第27話 うちのクラスメイトがスパルタすぎる




 冒険者協会で暴れに暴れた結果、池照と真央は衛兵に連行された。


 ついでに何故か俺まで一緒に捕まった。


 解せぬ。解せぬが、衛兵の詰所で解せないことがもう一つ起こった。


 翌日。

 冷たい留置場の床で一晩過ごし、早朝に取り調べを受けた俺は……。



「それでさあ!! オレの恋人が別れ際に『イケメンでお金持ちなカイト様の方が低収入のあんたよりカッコいい!!』って言いやがったんだよぉ!!」


「は、はあ、お気の毒に……」



 何故か俺たちを連行した衛兵のお兄さんら数人の愚痴を聞いていた。


 いや、本当にね? 自分でも分からない。


 よほどカイトが嫌われていたのか、奴をボコボコにした俺たちは衛兵たちから物凄く歓迎されたのだ。



「ぐすっ、ひっぐ、どうせオレは出世のできない薄給の衛兵ですよぉ!! でも仕方ないだろ!! 活躍のタイミングがないんだから!!」


「まあ、衛兵ですしね。お兄さんに活躍の場がないことは町が平和な証だと思いますよ。その恋人に見る目が無かっただけですって」


「うぅ、ぐすっ、お前、良い奴だなあ!! 連行する時に縄キツく縛って悪かったよぉ!!」


「あ、いえ、それはお構いなく。ちょ、あの、鼻水汚い!! 近寄らないでください!!」



 抱きついてこようとする衛兵のお兄さんを何とかして引き離す。



「ずびっ。すまんな、出会ったばかりなのに愚痴を聞いてもらって」


「あ、いえ、それはお構い無く。……あの、それより俺たちってこの後どうなるんですかね?」


「なんだ? 刑務所行きかもって不安か?」


「そりゃまあ、はい」



 やったのは俺じゃなくて池照と真央だがな!!



「安心しろ、街中で暴れた程度じゃ刑務所には入れないから。まあ、罰金か無償奉仕って形で罰は受けてもらうがな」


「そ、そうですか。死刑とかにならなくて良かったです」


「はっはっはっ。喧嘩で人を死刑にしてちゃタリスの町の人間が消えちまうよ!! お前さんの連れの二人を連れてくるから、ちょっと待ってろ」



 しばらくして、衛兵のお兄さんが池照と真央を連れてきた。


 真央が俺を見た途端に抱きついてくる。



「お兄ちゃん!! 大丈夫!? 衛兵の奴らに何もされてない!?」


「大丈夫大丈夫。ちょっと相談に乗ってただけだから。……それより、真央? ちょ、絞まってる。また鯖折りになっちゃう」


「あ、ごめん」



 真央が俺から離れてしまう。


 ……離れられると、それはそれでちょっと寂しく感じちゃうのは俺のわがままだろうか。



「池照、そっちはどうだった?」


「うーん。これと言って特に? 何も無かったかな。なんか僕のこと怖がってた」


「私も何もされなかったよ? 私の取り調べしてる奴はガクガク震えてたけど」


「そ、そうか」



 そりゃあ、相手が美少女美女でも躊躇なく殴って前歯を全部折る男と、生きたまま炎で焼き続ける女の子の取り調べとか怖いよな。


 二人の担当だった衛兵さんに心の中でこっそりゴメンナサイしておく。


 それから俺たちは手続きを済ませ、詰所の外に出ることができた。



「お勤めご苦労様、二人とも。只野くんは……巻き込まれて災難だったわね」


「ホントにね!?」



 詰所から出ると、刀神さんと筋山くん、それからメリッサさんが待っていた。



「……そう。十回の無償奉仕、ね」


「うん。俺たちは冒険者だから、指定の依頼を無報酬で引き受ければ良いんだって」


「それならさっさと済ませましょう。適当な依頼を見繕ってきたわ」



 刀神さんが懐から取り出したのは、冒険者協会の壁に張り出されていた無数にある依頼書、そのうちの十数枚だった。


 俺は冷静にツッコミを入れる。



「お、多くない? あんまり多いと、達成できなかった時の違約金が凄いことになるんじゃ……」


「それは今日中にやる分よ?」


「……ふぁ?」


「さっさと冒険者ランクを上げた方が報酬の良い依頼を受けられるし、クリア時の評価ポイントが高い依頼を見繕ってきたわ。夜までに終わらせましょう」



 どうしよう、刀神さんがスパルタだった件。



「えーと、まずはタリスの町付近の草原に出るスライム退治、森に出るゴブリン退治、洞窟に住み着いていたコボルト退治ね」


「なんか危なそうなの多くない? 皆はともかく、俺が生きてられるか心配なんだけど」


「大丈夫だよ!! お兄ちゃんのことは私が守るから!!」


「ふふっ。只野くんには頼れる魔王様が付いているみたいだし、そこまで心配しなくて大丈夫よ」


「うっ、兄として不甲斐ない」



 普通はお兄ちゃんが妹を守るものだろうに。


 いや、でもまあ、いざという時は真央の身代わりになるつもりで行こう。


 と思ったら、その必要も無かったらしい。



「もういっそ魔物が哀れだよ」



 そもそもの問題だった。


 スライムやゴブリン、コボルトのような弱い魔物は魔王たる真央の命令に逆らえない。


 真央が一言、「動くな」と命令するだけで魔物はピタリと動きを止めてしまう。


 その致命的な隙を狙って刀神さんが首を一刀両断。

 筋山くんはタックルで魔物を挽き肉にするし、池照とメリッサさんが残りを始末する。



「これで半分は依頼を達成ね。真央ちゃんのお陰で大分楽に片付いたわ」


「お兄ちゃーん、疲れたから膝枕してー?」


「んー!! 結構良い運動になったね!!」


「騎士団にいた頃でもここまで魔物の討伐が捗ることは無かったな……。はっ!? ち、違う!! 私は今でも王国騎士だ!! あ、危ない危ない」


「筋肉!! 魔物は筋肉が足りないな!! しっかりとプロテインを飲んでいるのだろうか?」


「魔物がプロテインなんか飲むわけないでしょ……」



 ツッコミは程々にして、休息を取る。


 幸いにも草原に一本だけ木が生えていたので、その陰となる場所に腰かけた。


 すると、真央が俺の膝を枕にして横になる。



「えへへへ。お兄ちゃんの膝枕、すっごい久しぶりかも。落ち着くぅ」



 にぱっと笑う真央。


 うちの妹が笑うと天使すぎて困る。いや、今は魔王だけども。


 ……それにしても。



「真央、大きくなったな」


「……お兄ちゃんのエッチ」



 染々として言う俺に対し、真央は頬を赤くして胸をそっと隠した。



「いやいや、そういう意味じゃないぞ!? というか前々から言おうと思ってたが、もう少し露出を抑えなさい!! ……そうじゃなくて。ほら、最後に膝枕とかしてやったのも、随分前だろ」


「……そうだね」



 真央が通り魔に殺される前は、こういうことはあまりしなかった。


 真央も思春期だったからだろう。


 小さい頃の真央は毎日のように膝枕を迫ってきたものだ。



「でも私はそういう意味でも……いいよ?」


「……え?」


「私、お兄ちゃんのこと好きだし」


「あ、ああ。俺も真央のことが好きだぞ」


「そういうのじゃなくてさ!! もー!! 本当に鈍感すぎ!! 前世からずっとアピールしてるのに!!」


「え? じゃあ、どういう……?」


「家族として、兄妹としてじゃなくて、その、もっと違う意味で――」



 と、その時だった。



「総員、警戒!!」


「「「「っ!!」」」」



 大声で警戒を促したのは、刀神さんだった。


 俺は何事かと思って辺りを見回すが、遠くにタリスの町がある草原がどこまでも広がるばかりで、他には何もない。


 刀神さんは何を察知したのだろうか。その何かは、すぐに分かった。



「ようやく見つけたぜ!! 卑怯者ども!!」



 ぐにゃりと空間が歪み、姿を現したのは冒険者協会で絡んできたS級冒険者(笑)のカイトだった。


 前回同様に取り巻きの女たちも一緒である。


 しかし、前回とは違って取り巻きの女の数は圧倒的に多かった。


 百人近くいるのではなかろうか。



「お前らをぶっ殺すためにクランの全員を集めたんだ。覚悟しろよ? ああ、安心しろ。男どもをぶっ殺した後で女は貰ってやるから。俺を燃やしたてめえは特に可愛がってや――」


「死ね」



 次の瞬間、カイトの首から上が消滅した。


 残された胴体からは大量の血が噴水のように吹き出して、辺りの草原を赤く染める。


 やったのは真央だった。


 真央は実に可愛らしいにっこり笑顔を俺に見せて、一言。



「待っててね、お兄ちゃん♪ すぐにゴミ掃除するから♪」


「あ、うん。あんまり服とか汚さないようにね」


「うん♪」



 魔王による一方的な虐殺ショーが始まった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント作者の一言


作者「真央ちゃん容赦なくて草」


只野「でも可愛いからヨシ!!」



「衛兵さんいい人で草」「一世一代の告白邪魔されたらキレるわな」「殺ったぜ☆」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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