第6話 うちのクラスメイトのスキルが神がかりすぎる
ヴェスター王国の王都は、高さ数十メートルの高い壁に囲まれている。
数百年にわたって改良を重ねられてきた壁を破る者は存在せず、出入り口は東西南北に一つずつある門のみ。
ましてや今は、騎士や兵士がヴェスター王国の第一王女に暴力を振るった罪人を血眼になって探している。
商人にとっては迷惑極まりないが、王国の威信がかかっているのだ。
各門は厳戒態勢で兵士たちが王都から出ようとする者たちに目を光らせており、蟻の子一匹が通る隙間もない。
しかし、何事にも想定外ということはある。
「そこの馬車、止まれ!!」
東門の兵士が、門を通ろうとする兵士輸送用の大型馬車を呼び止める。
馬車の御者台に座る二人の兵士のうち、手綱を握っていた兵士が馬を止め、その場で停車した。
「貴様、見ない顔だな? どこの部隊の者だ?」
「あ、あだじは、ぞ、ぞのぉ……」
「怪しいな。女兵士は少ないから、大体の顔は知っているが……。お前のような図体のデカイ女は見たことがない!! さては貴様が王女に暴行を働いたという輩か!? 兵士から装備を奪ったのか!? 仲間はどこだ!!」
東門を守る兵士たちの長が御者台に座る背の高い女に疑いの視線を向ける。
すると、御者台に座っていたもう一人の兵士が声を張り上げた。
「緊急事態なのです!!」
「む?」
「実は件の輩が、壁を越えて逃げてしまったのです!!」
「な、なに? そんな馬鹿な……。あの壁が何メートルあると思ってるんだ!?」
「我々は連中を追うために急遽編成された追跡部隊です!! すぐに門を通らせてもらいたい!!」
「ま、待て。まずは馬車の中の確認を――」
冷静に役割を全うしようとする兵士長。
しかし、追跡部隊を名乗る兵士はまくし立てるように大声で言った。
「ことは一刻を争うのです!! それとも何か、貴方は王国に牙を剥いた逆賊共をみすみす逃がすつもりか!?」
「そ、そんなつもりは……」
「だったら今すぐ道を開けろ!! 反逆者として貴方を叩き斬っても良いのだぞ!!」
「は、はん!? わ、分かった!! おい、道を開けろ!!」
兵士長の指示で門を守っていた兵士たちが道を開けると、馬車は勢い良く走り出した。
そのまま平野を駆ける。
「……もう大丈夫かしら?」
御者台に座っていた兵士のうちの一人が深く被った兜を外し、顔を太陽の下に晒す。
刀神さんである。
「上手いこといったね。刀神さん、演劇とか向いてるんじゃないか?」
「あら、私は剣一筋よ。でも褒め言葉は受け取っておくわね、只野くん」
「野原さんもお疲れ様」
俺は御者台に座るもう一人の女の子に声をかける。
彼女の名前は
2m近い身長があり、少し威圧感はあるが、温厚で動植物が大好きな女の子だ。
あと身長に合わせて胸が大きく、その優しい性格と相まって実は陰ながら男子からの人気を集める女子だったりする。
「うへぇ、緊張じだぁ」
「本当にお疲れ様、野原ちゃん。貴方のスキルのお陰ね」
「いんやあ、あだじだげだったら、今頃あの兵士さんに捕まっでだよぉ」
野原さんのスキルは【対話】。
動植物と会話ができるようになる、少しファンシーなスキルだ。
彼女はこのスキルを使い、馬車を引く馬二頭と対話した。
乗馬などしたこともない俺たちが馬車を扱えているのは、そのお陰だ。
野原さんが馬たちに話しかける。
「皆もありがどなあ。お陰で助がっだよぉ」
「「ヒヒン!! ぶるる!!」」
馬たちが野原さんの声に応える。すると、俺の隣に座る池照が口を開いた。
「僕は正直、刀神さんの行動力にビックリかな。まさか兵士を何人か拉致って装備と財布を強奪するとは思わなかった」
「たしかに刀神さん、かなり行動がアグレッシブだったよな」
「そんなに褒めても、何も出ないわよ?」
「今のは褒めたわけじゃ……。いや、何でもない」
池照が押し黙る。
それを切っ掛けに緊張が解けたのか、代わりにクラスメイトが騒ぎ始めた。
「なんか修学旅行っぽくなーい? 異世界旅行とかウケるー」
「てか異世界の動画撮ってユ◯チューブに投稿したら、ボクの可愛さと合わせてめっちゃバズりそう!!」
「でもスマホのバッテリーが保たないよ?」
「あ、それなら大丈夫。さっき鑑石に教えてもらったけど、俺のスキルが【スマホ使用権】みたいだから」
「……何それ?」
「俺が触れたスマホは充電されるし、損傷も直るし、一度でも触れたらインターネットにも繋がるみたいなんだ。多分、ワイファイもいけそう」
「「「「「マ? 神スキルじゃん」」」」」
何そのチートスキル!!
あとで俺のスマホも使えるようにしてもらおうそうしよう。
クラスのあまり目立たない男子、
スマホに依存している現代人にとって、彼のスキルはあまりにも神がかっていた。
「てかこれ、異世界動画配信とかできるんじゃね?」
「は? 天才かよ? ボクの異世界での活躍と可愛さを世界中に広められるじゃん。やろやろ!! 今すぐやろ!!」
「待って。えーと、もう少し時間が欲しい。こっち側から干渉できるようにするには、ちょっと頑張らないと」
「ちょっと頑張ればできるのか。凄いな」
くっ、皆のスキルが羨ましい。
俺が歯噛みしていると、刀神さんが手をパンパンと叩いてその場を仕切る。
「雑談はそこまでにしておいて、そろそろ次の行動を決めましょう」
「はいはーい!! 異世界観光したーい!!」
「動画配信で異世界でも健在のボクの可愛さをアピール!!」
「我輩ハーレム作りたいですぞ!!」
「兄者、はーれむって何?」
「弟よ。それは忍が知らなくても良いことだ」
意見がまとまらないなあ。
「只野くんは何かないかしら?」
「え、俺?」
他人事に思っていると、刀神さんはこちらに話を振ってきた。
「うーん。街に行きたいけど、多分すぐに追手が来るだろうし、スマホが使えるからって別行動するのは不安だ。ベストなのはヴェスター王国と敵対する他国に逃げることかな」
「私も同じ意見よ。でも、私たちはこの世界のことを詳しくは知らない。誰が味方で誰が敵なのか、それが分かるまでは他人を頼れない」
「そうだね。かと言って、このまま当てもなく移動し続けるのも良くない。ならどこかに潜伏するのが良いかも知れないけど、食料や飲み水がなくて詰む。……あれ? これ、終わってない?」
今後の動きを考えていると、ある男子が手を挙げて意見を言う。
「クックックッ。食料に関しちゃ心配しなくて良いと思うぜ」
「味見くん?」
手を挙げたのは、
顔に大きな十字の傷があり、つり上がった目とギザ歯が特徴的で、どう見ても裏社会の人間に見えるが、普通の高校生である。
強いて他人と違うところを挙げるなら、料理がめちゃくちゃ上手いということか。
調理実習で彼と同じグループになった者は、成功が約束される。
「食料の心配が無いというのは、どうして?」
「クックックッ。馬ってのはいざという時の非常食にもなるんだ。手に入って良かったぜ」
「「ヒヒン!?」」
「だ、駄目だぁ!! ダイナクロウとスペースウィンドはもうあだじの友達だぁ!! 食べるのは駄目だぁ!!」
味見くんから二頭の馬を守るように野原さんが腕を大きく広げた。
野原さんは身長が高いため、それだけでも威圧感がある。
どっちでも良いけど、なんか競走馬みたいな名前だな……。
野原さんが馬二頭を庇い、それを見た味見くんは邪悪に笑いながら一言。
「クックックッ、友達なら食べちゃ駄目だなぁ」
味見はこう、見た目のせいで勘違いされがちだが、めちゃくちゃ善良な人間だ。
実家は洋食屋で、休日は両親の手伝いをしていつか店を継ぐのが将来の夢という、立派な親孝行を考えてる。
本当に、ただ見た目で損しているのだ。
「あっ!?」
と、そこで誰かが大きな声を上げた。
声の主は、充電器としてクラスメイトのスマホを両腕に抱えていた雷電くんだった。
「み、見てこれ!! 今うっかりグー◯ルマップ開いちゃったんだけど、 これ!! この世界の地図じゃない!?」
「「「「「◯ーグルってすげー!!」」」」」
「どこかに潜伏できそうな場所はあるかしら?」
「ちょっと待ってね……。こことかどう? ちょうどヴェスター王国の隣にあって、動植物が豊富な森があるっぽい。口コミに書いてある」
「あら、潜伏には打ってつけね!!」
「え、待って。口コミに対するツッコミは無しか!? 異世界だよ!? 誰が評価してんだよ!?」
俺のツッコミに応じる者はおらず、こうして俺たちの目的地は決まり、ヴェスター王国を出奔するのであった。
「えー!! 異世界観光したいんですけどー!!」
「ちょっと!! 森なんかに籠っちゃったらボクの可愛さをこの世界の連中にも見せつけられないんだけど!!」
「森に行ったらハーレムを作れないですぞ!!」
「森か!! 筋肉を鍛え抜けるほどには過酷な環境だと良いのだがな!!」
「クックックッ、森なら未知の食材も豊富だろなぁ? お料理ができないならオレぁ反対だぜ?」
一部から反対意見? はあったが……。
どうやら皆、細かいことは気にしない方針で行くらしい。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント野原さん
めちゃくちゃデカイ。色々と。
「高身長女子って良いよね!!」「味見が良い味出してる」「……味だけに(ボソッ)」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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