第28話 うちのクラスメイトの剣神の実家が気になりすぎる
草原に悲鳴が反響する。
カイトの連れてきたクランメンバーたちは、カイトの亡骸を前に混乱を極めていた。
「きゃー!?」
「う、うそ、カイト、様?」
「え? こ、これ、夢だよね? カイトが負けるわけないよね?」
「よ、よくも、よくもカイトを!!」
「殺す!! 絶対に殺す!!」
うわー。
鬼も裸足で逃げ出すような形相で、カイトハーレムが俺たちを睨みつけてきた。
「俺は刀神さんみたいに殺気とか分かんなかったけど、今なら分かるかも。これが殺気なんだね」
「只野くん、随分と落ち着いてるわね?」
「こういう時は慌てても仕方ないって思うようにしてるから」
俺がそう言うと、刀神さんは意外そうな顔をする。
「てっきり只野くんなら、殺すのは良くないって言うと思ったわ」
「そりゃあ、人殺しは良くないと思うよ? でも相手がこちらの何十倍もの数なら、躊躇してる暇もないから。やるよ、俺は」
俺は剣を構えて、覚悟を決める。
この襲撃は池照や真央への報復のつもりだったのだろう。
ならば、向こうが殺す気で来たなら全力で応戦しないと、身を守れない。
ましてや今回はヴェスター王国の騎士たちを迎え討った時とは違い、数ではこちらが劣勢な上、防衛態勢も整っていない。
「だから俺も戦わなくちゃ――」
「お兄ちゃーん、終わったー」
「あれェ!?」
色々考えているうちに終わってた。
真央が頬についた返り血を手で拭いながら、爽やかな笑顔を浮かべる。
少しサイコ味があって怖い。
でも、ここで真央を怖がっちゃったらお兄ちゃん失格だろう。
「お疲れ様、真央。怪我はないか?」
「へっちゃらだよー。こんな雑魚共の攻撃なんか効かないから♪」
「そうか。そりゃ良かった」
俺は改めてカイトとその取り巻きの美少女美女たちの亡骸を見る。
全員、絶命していた。
一体どうやったらこうなるのか、首から上が消滅していること以外に目立った損傷は無い。
真央の動きは速すぎて俺の目では捉えられないからなあ。
魔法でも使ったのか、それとも純粋な身体能力で殴ったのか。俺には分からない。
いや、そんなことよりも。
「この死体、どうしよう?」
「そうね……。これだけの数を魔物に襲われたように偽装するのも難しいでしょうし、困ったわ」
「なんなら私が食べるよ? お兄ちゃん」
「駄目。それは駄目」
妹だから忘れがちだけど、真央って立派な魔物なんだよな。
人間を食べることに躊躇が無さすぎる。
「あ、そうだ。甲伊兄、いるー?」
「拙者はここにいるぞ」
「うおっ、背後に現れるのはやめてよ……」
甲伊兄がどこからともなく、ぬっと現れる。
「この死体、どうにかならない? こう、土遁みたいな感じでちょちょいのちょいって埋めたり」
「できるぞ」
「え、できるの!? 自分で言っておいてなんだけど凄いな!?」
「だが、問題が一つ。こやつらの拠点としている建物にまだ何人か残っている。これだけの数の者が戻らねば不審に思い、こちらを疑ってくるかも知れぬ」
「あー、そ、そっか。どうせなら全員で来てくれたら良かったのに……はっ!?」
いかんいかん。
「最近、常識が欠場してる。人殺しは良くない。身を守るためなら仕方ないけど、積極的な殺人は良くない。よし、俺はまだ大丈夫!!」
「では、拙者は適当に拠点の連中を片付けてこよう」
どろんと白い煙になって、その場から消えてしまう甲伊兄。
あ、行っちゃった……。
うーむ、複雑だ。
でも先に襲ってきたのは向こうだし、文句はない、よね?
うぅ、少し罪悪感を感じる。
「っ、只野くん!!」
「え?」
ドンッと刀神さんが俺を突き飛ばした。
突然の出来事に俺は受け身を取ることもできず、転倒してしまう。
え、な、何!?
「刀神さん、急に何を……え?」
「くっ、油断したわ」
さっきまで俺が立っていた地面に無数の赤い刃が刺さっていた。
刀神さんも俺を庇ったことで、身体の至るところから出血している。
「刀神さん!? だ、大丈夫!? いや、大丈夫なわけないよな!? い、今すぐ止血を――」
「そんなことしてる場合じゃないわ!! まったく。首が無いのに動くとか、この世界の人間ってどうなってるのかしら?」
「え?」
刀神さんの視線の先。
そこには真央が始末したカイトの死体がゆらりと立っていた。
「ぎゃー!? し、死体が動いてるー!?」
「お兄ちゃん、落ち着いて。今気付いたけど、あれはアンデッド。死なない魔物だね」
「アンデッドって、バイ◯ハザードとかのゾンビ!? 無理!! 怖い!!」
「そう言えば良介って、ゾンビパニックものは苦手だったっけ?」
苦手というか、生理的に無理です。
小さい頃、テレビのスイッチを入れた時にちょうどゾンビが人を食ってるシーンが写ってトラウマなのだ。
って、は!?
「に、苦手なわけないだろ、池照。何を言ってんだ、ははは」
「あー、真央ちゃんの前だから……」
「ち、違っ、お兄ちゃんは怖いものとか無いからな!! 真央、本当だから!!」
「大丈夫だよ!! お兄ちゃんを怖がらせるものは全部駆除するから!!」
「本当に怖くないから!! 平気だから!!」
必死に怖くないアピールをするが、真央は俺を無視して前進。
カイトの死体に一撃を与える。
「えいっ」
その可愛らしい声とは裏腹に、カイトの胴体に風穴が空いた。
しかし、尚もカイトの死体は動く。
いや、動くどころか空いた風穴の周囲の肉が蠢いて再生してしまった。
ついでに首もにょきにょき生えてきて、カイトは完全に復活。
何あれ気持ち悪い!!
「あー、なるほど。お前、吸血鬼か」
「ご名答!! お前らみたいな雑魚共に殺されることなんてないんだよ!!」
吸血鬼って、あの吸血鬼か?
「で、でも、吸血鬼って日光とか弱点なんじゃ? 今は真っ昼間だぞ!?」
「下位の吸血鬼なら日光でも死ぬけど、真祖に近い吸血鬼ほど弱点は減るんだよ。あ、それより気を付けてね。吸血鬼は魅了魔法を使うから――」
と真央が何か言いかけた、その時だった。
「ぐっ!?」
「刀神さん!?」
「ひゃははは!! これでそっちの女は俺の言いなりだ!!」
カイトの目が不気味な赤色に光り、刀神さんが呻いたのだ。
嫌な汗が俺の背筋を伝う。
「え? もしかしてこれ、やばい感じかな? 刀神さんが敵に操られちゃうパターンじゃ?」
「うーん、どうだろ? 大丈夫だと思うよ、良介」
「……ええ、平気よ」
脂汗を流しながらも、刀神さんが俺たちの声に反応する。
刀神さんは池照の言うように大丈夫そうではあった。
「な、ば、馬鹿な!? 俺の魅了魔法はどんな女も命令を聞くようになるんだぞ!?」
「悪いけれど、刀神流の剣士は如何なる時でも戦えるよう、幼少期から徹底的に精神を鍛え上げられるの。アフリカの紛争地帯に刀一本で放り出されたり、熊や虎しかいない無人島に刀一本で半年放置されたりね。多少の洗脳や催眠なんて効かないわ」
「刀神さん、すっげー。もう虐待とかそういうレベルじゃないだろ」
俺は思わず拍手した。
いや、本当に凄い。
刀神さんの実家がどんな家なのかめっちゃ気になってきたな。
「でもごめんなさい、とても動けそうにないわ。私もまだまだ未熟ね。真央ちゃん、代わりにお願いできるかしら?」
「りょーかい。えいっ」
「え? 待っ――」
真央がカイトの頭を再び潰した。しかし、再び元通りになるカイト。
「は、ははは!! 無駄だ!! どれだけ俺にダメージを与えようが、俺は死なない!!」
「死ななくても心があるなら殺せるよ?」
「え? ぎゃ――」
「簡単な話、お前が生きるのも嫌になるくらい殺せば良いんだから」
真央がにっこり笑顔で言う。怖い。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント只野の苦手なもの
ゾンビパニックもの。幽霊や人怖は平気。
「ほとんど出落ちで草」「ゾンビモノがダメなのか」「刀神さんしゅごい」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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