第30話 うちのクラスメイトが有能すぎる





「え? お兄ちゃん、魔法が使いたいの?」


「うん。割と真剣に」



 馬車に揺られながら、俺は真央にある相談をしていた。


 それは、魔法が使いたいというもの。


 決して異世界ファンタジーなので一度でも魔法を使ってみたいとか、そういう理由ではない。

 いや、少しあるかも知れないが、今回ばかりは真面目な理由だ。



「俺、本格的に何の役にも立ってないなって、最近思ってるんだ」


「お兄ちゃんはいてくれるだけで私の戦闘力百万倍くらいになるから役に立ってるよ?」


「真央、お兄ちゃんは真央みたいな優しい女の子が妹で本当に幸せ者だよ」


「うーん。良介、多分真央ちゃん本気で言ってると思うよ?」



 池照が隣で何か言ってるが、今は無視する。



「俺も何か、こう、せめて足を引っ張らない程度には何かできるようになっておきたい」


「ならば筋肉を鍛えるんだ!! 筋肉があれば、只野も無敵の肉体を手に入れられるぞ!! 筋肉!! 筋肉!! 共に筋肉を鍛えようではないか!!」


「あ、それは遠慮しとくね」



 筋山くんがめっちゃ筋肉を推してくるが、俺はやんわりと断る。


 そもそも筋肉って日々の努力がものを言うだろうし、筋山くんのトレーニングについて行ける自信が無い。



「それなら私の刀神流を学んでみる? 基礎的な部分なら、割と簡単に習得できると思うし」


「え? まじ? それは後でお願い!!」


「了解。暇な時に指導するわね。多分二、三回くらい死の淵を味わえば誰でも習得できるから、頑張ってね」



 実に良い笑顔を浮かべる刀神さん。



「……あの、すみません。やっぱりキャンセルで」


「え!? ど、どうして!?」



 逆にキャンセルした理由がどうして分からないのかと聞きたい。


 死の淵とか味わいたくないからだよ。


 俺は改めて真央の方に向き直り、馬車の床に正座して頭を下げた。



「というわけで真央!! 俺に魔法を教えてください!!」


「いいよー。というか、お兄ちゃんのお願いを私が断るわけないじゃん」


「おお!! ありがとう、真央!!」


「……その代わり、条件があるの」


「? なんだ、なんでも言ってくれ。俺にできることならなんでもするぞ!!」



 俺が笑顔でそう言うと、真央もにへっと可愛らしく笑った。


 この笑顔が天使なんだよなあ。



「次の町に着いたら、私と一日デートして!!」


「……む? それだけ、か?」


「そう!! お兄ちゃんと二人っきりのデート!!」


「わ、分かった」


「やったー♪」



 てっきりもっと凄いものを要求してくるかと思ったが、そうでもなかった。


 でも冷静に考えてみたら、真央がテストで満点を取った時も一緒にショッピングしたりしたからなあ。


 久しぶりにそういうのも良いかも知れない。



「む、むぅ、私との稽古は嫌がってたのに……。何を笑っているのかしら、池照くん?」


「いやあ、別に? 真央ちゃんの方が少し優勢かなって――危なっ」


「次に余計なことを言ったら首を叩き斬るわよ。そ、それに、私だって、その、裸とかごにょごにょ」


「え? なに? よく聞こえないんだけど?」



 何やら池照が刀神さんの逆鱗に触れたのか、目にも止まらぬ斬撃が池照を襲う。


 しかし、池照はそれらを難なく回避した。


 うわ、池照の奴。本格的に人間離れしてきたぞ。いや、元から運動神経がハンパなかったけど。



「よく分からんが、みんな仲が良いな!! オレの筋肉も喜んでいる!! 君の筋肉もそう思っているだろう、メリッサ女史!!」


「私は何も言わないぞ、絶対に」



 筋山くんが快活に笑いながら御者台に座るメリッサさんに声をかけるが、メリッサさんは馬を操るのに忙しいのか、何も反応しなかった。



「えーと、じゃあまずは魔法の基礎からね」


「うっす」



 そうこうしてるうちに、真央による魔法の授業が始まった。



「まずお腹の奥にあるぐおーって力をぎゅーってするの」


「……ふむ」


「で、次にうぬぬぬって溜めてバーン!!」


「……なるほど」


「あとはおりゃー!! ってすれば、大抵の人間も魔物も木っ端微塵になる魔法が撃てるよ!!」



 実に可愛らしく、悪気など一切無いであろう清々しい笑顔で真央が言う。


 俺は一呼吸置いてから、冷静に一言。



「うちの妹が感覚派で何言ってんのか分かんない件」


「え!? こう、ぐおーって感じ!! 分かんない?」


「分かんない。ごめんな、こんな不出来なお兄ちゃんで」


「ええ!? お兄ちゃん、なんで凹んでるの!?」



 いや、言われてみればたしかに真央は元々病弱なので運動は苦手だったが、それ以外はそつなくこなすタイプだった。


 俺が気付かなかっただけで、昔からずっと感覚派なのだろう。


 まさか魔法に関してもそうだったとは……。



「うぅー、だって私の魔法、元々は捕食した相手から奪った知識を使って習得したものだし、どいつもこいつも感覚で魔法使ってたし、と、とにかく私のせいじゃないもん!!」


「あ、真央が真剣に俺に教えてくれてることは分かってるから大丈夫だ」


「本当? デートの約束無しとか言わない?」


「言わない言わない。俺が一度言ったことを撤回したことがあるか?」


「私の知る限りでは……無いけど」


「そういうことだ」


「……えへへ」



 こんなに可愛い妹とのデートを断るお兄ちゃんがいるだろうか。


 少なくとも俺は断らない。



「それはそれとして、どこかに俺でも分かるように魔法を教えてくれる人がいないかなあ」


「只野くん、もしかして私たちが会いに行こうとしてる人を忘れてる?」


「え? あ、そうだった」



 俺たちは今、ある人物のもとへ向かっている。


 俺や池照、真央が留置場でお世話になっていた間、刀神さんたちは何もしていなかったわけではない。


 元の世界に帰るための手段、世界を越えるスキルを持った異世界人や古代魔導具の捜索、そのヒントになる情報を集めていたのだ。


 そして、刀神さんたちはある情報をゲットした。まじ有能。



「タリスの町から草原を三つ越えた先にある丘の上の一軒家に住む魔女、だよな」


「そう。噂程度だけど、あらゆる魔法に精通していて、何百年も生きているらしいわ。その人なら、何か私たちの欲しい情報を持っているかも知れない。まあ、魔女と実際に会えたって人は見つからなかったから、ただの噂かも知れないけど」



 要は情報を得るための情報を持っているかも知らない人物に会いに行くのだ。


 今の俺たちは何も手がかりを持っていない。


 こういう地道なことを繰り返して、少しずつ調べるしかないからな。


 しかし、刀神さんはどこか不安そうだった。



「問題があるとすれば、魔女の噂があまりいいものじゃないことかしら」


「えーと、子供を拐って食べるとか、美しい女に化けて旅の男を捕まえて、魔法の実験台にしてるとかだっけ?」


「ええ。よくある作り話だと思うけど、火のない所に煙は立たないって言うもの」



 なるほど、刀神さんの懸念も分かる。その上で敢えて言わせてもらうなら。



「それ、この面子で心配する必要ある?」


「……無いわね」



 仮に魔女が本当に危険な存在だったとして、こちらには魔王、勇者、剣神、筋肉がいる。


 くっころ女騎士と凡人マスターの俺は人外枠から除外するとしても、過半数が人間を辞めているのだ。


 刀神さんの心配は要らないだろう。それよりも。



「いざとなったら皆に魔女を脅してもら――コホン、お願いしてもらって魔法を教えてもらえばいいのか。まさに虎の威を借る、いや、クラスメイトの威を借るってところか」


「そういうこと。まあ、向こうが実力行使してきたら、手加減できないかも知れないけど」



 俺は万全の心持ちで丘の上の魔女に会いに行くのであった。






―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント真央ちゃん

デート無しになってたらお兄ちゃん以外を滅ぼしていた。


「刀神さん鬼畜で草」「真央ちゃんの説明かわいい」「ちゃっかり世界救ってて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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