第18話 うちのクラスメイトのダンジョンが多機能すぎる




 俺には妹がいた。


 と言っても血の繋がりは無い。ありがちな言い方をすると、義妹って奴だ。


 俺の実の両親は控えめに言ってクズだった。


 ホストにハマって家の貯金を使い果たし、出て行った母親。

 仕事ばかりで家庭を顧みず、幼い俺の世話を再婚相手の母さんに押し付けていた父親。


 え? 母親と母さんが分かりにくい?


 そこは我慢してくれ。母親がクズ、母さんは母さんとしか説明のしようがないから。


 ロクでもない両親のもとに生まれても俺の性格が捻くれなかったのは、きっと母さんの影響を受けたのだろう。


 俺と母さんには血の繋がりが無い。


 でも母さんは俺を本当の息子のように可愛がってくれたし、妹の真央も俺を本当の兄としてとても慕ってくれた。


 俺は両親とは違う。クズにはなりたくない。


 そういう思いが根底にあったからか、中二の時に厨二病を患った俺は真剣に正義の味方に憧れていた。


 困っている人を助けると感謝されて気分が良かったし、逆にやらない理由がなかった。


 何より、母さんと真央の前ではカッコイイお兄ちゃんとして振る舞うことにある種の優越感のようなものを抱いていたのだと思う。


 中学を卒業し、高校に入学してからも俺は善行を繰り返す自分に酔っていた。


 ひったくり犯から盗品を取り返したり、路上の喧嘩に割って入って止めたり、万引きしようとしてる人を宥めたり。


 体質なのか、そういう場面に頻繁に遭遇する俺は善行を積むのに苦労はなかった。


 でも、俺は良いことをする自分に酔いしれて、大切なものを見誤った。

 今でも忘れられない高校一年生の終わり頃、修了式の日である。


 俺の通う高校と真央の通う中学は同じ方角にあったため、その日も一緒に歩いていた。


 事件が起こったのは、その道中。


 俺は道端でうずくまっている男性を見つけ、何か困っているのかと思い、声をかけた。


 そうしたら、そうしたらだ。



『お前みたいなガキまでオレを見下してんじゃねぇ!!』



 と怒鳴られた。


 錯乱していたのか、とにかく触れてはならない人だと思い、俺は真央を連れて早々にその場を去ろうとした。


 そして、俺は理不尽というものを体験する。


 その場を去ろうとした俺に向けて、男が隠し持っていたナイフを振り回したのだ。


 油断していた。


 不良の喧嘩を仲裁しようとして顔面に殴る蹴るの暴行を受けたことはあったが、ナイフで刺されそうになったのは初めてだった。


 ビビった俺は動けず、硬直して、刺されるのを待つばかり。


 そこで俺を庇って前に出たのが真央だった。


 先に言っておくと、真央は何か戦う術があったわけではない。

 むしろ病弱で、運動は少し苦手な普通の女の子だった。


 真央は通り魔に刺された。


 そこから先は覚えておらず、気が付くと俺はお巡りさんに羽交い締めにされていた。


 下を見下ろせば、真央を刺した通り魔が今にも死にそうなほどボコボコに殴られていて、俺の手の甲は骨が見えるほどの怪我をしていた。


 多分、俺がお巡りさんに止められるまで男を殴りまくったんだと思う。


 通りかかった人が警察と救急車を呼び、通り魔はその場で逮捕。

 半殺し状態になるまで通り魔をぶん殴った俺も逮捕されるかと覚悟していたが、なんか大丈夫だった。


 知り合いの警察のおじさんと弁護士のお兄さんが何とかしてくれたらしい。


 それからは本当に生きているのがつらかった。


 俺が男に声をかけなければ真央は死ななかったのではないか?

 カッとなって通り魔を半殺しにせず、すぐに救急車を呼んでいれば真央は助かったのではないか。


 そう思ったのは一度や二度ではない。


 善行を積む自分に酔っていた俺が代償として支払ったのは、大切な妹の命だったのだ。


 それから親父が母さんの貯金を持ち逃げし、母親と同様に蒸発。

 残された俺と母さんは、二人で生きていくことになった。


 母さんには俺を恨む資格があった。


 俺のせいで、血の繋がった娘が死んじゃったんだから。


 でも母さんは俺を責めなかった。


 ただ俺を抱き締めながら「仕方の無いことだった。良介は悪くない」と言ってくれた。


 それから俺は、良いことをするのをやめた。


 目の前で誰かが本当に困っていたら助けたいとは思うけど、もう見知らぬ誰かまで助ける真似は二度としないと決めた。


 ……少し話が逸れたな。


 要するに俺にとっての真央は大切な妹であり、カッコイイところを見せたい家族だった。


 その真央が、死んでしまったはずの真央が――



「な、なんか真央が、なんか真央が口からブレス吐いてる!?」



 モニター越しに真央を見る。


 アトラレムダンジョンの外では、カテア率いるヴェスター王国の騎士団を相手に真央が大暴れしていた。


 それになんか、髪が真っ白で瞳は真紅色という厨二男子が喜びそうなビジュアルをしている。

 頭から禍々しい角が生えてるし、腰の辺りからは漆黒の翼が生えてるし、ドラゴンっぽい尻尾まで生えてるし。


 死んだはずの妹が異世界にいることも驚きだが、見た目の変化に驚いた。


 たしかにお洒落に気を遣う子ではあった。


 でも、俺の正義の味方コスチュームを見た時に「やめた方がいいよ」と言ってた真央があんな厨二チックな見た目になっているとは……。


 いや、そうじゃない!!



「どうして、真央が……」


「アレ、やっぱり真央ちゃんだよね? 良介」


「あ、ああ。見間違えるわけがない。真央だ。俺の、死んだはずの妹の真央だ」



 池照は真央と面識があるため、すぐに気が付いたらしい。

 クラスメイトの中にも真央の顔を知る者は多く、驚いているようだった。


 すると、モニター越しに真央を【解析】した鑑石が俺に向かって言う。



「我輩の【解析】によると、たしかに本物ですな。ただ……」


「ただ? なんだ、鑑石!! 何か分かったなら言ってくれ!! あとお前スリーサイズとかパンツの色とか見てないだろうな!? 見てたら殺す!!」


「ゆ、揺さぶらないで欲しいですぞ!! 首が締まりますぞ!! あとスリーサイズは見ておりませんぞ!! パンティーの色は見ようとしましたが、分かりませんでしたぞ!!」


「よし、後で殺すわ」



 今はひとまず鑑石を解放すると、彼は正直に解析結果を告げる。



「我輩の【解析】によりますと、どうやら只野氏の妹は魔王らしいですぞ」


「「「「「ふぁ?」」」」」



 俺も含め、クラス全員の目が点になった。


 俺たちがこの世界に召喚されたのは、悪逆の限りを尽くす魔王を討伐するため。


 その魔王が俺の妹だったとは……。



「……ふむ」



 一瞬だけ困惑したが、些末な問題だ。


 死んでしまったはずの妹が、理由は分からないものの、異世界で魔王となって生きていた。


 それは喜ばしいことだ。


 しかし、心臓がキュッと締め付けられるような感覚に襲われる。


 真央は俺のせいで死んだんだ。

 もしかしたら俺のことを恨んでいるかも知れない。


 会うのが、少し怖い。


 いや、違う。そうじゃない。恨まれているなら、俺にはそれを全て受け止める義務がある。


 怖がっている暇など無いのだ。



「で、でも、どうして真央が連中を攻撃してるんだ!?」


「ちょっと待っててください。音声付きで数分前のカテアと真央ちゃんの会話を再生します」


「録画機能みたいなのがあったのか!? すごいな!!」


「ちなみに雷電君のスキルと組み合わせてスマホと接続し、各種配信サイトの閲覧もできます。頑張れば地球の番組も見れますよ」


「ホントに多機能だなおい!!」



 自分でもこんなことにツッコミを入れている場合ではないとは思う。

 でも驚きに驚きが重なって、俺自身もかなり動揺しているのだ。


 迷井さんが数分前の出来事を再生する。





―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント鑑石の解析結果

パンティーの色を視ても分からなかった。つまり穿いてな――いや、敢えて何も言うまい。


「魔王だから真央……」「鑑石、お前許さん」「なるほど、つまりノーパン!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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