第4話 うちのクラスメイトが逞しすぎる
広間を飛び出して、どこまでも続いていそうな廊下を走る。
しかし、その長すぎる廊下を走り切れる者はクラスの半分もいなかった。
広間の騎士たちを無力化し、追いついてきた刀神さんがそれに気付いて筋山の名前を呼ぶ。
「筋山くん!! 体力の無い子を抱えて走って!!」
「了解だ!! 上腕二頭筋、いや、腕の筋肉たちよ!! パワー全開だ!!」
走り疲れた生徒たちを数人抱えて走る筋山くん。
それってスキルの力だよな? 素でやってるわけじゃないよな?
それにしても……。
「はあ、はあ、うぐっ、朝ご飯吐きそう」
「あはは。良介は昔っから体力無いもんなあ」
隣で池照がケラケラ笑うが、一つだけ言わせて欲しい。
俺の体力は平均だ。
今はまだ何とかアスリート並みの身体能力をしているクラスメイトに付いていけるが、いつかは必ず体力が尽きる。
自分の足で走る以外の選択肢が欲しいところだ。
「っ、皆、身を屈めてっ!!」
最後尾を走っていた刀神さんが叫ぶ。
何事かと思って振り向くと、刀神さんの更に後ろの方で騎士たちが弓矢を構えていた。
まじかー。射ってくる感じかー。
当たったら絶対に痛いだろう。嫌だ。痛いのだけは勘弁して欲しい。
しかし、どうやら刀神さんのお陰で俺の心配は要らないものとなったようだ。
「銃が無いみたいで良かったわ。弾丸を斬るのは得意じゃないから」
うん? 刀神さん?
その言い回しだと弾丸を斬れるっちゃ斬れる、みたいに聞こえるんですが。
騎士たちの放った矢を全て斬り落とした刀神さん。
「はあ、はあ、な、なあ、池照」
「なに?」
「うちのクラスって、はあ、はあ、やっぱ個性というか、普通に凄いよなっ、筋山くんとか忍者兄弟とか、刀神さんとかっ」
「そうかな?」
「そうだろ。なんで首を傾げるんだよ。どこに首を傾げる要素があるんだよ。はあ、はあ」
くっ、池照にツッコミを入れたせいで息切れしてしまったじゃないか。
なんて考えていると、忍者兄弟の兄こと甲伊兄が声を張り上げた。
「っ、皆の衆!! そこの通路を左だ!!」
「え? 道が分かるのか?」
「拙者の分身が先行して出口を調べていたのだ」
「分、身?」
え、何? 影分身、みたいな? ナ◯トかよ。いや、え? それは流石にスキルだよな?
「兄者は子供の頃から分身の術が得意なんだ!! 本物と同じ分身を沢山作れるんだぞう!!」
「よせ、弟よ。忍が己の実力を誇示するのはあってはならんことだ」
「兄者カッケー!!」
「よせと言ってるだろうに」
黒装束の下で「フッ」と笑う甲伊兄。
刀神さんとか筋山くんとか、あと甲伊兄弟に至ってはスキル要らないだろ。
俺に頂戴よ!! お願いだから!!
などと心の中で彼らを羨みつつ、通路を左に曲がる。
騎士たちも俺たちが出口まで最短距離で走っているのを察したのか、慌てていた。
「くっ、な、なぜ連中は城の構造を把握しているんだ!?」
「邪魔だ、退け」
「なっ、あ、あなたは!? まさか『轟弓』のアチリヴァ様!?」
弓を構える騎士たちの中に、一際大きな身体をした男が混じっていた。
身の丈よりも大きな弓を構えて矢をつがえ、弦を引き絞っている。
何やら嫌な予感がした。そして、それは刀神さんも同様だった。
「あの大弓の男、強さの格が違うわね」
「見ただけで分かるもんなの? 凄っ」
「奴の矢は私の剣では防げないわ!! 皆、当たらないように注意して!!」
おそらく弾丸も斬れるであろう刀神さんが防げない矢って何よ!?
「竜をも屠りし我が一射。異界の勇者たちよ、受けてみるがいい!!」
「うわ、撃ってきた!?」
障害物が周囲に無いため、俺たちに物陰に隠れてやり過ごすという選択肢は無かった。
しかし、ここで意外な人物が声を上げる。
それは筋山くんに抱えられている、小太りなメガネの男子だった。
「今こそ我輩の出番ですぞ!!」
彼の名前は
運動は絶望的でぽっちゃり体型だが、こと雑学に関しては凄まじい知識量を誇る、顔のサイズに合ってないメガネが特徴の男子生徒である。
たまにアニメや漫画について語るくらいには俺と仲の良い人物だ。
「鑑石!! なんとかなるのか!?」
「我輩には無理ですぞ」
「はっ倒すぞお前!!」
「お、落ち着くのですぞ、只野氏!! 我輩にはできませんが、この状況を打開できる人物がこの中にいるのですぞ!!」
鑑石が自信満々に言う。
「我輩のスキルは【解析】!! 対象のあらゆる情報を文字化、または数値化できるのですぞ!! 気になるあの子のパンティーの色やスリーサイズも丸分かりですぞ!!」
「「「「最ッ低」」」」
「んむほおっ!? 女子たちからのゴミを見るような、蔑むような視線っ!! 我輩、マゾなのでご褒美ですぞ!!」
「「「「……」」」」
女子たちは一部を除き、本気で鑑石を気持ち悪がっているようだった。
いや、うん。鑑石、その発言は完全にアウトだと思う。
「ふーん? 鑑石くんはマゾさんだったんですねぇ。前々からそんな気はしてたけど……。ふふっ、新しい玩具見つけちゃいましたぁ」
クラスの女子の中から鑑石がマゾだと知って嬉しそうな声が聞こえてきたが、聞かなかったことにする。
というか、こんなこと話してる場合じゃない!!
「鑑石!! あの轟弓って人の矢を防げるのは誰なんだ!? 勿体ぶってないで教えてくれ!!」
「ズバリ!!
「え、私ぃ!?」
鑑石が指差したのは、クラスのムードメーカーである女子生徒だった。
彼女の名は
地毛の茶髪をお下げにした可愛らしい感じの童顔の女の子だ。
一見すると中学生、あるいは小学生に見えなくもないが、立派な高校生である。
たしかまだ自分のスキルを調べる機械に触れていない生徒だったが……。
なるほど、鑑石は【解析】スキルで結崎さんのスキルを確認したのか。
「結崎氏のスキルは【結界師】ですぞ!! 要は超強力なバリアを張れるのですぞ!!」
「え、ええ!? きゅ、急に言われても!?」
「「「「「頑張れ、結崎さん(ちゃん)っ!!」」」」」
俺も含めて皆で結崎さんを応援する。
「えー、ああ、んーと、えいっ!!」
「「「「おおっ、なんか出た!!」」」」
結崎さんが力むと、半透明の光の幕が俺たちを包み込む。
これが結崎さんの【結界師】の力か。
などと感心していた刹那、轟弓のなんちゃらという騎士が矢を放った。
音速を優に越えているであろう神速の矢が俺たちに迫ったが、結崎さんの結界に当たって弾かれる。
「なんと!! 我が竜殺しの矢を弾くか!!」
「感心している場合ですか!! 逃げられてしまいますよ!!」
轟弓のなんちゃらが部下と思わしき騎士に頭をぶっ叩かれている。
しばらく走っていると、俺たちはようやく外に出ることができた。
空は青く、目の前には広間の大扉が小さく見える程の更に大きな扉――門だった。
「あの門を出れば城下町に出る!!」
「ならばオレの出番だな!!」
おそらくは城を守るための門。
頑丈であろうその門の前に立ったのは、筋肉マスターこと筋山くんだった。
しかし、どうやら俺たちの動きを察知した騎士たちが先回りしていたらしい。
隊列を組み、筋山くんの前に立ち塞がる。
「ふん、無駄だ!! この門は宮廷魔法使いたちが総力を上げて強化したもの!! そして、我らはその門を守る王国軍の精鋭!! 貴様らが門へ到達する前に射殺してやる!!」
なんかもう、向こうも捕らえるどころか殺す気で来ているようだ。
位の高そうな騎士の号令で、兵士たちが弓矢を構えた。
「筋肉!! 筋肉!! オレの身体は、無限の筋肉でできているッ!!!!」
ダンッ!!
と、地面が足の形で凹むほどの凄まじい勢いで駆け出す筋山くん。
「射てー!!」
兵士たちが矢を放つ。
それらの多くは筋山くんを目掛けて真っ直ぐに飛んできたが……。
筋山くんは目を守りながらも、止まらない。
兵士たちの放った矢は筋山くんの全身の筋肉の装甲で弾かれてしまい、大したダメージを与えられなかった。
「なっ、と、止まらない!?」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」
まさに全速前進、猪突猛進。
「た、退避だ!!」
「し、しかし、門を突破されるのでは!?」
「人間の体当たりでこの門を破れるものか!! 門の前まで来た連中を包囲し、そのまま始末するのだ!!」
筋山くんはスピードを緩めることなく、門に体当たりした。
ドーンッ!!!!
門は城を囲む壁ごと崩壊し、突破。
そのまましばらく駆け抜けて壁を潜った向こう側で停止する。
「フシュー……」
口から蒸気のようなものを吐く筋山くん。
今の筋山くんを見て鎧◯巨人を想起したのは俺だけではないだろう。
騎士と兵士たちは口をあんぐりと開けたまま、硬直していた。
「やばー!! リアル進◯の巨人じゃん、ウケるー!!」
「なんかボクより目立ってんのムカつくぅ!! ボクも注目されたーい!!」
「筋山くん、怪我してないかしら? 心配だわ」
「猪みでぇだなぁ、筋山ぐん!! かっけぇだぁ!!」
「クックックッ。おい、筋山ぁ? 怪我はしてねぇだろな? してたら言えよぉ、絆創膏持ってっからな」
各々感想を述べながら駆け出すクラスメイトたち。
うちのクラスメイト、逞しいなあ。
俺は未だに呆然としている騎士や兵士たちに申し訳なく感じて、去り際に一言。
「お、お騒がせしましたー!!」
こうして俺たちは城を脱出。
無事に危機を脱したは良いものの、ここからどうしたものか。
……俺のせいで、皆を大変な目に遭わせちゃったな。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント情報
刀神さんは一見まな板に見えるが、晒しを巻いているだけの巨乳。
「忍者が有能すぎる」「筋肉の巨人で草」「情報助かる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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