第5話 うちのクラスメイトが良い奴らすぎる
「くっ、奴らはどこに行ったんだ!!」
「目撃情報はこの周辺だ!! まだ遠くには行っていない!! 探せ!!」
「ちくしょう、余計な仕事増やしやがって!!」
兵士たちが悪態を吐きながら、目の前を通り過ぎて行く。
城から脱出した俺たちは、大通りから外れた路地裏で足を止め、休息を取っていた。
いつでもどこでもどんちゃん騒ぎするのが大好きなクラスメイトも、今だけは疲れ果てて休んでいる。
「ふぅ、やっと一息吐けるわね。守利の結界が守るだけじゃなくて、隠すこともできて良かったわ」
刀神さんが剣を下ろし、額の汗を拭う。
熟練の騎士たちを相手に大立ち回りをした刀神さんだが、やはり疲労していたようだ。
しかし、休める時間はそう長くない。
「でも鑑石曰く、この結界は一時間も経てば効力を失うらしい。どうにか街の外に出る方法を考えないと」
「池照くんの言う通りね。まずは甲伊くんたちが戻るのを待ちましょう。――って、言ってる間に戻ってきたわね」
斥候として城下町の様子を見てきた甲伊兄弟が戻ってきた。
「た、たた大変だよ!!」
「落ち着け、弟よ。忍は常に冷静であれといつも言っているだろう?」
「あ、うん、ごめん!!」
「……何かあったのかしら?」
甲伊弟が慌てており、対する甲伊兄は冷静だったが、少し言葉に詰まっているようだった。
刀神さんが問いかけると、二人は街の様子を報告した。
「まず、街は高い壁に囲まれていた。東西南北、それぞれに大きな門が一つあった。すでに兵士たちが動員され、出入りする者は積み荷まで調べられている」
「……壁を登るのは?」
「現実的ではないだろう。垂直歩行ができる拙者らはともかく、皆が登れまい」
「そう、ね。どうしたものかしら」
刀神さんがクラスメイトから意見を募るが、これと言って良い案は出なかった。
当然だ。
相手は国であり、ただの高校生にどうこうできるような相手ではない。
……まあ、どう考えても普通じゃない高校生も何人かいるみたいだけど。
「あの、さ。ちょっと良いか?」
だからこそ、俺が言わねばならない。
本来ならこの世界で歓迎されるべきだった彼らを逃亡者にさせてしまった俺が、言うべきだ。
「提案っていうと、少し違うかも知れないけど」
「何かしら、只野くん」
「皆はお城に戻るってのは、どうだ?」
俺の発言と同時に、クラスメイトは黙り込んでしまった。
「一応、理由を訊こうかしら」
「ええと、その……」
言いにくい。
皆が必死に逃げ出したってのに、何を言ってんだと自分でも思う。
でも、言わなければ。
「この国にとって、皆は貴重な人材だ。勇者とその仲間、スキルを持っている存在。今からでも城に戻ったら、それなりの待遇になると思う」
「只野くんはどうするつもり?」
「俺はほら、適当に元の世界に戻る方法を探すよ。このまま皆が逃亡生活をする必要はない」
「……なるほど。一理あるわね」
刀神さんが頷く。
良かった。
池照と同じくらいクラスでの支持を得ている刀神さんが賛成したなら、もう安心だ。
俺のせいで皆に迷惑がかかることもないだろう。
問題は俺が一人でこの世界を生きていけるかということだが……。
俺の特技は平凡さだ。
きっとこの世界でもそれなりの生き方ができるだろう。多分。
と思っていたら、刀神さんが間を置かずに言う。
「でも議論する余地も無いわ。却下よ」
「……え?」
俺は耳を疑った。
「いや、却下って……。れ、冷静に考えてみてくれ。俺はスキルがないから歓迎されないだろうけど、皆は違うだろ!? そりゃあ、問題を起こしたから警戒はされるだろうけど、少なくともこのまま犯罪者みたいに追われるよりはマシだ!!」
「そうね。私たちは彼らにとって貴重な戦力。隷属の首輪……名前からして、無理矢理従わせるような道具かしら? それを嵌められて使い潰される心配はあるけれど、このまま逃亡生活をするよりはマシでしょうね」
「だ、だったら!!」
「それを理解した上でもう一度言わせてもらうわ。――議論の必要は無い。そんなくだらない意見は却下よ」
「くだらないって、な、なんで……?」
刀神さんの気迫に圧されて、俺は疑問を呈するのが精一杯だった。
しかし、このままではダメなのだ。喉の奥から頑張って声を絞り出す。
「俺に気を遣ってるなら、やめてくれ。皆はこの国で過ごす権利がある。俺のことは忘れて、そうだ、ラノベみたいに追放でもしてくれよ?」
「「「「「「追放? そんな酷いことするわけないだろ!!(クラス一同39名)」」」」」」
「うお!? ビックリした」
俺の発言に対し、まさかクラスメイト全員から反論が飛んでくるとは思わなかった。
「ど、どうして……?」
「只野くん、本当に分からない?」
刀神さんが困ったように微笑み、問いかけてくる。
さっきまで多数の騎士たちを一方的にボコボコにしていた人と同一人物とは思えない程の、優しい笑顔だった。
分からない。分かるわけがない。
「ほら、あれだよ、只野!! ええと、アレアレ!! 兄者、なんだっけ!?」
「忍は陰に潜む者。しかし、我らは忍である前に人だ。人は人として『仁義』を貫かねばならない。友を見捨てる者は人にあらず、人にあらずは忍にあらず」
「そうだ!! 友達を見捨てたら、オレの筋肉は輝きを失ってしまう!! オレの筋肉は、仲間や友達を守るためにあるんだ!!」
「てかそもそもアレだし、友達を一人だけ追い出して自分はお気楽生活とか全然可愛くないし。ボクは最高に可愛いアイドルだから、誰か一人を不幸にするつもりは欠片もないから」
「でゅふふふ。只野氏とは性癖が一致しませんでしたが、秘密のコレクションを共有し合った仲。我輩は同志想いのオタクなのですぞ!!」
「クックックッ。一人だけ仲間外れにしたら可哀想じゃねーか」
「ねー。てかりょうちん、うちらがその提案オッケーすると思ってたん? 地味にショックでウケるんですけどー」
「えーと、なんていうか、ひとりぼっちは嫌だもんね!!」
「んだんだ!!」
クラスメイトが口々に理由を言い始めた。
39人が一斉に話し始めるせいで、殆ど何言ってんのか聞き取れなかったけど……。
何となく、分かった。
「なあ、良介」
最後に口を開いたのは、池照だった。
いつものふざけた様子は無く、真剣な眼差しで俺を見つめている。
「良介はさ、子供の頃から高校一年の終わりまで人助けとか結構してたでしょ? あの事件が起こるまではさ」
「……まあ、うん……」
「皆さ、良介のこと友達や恩人だと思ってるんだよ。僕たちはそんな君を追放したり、一人にするほど薄情じゃない。君が元の世界に帰る方法を探すなら、それは皆でやることだ」
「……うん」
ヤバイ、泣きそう。ちょっと嬉しい。いや、割と結構ガチで嬉しい。
こいつら、ちょっと良い奴らすぎるでしょ。
目から溢れそうな涙を拭っていると、刀神さんが一言。
「なんか池照くんが最後に良い感じでまとめてるけど……。そもそもこうなった原因は、只野くんじゃなくてお姫様をぶん殴った池照くんにあると思うの」
「「「「「……コクコク」」」」」
「え? なんか僕が悪い感じ? でも悪いのはあのアバズレでしょ?」
「「「「「それはそう」」」」」
涙の次は、思わず笑みが溢れる。
うちのクラスメイトは、良い奴らばかりだったらしい。
しかし、いつまでも感動で震えているわけにはいかない。
池照が顎に手を当てて思考を巡らせる。
「でも実際問題、どうやってここから逃げるかが問題だね」
「そのことだけど、良いことを思いついたわ。あれを見て」
刀神さんが路地裏から少し頭を出して指差したのは、兵士たちが大勢で移動する際に用いるであろう大人数用の馬車だった。
どうやら俺たちを捕まえるために、更に兵士を追加してきたようだ。
あの馬車をどうするんだ……?
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント作者の一言
作者「皆、キャラが濃いなあ」
クラス一同「「「「あんたのせいだろ」」」」
「あの事件ってなんだ?」「ただの良い奴らで草」「タイトル回収早い」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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