第29話
決闘の余韻も冷め、夏の暑い庭にはいつもの平穏が戻りつつある。
「2人ともお疲れ、良いものを見せてもらったよ」
「アスカちゃんって見た目の割にお転婆さんなのね」
決闘を見ていたジョン夫妻がこちらへと歩いてくるのを見てロバートが頭を下げる。
「お父様、お母様、目の前でお恥ずかしい所を見せてしまって申し訳ございません」
「一生懸命にやったんだろう、何を謝る必要があるんだ」
「そうよ、勝てなかったけどすっごく格好良かったわ」
アメリアがロバートを抱きしめると、泣き止みかけてたロバートがまた泣き始める。
そうだ、僕もジョンには謝っておかないと。
「申し訳ございません、僕のわがままでこんな大事にしてしまって」
「何言ってるんだアスカちゃん、私はね感謝してるんだよ。」
ジョンの口から意外な言葉が発せられる。どこに感謝されるところがあったのだろう?
「君たちが貴族相手だからとおもねらなかったこと。君たちが貴族相手だからと諦めなかったこと。君たちが貴族相手でもちゃんと友達になってくれたこと。これはロバートにとってかけがえの無い財産になる」
ジョンは優しい顔で僕に語りかける。
「まあ彼は少し仲良くし過ぎたみたいだが」
ジョンの視線の先には、さっきロバートを呼び捨てにしたことをボルドーからこってり絞られている仁の姿がある。たまには良い薬なのでしばらく放っておこう。
「それに君も全力でロバートの相手をしてくれた。もし君があの場で本気を出さないようなら、騎士に相応しくないと言ってやるつもりだったのだがな」
おかげで面白いものが見れたよと笑うジョン。あれ、もしかして僕を品定めするために見にきたのかこの人?
「それだけに騎士になってくれないのはちょっと残念だがね」
「もったいないお言葉、恐縮です」
もし気が変わったらいつでもうちに来なさい、歓迎するから。と言い残しジョンとアメリアは帰っていく。
「アスカちゃん、バイバ〜イ」
手を振ってくれるアメリアに、手を振り返しながらその背を見送るとその肩にポンっとカインが手を置く。
「お疲れさんアスカ」
「カイン、介添人ありがとうございました」
「何、大したことじゃ無いさ。それより凄かったぞ、土壇場で使った強化魔法!」
「うん、凄かった。普段と全然動き変わるんだもん」
カインと目を腫らしたロバートが褒めてくるけど、何?強化魔法?
「僕、魔法使ってたんですか?」
「なんだ気付いてなかったのか?終盤圧倒できたのは強化魔法を使ったからじゃ無いか」
確かに終盤普段ならできない動きをしてたけど、無我夢中だったからよく覚えていない。覚えてるのはこのままじゃ負けるから、なんとかロバートの一撃を打ち払おうと思ったことくらいだ。
「じゃああの魔法は無意識で発動してたの?」
ロバートがきょとんとした顔で聞いてくる。
「うん、負けそうだからなんとかしなくちゃって思った事は確かなんだけど」
「魔法はイメージで発動するものだ、つまりよっぽどそのなんとかしなくちゃのイメージがしっかりしていたんだろうな」
しかしぬか喜びかとカインが項垂れる。
「で、でも凄い動きだったのは本当だよ、早く強化魔法が使えるようになると良いね」
精一杯のフォローをくれるロバートに感謝を述べる。つまりまぐれで負けたようなものなのに優しい子だ。
「そうだな、それじゃその為にもまずは今日の反省会と行こうか」
カインがニコニコしながらロバートの肩も拘束する。あ、これは逃げられないやつだ。
その後カインにミッチリしごかれ、夕方からはいつも通り勉強会をして夜。今日も当然のようにロバートは遊びに来た。
「あ〜それにしても惜しかったな〜」
「確かに惜しかったが、負けは負けだろ。男らしく諦めるんだな」
いつもの椅子の上で駄々をこねるロバートに仁が手厳しい一言を送る。
「仁、その言い方はあまりに冷たいんじゃない?」
「そうだそうだ、ボルドーに言いつけるからね」
それだけは止めてくれと仁が頭を下げる。僕たちが話してる後ろで一体どういう教育がされてたのか。
「それにしてもあんな土壇場で魔法を発動させるなんて、そんなに騎士になりたくなかったの?」
「そういう訳じゃないけど、僕だけの問題でもないしね。負けられないと思ったことは事実だよ」
ふ〜んとロバートがジトっとした目でこちらを見てくる。それにしても友達と分かった安心感からか、今日のロバートは少し積極的な気がする。
「まぁいいか、その代わり将来は二人が旅したことを沢山聞かせてね」
「うん、約束するよ」
返事を聞くとおやすみとロバートは満足そうに帰っていった。
「僕達これで良かったんだよね?」
「少なくとも悪かったって事はねぇだろうな。あとは入試に受かるだけか」
相変わらず本から目を逸らさずに仁が返す。
「入試かぁ、一体どんな問題が出るんだろうね」
「さぁな、そんな高度な問題は出ないと思うが、過去問も無いから分かんねえな」
明日カインかボルドーに聞いてみようぜと言い仁はベッドに入る。
それしか方法はなさそうだし、僕もそれに倣うのだった。
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