うちのクラスメイトが良い奴らすぎる異世界召喚

ナガワ ヒイロ

第1話 うちのクラスメイトの個性が強すぎる





 人間はパニックに陥った時、本当に何もできなくなる。


 仮に学校一のイケメン男子が異世界に召喚され、勇者としての力を得たとしよう。

 そして、マウントポジションを取ってお姫様をタコ殴りにしていたとする。


 その光景を見て、俺は呆然として動けなかった。


 女性の権利云々と世間が騒がしいにも関わらず、そのイケメンは躊躇が無かった。



「一つだけ言っておくよ。僕は真の男女平等主義者だから、男も女も関係なく殴れるんだ。特に友人を馬鹿にした奴には容赦しない。取り敢えず顔が変形するまで殴るけど、良いよね?」


「ちょ、や、やめ、勇者さ――」



 もう見てられない。


 イケメンが薄く微笑みながら暴力を振るう様は、どうしてこうも恐ろしいのか。


 そして、何より恐ろしいのは……。



「やっちまえ、和也かずや!!」


「スキル持ってないからって無能呼ばわりした挙げ句に追放とか無いわー。超マジナイナイ」


「ねー。つーかお前らの物差しでうちら測んなし」


「そうだぜ、只野ただの!! オレたちはお前のすげー良いところ知ってんだからな!!」


「んだんだ。只野ぐんは優じぐで気配りもでぎる頑張り屋さんだ」



 どうも。

 ただいまご紹介に預かりました、只野です。


 俺の名前は只野ただの良介りょうすけ

 容姿は平凡、勉強は常に平均、運動も並みという普通オブ普通の男子高校生だ。


 少し人と違うのは、今まさに俺たちが置かれている状況だろう。


 なぜ中世ヨーロッパ風のお城の広間で騎士たちに囲まれて、イケメン男子がお姫様をタコ殴りにし、クラスメイトたちが野次を飛ばしているのか。


 詳しい説明は五分前の俺に任せよう。


 ひとまず美人なお姫様の顔が変形する前にイケメンを止めようと思います。










 俺には苦手なものがある。それは月曜日だ。


 サザ◯さんを見た後はいつも憂鬱な気持ちでベッドに入り、朝起きる。


 重たい瞼を無理やり開き、制服に着替えて朝食を食べ、歯磨きしてから最寄りの駅から電車に乗って学校に向かう。


 ここまでは差して苦手ではない。


 母さんの作る朝食はいつも美味しいし、電車に揺られる時間は好きだから。


 俺が苦手なのは、学校の教室の前に着いた時。



「もう着いちゃった……」



 俺の名前は只野ただの良介りょうすけ


 容姿は平凡、勉強は常に平均、運動も並みという普通オブ普通の男子高校生だ。


 その俺が苦手とするもの。


 それは俺の通う学校の、同じクラスの仲間たちである。

 勘違いしないで欲しいのは、苦手なだけで嫌いではないということ。


 彼らはこう、何というか、善良ではある。


 しかし、個性が強すぎるというか、彼らの中にいると自分が本当に平凡マスターな気がしてしまうのだ。



「すぅー、はぁー。よし、今日も個性を主張して行こう」



 俺は深呼吸をしてから、教室の扉を開いた。


 すると、俺の目に飛び込んできたのはパンツ一丁で筋トレをしているクラスメイトだった。


 筋山すじやま武雄たけお


 学校に肉体魔改造部を作り、部長を務めている筋肉マスターだ。

 あまりにも肥大化した筋肉で制服がピチピチになっていることが多いクラスメイトである。



「素晴らしい!! 素晴らしいぞ、上腕二頭筋!! お前の悲鳴が聞こえてくる!! もっとだ!! お前ならできる!! 限界を超えて!! もっともっと強くなれる!! ――む。只野、おはよう!! 今日はいつもより遅かったな!!」


「あ、うん。おはよう。電車一本乗り遅れちゃって」



 筋トレしながら爽やかな笑顔で話しかけてくる筋山くん。


 変わってるけど、悪い奴じゃないんだよなあ。いつも挨拶してくれるし。

 事ある毎にプロテインをおすすめしてくるのは正直迷惑だけど。


 俺はプロテインを飲ませようとしてくる筋山くんを躱し、自分の席に座ろうとして……。



「やほー、りょうちん。おはー」 


「あ、おはよう、義屋よしやさん」


「めっちゃ他人行儀じゃーん。ウケるー。留美子で良いゾー?」


「いや、まあ、他人だし」



 義屋よしや留美子るみこ


 校則に正面から喧嘩を売るような金色に染め上げた髪とナチュラルメイク。

 元々綺麗に整った顔面なため、有り得んくらいの美少女である。


 あとおっぱいが有り得んくらいデカイ。


 制服のボタンが締まらず、胸元が大きく開いて谷間を露出している。


 それでいてオタクにも優しいという、完璧なギャルだ。

 正直、めっちゃエロい。



「りょうちん、うちのおっぱい見すぎー」


「あ、ご、ごめん」


「別に気にしないけどー。てかどしたん? うちに何か用?」


「いや、そこ、俺の席だから……」



 義屋さんが座っていたのは、俺の席だった。


 どうやら俺の後ろの席にいる友人と話すために俺の椅子に座っていたらしい。


 義屋さんは「めんごー」と謝り、友人と場所を移動。

 俺はようやく自分の席で落ち着くことができるのであった。



「ふぁーあ、眠い……。ホームルームまで寝てようかな?」


「やあ、良介!!」


「はい、寝てる時間無くなりました」


「?」


「……何でもないよ。こっちの話だから」



 俺の隣の席に座ったのは、やたらと顔がキラキラした少年だった。


 彼の名前は池照いけてる和也かずや


 まあ、一言で言うならイケメン。

 勉強は常に全国模試一位、運動神経も抜群でまさに完璧なイケメンオブイケメン。


 そして、何かと俺に声をかけてくる。


 以上、池照の説明は終わり。それ以上の説明は要らない。



「なんか凄い雑な紹介をされた気がするね」


「俺の心を読まないでよ」



 こいつとは小学校からの付き合いで、今のようにこちらの心を見透かしているような言動をする時がある。ちょっと怖い。



「……はあ」


「どうしたんだい? 悩みがあるなら聞くよ?」


「あ、大丈夫。相談してどうにかなる問題じゃないし」



 俺の悩みは個性の無さだ。


 今紹介しただけでも、筋肉モンスター、優しいギャル、超絶イケメン等々。


 その他にも伊賀と甲賀の忍者の末裔兄弟とか、男の娘の現役アイドルとか、顔はどう見ても極悪人なのにめちゃくちゃ料理が美味い不良とか。


 今挙げたのもごく一部。


 敢えて言おう。うちのクラスメイトの殆どは変人である、と。


 殆どと言ったのは、俺が変人ではないから。


 いや、個性の強すぎる奴らに混じっている無個性な奴とか、もういっそ個性だろうけども。



「あ、チャイム鳴った。先生まだかな?」


「遅咲先生はいつも遅刻してくるから、まだ来ないと思うよ」



 クラスメイトが全員登校し、教室で担任の先生を待っていた時。



「え?」


「うん?」



 教室の床がまばゆく光った。


 まるでゲームや漫画で見るような魔法陣が出現し、暴風が吹き荒れる。


 誰もが硬直して動けない――こともなかった。



「うおおおお!! 頑張れ、オレの腹筋!! 負けるな、オレの腹筋!! ンゥ温まってきたぁ!!」


「てかめっちゃ映えるー」


「兄者!! どうしよう!? 逃げた方が良いかな!?」


「落ち着け、弟よ。ここは拙者の忍法でどうにかしよう」


「やっぱボクって可愛いアイドルだよねー!! 謎の光に照らされるボク、最高に可愛いや!!」


「クックックッ。落ち着いて教室の外に出た方が良いんじゃないか?」



 あ、うん。俺以外のクラスメイトは落ち着いてたわ。


 お前らもっとパニックになろうよ。なんで平然としてるんだよ。どう考えたって何かしらの超常現象が起こってんじゃん。


 なんて考えているうちに魔法陣が放つ光が一際強くなり、俺を含めたクラスメイトは光に飲み込まれてしまう。



「異界の勇者様とその御一行の皆様、ようこそ私たちの世界へ……え?」



 それはいわゆる、異世界召喚だったのだろう。


 気が付けば俺たちは見慣れた教室ではなく、中世ヨーロッパ風のお城の広間にいた。

 俺たちを出迎えたのは、綺麗なブロンドの髪の美少女。


 しかし、美少女は各々どんちゃん騒ぎしているクラスメイトを見て硬直するのであった。





―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント作者の独り言


作者「異世界召喚追放モノ書きたいなー。でもそんなのありふれてるしなー。せや!! 追放されへん話書いたろ!!」



「クラスメイトの個性が強い」「無個性も個性やで」「面白そう」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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