」



 カッコ良いじゃん!! 語呂も悪くないし!!



「アトラレムダンジョン、悪くないですね。私は普通に良いと思いますよ!!」


「普通って言うな」


「じゃあ、皆さん。もう用は済んだので早く出て行って……うん?」


「迷井さん? どうしたんだ?」



 不意に迷井さんが硬直した。


 そして、何も言わずに空中にモニターのようなものを出現させる。


 すごっ。SF映画にありそう。



「……どうやら侵入者のようですね。それも甲伊兄弟の情報にあった『天槍』とかいうヴェスター王国の騎士みたいです」


「「「「!?」」」」



 モニターを見てみると、ダンジョンの周囲の景色が写っていた。


 その中に森を進む一団があった。


 遅れて報告にやってきた甲伊兄の分身からも情報が入り、一団を率いるのが王国の三騎士なる『天槍』のカテアだと確定する。


 元々見つかるのは時間の問題だった。


 甲伊兄が分身を使って情報を撹乱していたとは言え、限度がある。


 俺たちが禁足区域にいることが判れば、湖の中心にそびえ立つダンジョンを見て無関係だと思う方が難しい。



「しかーし!! 数日前の私たちならいざ知らず!! ここは私のダンジョン!! そもそも私たちに辿り着く道は無く!! 外側から大砲でもブッパしない限りは大丈夫です!!」



 ちょ、迷井さん!? それフラグじゃない!?



「ちょっと待って。あの人たち、馬に何かを牽引させてない?」


「え、あ、ホントだ」



 目の良い刀神さんが気付いて指摘する。


 『天槍』のカテア率いる部隊が馬に牽かせていたそれは、筒のようだった。


 嫌な予感がする。


 彼らは湖の近くに簡易陣地を作り、筒のようなものの先をダンジョンに向けた。



「どう見ても、大砲だよな」


「大砲だな。……迷井さん、耐えられる?」


「……多分。ちょっと自信無いかも……」



 クラス一同、特に迷井さんが青ざめた。そして、迷井さんが口汚くカテアを罵倒する。



「ざっけんなコラ!! お前らはファンタジーの住人でしょうが!! ミリタリーはお呼びじゃないんですよ!! つーかダンジョンを砲撃する気ですか!? 正気ですか!?」


「母谷さん!! 母谷さんカモン!! 迷井さんを母性で落ち着かせて!!」


「はーい、ママの出番ね!!」



 母谷さんが迷井さんを抱き締めて落ち着かせるが、問題が解決するわけではない。


 しかし、ここで挙手する者がいた。



「敵が砲撃を始める前に、戦闘系スキル持ち全員で打って出るしかないわ」



 そう言ったのは刀神さんだった。


 たしかに攻撃は最大の防御とも言う。敵の砲撃を止めるには良い案だ。

 しかし、俺を含めた多くのクラスメイトが反対した。



「ま、待った待った!! 今回は前と違って敵が多いんだよ!?」


「そうね。見た限りでは五百人くらいかしら。でも殲滅が不可能な数ではない」


「危険すぎないか?」


「危険でも、このままだとダンジョンを外側から一方的に攻撃されて終わるわ。なら、敵が準備を整える前に接近して始末する」


「そ、それは……。そうだ!! 前みたいに甲伊兄にお願いして敵を倒してもらうってのはどうだ!?」



 俺の提案に対して首を振ったのは、他ならぬ甲伊兄の分身だった。



「すまぬ。拙者の分身はすでに始末された。分身総出で大将首のカテア暗殺を試みたが、全員が返り討ちだ。本体が分身を作ってはけしかけているが、カテア以外の騎士も相当な手練れ。大した時間稼ぎにもなっていない」


「……やっぱり、打って出るしかないようね」



 いくら何でも分が悪い。


 このままダンジョンに籠城した方が何とかなるのではないか?

 そう思いつつ、もしダンジョンを破壊されたら絶体絶命に陥る状況を想像して震えた。


 何か、何か手はないか……?


 最悪の場合、誰かが死んでも義屋さんが無事なら生き返らせることはできる。


 しかし、敵に死体を持ち去られたり、義屋さん本人が死んでしまったら蘇生は二度とできなくなってしまう。


 一体どうすれば!!



「あ」



 と、そこで迷井さんが間の抜けた声を出す。


 切羽詰まった状況にも関わらず、口をあんぐりと開いたままだった。


 な、なんだ? 何かあったのか?



「えーと、はい。なんか解決しましたね」


「「「「「え!?」」」」」


「モニターを見てください」


「……え?」



 言われるがまま、俺たちはモニターを見た。


 そして、俺は今まで生きてきた人生の中で最も困惑してしまったと思う。



真央まお……?」



 死んだはずの妹と瓜二つの少女が、カテアを圧倒していた。


 いや、瓜二つではない。

 兄としての直感を信じるなら、おそらくは真央本人だろう。



「ど、どうして、真央が? え?」



 それは、およそ一年前。


 真央は俺の目の前で通り魔に刺されて死んでしまったはずの、妹である。







―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント筋山くんのマイブーム

王城で壁を破壊してから、トレーニングに取り入れている。多分ダンジョンの外壁を壊せる。


「再会早くて草」「事件ってこれかあ」「筋山くんのマイブームで草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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