第2話 うちのクラスメイトが騒がしすぎる
ひとまず各々どんちゃん騒ぎしているクラスメイトたちを落ち着かせようと、声をかける。
「お、おーい。皆、落ち着いてー。お姫様っぽい人が話そうとしてるから……」
「皆ちっとも聞いてないね、あはは」
「笑ってないで何とかしてよ、池照!! こういうのお前の役割でしょ!!」
「えぇー?」
絶対に俺の役目じゃないと思う。
そもそも俺はクラスでも存在感が薄く、いてもいなくてもあまり気付かれない。
こういうのは無駄に顔がキラキラしている池照の役割だ。
しかし、肝心の池照も周囲に悪ノリして楽しそうに笑っている。
「はい、皆!! お遊びはもうやめて!!」
俺がどうしたものか悩んでいると、ある女子が声を張り上げて言った。
艶のある黒髪をポニーテールにした凛々しい雰囲気の美少女だ。
彼女の名前は
刀神流なる剣術道場の一人娘であり、剣道部の主将兼部長を務めている。
クラスでは学級委員長として皆を束ねており、行事では指示を出すことも多い。
刀を握るとめちゃくちゃ怖いらしいけど、普段は温和で優しい人物だ。
その彼女の言葉とあらば、皆が一斉にスンッと静かになる。
こ、こいつら、俺の時はガン無視でどんちゃん騒ぎしてたのに!!
「コホン。改めて、ようこそ私たちの世界へ。異世界の勇者とそのお仲間の皆様」
軽く咳払いをして、お姫様と思わしき綺麗なドレスをまとった美少女が仕切り直す。
そして、お姫様はドレスの裾を摘まみ、優雅に一礼をして見せた。
お姫様が名を名乗る。
「私はここ、ヴェスター王国の第一王女。レミリア・ヴァン・ヴェスターと申します」
「「「「「おお……」」」」」
ちらほらと拍手が起こった。本物のお姫様を前に感動したらしい。
「えー、めっちゃカワイイー。てかめっちゃ高そーなドレスでウケるんだけど」
「は? ボクの方が圧倒的に可愛いし。ボクの女の勘が言ってる、あいつ絶対に性格悪いよ」
「お前、男じゃん」
「カワイイの前ではテ◯ンティンの有無など些細な問題ですぞ!!」
「クックックッ。お前ら、落ち着くんだ。刀神さんに怒られるぞ」
また騒ぎ始めるクラスメイトだが、刀神さんの存在が良い感じに彼らを黙らせる。
すると、お姫様がタイミングを見計らい、これまたテンプレな内容を語った。
「我が国は今、魔王の手によって滅亡の危機を迎えているのです」
ざっくりまとめると。
この世界にはいくつもの人種があり、互いに手を取り合って文明を発展させてきた。
人同士の争いは皆無らしい。
というのも、この世界には古くから魔物と呼ばれる怪物が至るところに生息しており、常に人々の生活は脅かされている。
共通の敵がいることは人類を一致団結させ、数年前までは何ら問題は無かったそうだ。
しかし、魔王の台頭で事態は一変してしまう。
これまで組織的な行動を取ることはなかった魔物たちが群れをなし、人々に襲いかかったのだ。
すでにいくつかの国が滅び、ヴェスター王国は勇者召喚を敢行。
異世界から勇者とその仲間たちを呼び出した、というのが事のあらましだ。
「どうか、どうか私たちをお救いくださいませ!!」
「「「「……」」」」
レミリアの懇願する眼差しに、クラスメイトは互いに目を合わせた。
「言うてうちら学生だし? いきなり魔物と戦えってかなりイミフー」
「でも困っている人を見捨てるのは、オレの筋肉たちが悲しむ!! 可能な限りのことはしてやりたいな!!」
「えー? でもパパとママが心配するしー、ボクのファンだってボクがいなくなったら発狂しちゃうだろうしー」
「兄者兄者!! これは拙者たちの出番では!?」
「落ち着け、弟よ。我らは陰に潜む者。求められるのは冷静な判断だ。それに対人戦ならともかく、魔物なる未知の敵を相手にするべきではない」
三者三様、十人十色。
この世界の人々のために手を貸すべきだと主張する者や、元の世界に残してきた家族を心配する者で意見が分かれた。
かくいう俺も後者である。
異世界召喚と聞いて踊る心は中学校に置いてきてしまった。
それよりも日本にいる母さんが心配だ。
すると、レミリアは俺たちの反応を見てクスッと微笑みながら言った。
「ご安心を。皆様が魔王を倒した暁には、元の世界にお送り致します。ついでに言うなら、元の場所の同じ時間に」
ほぇー、そりゃありがたい。家族に心配をかけなくて済むなら良かった。
と思ったら、俺の隣に立っていた池照が誰にも聞こえないような小さな声でボソッと呟く。
「あ。彼女、嘘吐いたね」
え? 嘘? 今のお姫様の言ってたことが?
しかし、池照が言うなら間違いではないのだろう。
急に雲行きが怪しくなってきた気がして、俺はレミリアを警戒する。
刀神さんはこちらにチラッと視線を向けてから、池照とアイコンタクト。
まさか今ので伝わったのだろか。
レミリアに対し、刀神さんは真剣な面持ちで話を続けた。
「そうは言っても、私たちは所詮ただの学生です。私や一部の者はともかく、戦う力など持っていません」
「そんなことありませんわ!! 皆様にはスキルという特別な力があるのですから!!」
刀神さんの言葉に被せるように、レミリアが微笑みながら言った。
「スキル?」
「はい。異世界の勇者とその仲間たちは皆、こちらの世界へ渡る際に特別な力を授かるそうです」
「それがスキルですか」
うわーお、こりゃまた擦られに擦られまくったラノベみたいな話だな。
レミリアが近くにいた騎士に何かを指示し、変な機械みたいなものを持って来させた。
「こちらは過去の勇者様とそのお仲間が作ったスキルを判別する魔導具です。触れてみてくださいませ」
言われるがまま、まずはクラスメイトを代表して刀神さんが変な機械に触れた。
すると機械は光を放ち、プロジェクターのように空中へ文字を写し出す。
しかし、そこに書かれている文字を読むことはできなかった。
機械に触れた本人にしか分からないらしい。
「ふむ、私のスキルは【剣神】って言うのね。あらゆる刀剣類を自在に操れるようになる、と」
「なっ、【剣神】ですか!? いきなりS級!?」
「S……? スキルにも等級があるのですか?」
「は、はい!!」
どうやらあの機械は触れた者のスキル名と効果を写し出すものらしい。
それらの中でも最も強力なスキルが、S級スキルのようだ。
「つ、次のお方もどうぞ!!」
それからクラスメイトたちは機械に触れて、己のスキルを把握した。
そして、残りが半数となった頃。
やたらと顔面がキラキラしている男こと、池照が前に出て機械に触れた。
「あ、僕のスキルは【勇者】みたいだね」
「まあ!! 貴方が勇者様だったのですね!!」
勇者は池照か。まあ、納得だな。
「是非、是非私たちをお救いくださいませ!!」
「うーん、まあ、善処はするよ」
しかし、池照は嬉しくなさそうだった。
レミリアが何らかの嘘を吐いたことが気になっているのだろう。
池照が勇者だと判明するや否や、レミリアは露骨に谷間を見せつけるが、池照はちっとも動じなかった。
ああいう分かりやすい色仕掛けはやられ慣れてるからな、池照は。
「次は良介の番だよ」
「あ、うん。ちょっと緊張してきたな」
俺は池照と入れ替わりで前に出て、機械にそっと触れた。
しかし、何も起こらない。
機械の故障か? そう思ってお姫様の方を見てみると、わなわなと震えていた。
「魔導具が反応しない……? ま、まさか、貴方はスキルをお持ちではないのですか?」
あー、なるほど。
この魔導具はスキルを持っていないと反応しないのか。
……え? これどうすんの?
俺が内心で慌てていると、お姫様は顔を真っ赤にして怒鳴り始めた。
「まさか、そんな、有り得ません!! 勇者様とそのお仲間の中に、スキル無しの無能が混じっているだなんて!!」
ピリッとした。空気が凍り、寒気を感じる。殺気とでも言うのだろうか。
俺がスキルを持ってないと聞いて、お姫様の護衛と思わしき騎士たちが露骨に落胆した様子を見せる。
この寒気の正体は騎士たちではない。
寒気は俺の背後。
さっきまでワイワイとスキルの話で盛り上がっていたクラスメイトたちからした。
雑談を止めて一斉に静かになっている。
え? な、何? なんか急に皆して黙っちゃったんですけど!?
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント今日の名言
カワイイの前ではティンテ◯ンの有無など些細な問題です。作者が友人に言われた中で一番笑った名言です。
「相変わらずクラスメイトが濃い」「ティンティンの有無は関係無し」「急に黙るの怖くて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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